狂獣蔦は防御力ポーションの素材だ。これに加えてとある植物と、オトリトカゲ系統の素材――今回ならバロメッツの蕾を再び狙いたいところ――を合わせることで防御力ポーションの中級が錬成できる。
私たちはプラズマドラゴンと戦闘した場所からもかなり離れたところにいる。そこに戻るまでにいろいろと素材の調達を済ませたい。当初予定していた攻略チャートは、ポーションの段階的アップグレードを前提として少しずつ成長していくものだった。だけど鉄鋼アリの装備で武装した私たちにもはやその必要はない。単純に言ってプラズマドラゴンより強い奴なんかいないのだ。ごくわずかな例外を除いて。トレントも今の私たちなら余裕をもって倒せるはず。
とはいえラストダンジョンを歩く以上、私たちの強化はしておきたい。なので一気に筋力ポーションと防御力ポーションの中級を錬成しに行くことにした。必要な素材をリストアップし、その特徴を共有した後三人で周囲を観察しながら歩いた。
「いたよ。トレントだ。」
フリーダの声。その目線を追いかければ、そこには確かにそれがいた。一見普通の植物のように見えるが、根が地面深くに食い込んでいない。たくさんの根が横に広く広がって、いつでも動けるように自分自身を支えているのだ。わざわざ先手を譲る必要はない。私は槍を構えて最速で距離を詰め、その根を叩き切った。バランスを崩したトレントが横転する。すかさずケンジーが盾で押さえつけ、枝を振り回す攻撃を阻止。フリーダの水の丸鋸がその体を二つに切り裂いた。
「驚くほど簡単だったね。」
「私たちが成長しているのもある。戦闘にも慣れたし、連携もスムーズになった。」
「さすが私たち!」
ドラゴンに比べたら雑魚もいいところだしなあ。
枝を切り落として、必要な分だけ採取する。全部は重くて運べないが、時間が経てば腐って土の養分になるだろう。
後は見つけるのが難しい素材ばかりだ。戦う必要はないが、探すのに時間がかかるのでこっちの方が辛かったりする。結局何日か、公園の方角に進みながらも森をさまよってやっとすべての素材を回収した。カゼンボ、という空中を足場にしてすいすいと動き回る虫。そしてクラガリ藻という暗いところを好んで繁茂する変な藻類。
気が付けば私たちは、プラズマドラゴンと戦ったところまで戻ってきていた。一つだけ、まだ採取していない素材がある。
見れば、――改めて見れば、それは一目瞭然だった。その場所にはたくさんのバロメッツが群生していて、その中の一つだけを相手取ろうということがいかにバカげたことなのかわかってしまう。もっとも今はそのほとんどが突撃してきたドラゴンの破壊跡に飲み込まれてボロボロになっていたり焦げていたりするが。ボロボロになった人間頭部が転がっているのは極力見ないようにする。あの頭に私としての自我があったのか、なんて考えだすだけ損だ。
さて、そこにはまだバロメッツの生き残りがいる。リベンジマッチといこう。今度は一切油断しない。槍の先端で切り裂いて完全に切断する。情報の伝達を遠隔で行える可能性も考えて全員で固まって動く。互いに声を掛けると混乱するのでしゃべるのを禁止し、緊急時には離脱の合図を決めて手をつないだ状態で戦った。もちろん極力捕食葉には触れないようにする。結果、ものの数分で一帯のバロメッツを伐採し終えた。あんなに堅かった茎が武器のおかげでスパスパ切れるのは正直楽しかった。
「全部素材集まったー!!」
「この声は本当にフリーダだよね……?」
「私だよ!もうバロメッツは倒したでしょ!?」
「よかった。バロメッツだったらかわいそうだ。こんなに騒がしくするためには相当のエネルギーを使うはずだからな。」
「ちょっと!?どういう意味!」
おもわず笑いが漏れる。フリーダが「あー!シアンまで笑うつもり!?」とこちらにも怒りの矛先を向けてきたので、私はカバンから道具類を取り出す。
「早く調合始めないと……。」
「ごまかし方下手くそか!」
激しい戦闘の余波で一部壊れてしまった道具もあるが、基本問題ない。蒸留器は無事。ほかにも調合用の陶器など、割れやすいものは予備がつくってある。これ以上自分の力に振り回されてケガするのは嫌なので、早いところ防御力ポーションをつくってしまおう。
材料は狂獣蔦とクラガリ藻、そしてバロメッツの蕾。中級以降の調合には基本的に蒸留水が必須なので、これを加えた4種類だ。
狂獣蔦はその名の通り蔦で、素材になるのもその部分。切り刻んで器に入れていく。次にクラガリ藻も岩の上で乾燥させたものをそのまま入れる。藻なので部位もなにもない。最後にバロメッツだ。これは切り取ってきたものの中から、小さな蕾を選別して摘み取る必要がある。すでに何かしらの動物に変化している蕾はもちろん、変化が少しでも始まっていたならそれは使い物にならないのだ。ちなみにバロメッツは危険を感じた時に無理をして蕾を動物の形に変化させる生態を持っていて、平常時はあんなに早く私の頭部をつくったりはしない。なので良く見分けないとちょっとだけ変化が始まってしまっている蕾があって、それを混ぜるとポーションは効果を発揮しない。ゲームでも選別の作業があって、ゴミポーションと呼ばれる何の効果もないポーションが出来上がった時の虚無感と言ったら……。あれを現実で味わうのはごめんだ。しっかりと一つずつ確認した。
これらをすり鉢ですりつぶしてペースト状にし、蒸留水に溶かしていく。やがてそこには何とも言えない濁った色――赤と緑が混ぜ合わさって淀んだような――のポーションが完成した。
[クラガリ藻]
日の光が届かない水中で繁茂する藻。光合成をしないため葉緑素をそもそも持っていない。故に植物らしからぬ灰色をしている。岩陰や流木の中などにびっしり生えてることが多く、無性生殖で分裂してたくさん増える。日光に照らされると焼けて死んでしまう。