「なるべく早く仕留める!フリーダは何とかしてドラゴンを落として!」
「りょーかいッ!」
この戦いにはタイムリミットがある。プラズマドラゴンは一定時間暴れ続けることによって周囲の空間を掌握し、『励起状態』と呼ばれる第二形態へと移行する。この状態になるとどこからでもノーモーションで電撃が飛んでくるようになるので、今の私たちでは対処できない。だからこの戦いの勝利条件は、プラズマドラゴンが励起状態に移行する前に致命傷を与えて倒しきること。
ゲームでのプラズマドラゴンは電極を降らせる攻撃を4回ほど行った後で励起状態に移行する。それと同じなら、すでに2回の攻撃があった現状のタイムリミットはあと2回だ。
今のところドラゴンのヘイトがフリーダに向くことはない。知能が高くないというのは本当なのだろう。だが魔法の準備にはもう少しかかるはず。何か飛んでいる相手への攻撃手段がほしいけど……。
「ケンジー!なにか投げるものは?」
「あいにくだが走るスピードを最優先にしたのでな、荷物は最小限しかない。」
話している間にも、ドラゴンは方向をあげてこちらに迫る。木々の上に足を乗せて、近距離から電極での攻撃を仕掛けてきた。翼を体の前に交差させるように振るって、初速を乗せた電極を放ってくる。
ケンジーは盾で完璧にそれを受けきって見せた。複数の電極が盾に殺到し、その分だけ激しく電流が流れるが盾はびくともしない。それより問題なのは明らかにチャージの時間が短くなってきていることか。
それは一瞬の思い付きだった。私はとっさに一歩前に出る。ケンジーの目が驚きに見開かれるが、止まっている時間はない。この電極が電気を流すための電線ならば、チャージがゼロになったこの一瞬だけは安全なはず。一番針が密集して刺さった地面をみつけ、その上をたどる。私は槍を振るってその電極糸を切り裂いた。
ドラゴンが絶叫する。木々が、空が震えた。
私は土ごと電極糸をつかみ上げて、そのまま痛みに叫ぶドラゴンに向かって投げつけた。それ自体は大した威力はない。少しでもヘイトが買えたらと思っての行動だったが、思わぬところで効果があった。片足に引っかかった糸を取り除こうと、ドラゴンは自分の体を木にぶつけてもがき始めたのだ。ちょうどそこに、フリーダの声が通る。
「魔法準備完了!」
「「了解!」」
風が吹いていた。逆巻いて上空へと昇っていく嵐が、フリーダの足元から立ち上っていた。膨大な魔力を糧にして形成された空気がぎちぎちに圧縮されて空に昇っているのだ。もちろんそれは、ドラゴンの頭上に。
「押しつぶせッ!エア・フォール!!」
空気の塊が、――空が落ちた。
海老反りになったドラゴンが木々をへし折ってそのまま地面に押し付けられ、荒れ狂う突風が吹き抜けていく。ケンジーが両手で盾を支えてなお、そのまま押された。地面が削られた跡が1メートルに達するころようやく風が止む。墜落したドラゴンが腕を突き立てて身を起こそうとするのをみて、私は駆けだした。横目に、自分の魔法に吹き飛ばされて気を失ったフリーダが目に入る。血が出ていないことだけ確認して、目の前のドラゴンに目線を戻す。これが最後のチャンスだ。
後ろからケンジーが私を追い越して、振り下ろされたドラゴンの爪を盾で受ける。その懐から再び前に出た私は、渾身の力で左手を突き出した。利き手じゃないなんてもはや問題じゃない。筋力ポーションの二重掛けに、鋼鉄アリの鉄槍。それだけあればその突きはドラゴンの鱗すら貫通する。硬い感触を経て、私の槍は竜の首の付け根に深く刺さった。
叫び声をあげながらのけぞるドラゴン。槍の抜けた傷跡から鮮血が噴き出した。
まだだ。まだとどめを刺せていない。翼を駆使してバックステップを踏んだドラゴンに追撃を仕掛けようと走る。見れば、先ほどのフリーダの攻撃で翼を損傷している。もう飛ぶことはできない。ドラゴンは最後の抵抗と言わんばかりに木を転がして私の進路をふさごうとした。その程度飛び越えれば――そう思って走り続けた私は、間近に迫った木が炎を上げて燃えだしたのを見てたたらを踏んだ。
さっきの風のせいで酸素が行き渡って火が出たんだ。意図的にフリーダの魔法を利用した!?それともすでに電撃を食らってくすぶっていた木がたまたま燃えたのか?目の前のドラゴンにそんな知能はなかったはず――!
とっさに飛びのいて、炎のカーテンの向こうから飛んでくる電極を回避する。当たらなかった。だけど、これが四回目だ。
バチンとはじけるような音がして、周囲の木々が一斉に炎に包まれる。続くのはジジジ、という低く途切れのない電気の走る音。煙の向こうに、淡い光を見た。青白く輝く、球形の光。それがいくつも立ち上っては不規則に舞い、そのドラゴンの真の姿を祝福する。
ひときわ大きな雷撃にはじけ飛んだ倒木の奥から姿を現したのは、体中の鱗を逆立てて迸る雷鳴を意のままに操る災厄の主――『励起したプラズマドラゴン』だった。
咆哮がとどろく。喉の鱗がバタバタと電気の斥力にはためいて、高らかに同じ音を繰り返すような鳴き声。それに共鳴するように空気が揺らいだ。一対の光の翼が、空を貫くようにして顕現する。プラズマと化した空気がそのエネルギーを放出することによって見える輝き。プラズマドラゴンがこの空間そのものを支配したことを示す何よりの証拠だった。