私が思わずツッコミを入れてしまった頭のねじが飛んでそうな二人は、この植物園で仕事をしていた外部の教授と、赤い風が吹いたタイミングで偶然居合わせた大学生とのこと。
「えっと、ユグさん、こちらの方たちは……。」
彼らも彼らで、私たちのことを気にしている。
「森に来た侵入者だ。和解したので連れてきた。」
侵入者って。まあそうだけど。ケンジーがすかさず補足する。
「我々はロンドンの公園を拠点にしている。とあるイベントごとで集まっていた人間を中心にした集団だ。今回は、この森が拠点まで侵食してきたことを受けて遠征に来た。」
「な、なるほど。えっと、私はアヴリーヌ。こっちの先生はファチョ先生です。えっと、不謹慎でしたよね、ごめんなさい。ほら、先生も謝ってください!」
「ダッテワルイコトシナイシ」
声小さいな……。
「いえ、我々もこれら幻生生物の力を借りて戦っている。恥じることではない。」
「モンスター?これらが?」
「説明すると長くなるが――」
ケンジーは、現実世界がゲームの影響を受けた状態であることを説明した。学者たちはうまく呑み込めないといった様子だが、それでも実際に起きていることを信じないわけにはいかない。
「そうですか。じゃあ、そのエリクシアっていうゲームの中に、このバロメッツとかも出てくるんですね。」
「その通りだ。」
「君たちはそのゲームのイベントで集まっていたのか。ならばある程度そのゲームの情報をもっているのかな。」
ファチョ先生と呼ばれた男性が話に入ってくる。
それに対して口を開きかけたケンジーを遮って、フリーダが
「あ、それならシアンが全部覚えてるよ。」
と言った。直後、プラズマドラゴンの最後の抵抗よりも素早い反応速度で彼ら研究者の視線がこちらに集中する。
「フリーダ……?」
「シアンすごくってさ、もうゲーム中のレシピどころかファンブック攻略本の内容まで全部覚えてるの!だからこの植物のことが知りたいならシアンに聞いた方が速いと思うけど。」
「え、ちょ、ま」
「ご協力感謝する。」
「まだ何も言ってないけどッ!?」
ファチョ先生がアヴリーヌ君、というと、彼女がすかさず私の腕をつかむ。
「はい、中で話しましょう。ああ、今日は徹夜ですねぇ……。」
「あ、やめて、離して!あーーーーー!」
そのすさまじい圧に屈した私は、引きずられて温室の中に連れていかれるのだった。
・ ・ ・
「わざとだろう、フリーダ。」
ケンジーのその問いに、フリーダは悪びれるそぶりもない。
「うん。その方がいいかなって。」
「はあ、彼らが研究者ならば協力するのはいいが――」
「そうじゃなくてさ、シアンだよ。」
どういう意味だ?
「シアン、ずっとどこかで遠慮してたでしょ。あれだけエリクシアが好きでさ、それが目の前に現実として存在する状況、うれしくないはずがないんだよ。それなのに、自分のせいで大勢死んだかもしれないから、ってどこかブレーキを引いてる。」
「……そうだな。」
「私ね、妹がいるの。だから、おんなじくらいの年のシアンのこと、ちょっとわかるっていうか。わかった気になっちゃうっていうか。で、ちょうどシアンなんか比べ物にならないくらいの不謹慎な人たちが出てきたから、ぶつけてみようと思って。」
「フリーダが彼女のことをビリヤードのボールだと思っているのは伝わったが、いささか急だな。」
「思ってないよ!!ひどいな。でもこうすれば、あの子は誰に気を遣うこともなくエリクシアの話ができるでしょ。」
ケンジーはふっと笑った。確かにこれは、シアンにとっていい息抜きになるだろう。
「とはいえ、シアンは腕を失ったばかりだぞ。その間パーティーにいなかった私が言うのもなんだがな。」
フリーダはそのシアンへ向けた慈しみの表情を崩さないまま、ふっと笑った。
「たしかに。やっべ。」
「おい。」
「まあ、しばらくしたら迎えに行ってあげよー。」
「そうするしかないな。」
・ ・ ・
私の怪我の状況に気が付いたファチョ先生とアヴリーヌは顔を青くして平謝りしてきた。その時すでに日は傾いて、私は必死にしゃべり続けたせいでのどが枯れていた。私が持ってる情報を一つも逃すまいと質問攻めにされ、何なら実験にも付き合わされた後である。あまりにも気が付くのが遅い。
だけど私が一方的に話しただけではなく、彼らからも得られるものがあった。現実の植物に関する知識と、それを応用してゲームの植物を理解するための実験の話は興味深かったし、何より彼らは、ゲーム産の植物を栽培する方法を模索すると約束してくれた。今までずっと野生の植物を採取していたのに対して、栽培できるようになれば安定した供給ができるようになる。これはとてもうれしい。
そんな話に夢中になっていた私たちが、そういえばご飯をろくに食べていないと気がついたのは、外からいい匂いが漂ってきたからだった。
ドラゴンの肉、ちょっと切り取って持ってきたんだよね。と嬉しそうに言うフリーダがやけに楽しそうだったから、私はさっきの恨みをぶつけるためにたくさん食べてやると心に決めた。
「え、ドラゴンって何の話ですか……?」
「あ、話すと長くなるので……。」
英雄譚は食べながらにしよう。今回のMVPはケンジーだ。
ドラゴン肉は、フリーダがとってきた部位のせいか硬くて食べられた物ではなかった。だけどそれを食べるのは何かあのドラゴンへの礼儀のような気がして、私は黙々と口を動かしたのだった。
翌朝、私たちは早朝に目を覚ました。昨夜の夕食はいろんなことを話しながらゆっくりと食べたが、それでもここ最近の私たちの生活は規則正しいもので――スマホや電子機器がないのは睡眠にとてもいい――精霊王に言われた通り早起きをすることができた。いよいよ私たちは世界樹の朝露を手に入れる。