ドパガキダンジョン   作:匿名

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第十二話 そういうことドパね

 

 俺は一人で管理室にいた。

 

 一枚の水晶板では、勇者が次の一匹を救っている。

 

救助数 三百八十七匹!

 

救助待ち 一匹

 

 もう一枚には、街の店が映っていた。

 青いリボンの帽子をかぶった秘書が、窓際の席で俺を待っている。

 向かいの席に荷物を置こうとした店員へ、首を振っている。

 誰が来るのか聞かれたらしい。帽子のつばで口元を隠した。

 その店まで、歩いて五分もかからない。

 

 冒険者、勇者、魔王。

 欲しいものは、全て手に入った。

 勇者は救助をやめられず、魔王は自分から秘書の椅子へ戻った。

 救助待ちは自動で追加され、魔王は勝つ手順を探して何度でもやり直す。

 俺が管理室を離れても、数字は勝手に伸びる。

 

「勝利だ。これで全て手に入れたドパ」

 

 虹色のサングラスを外し、机へ置いた。

 もう演技を続ける相手はいない。

 

 滞在魔力、継続率、同時接続数。全て過去最高。

 改善が必要な項目は、一つもない。

 空席になった秘書の机には、前の幅広帽子だけが残されている。

 報告書も、食事を置く皿もない。

 数字を読み上げても、難しい言葉へ首を傾げる相手はいなかった。

 

 黒い通信水晶が光った。

 

『待ち合わせの時間です』

 

 続けて、もう一度光る。

 

『店に着きました。果実水を二つ注文しておきます』

 

『あなたの分は、甘い方です』

 

 前に買ってもらった時、俺が先に飲み干した方だ。

 そんなことまで覚えていたらしい。

 俺は『今から行く』と送り返した。

 

 管理室の左には出口。

 右には、ダンジョンコアと新機能の追加画面。

 

 立ち上がり、出口へ向かう。

 今日は何を話そう。

 異世界の話なら、まだいくらでもある。俺が散々金を使ったゲームの話をしたら、また「あれが山ほど」と食いつくだろうか。

 

 水晶板の端で、赤い数字が光った。

 

リピート率 〇・一%低下

 

 足を止める。

 

 今日まで積み上げた最高記録が、途切れてしまう。

 修正に必要な時間は三十秒。走って行けば、大して待たせずに済む。

 食事の間は水晶を置くと約束した。だから、出る前に済ませておけばいい。

 はずれた客に、次の一周は報酬が二倍になる券を配る。

 出口へ向かっていた三人が引き返した。

 リピート率が戻った。

 赤が消え、緑の『過去最高!』が光る。

 

「ほら、三十秒もかからなかったドパ」

 

 誰に言うでもなく、笑っていた。

 

 今度は平均滞在時間が〇・一%落ちる。

 二倍の報酬を受け取り、それで帰ろうとしている客がいた。

 

「せっかく戻してやったのに、それで満足するドパ?」

 

 もう一周すれば、次は報酬三倍の金の券。

 その表示を出せば、引き留められる。

 魔力水晶を一つ、ダンジョンコアへ押し込む。

 客が振り返った。金の文字を見上げ、また走り出す。

 

平均滞在時間 過去最高!

 

「そう! そう来なくちゃドパ!」

 

 椅子を引き寄せ、座り直した。

 これを別の通路にも入れれば、もっと伸びる。

 

『演出、長えよ。飛ばせねえの?』

 

「脳汁を出すところまで飛ばすドパ!?」

 

 文句を言いながら、倍速と演出スキップを追加した。

 周回の合間には、十五秒の攻略動画。終われば次が勝手に流れる。

 客はもう当たった景品も見ず、次の入口へ走っていた。

 

 黒い通信水晶が光った。

 

『果実水がぬるくなります』

 

 返事を打ちかけ、新機能の実行ボタンを押した。

 もう少し良い数字にしてから見せれば、あいつも喜ぶ。

 二人で世界を支配すると決めたのだ。そのために働いている。

 

『あとどれくらいですか?』

 

 時計を見る。三十分経っていた。

 そんなにかかったはずはない。券を二種類と、便利な機能を少し足しただけだ。

 

『もう少し。先に食べていてくれ』

 

 向こうの水晶板で、秘書が店員を呼んだ。

 メニューを開きかけ、向かいの椅子を見る。結局、飲み物だけを頼んだ。

 返事を待つ間に、黒い水晶でゲームを開く。

 

『一緒に食べる約束です』

 

 俺は実行ボタンから手を離した。

 そうだった。

 世界征服が終わっても、一緒にいたいと言ってくれた。

 あいつが待っているのは、新機能の報告ではない。

 

 画面を閉じる。

 隠れた途端、さっきの数字が気になった。

 券を増やしすぎて、魔力収支が落ちていないか。確認だけなら一瞬だ。

 

 もう一度、開いた。

 

魔力収支 〇・一%低下

 

「ほら、やっぱり! 見ておいてよかったドパ!」

 

 配る確率を少し下げる。

 収支が戻る。今度はリピート率が落ちる。

 間にあるはずだ。両方が一番高くなる、ちょうどいい数字が。

 

 外は暗くなった。

 黒い通信水晶の光が消える。

 店員が空いた椅子を片づけようとした。秘書が何か言って止める。

 椅子は、元の位置へ戻された。

 

『約束を破ったら、どうすると言いましたか?』

 

 顔を上げた。

 秘書の手の中で、黒い光が膨らんでいる。

 

「待て。今、行く。今度こそ、本当に」

 

 通信水晶を取ろうとした時、彼女が卓上へ目を落とした。

 開いたままのゲームで、同盟国が裏切っていた。

 黒い光が消えた。

 彼女は駒を戻し、進軍先を変える。

 

『……あと一ターンだけ、待ちます』

 

 助かった。

 それなら、この調整を終わらせられる。

 

 数字を一つ変えてから、俺は自分の手を見た。

 

 何をやっているんだ。

 今、許してもらったのに。

 

 水晶板では、店員が頭を下げている。

 秘書は硬貨を積み、待っていた。二人分の食器が下げられても、向かいの椅子だけは空けたまま。

 ゲームを巻き戻す手が止まらない。

 

 俺がそう作った。

 負けたままでは、閉じられないように。

 

 俺の画面でも、赤い数字が一つ残っていた。

 

「ドパ?」

 

 これを緑にしたら、立つ。

 すぐそこだ。あと〇・一%だけ。

 

 ——あと一周で、倍にして戻せば。

 

 誰の声だったか、考える前に指が動いた。

 

「違う。これは演技のはずドパ!」

 

 サングラスは、机の上にある。

 見ている客も、相槌を打つ秘書もいない。

 

「やめられる。俺が作ったダンジョンだぞ。いつでもやめられるドパ」

 

 全部の数字が緑になった。

 今だ。閉じればいい。

 

過去最高記録まで、あと〇・〇一%!

 

 もう一度、押した。

 

「ちがうドパ!!!!!」

 

 水晶板の向こうで、勇者が次の一匹へ走る。

 青いリボンの帽子をかぶった魔王が、次の国へ駒を進める。

 

「ああ……そういうことドパね」

 





 以上で完結ドパ。
 よければ高評価もよろしくドパ!

 お読みいただきありがとうございましたドパ!
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