カードゲームで世界の命運が決まる、ホビーアニメのような世界に転生してしまった元サラリーマン。

転生後に手にしたデッキは、モンスターの見た目が最悪。しかも、相手のカードを除外するという物騒な戦法のせいで、周囲からは邪悪な存在だと思われてしまう。

おまけにデッキそのものが曰く付きだったため、悪魔王の生まれ変わりと勘違いされ、悪魔崇拝者たちにまで狙われる羽目に。

――なお、本人はただの転生者である。

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第1話

 鏡越しに自分の姿を見る。そこには尖った髪型に目つきの悪い少年が映っていた。

 

 これから大勢が見てる前での実技試験に挑む。

 決闘の場に相応しい見た目になった筈だ。

 

 実際はこんな髪型は俺の趣味では無い。というか刺さりそうなぐらい無駄に尖ってるし。

 はっきり言ってダサい気がする。

 だが俺のデッキのカードの精霊たちは俺がこの髪型にしてないとやる気が出ないそうだ。

 

「七三分けにした時は手札事故が起こりまくってたしなあ」

 

 独り言を呟いて男子トイレから出て、通路を進む。

 

 じろじろとこちらを不躾に見てくる受験生たちの視線が気になった。

 

「おい、見ろよ……。M14世界大会の会場をバラム教会の連中と襲撃したやつだぞ。なんでこんな所にいるんだ?」

 

「国民全員でこいつを逮捕するべきじゃないのか?」

 

「髪型頭おかしい」

 

 俺の事を誤解してるアホばっかりだ。

 でも何度言っても信じてくれないし、弁解はもう諦めた。

 逮捕されて刑務所にぶち込まれてない。その事が俺の身の潔白を百の言葉よりも証明している。

 

 ただ髪型頭おかしいという意見については俺は賛成せざるを得なかった。

 

 実技部門の会場へと入る。

 既にそこは悲喜こもごもの熱気で包まれていた。

 ある者は項垂れ、またある者は試験官相手に勝利したのだろう、歓喜のあまり雄たけびを上げる。

 

 ここに集まっている面々は、メンズーアアカデミア『西日本校』への入学を目指している受験生たちだ。

 

 そもそもカードゲームの学校とは何ぞや、とは思わんでもない。

 

 が、この世界はカードの精霊が実在する世界。

 世界の創世神話にも光の勢力の代表と闇の勢力の代表のカードバトルが描かれている。

 

 まぁ何が言いたいかと言うと、カードゲームの強さがモノを言うホビーアニメの世界に俺は転生してしまったという訳だ。

 

「えーと、受験番号は126番だったな」

 

 試験会場の待合室に置かれた、兎をモチーフにしたメンズーアモンスター『ラビッキュ』を模したソファへと腰かける。

 もふもふしてる。見た目重視かと思いきや、座り心地は中々いい。

 

 モニターに映し出されている受験番号は122番。まだ俺の出番ではないらしい。

 

 因みにソファに座ると同時に、俺の周囲からはまるでモーセのように人が去っていった。解せぬ。

 

 メンズーア、この世界における最もプレイ人口の多いカードゲーム。前身、そのまた前身、更にそのまた前身となるゲームから数えて数千年近い歴史がある。

 勿論、市場規模も凄まじいもので、メンズーアを取り扱ってる関連企業に就職さえできれば勝ち組。

 プロにでもなれれば名声と富が手に入る。

 

 アカデミアはメンズーアのプロ養成施設であり、プロになれなくても関連企業への豊富なコネクションから就職も容易い。

 これからの人生、メンズーアに関わり続けることができるかどうかの重要な分岐点なのだ。

 

 あ、122番の受験生が泣きながら試験会場から出てきた。

 結構健闘した方だが、腕はまだまだだな。

 

 ホビーアニメのような世界に転生して、実際にカードの精霊と呼ばれるものに幼少期から触れることができた俺は戦い続けてきた。

 前世では遊戯○やら色々なカードゲームを遊んできたし、それなりにプレイスキルには自信があったしな。小さい頃は神童として扱われたものだ。

 

 まぁ負ける事もあったが、生涯戦績では勝ち越してる。

 

 モニターに126番と映し出される。

 どうやら、俺の出番らしい。

 ソファから立ち上がり、デッキへと手を這わせる。

 夢の中で語りかけてきた【オロバス】と名乗る精霊の導きに従って実家の庭を掘ったら、木箱の中に厳重に梱包されて入っていたデッキ。

 

 デッキテーマは【ソロモン七十二柱】。後で知ったが、このカードテーマは持ち主に謎の不幸が訪れる事から発禁処分となった曰く付きのテーマらしい。

 

 子どもが泣きそうな醜悪な見た目のカードばかりだが、意外と話してみると良い奴らばかりだ。

 

「126番。塩柱 惡都さんですね?」

 

 俺の名前はこの世の終わりみたいなDQNネームであるがこの世界では一般的なので慣れている。

 小学校時代も中学校時代もこのような名前を付けた両親に恨みを抱いたことはあったし、今でもどうかと思っているがもう気にしないようにしてる。

 

「はい、試験官さん。本日はよろしくお願いします」

 

「……貴方の噂は聞いてますよ? 

曰く、中学時代はメンズーア愚連隊を率いて地元の中学校を荒らしまわっていたと」

 

 誰だよそんな噂流した奴……。

 絡んできた不良をメンズーアで返り討ちにしたことは何度もあったし、そいつらが俺の事を兄貴と呼ぶようになったのは確かだ。

 だが別に俺は他の中学校の連中に喧嘩を吹っ掛けたりしたことは無かったぞ。

 

「……誤解してるのでは? 俺はそんな事した事無いですけど」

 

「……まぁ良いでしょう。

ですが、貴方のような悪のデッキを使うメンズーアプレイヤーを本校に入学させるつもりは無い。

本気で落としに行きます」

 

 この世界の悪い所の一つが、使ってるデッキによってそいつの本質を知りもしないのに見抜いたつもりになる事だ。

 そして良い所の一つが、メンズーアによって勝ちさえすれば洗脳された相手やら、世界の命運やらが決めれる事だ。

 

 そして俺はこの噂や使ってるデッキだけで他人を評価するような試験官には負ける気はしなかった。

 

 

 

 

 

「ソウルを5つ消費。デッキから1枚ドロー」

 

 ソウルは前世で言うところのマナ。モンスターの召喚やスペルの発動に使うほか、5つ払えば1枚デッキからドローもできる。

 相手の場には守備表示のモンスターが1体と、ソウルを増やす魔法陣スペル【天界門】。リソース勝負に持ち込みたい【エンジェルビート】らしい布陣だ。

 

 だが、試験官の顔色は優れない。墓地を第二のリソースにするはずの相手のカードは、すべて除外ゾーンに送られているからだ。

 

 相手の気持ちが折れているのが目に見えて分かる。引導を渡すならこのタイミングだ。

 

「ソウルを3つ消費、【魔界合神】悪魔は魔界より出でる。

 顕現せよ

【悪徳大帝ベリアル】!」

 

 俺が高らかにカードを掲げると同時に、試験会場に設置されたホログラム発生装置により、俺の切り札が爆炎を撒き散らかす演出と共に姿を現す。

 

「【悪徳大帝ベリアル】の効果の一つ【魔界合神】によって顕現した際、召喚時の消費ソウルを次のターン開始時に持ち越すことができる。

 もし支払えない場合は俺のライフは0になる、が、関係ないな。

 このターンで決まるんだから、バトルだ」

 

 炎で作られた馬に引かせてるチャリオットに乗った大帝が槍を構える。そして、相手の守備表示モンスター【天界の守護騎士ゼルエル】を串刺しにした。

 串刺しにした槍の矛先から炎が放たれ、試験官へと襲い掛かる。

 守備表示モンスターの守備力を攻撃力が上回った分だけ相手のライフを削る貫通効果。

 

 それによって相手のライフが0になり、がっくりと項垂れることになった。

 

 観客席がざわついてる。

 やはりあの噂は本当だった、だの。あいつ悪魔だ、だの。対話拒否するようなメンズーアプレイヤーはメンズーアプレイヤーじゃないな、だの。まぁ言いたい放題だ。

 いつもの事なので気にはしない。

 

「いいメンズーアでした」

 

「……私は認めませんからね、クソっ」

 

 悪態をついて去っていく試験官の背中を見送る。

 そ、そんなに俺の事をアカデミアに入れたくなかったのか……。

 ちょっと泣きそうになるが我慢。

 

 どうやら俺の入学を阻止しようとした試験官はアカデミアの幹部だったらしく、実技試験を見ていた学長の方へと慌ただしく向かっていった。

 ……エリート養成コースの【サンクチュアリ】寮に入りたかったが、この様子だと入れそうにないな、うん。

 

 学校として明確に格差をつけるのはどうかとは思うが、少なくともメンズーアアカデミアにおいては三つの寮がある。

 エリート養成コースの【サンクチュアリ】寮、メンズーア関連企業への就職に強い【ウォーリア】寮、そして後は問題児がぶち込まれる【デモン】寮。

 

「かと言って、接待するわけにもいかないからなぁ」

 

 ふぃー、と溜息をつきながら兎のモンスターを模したソファに腰かける。

 相変わらず俺の周囲には誰も近寄らない。

 が、世の中捨てたものでは無さそうだ。

 

「おい、アンタ! さっきのメンズーア見てたぜ! すっげぇ強かったな! 実技のノーズ先生をあんなに一方的に倒すなんてな!」

 

「ん? 君は?」

 

「おっと、名乗るのを忘れてた! すまねぇな! 俺の名前は柚木 鉄火! よろしくな!」

 

「……塩柱 惡都だ、よろしく頼むよ」

 

 差し出してきた掌に自分の掌を重ねて、硬い握手をする。

 

「座学はアレだったけど俺も実技で勝ったからさ! アカデミアに入学したらまたメンズーアしようぜ!」

 

「ん、約束だ」

 

 学校で孤立するかと思っていたが、意外と仲良くしてくれそうなやつが居そうで一安心だ。

 

 まぁ相変わらず友達は少なくなりそうだが。

 

 

 

 

 

 バスの座席に腰かけて窓の外を眺める。

 人里離れた山奥だ。

 人々の営みを感じられる街からは遠く離れた山の中を俺達を乗せたバスは進んでいる。

 

 なんでこんなに無駄に人里離れた場所にメンズーアアカデミア作ってるんだよ。

 そう思わないでもない。

 

 一応それについてもネットで調べた。先代の校舎は大阪の一等地に作られていたそうだ。

 だが、悪のメンズーアプレイヤーと当時の学長との死闘の末に学長が敗北。

 アカデミアの地下に封印されていた邪悪なカードの封印が解かれ、大勢が発狂し、市街地のど真ん中で実体化した冒涜的な化け物が暴れ回ったらしい。

 一人の英雄の活躍によってカードは再度封印され、事件の黒幕は英雄とのメンズーアに敗北し、事件は沈静化されることになった。

 

 が、そんな事件があったという事もあって、現在のアカデミアは奈良県南部の山中に作られている。

 ギリギリスマホの電波が通じているが、本当に周囲に何もない。

 

「なぁ、隣いいか?」

 

「うん? 構わないぞ、鉄火」

 

「はは、ありがとな! 惡都!」

 

 俺の周囲に露骨に人が居ないのに気が付いて、気を利かせてくれたのか鉄火が空いていた俺の隣に座席を移してくれた。

 彼の優しさに思わず涙腺が緩みそうになる。良い奴だ。

 

 幼少期からこのデッキを使い続けてきたせいで、周りからは悪魔やら言われたり、変な奴らに絡まれた事もあった。

 だが、俺にとってはこのデッキは唯一無二の相棒だ。

 他のカードテーマに浮気するという事は考えられない。

 もし他のカードテーマを使う事になっても、ゲームで熱くなることはできないだろう。

 

 そして何より、こいつらには命も助けられたこともあったしな。

 

「なーなー! お前も今度出るパック買うか?」

 

「ああ、あの【花勇者】テーマが入ってるパックか。それだけじゃなくて汎用除去カードもあるよな」

 

「そうそう! 【花勇者】ばかりが注目されてるけど、【戦隊】強化もあるんだぜ!」

 

「そう言えば【戦隊】にも新しい切り札が追加されるんだったな」

 

「ああ【絆合体レインボーハート】が追加されるんだ。

 絶対に欲しい! お前も買うだろ?」

 

「まぁ……俺の使うデッキは変わんないけどコレクションはしてるしな~」

 

 俺は【ソロモン七十二柱】一筋だが、それはそれとしてコレクション目的でパックは買ってるしな。

 後、たまにパックで買ったカードにもカードの精霊が混じってたりするんだよな~。

 俺の所に精霊として来る奴らはやたらといかついやつらばかりで女っ気もクソも無いが。

 

「……ところで、一つ聞いて良いか?」

 

「皆まで言うな、お前の言いたいことは分かる。

 鉄火、奴と目を合わせるな。

 俺の経験上、あの手の奴と話したら面倒ごとに間違いなく巻き込まれる」

 

「お、おう……随分実感が籠ってるな」

 

 さっきから感じてる視線の方へと、できる限り相手に気が付かれないように視線を向ける。

 そこには女子用制服をゴスロリ風に改造して、腕や脚に包帯を巻きつけてる見るからにヤバい奴がいた。

 あれはヤバい、目にはハイライトもないし。

 

 こういう露骨に怪しい奴は落とせよとは思った、が!

 冷静に考えたら俺も人の事は言えない気がするしそこを突くのはよくなさそうだな!

 

 身長は150センチほど、座ってる姿はゴスロリ風衣装も相まって西洋人形のように見える。

 今から入学式へと向かってるバスの中であるという事を無視すれば目が奪われてしまいそうになる美しさではあるな、うん。

 

 あ、目と目が合っちまった。

 にたぁ……と彼女が笑みを浮かべる。

 ちょっと額に汗が浮かんだが、見た目で判断するのはよくないな。

 

 俺だって見た目で判断されたら嫌だし。

 

「貴方が我々が仕えるべき主様ですね

 ああ、私と目を合わせてくれるなんて!

 闇の主の加護を感じます♡」

 

 前言撤回、見た目に違わないヤバい奴だったわ。

 

 

 

 

 

 入学式は特に何も起こらずに終わった。

 因みに俺が入るのは【デモン】寮。

 恐れていた事態が起きてしまったが、まぁ仕方あるまい。

 素行と成績がよかったら別の寮に移る事も出来るしな。

 

「鉄火、お前入学式で居眠りする奴なんて初めて見たぞ」

 

「だって学長の話長げぇもん。メンズーアプレイヤー養成施設なんだからさっさとメンズーアさせろっての」

 

「話が長かったのには同意だな」

 

 校舎から遠く離れた森の中にある洋館へと足を運び、そこのミーティングルームに案内された。

 下手したら三年間過ごすことになるであろう【デモン】寮、噂通りかなり趣ある建物だ。

 

 と言うよりボロボロと言い換えて良いかもしれない。

 雨漏りの跡が至る所にあるし。

 

「えー、ここに集められたのは問題児ばかりだ。座学の点数が低くてメンズーアだけ強いやつ、中学時代素行不良だったやつ、後はその他問題があるやつ」

 

 開口一番、寮監からの説明でそんな言葉が飛び出してきた。

 問題児ばかり、問題児ばかりかぁ……もしかして俺も問題児カウントなんだろうか? 俺が呪われてるとされるデッキを使ってるからか?

 

「だがまぁ、このメンズーアアカデミアに入学したからには君達はこのアカデミアの生徒だ。

 よろしく頼むよ。

 では、この場所についての絶対に守ってほしいルールを説明しよう。

 まず一つ目、夜中の三時から五時の間に館の通路を歩く時は一人で必ず歩かないようにする。

 二つ目――」

 

「お、おい、惡都、もしかしてこの館マジでヤバい所なんじゃないのか?」

 

「奇遇だな鉄火、俺も猛烈に嫌な予感がしてきたぞ」

 

 館の敷地内にある地蔵とは必ず目を合わせてはいけないやら、敷地内にある祠を壊してはいけないやら、館の屋根裏部屋は禁足地やら、因習村もビックリなルールの数々が並べられた。

 カードの精霊が悪さをして人が居なくなるという事は結構よくある話だが、もしかしたらこの館も邪悪な精霊の悪意が蠢いてるのかもしれない。

 

「あ、朝食は六時から七時半までは食堂で食べられるので忘れないようにしろよ。

 夕食は十八時から十九時半までだな。

 食事については俺の趣味で他の寮には負けないからそこは安心しろ」

 

 食事の質は良いと聞いたが、はっきり言って不安すぎる。

 なるべく早く成績を認められて【サンクチュアリ】寮を目指そうと改めて決意した。

 

 寮監からの説明が終わって、食事楽しみだな~と呑気な事言ってる鉄火と共に自室へと向かおうと椅子から立ち上がる。

 

 ミーティングルームから出ようとした俺達の前にあのゴスロリ少女が立ちふさがった。

 

「あの、私……朽木 堕天と申します!」

 

「お、おう、堕天さんか。こいつに何か用か?」

 

「多分俺じゃなくて、惡都に用事があるんだと思うぞ」

 

「そっかー」

 

 ハイライトの無い目で俺の事をじーっ、と見つめてるゴスロリ少女もとい、堕天さんは見惚れてしまいそうになるほどの満面の笑みを浮かべて、俺に跪いた。

 

 悪の組織の連中に選ばれし者やら御神体やらと言われて跪かれた経験が何度かある。世界を幼馴染と共に救ったり、世界の終焉を企む輩と戦ったり、その度にだ。

 

 まぁ何が言いたいかと言うと、堕天が跪いた時点で嫌な予感しかしないという事だ。

 

 足早に跪いた彼女を無視して去ろうとするが、俺の足に彼女は縋り付いてきた。

 

「お待ちください! 我が主! 悪魔王バェルの生まれ変わりよ! どうか、どうか、私の話を最後まで聞いてください!」

 

「誰が悪魔王の生まれ変わりだよ!?」

 

 俺には前世の記憶があるが、前世はしがないカードゲーム好きのサラリーマンだったぞ。

 悪魔王として世界を恐怖のどん底へと叩き落したような記憶もないし、今回の人生でも至って普通の、ちょっとメンズーアが強いだけの人間なつもりだ。

 

「私は悪魔王バェルに仕える忠実なる神官です! どうか、どうか我々を導いて! この欺瞞に満ちた世界を打ち砕き、我々をお導きください!」

 

「ふざけんなっ、やめろっ、バカっ! 少なくともここでやるなっ! 他の奴らも見てるだろっ!?」

 

 やっぱりあの噂本当だったんだ……。やば……。先生全員でこのメンズーアプレイヤーを逮捕しろ。

 

 などなどの会話がミーティングルームを去ろうとした同級生から聞こえる。

 

 いや違う、いや本当に! 俺は普通の人間だから! 別に悪魔王の生まれ変わりとかじゃないから!

 

「ええい! 違う! 俺は悪魔王の生まれ変わりなどではないっ! ただの人間の塩柱 惡都だ!」

 

「その名、そしてその姿は仮の姿! 世を忍ぶ姿でしかないという事は重々承知しております! ですが、貴方をお連れしなければなりません!」

 

「ふざけんなっ! アカデミアに入ったばかりなのに誰がお前らの所に行くんだよ!?」

 

「まぁ……! 貴方様はこの光のメンズーアプレイヤーの牙城であるこの場所を征服するおつもりなんですね!? 私、感服しました!」

 

「違うわ! 論理飛躍しすぎだろっ」

 

「マジかよ惡都! お前悪魔王の生まれ変わりなんだな! 

 へへっ、ワクワクしてきたぜ! 俺と後でメンズーアしろっ」

 

「やめろっ! 鉄火! 話をややこしくするなっ」

 

 入学初日は俺が悪魔王の生まれ変わりであるという噂がアカデミア中に広まるという結果で終わる事になった。

 アカデミアデビューは盛大に失敗したのである。

 

 

 

 

 アカデミアでの授業はメンズーアの実技が重視されている。

 だが、それと同じぐらい座学の方にも力が入れられている。

 

 例えば美術の授業ではデッサンをまず最初に学ばされるし、卒業制作の一つで新しいモンスターのデザインを考えるというものがある。

 後はホログラムプログラミングの技能も求められるし、学ぶことは沢山あるのだ。

 

 プロのメンズーアプレイヤーとして食っていけるのはごく一部のみ。

 それ以外の卒業生は大抵はメンズーア関連の業種に就くことになる。

 

 後は裏社会のメンズーアプレイヤーとして用心棒として雇われたりだな。

 

 肘で大胆に居眠りしている鉄火の腕を突く。まだ寝てる。

 俺にノートを見せてくれる奴は居なくて、唯一仲のいい鉄火もこの調子だから自分でノートを取るしかない。

 と言うより俺が鉄火にノートを見せてる。

 

 こいつメンズーアは強いのに座学は本当にダメだな。

 

 そろそろ昼休みになるのにまだ目を覚まさない鉄火にジト目を送った後に、ぐぅ、と鳴って急かす胃袋を満たすために購買へと向かおうとした所だった。

 あの少女が声をかけてきたのは。

 

「悪魔王様! お弁当を作ってきました!」

 

「あー……ありがとう……」

 

 お弁当を差し出してきた堕天。

 その好意を無下にするのはどうかと思い、受け取る。

 

「……よかったら一緒にどうだ? 食事」

 

「まぁ、いいんですか!? ふふ、悪魔王様にお誘い頂けるなんて光栄です!」

 

「悪魔王じゃないって言ってるのにな」

 

 俺の隣に座った彼女へと視線を向けつつ、お弁当を広げる。

 お弁当の中身はタコさんウィンナーに卵焼き、そしてお弁当を緑色に彩るブロッコリー。

 後は小さなエビフライに、綺麗に三角形に作られたおにぎり。

 

 うん、普通のお弁当だ。意外と女子力が高いな、この子は。

 

「しかし、悪魔王様。

 貴方様の力ならば世界を統べることができるというのに、普通の学生の身に甘んじているのですか?」

 

「俺は今までの人生経験から、普通が一番だと信じてるからだよ」

 

 確かに俺に目を付けた悪の組織が神輿として担ごうとした事は一度や二度じゃない。

 俺の幼馴染と共に、世界の危機相手に挑んだこともある。

 

 でもその度に、カードゲームと言う本来なら楽しむために存在してる娯楽で命のやり取りにまで発展した。

 カードゲームで命のやり取りにまで行くのはどうなんだよ。

 

 そして一番恐ろしいのはカードゲームで死ぬという事がこの世界ではそれなりの頻度で起きてる事だよ。

 

「……貴方様の事は、上から聞いております。

 とても普通が一番だと信じてるような人の経歴ではありませんでしたが」

 

「事件が向こうからやってくるんだよ。

 俺は降りかかってきた火の粉を落としてるに過ぎない」

 

「ではカードの精霊からエネルギーを奪おうとしたインデックス発電グループの事件は?」

 

「……あ、この卵焼き美味いな!」

 

「ふふ、それはよかったです。悪魔王様っ!」

 

 ……無駄に格好つけようとして、結局事件に頭を突っ込んでしまった事もある!

 それについては否定しようがない。

 でも俺の力で何とかできそうな事件だったら首突っ込みたくなるんだよな、うん。

 

 で、事件に首突っ込んだせいで俺の噂に変な尾ひれがついてしまうと。

 ……冷静に考えたら結構自業自得な気がしてきたな。今すぐ生き方を変えるべきか?

 

 無邪気に笑みを浮かべる堕天の方を見ながら、俺は今後の身の振り方を真剣に考えるのだった。

 

 

 

 

 

 

「くっそーっ! やっぱ強いなっ、惡都! 悪魔王の生まれ変わりなだけはあるぜっ」

 

「悪魔王の生まれ変わりって言うのはやめろっ」

 

 【デモン】寮の館は老朽化しているが、それでもプレイスペースは最新鋭のものが揃っている。

 流石はプロのメンズーアプレイヤーを養成する施設だ。

 カードショップでも大手の所に行かないと置かれてないような最新鋭のホログラム発生装置まである。

 

 無料で使えるんだから至れり尽くせりだ。

 

「これで130戦中60勝70敗だな」

 

「やっぱりお前とメンズーアするのは楽しいよ! お前の妨害をいかにして潜り抜けて一撃を叩き込むか! それを考えるのは最高じゃないか?」

 

「お前の理不尽なまでの引きの良さに毎回ビビってるぞ」

 

 鉄火は強い! いや本当に強い。

 今まで大きな大会には縁が無かったらしいが、それでも彼の豪運には何度も舌を巻いた。

 恐らくはカードの精霊に愛されてる性質のメンズーアプレイヤーなんだろう。

 重要な局面では必ず必要なカードを引ける特異体質の持ち主だ。

 

 俺のデッキの醜悪なる悪魔たちがなんど戦隊ヒーローの悪役のように爆散させられたことやら。

 

「流石は悪魔王様です! 見事な勝利でしたね!」

 

「だから悪魔王じゃねぇって言ってるだろぉ!?」

 

 俺と鉄火のメンズーアを見ていた堕天が近づいてきた。

 相変わらず目の光は無いが、その表情は俺への心酔で固まってるように見えた。

 

 こわ。

 

「……ん? その頬の痣はどうしたんだ?」

 

「……ええっと、転んだんです!」

 

 頬に痛々しい紫色の跡を見つけてしまう。

 その事を指摘すると、転んだと言った後に、少し目を泳がせた後にその場から去っていった。

 

 ……彼女が転んだと言うのならばそうかもしれないが、ちょっと気になるな。

 

「しっかし、惡都は強いのに俺以外とメンズーアしてるところは見た事ねぇな」

 

「俺とメンズーアした奴は勇者以外は呪われるんだとよ」

 

 誰だよそんな噂流したやつ……。

 俺は今まで数えきれないほど、地元のカードショップや中学でメンズーアしてきた。

 だが不慮の事故にあって死んだやつなんて殆どいないぞ。

 

「へへん、じゃあ俺は勇者って事だな!」

 

 実際、鉄火は勇者の素質があると言って良いだろう。

 カードゲームで世界を救う奴ってこういう奴の事を言うのかもしれない。

 俺の幼馴染やライバルにも似たようなやつが居たしな。

 

 俺も世界の命運を賭けたメンズーアに何度か参加してきた、が、俺の活躍を知る奴は少ない。

 

 除外妨害デッキを握ってる奴はエンタメ的にも面白くないのだろう。

 

 

 

 

 

「この森の中で夜な夜な誰かの悲鳴が聞こえてくるって噂があるらしいぜ」

 

「で、その声の主が何なのか確かめるために俺を連れてきたのか」

 

「カードの精霊がいじめられてたりするかもしれないだろ? お前のこと信用してるのさ」

 

 鉄火も勇者の素質があるのだろう。カードの精霊を見れる体質だった。

 だからこそ、俺と話が合ったんだろうな。

 カードの精霊あるあるで盛り上がれたし。

 

「まぁ、世の中には確かにカードの精霊をいじめる輩は居るな」

 

 懐中電灯を握りしめて、森へと続く獣道を照らし足を踏み進める。

 

 精霊からエネルギーを絞るために虐待してる悪の結社を中学時代は仲間と共にぶちのめした事もあったな。

 後は精霊を奴隷のように扱ってる連中を襲撃した事もあった。そいつらの組織は崩壊してそれなりに大きな話題になったが、首謀者が俺であるとはまだバレてない。

 

「そいつらの事はお前も気に入らねぇだろ~?」

 

「と言うより、抵抗する力を持たない奴から搾取する奴が気に食わん。

 後それと偉くもないのに偉そうにしてる奴もな」

 

「はは、奇遇だな!」

 

 懐中電灯で地面を照らすと、足跡があった。

 足跡として残された靴底の形状的に、うちの学校の女生徒だろうか?

 

 進行方向上に気配を感じる。何かいるな。 

 鉄火に息を潜めるように目配せして、俺も同じように茂みの中に隠れて様子を伺う。

 

「貴様、何故命令に従わない!? さっさとあのお方を強引な手段を使ってでもお連れしろと言ってるだろう!?」

 

 怒鳴っている男は……用務員か。

 その周辺にいるのは、アカデミアの警備員。

 用務員に従ってる様子から察するに、奴の部下なのだろう。

 

「しかし……強引に連れて行っても、あのお方の本意では無いのでは?」

 

「本意でなくても構わん! 強引にあのお方を儀式によって目覚めさせる! だというのに! 貴様は! 命令を無視して! この役立たずがっ」

 

 用務員の拳が、女生徒の腹部に突き刺さる。

 苦し気な声が彼女の口から溢れて、宙を僅かに舞ってその場に崩れ落ちた。

 木々から月明かりが差し込み、彼女の整った容姿を映し出す。

 

 地面に横たわり、げほっ、げほっ、と咳き込んでいる堕天の姿がそこにあった。

 

 これだから嫌なんだ。

 俺を悪魔の生まれ変わりやら闇の主やら持ち上げる連中は。

 偉そうな癖に大して偉くもない、その上にやたらと高圧的で人を傷つける事にも躊躇は無い。

 

「行くんだろ? 惡都」

 

「すまないな、お前の事巻き込んじまう」

 

「へへ、構わねぇよ! 警備員は俺が抑える! お前はあいつを頼むぞっ」

 

 茂みから鉄火と共に飛び出し、倒れ込んだ堕天の横腹に蹴りを入れようとしていた用務員の足元にカードを投擲する。

 彼の足元に突き刺さったカードは【闇の聖騎士エリゴス】。

 相手の動きが止まった。

 

 あ、投擲したカードの精霊から睨まれた。後で手入れするから許せ。

 

「何者だ!?」

 

 と、相手の怯えた声が聞こえ、周囲を警備員に固めさせる。

 その警備員に鉄火は怯まずに向かっていってアッパーカットを食らわせた。

 なんであの手の熱血メンズーアプレイヤーはリアルファイトも強いんだろうな。

 

 殴り飛ばされた警備員が鉄火を取り囲むようにデッキを構える。三対一だが、鉄火なら遅れは取らないだろう。

 

「お前らが悪魔王の生まれ変わりだと崇めてる人だよ」

 

「くっ!? 何故ここに!?」

 

「そんな事はどうだって良いだろ? 俺とメンズーアしろよ」

 

 用務員は嘲りを含んだ笑みを浮かべる。

 こんな若造に負ける訳はないだろうと言う笑みだ。

 出てきた奴が標的で、鴨がネギしょってやってきたようにしか見えないらしい。

 

「良いだろう、だが儂が勝てば貴様には来てもらうぞ!」

 

「ほぅ、じゃあ俺が勝てばこの女は連れて行って良いんだな?」

 

 相手がデッキを構える。

 メンズーアは本来はホログラム発生装置が無ければカードを具現化させることはできない。

 だが、カードの精霊を見る力を持つ者が扱えば話は別だ。

 

 カードを具現化させ、戦わせることができる。

 というより、この精霊を具現化できる力を現代科学で再現したのがホログラム発生装置なのかもしれない。

 

「下がっていろ、堕天」

 

「……悪魔王、様……」

 

「今この瞬間は、君だけの悪魔王になってやるよ」

 

 我ながらキザな台詞だが、彼女の光を宿して無かった瞳が揺れ動いた。

 こくり、と頷いて彼女は去っていく。

 

「ふん。随分とキザな言い回しをするんだな。器よ」

 

「人の事を器とか物扱いする奴に話す言葉はもうない」

 

「そうだな、言葉はもう不要だ」

 

 相手の目を見据える。

 デッキを構える。

 

「「バトル・メンズーア!」」

 

 月明かりがメンズーアプレイヤー達を照らし出した。

 

 一進一退の死闘。相手のデッキはこちらと同じ【ソロモン七十二柱】。

 お互いの手の内は知り尽くされている。

 

 お互いの除外ゾーンは第二の手札となり、互いが操る悪魔同士が具現化し、月明かりに照らされた森の中で殴り合う。

 ある者は炎の槍に盾ごと貫かれて砕け散り、また炎の槍を持つ悪魔は色欲の悪魔に誘われて堕落する。

 ライフポイントというリソースが削られ、手札も消耗させられる。

 

 偉そうにしてるだけの実力は確かにあった。そう認めざるを得ない。

 

「中々やるな、小僧……だが、既に大勢は決した!」

 

 俺の場には伏せているトリックカードが1枚。

 それ以外はがら空き、手札は残り2枚。

 

 それに対して相手の盤面は盤石と言えた。

 

 【魔神ベレト】、【堕天魔神パイモン】、【死を奏でる旋律プルソン】、【魔王参謀バラム】、【獅子王ヴィネ】。

 ソウルの補充を阻止し、毎ターン1000ポイントのダメージを与え、更にはデッキからのカードサーチを防ぐ強敵が相手の場に揃っている。

 更には相手は【魔王参謀バラム】によって毎ターンに1度、除外しているカードを1枚山札に戻すことで1枚ドローできる。

 そしてトドメに【獅子王ヴィネ】は完璧に近い耐性を持っており、破壊する事もできない。更には1ターンに1回限定だが好きなタイミングでカードの効果を無効化することができる。

 

 少なくとも【獅子王ヴィネ】の効果をどうにかしない限りは、この盤面を覆すことは困難だな。

 ――それについてはもう布石は打っている。まぁある程度賭けになるが。

 

 ライフの差も深刻だ。相手は5000点残ってるのに対して、こちらは残り100点。

 

 モンスターを召喚するために必要なソウルだけはお互いに14と、拮抗してるように見えたが、勝敗は誰の目にも明らかだ。

 さてはて、相手は隙が無い。

 戦って確信したが、相手は臆病な性格らしい。

 

 その上、絶対的に優位な盤面を築く事で自分を誇張して見せようとしている。

 まぁガッチガッチに固められた盤面は脅威の一言だ、だが――。

 

 諦めることはない。

 

 何故ならば、俺はメンズーアプレイヤーだからだ。

 

 勝負は最後の瞬間まで分からない。

 そこで絶望した表情で俯いてる少女よ、しっかりと目に焼き付けろよ。

 

 メンズーアプレイヤーは、逆境にこそ本当の意味で人を魅了する輝きを放つのだと。

 

 苦楽を共にしてきた、デッキを信じる。

 デッキトップに触れる。

 ……【オロバス】の流石は我らのマスター、という言葉と共に高笑いが聞こえた気がする。

 

 悪魔の笑い声か。

 俺にとっては福音だ。

 

「俺のターン。ドロー」

 

 目を瞑った後に、カードを一枚引く。

 

 ――勝利の女神と言うのは気まぐれで、残酷なものだ。

 相手のこれまでの優勢は、絶望へと叩き落すための前振りでしか無かったのだろう。

 

「ドローフェイズ。ソウルを3消費し、伏せていたトリックカードを発動【悪魔契約:序】! 手札を1枚除外し、俺はデッキから【悪魔】、もしくは【魔神】と名のついたカードを1枚手札に加える!」

 

「させるか! 【獅子王ヴィネ】の効果発動! そのカードの効果を無効化する!」

 

 【獅子王ヴィネ】の雄たけびを受けて、禍々しい悪魔との契約書は吹き飛ばされてしまう。

 手札を1枚消費した挙句、伏せていたカードは無効化されてしまった。

 

 相手が逆転の目が潰えたと確信するかのような笑みを浮かべる。

 

 ……にやり、と笑みを浮かべる。思わず笑ってしまった。

 

「……何がおかしい?」

 

 笑ってしまうだろう。

 お前の一手は、俺の勝ちを確定させるための手なんだから。

 

「メインターン。俺は手札よりソウルを5つ消費し、【悪魔王降臨】を発動! このカードは除外ゾーンに存在するカードを全て墓地に戻し、サブデッキより1枚モンスターを選び、召喚条件を無視して召喚することができる! ただし、このターン中は他のモンスターを召喚することはできない」

 

「――!? しまった! 【獅子王ヴィネ】の効果が使えない!?

 さっきの【悪魔契約:序】はブラフ……!?」

 

「その通り

 臆病なお前の性格が災いしたな。本命はこっちだっての」

 

 サブデッキに置かれたカードから一枚引き、相手に見せつける。

 切り札の中の切り札、本当に負けられない戦いでしか見せない、正真正銘の奥の手!

 

「――降臨せよ【悪魔王バェル】!」

 

 月明かりを覆い隠すかのように暗雲が空を包む。

 その暗雲から雷鳴が響き、悪魔を統べる魔王がその姿を現す。

 

 創世神話においては光の神と交戦した末に敗れ封印された、強き敗北者。

 それを模したカードが、精霊として実体化して格で言えば自らと同等の力を持つであろう魔神と向かい合う。

 

「なっ……!? 何故貴様の手にそのカードが!?」

 

「さぁな? 縁があったというべきだろう

【悪魔王バェル】の第一の効果を発動!

墓地に存在する全てのカードを除外し、その除外したモンスターカードの枚数だけ攻撃力が800ポイント上昇する!

更に除外したモンスターカードの枚数分、攻撃回数が増える!」

 

「なにっ!? ま、まさか!?」

 

「俺が除外したモンスターカードは15枚! 攻撃力12000!」

 

 悪魔を統べる魔王の体に、除外することによって生贄にしたモンスターの力が集まる。

 その禍々しい体からは血のようなオーラが立ち込める。

 

 貴様の死神だ。

 

「バトル。全モンスターに攻撃。

 その後は獅子王ヴィネに11連打!」

 

 魔王が唸る。

 その両手に全ての欺瞞を打ち砕く稲妻が収束する。

 敵対者を威圧するかのように、バチバチと放電音が鳴り響いた。

 暗雲を切り裂くかのような雷光が魔王の威光を示す。

 

 地平を穿つかのように放たれた雷撃は、巨大な防壁のように見えた悪魔たちをなぎ倒し、いたぶるかのように【獅子王ヴィネ】に雷撃が集中する。

 

 逃げ場のない集中砲火を浴びせられ、用務員のライフは一気に0まで削り切られる。

 しかしながらも追撃は止まらない、ヴィネの攻撃力を上回った分だけライフを失った用務員に更に追撃が加えられていく。

 

 勝敗は決した。

 

「ひ、ひぃぃぃっ!? あ、悪魔王様の怒りを買った……!

儂はもうおしまいだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」

 

 錯乱した様子で相手が逃げ去るのを見送りつつ、追いかけることはしない。

 鉄火が戦っていた警備員たちも錯乱した彼を追いかけて逃げ去っていく。

 

「まさかお前があんな切り札を持ってたなんてな!

すっごいなっ、俺とのメンズーアでもそのカード使ってくれよ」

 

「そうしたいのは山々だが、本当にヤバい時にしか使わない切り札だって決めてるんだ」

 

 恐らくこのカードはかなりヤバいカードだしな。

 精霊が宿ってるのは確かなんだが、こいつとだけは俺は会話した事が無い。

 何考えてるのか分からんカードが一番怖いわ。

 

「あー……勢いのままやっちまったけど、大丈夫か?」

 

 今までの光景を目の当たりにして呆然としていた少女へと手を差し伸べる。

 少しの逡巡の後に、こちらの手を少女は掴んで、ゆっくりと立ち上がった。

 

「……悪魔王、様」

 

「厳密に言えば俺は悪魔王じゃないけど……」

 

「……私は、もう教団には居られなくなりました」

 

「それについてはすまん」

 

 後先考えない行動だったかもしれねぇ。

 

「ですので、これからは【教団】に仕えるのではなく、貴方にだけ仕えさせてください。

悪魔王様」

 

「それはちょっと……お前の人生なんだから好きに生きればいいんじゃないのか?」

 

「はぁ? それはおかしいだろ惡都。

この子、多分【教団】以外に行き場所は無かったんだぜ?

お前それを助け出した後はご自由にって投げ出すのか?」

 

 鉄火の指摘に俺はククク、と返すしか無かった。

 

「……分かったよ、俺に仕えていいぞ。

 君に返せるものは少ないだろうがな」

 

「ありがとうございますっ、悪魔王様! 

 それと、鉄火様も口添えしていただいてありがとうございますっ」

 

「ただし! 人前では悪魔王なんて呼ぶな! 

 俺には塩柱 惡都って名前があるんだしな!」

 

「はい、これからは惡都様と呼ばせて貰います!」

 

 ……ノリと勢いで悪そうなやつをぶちのめしちまったけどこれ結局俺がヤバい奴だって噂が広がるだけじゃないのか?

 

 

 

 

 

 結局、堕天は俺に仕えるようになった。

 おはようからおやすみまで、俺の部屋で密着してすべて面倒見ようとしたのはドン引きした。

 

 まぁ何とか説得して、そこまでは辞めてもらえるようにしたんだが、美少女を侍らせて世話させてるヤバい奴だという噂が広がった! いやまぁ事実ではあるけど!

 

「なんとなーく納得いかねぇ」

 

「いいじゃないか惡都! こんなに可愛い女の子に密着されて世話までされてるんだからよっ」

 

「そうですよ! 惡都様! 

【教団】内では私はその容姿から次の生贄確定だと言われてたんですから!」

 

「堕天の方は絶妙に笑えねぇジョーク!」

 

 鉄火だけじゃなくて堕天と共に無駄に長い校舎までの道を歩く。

 いや本当に無駄に長い、途中に坂やらいろいろあるし。

 

「まだ入学して一か月も経ってないのにそこそこ大きな事件が起きたしこれから先心配なんだけど」

 

「そう言えばあの用務員の連中、後でメンズーアポリスに逮捕されたらしいな」

 

「俺にも事情聴取に来てたし知ってるよ」

 

 因みにメンズーアポリスの人達とは顔見知りだ。

 俺が事件に関わってると知ったらまたですかって対応もされた。

 事件がある場所に俺が居るような扱い! いやまぁ事実だから仕方ないんだけど。

 

「で、堕天は保護観察処分になったと」

 

「はい、鉄火様。

惡都様がポリスの連中と顔見知りでよかったです。

スムーズに惡都様が身元保証人になって貰いましたから。

そのお陰で私は惡都様にお仕えできるわけです」

 

 彼女が仕えていた【教団】と呼ばれる勢力の全貌は、発狂した用務員から聞き出すことはできなかった。

 そして下っ端でしか無かった堕天と、警備員の連中も何も知らなかったせいで捜査は手詰まりだ。

 

 俺の経験上、この手の事件には警察は役に立たなくて在野のメンズーアプレイヤーが何とかすることになるんだよな。

 

「……ま、次【教団】の連中がちょっかいかけてきたとしても何とかしてやるよ」

 

 折角アカデミアに入学して親しい人もできたんだしな。

 俺の日常を脅かす奴はぶちのめしてやる。

 

「へへ、その意気だぜ! 惡都! 

流石は悪魔王の生まれ変わり!」

 

「【教団】という欺瞞を打ち砕くその精神性! 

正しく悪魔王様です!」

 

「やめろっ、俺を悪魔王の生まれ変わりと呼ぶな!

ただでさえアカデミアで変な噂流れてるのに!」

 

 俺はどうやら噂では悪魔王の生まれ変わりであると断定されてるらしい。

 その上でこの学園に入学したのは、自分を倒し得る勇者の素質を持つメンズーアプレイヤーを潰すためであると。

 

 誰だよこの噂流したの!?

 

 カードアニメ世界で悪魔王の生まれ変わりだと勘違いされてる!

 

 俺は普通の人間だってのにな。




評判によっては続編作ったり続編作らなかったりします。

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