シアンが世界樹の朝露を持ち帰ってから、1週間ほどの時間が経った。その間筆頭パーティは世界樹の森の攻略記事を書き、また何度か訪れて、他の人が素材採取に赴くための下地を整えるための作業をした。これによってシアンたちほどの実力がなくとも、森に出入りすることができるようになった。こんな大量の作業とレクチャーを行ってなお、精霊王がいきなり襲いかかったりしないと約束してくれたのが一番の安心材料だった。ケンジーもにっこりの皮肉である。
「事情は聞いていたが、まさかここまでくる奴がいるとはな。」
精霊王が声を掛けた先には、一人の女性が立っていた。
「私たちの最終目標はエリクシアの大量生産だ。世界樹の朝露を採取できる人間は多い方がいい。」
「……名を聞こうか。」
「ジャクリーン。ジャクリーン・カーティス。」
「余は精霊王。ユグと呼んでもかまわないよ。さて、その言い方をしているってことは、朝露を採取するための資格について知っているんだろう?死にに来たのか?」
あの精神世界は精霊王の攻撃手段でもある。精神汚染なしに朝露を採取することはできず、それは死のリスクを意味していた。しかしジャクリーンはその笑みを絶やさない。
「ああ。大丈夫だ。精神汚染に飲まれなければいいんだろう?私は今、希望に満ち溢れているからね。」
精霊王はそれ以上、何も言わなかった。ただその樹木を操って、ジャクリーンを拘束する。
そして、その1秒後に拘束を解いた。
「もう終わりなのかい?」
ジャクリーンの問いに、精霊王は不快そうな顔を隠さなかった。
「お前、燃えているな。」
「燃えている、か。これのことを言っているのかな。」
やっぱり、私にはかわいいと思えない。
カコ、と何か堅いものがぶつかったりすれたりするような音が断続的に響いて、ジャクリーンの後方から一つの人影が姿を現した。それは、骨であった。頭蓋骨であり、脊椎であり、腕骨であり鋤骨であり腰椎であり大腿骨であった。それらが筋肉を持たずして連なり、まるでまだ生きているかのように動いている。そのスケルトンと呼ぶべき存在が生命のなりそこないとして足掻き、振舞うたび、ジャクリーンの体のそばを赤い光が迸る。
「そうだ。お前の魔力は燃えている。」
「私もこの力が何か、良くわかっていないんだ。精霊王様がご存じならぜひ教えてほしいね。」
「余も詳しくは知らない。そして少なからず知っていることを教える義理もないな。」
「つれないな。まあいいか。これで私に資格とやらは宿ったんだろう?」
「そうだ。余の汚染をほとんど完全に退ける形でな。はははッ!今ならばわかる。」
ジャクリーンが首をかしげる中、精霊王は笑った。先ほどの不快そうな表情も忘れて、今目の前で起きていることが心底愉快で仕方ないという風に。
「そうか、お前が――」
ついでに世界樹の朝露を採取して、ジャクリーンは公園に帰る。道中の幻生生物はすべてスケルトンに相手をさせた。これもポーションや武器がなければ成り立たない戦術なので、ジャクリーンが一人で森を攻略できたかというと否だが。それにしても、と考える。精霊王の言葉がやけに耳に残っていたのだ。あれは確かに、言い得て妙だった。
――お前が、あの錬金術師の少女の運命か。
・ ・ ・
「逃げろ!逃げるんだ!あれに潰されたら終わりだぞ!海に出るしかない!」
とある地で、男たちが叫んだ。
「星が喜んでるってぇのは本当かい。」
とある地で、女たちが秘密の話をした。
「僕は、一人でだって外に行くから。」
とある地で、少年が覚悟した。
そのどれもが絡み合い、次の戦いの幕を開けようとしていた。それをいち早く知ったのは、とある海岸沿いの老婆である。彼女は海を渡ってきた一艘の小舟を見つけて、その男から話を聞いた。
「なあ、助けてくれよ!俺は海を渡ってきたんだ。ここもやばいんだよ。なんせもう、フランスは滅びた……!」
-第一章『世界樹』 おわり-
あとがき
これにて、『錬金少女は蒼に埋める』第一章終幕となります。お付き合いいただきありがとうございました。この作品は全三編を予定しており、その第一編が『霊薬エリクシア』編となります。そしてその『霊薬エリクシア』編も三章構成の予定で、その第一章が『世界樹』となります(『世界創傷』は第零章の扱い)。単純計算1/9がおわったところなので、まだまだ続きます。とはいえ、人気がなかったら第一編のみで完結とするかもしれませんが。
裏を返せば第一編の霊薬エリクシア編の最後まではどんなに人気が出なくても最後まで書くつもりです。この作品を書き始めたときに思い浮かんだ原風景がそこにあるので。
もしこの作品を気に入っていただけたら、感想をくれると嬉しいです。執筆をしていると自分の書いているものが本当に面白いのかわからなくなってくるんだ......。気軽に思ったことを書いてくださると飛んで読みに行くのでよしなに。
最後になりますが、フランス、滅ぼしてごめん。
休載告知
ヘミングウェイ先生曰く、「すべての初稿はクズだ」とのことです。初稿とは最初に書いた文章、直してないもの。つまり皆さんが今しがた読み終わった文章のことです。
私に生卵の一つでも投げて、ふざけんなと叫びたい気持ちはわかりますが弁明をさせてください。私も自分の文章に直すところを多々見つけていますが、その大半はいらないところを省いて読みやすくするとか、設定がわかりやすいように書き加えるとか。
まぁちょっと筆が乗って新キャラの一人や二人生まれるかもしれませんが、生き残りがいたら次の章の冒頭で紹介とかして、読み直さなくても続きが分かるようにします。
さて、この文章こそクズみたいな戯言だと明らかになったところで、まじめに休載の話をしましょう。僕がやる作業は
・改稿作業今までの分全部
・第二章の書き溜め
の二つです。第一章もほとんど書き溜めなしで進行していたので、それができないわけではないのですが、やっぱり書き溜めはあった方が安心。ということで、長めに休載期間を設けさせていただきます。予定としては1か月で、連載再開は10月13日。ちょっとばかし前後しても許してください。事前予告では10日とかほざいてたのにすみません。ほかの作品のアイディアもあるのでそっちにも時間使いたかったりします。
しかし、繰り返すようですが第一編は最後までちゃんと書き上げる予定なのでご安心を。それでは一か月後にまたお会いしましょう。
水面廻