錬金少女は蒼に埋める   作:水面廻

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第7話 完璧な逃避行

 その言葉が聞こえてきたのは、私がアメハナクサを見つけた直後だった。

 

「こいつがその男を殺したんじゃないのか?」

 

 私を指さして放たれたその言葉を、私はshe、kill、himだけ聞き取った。一瞬で背筋に冷たいものが走る。確かにあれは私の失態だ。だけどそれを故意と取られてしまうのは、あまりにも心外だしあまりにも状況が悪い。それに対して口を開いて反論を試みようにも、私はうまくしゃべれない。とっさに取り出したスマートフォンが全く反応しないのを見てさらに焦りが募った。何とか反論を試みようと口を開き必死に吐き出した私の言葉は、しかし出鼻をくじかれてかき消される。

 

 ガシャン、と大きな音がして、全員の視線がそちらに集中する。その視線に警戒と、明らかな恐怖をにじませているのは、私も含めて外の偵察に出た人たちだった。そのほかずっと劇場内にいた人も、迫りくる何者かの足音に警戒の色をにじませる。果たして、やってきたのは。私たちが警戒していた通りの、ゴーレムたちだった。

 

 ここにいるすべての人の間を緊張と困惑が駆け巡る。あるものは理解できない現状に呆然と立ち尽くし、あるものは半狂乱になって逃げ惑う。その中でも一部の人間は、目の前に迫りくるそれを嘲笑した。どうせ何かのフィクション、着ぐるみか何かだろうと思ったのか自分からゴーレムに近づいていったのだ。その結果は語るまでもない。私は近くにいた女性――さっき私を指さして犯人扱いしようとした人――が嘲笑を浮かべてゴーレムのもとへ歩いていこうとするのを止めようとして手をつかんだ。

 

「待って!ストップ!ダメだって」

 

 だけど彼女は何か汚いものを押し付けられたように私の手を拒絶し、そのまま歩いて行ってしまう。

 

「必死になってんじゃねえよ!あんなの本気で信じるやついないだろ。」

 

 ぐしゃ、という肉のつぶれる音と、それに混じる甲高い骨が折れる音。それが彼女らの行動に対して世界が示した答えだった。遠くで、息をのむ気配がした。彼女らの行動を希望のまなざしで見つめていた人たち。自分たちが恐怖を感じているゴーレムに対して、あれは偽物だと言い切った彼女らを快く思い、まやかしの化けの皮がはがれることを望んでいた人たち。彼らが、一斉にパニックを起こして逃げ惑う。その向かう先は出入口、正面ゲートとは別の出口だった。そこにたどりつた先頭の男が、瞬時にその体をこわばらせる。続く彼らも同じようにその出口の先を見て、硬直した。

 

 その反応だけで、その向こうにも同じように脅威が迫っているのが察せてしまう。ガン、と出口の柵を揺らす音が響いたのは、その一瞬後だった。

 

 ――逃げ場は、ない。私たちはここで、あのゴーレムたちを迎え撃たなければならない。幸か不幸か、この場にいる全員が目の前の脅威と現実が崩壊する様を目にした。今なら、私の考えも受け入れられるかもしれない。

 

「日本語と英語しゃべれる人!!私の言葉を翻訳してください!あいつらはエリクシアシリーズのゴーレムです!さっきの戦闘で、胸の中心を貫いたら沈黙したので多分間違いないです!」

 

「そんなバカな!?た、確かに似てるような気もするけど……。」

「いや、初代のグラフィックなら似てるなんてもんじゃないぞ?そのまんまだ。」

「お、俺も思ってた……!」

 

 ざわざわと波紋が広がるようにして同意の声が増えていく。私の言った通りに翻訳を買って出てくれた人もいるみたいだ。少しでも敵の情報があるほうが、混乱も少なくて済むだろう。少しだけ正気を取り戻した人たちが、体格のいい男性を中心にしてゴーレムの侵入を阻もうと動き出す。それを見送って、私は素材の調達を進めることにした。正直私は肉弾戦に参加したところで足手まといだ。それならいっそのこと割り切ってできることをやるしかない。地べたにはいつくばっている私のことを見る周りの目は冷たいが、それでもこれが最善のはずだと信じて探し続ける。

 

 ふ、と視界の端を横切る小さな影があった。それは黒い体表に青いラインの入った、トカゲ。いた。私は歓喜を隠しきれない表情で、そのトカゲを追いかける。子供のころにやったきり、そとで動植物と戯れるなんて経験はしばらくしていないはずの私だけど、それでもこの時ばかりは緊急事態の火事場の馬鹿力といえばいいのか、スムーズに体が動いた。起こりの少ない最速の手さばきで、私はそのトカゲの体を上から押さえつけることに成功する。トカゲは嫌がって身をよじり、私の手から半分ほど這い出たあと、その尻尾を切り離して逃げ出した。

 ――これでいい。このモンスターの素材としての使用可能部位は尻尾だ。すぐさま跳ね回る尻尾をつまみ上げて、切断面を指で押さえつける。すると押さえつけた指に、もぞもぞとしっぽの内側から圧力がかかってくる。そう、こいつは再生しようとしているのだ。

 

 名前を、オトリトカゲ。切り離したしっぽ側から急速に再生し、自分の分身をおとりとして残すトカゲ。そして、これによってつくる錬成物の方向性が完璧に定まった。アメハナクサは葉も根も使えるし割と万能な素材なので、何を造るのかを考えながら素材になりそうなものを探していたのだが、それにオトリトカゲを合わせるならポーションを造ることになる。

 

 私が今から完成を急ぐのは、筋力強化ポーションだ。




[オトリトカゲ]
 自切した尻尾が再生して、本体と同じように動き出すことのできる幻生生物。本体側の尻尾の再生は、この機能を維持するために長い時間をかけて行われるため、囮の再生より本体の再生のほうが極端に遅い。囮はあくまで囮であり、一時間程度動き回ったのち沈黙。そのまま消えて、切り落とした尻尾だけが残る。

[筋力ポーション]レシピ
 ・アメハナクサ
 ・?????ナナフシ
 ・オトリトカゲ
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