この世界の地理ですが、アニメ映画版がベースなのでYouTubeなので解説して下さっている方の動画を参考にしています。なので、漫画版とは全くの別の地理です。
(タグを追加しました)
海の上。ここから吹く風が、谷を腐海の胞子から護ってくれている。
今、私の目の前にいるのは海面から上半身をぬっと現した大型呪霊。しかしその割には強い気配は無く、どうやら見かけ倒しの呪霊のようだ。
「"──闇より出でて闇より黒く、その穢れを禊ぎ祓え"」
早速私は呪霊とその周辺に黒いドーム状の結界、"
私は基本的に呪霊を祓う時は夜に行う事が多い。何故なら私が降ろす帷には、私が術式に組んだ"縛り"の影響が出ているからだ。
帷の中の様子を隠す事はできるが、そのかわり
そのせいで前世では任務の時は、帷をいつも補助監督に任せていた。当然だが、今世では私以外に帷を降ろしてくれる人は居ない。
だから私は、よほど危険度の高い呪霊でも無い限りは極力夜に行く事にしている。それに移動にも式神を使ったりする事が多いし、どちらにせよ昼間よりも夜の方が都合が良い。
「……さて、手短に済ませよう」
私は自身の術式を使って今乗っているオニヤンマ以外にも"大きな虫の式神"を召喚させた。目立つオレンジ色と黒の縞模様、大顎と鋭く恐ろしい毒針を持つ虫。
そう、昆虫界最強の虫にて私が最も信頼している式神『オオスズメバチ』である。
それを5匹ほど虚空から生み出した。"ブォォン"という恐ろしい羽音が海の上で響き渡る。本来のサイズでさえ、その羽音は大きく恐怖感を煽るものなのに対し、今のサイズは人間と同じ大きさで召喚している。その羽音は何倍にも膨れ上がっており、よりプレッシャーが増している。
「──『
──ブォォォンッ!!
私の指示を皮切りに5匹のオオスズメバチが一斉に呪霊へ飛びかかった。オオスズメバチの強靭なアゴが呪霊の身体に噛みつき肉を喰い千切る。鋭利な毒針がその身体にブスリと突き刺す。
『……アァ■ァ、ヴァ■ァァァ──ッ!! 』
痛みを感じているのか、
帷が上がり、星空が再び目の前に広がる。
「終わったか、呆気なかったな。……ん?」
これで終わりと思っていた矢先に哨戒用に出していた巨大なハエが私の目の前に現れた。早速そのハエに触れて情報を共有していく。……あぁ、なるほど。今度は此処とは谷を挟んで反対側にある『酸の海』付近の砂漠に湧いたんだね。
「数は……。あぁ、うん"群"ね。4級の雑魚がワラワラと湧いたのか。仕方ない、もう一仕事してから帰るか……」
4級だからって放っておく訳にも行かないしね。私はそう愚痴るとオニヤンマに指示を出し、酸の海へ向かった。
この時既に、
風の谷の北側に存在する『酸の海』。海と名付けられているが、その正体は強い酸性の廃水で出来た約20リーグ(約100km)の大きさを誇る危険な"湖"だ。広大な砂漠にポッカリと存在する酸の海のほとり、その付近に4級呪霊の群が湧いたのだ。
「ここか。うわ、キモいぐらい湧いてるな──」
現場に到着したライはオニヤンマから降りて再び帷を降ろした後、早速虫を生み出した。『クロオオアリ』を群で呼び出し突撃させるライ。
魑魅魍魎の呪霊達がライの存在に気づき、襲いかかる。アリと呪霊の大群が砂を巻き上げながらぶつかり合う。
「……ちょっと多いな。私も出るか」
ライも手に持ったセラミック刀を引き抜き、まるで青い炎の様に揺らめく呪力をその刃に纏わせ込める。そして迫り来る呪霊を斬って行く。
「……フッ! ハァ!」
呪霊の攻撃を一切の無駄が無い、洗練された動きで躱しながら次々と斬る。紫の血飛沫が砂漠に撒き散らされる。
『ギィヤァァァァッ! 』
「……ッ!」
その時、一体の呪霊がライに飛びかかった。腕を広げ、彼女の身体をズタズタに引き裂こうと鋭利な爪を伸ばして襲いかかる。
しかしライは慌てること無く剣を逆手に持ち替え、飛びかかる呪霊に向かって振り上げた。
「
振り回される呪霊の爪に対し体を捻らせながら躱し、その勢いで両腕を切り落とす。そして胴体を幾重にも斬り刻み、最後にその
──バシュッ!!
「──『
その後、刎ね飛ばされた頭部は式神のアリにそのまま喰われてしまった。
『
それは相模家に伝わる剣術で、全ての技名に虫の名が冠されている。
相伝の術式である
お世辞にも強いとは言えない術式だった。その上、術式の発現自体が非常に稀であるため、歴代の使い手の中でもこの術式を使いこなせた者はほんの少ししか居なかった。
その事から、術式無しでも戦える様に編み出された剣術が『相模流戦蟲剣技』である。これまでの相模家当主達も基本的にこの剣術を使って今まで戦ってきた。
そしてそれは縛りを組む事で万蟲術式を強化し使いこなしたライ─相模来夏もまたこの相模流戦蟲剣技を修めている。
閑話休題──。
全ての呪霊群が彼女とクロオオアリの群によって祓われ、その残穢だけが黒い煙の様になって消えていった。
「今日は此処までかな……、早いとこ帰ろう。明日は朝早くから収穫の手伝いがあるから」
若干、疲れた声で呟きながらセラミック刀を鞘に収める。幾ら日々の鍛錬で鍛えているとはいえ、11歳の身体で夜遅くまで起き、しかも戦闘までしていたら流石に疲労が来る。前世の肉体を少し恋しく思いながらもライは帰路に着くのだった。
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その日の夜、私は夢を見た──。
懐かしい呪術高専の、仲間達の夢を──。
桜が咲き誇る春、皆でお花見をしているんだ。そこには、虎杖に伏黒、そして野薔薇が居て。五条先生や七海さんも参加していて……。真希さんに狗巻先輩、パンダ先輩も──。何故か京都校の
それに、あの"吉野順平"までもそこに居た。
そっか……。
きっと此処は"
そして当然、そこには
でも、そこにいるのは
わかっている……。本来の"私"はもうその世界には存在しない過去の人間だって事を。どれだけ否定しても、その現実は変わらない事を……。
"いつまでも過去に囚われてはいけない"なんて大抵の人ならそう言うだろう、でも──。
"やっぱり寂しいものは寂しいんだ……"。
そして私はこの谷でまた朝を迎える──。
今日も私のやる事は変わらない。大人達の仕事を手伝い、呪術の鍛錬をこなし、そして呪霊を祓う。
──その繰り返し。
きっと私はこの世界の呪いを祓う為だけに、外から組み込まれた『部品』なんだ。それがこの世界で与えられた私の役目だ。
それに、今まで私は多くの呪詛師を誰よりも殺してきた。この両手はとっくに血で染まりきっていて汚れている……。私はこんな暖かい場所に何時までも居て良い人間じゃない。
だからこそ……。私はいつか、この谷から出ていくつもりだ。
でも、それまではこの暖かな場所にもう少しだけ
「いや〜、今日も助かったよ! ライちゃん、いつもありがとうねぇ」
「いえ、私も好きでやっている事なので」
翌朝、私は朝早くから始めた農作物の収穫の他にも様々な仕事を手伝い、時間はすっかり夕暮れになってしまった。我ながら中々のワーカーホリック振りには流石に笑えてくるよ。
「この辺で終わって良いから今日はもうゆっくり休んでね?」
「では、お言葉に甘えて。お疲れ様です」
「はい、お疲れ様」
うん……、今日はもうやる事が無くなってしまった。珍しく式神からの呪霊の発生情報も無し。いつもの鍛錬をしてから家に帰ることにしよう──。
森の中で対呪霊や呪詛師といった対人戦を想定した剣技や体術の訓練をする。そしてそれが終われば今度は呪力の精密操作の練習。これを私は毎日繰り返している。
「ハァ……ハァ……ハァ……」
外はすっかり暗くなり、綺麗な月が夜空を照らす。激しく体を動かし息を切らしながら私は空を見上げた。
「今夜の月は、一段と綺麗だな……」
こればかりは前世と変わらない。この世界で数少ない好きな光景の一つだ。
どうせ誰も居ないし、ちょっとだけ式神を出して戯れようかな──。
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あの夜の後、結局ナウシカは眠れなかった。あの時自分が見たのは本当に現実だったのか、それとも
「(昨日見たあの蟲。よく考えてみればあれは大王ヤンマじゃなかった……、姿形がまるで違った……。あんな蟲、一度も腐海で見た事ないわ)」
何よりも、
「ナウシカや、どうかしたのかい……?」
「大丈夫ですかぃ? 姫様? 朝からボーッとして……」
「え? ううん。何でもないわミト、大ババ様!」
ずっと昨日の事を考えていたせいで、ミトや大ババに心配されてしまう。それほど迄に、今のナウシカの脳裏にはあの光景が鮮明に焼き付いていた。
ナウシカにとって、ライは不思議な子だった。彼女は基本的に目立たない様に過ごしており、普通の人ならば印象の薄い子どもとしてあまり記憶には残らないだろう。しかし、ナウシカは寧ろライの事がどうしても気になって目が離せなかった。
そしてあの時、蟲に乗ったライの姿を見たナウシカの中で"ある想い"が強くなった。
"
自分の心の奥底から湧き上がる想い。その純粋な気持ちがナウシカを突き動かす。
そして例えライにどのような秘密があろうと、ナウシカは彼女の抱える孤独に寄り添うと決めていた。
もっとあの子と話がしたい……。
もっとあの子に触れてみたい……。
もっとあの子と心を交わしたい……。
その"想い"を抱きながらナウシカはライを探す。昨日の事を聞く為に──。
しかし、今日に限ってライは色んな仕事を沢山引き受けてしまっており、ナウシカが訪ねる度にライは既に別の所へ行ってしまうといった微妙なすれ違いが、奇跡のようなタイミングで連発してしまった。お陰で、今日は未だに彼女に会えていない……。
外は既に真っ暗になり、月の光が谷を照らす。流石にライも家に帰って休んでいる頃だろう。しかしこの時間に訪ねるのは幾らなんでも彼女に迷惑がかかる。
それに自分もこんな時間まで外にいればミトや父であるジルが心配してしまう。
「(明日また、会いに行こう……)」
そう思いながら、森を歩いていたその時だった。
「……あれは、ライ!?」
彼女はそこでやっとライを見つけた。そして遂に、ナウシカはその目で
彼女の掌や虚空から"蟲"を生み出し戯れているその姿を──。
「(あの蟲達は……!? 何も無いところから蟲を生み出したの!?)」
ナウシカの驚愕をよそに、ライは次々と蟲を生み出していく。"
「(どれも見た事の無い蟲達ばかりだわ……)」
ライが生み出した蟲は、そのどれもが腐海に存在しないものばかりである。それもそのはず、この蟲達は
月灯りに照らされ輝きながら飛び回る虫達に混じり、ライは優美に舞を踊っていた。
谷の民族服の一部である頭の被り物を脱いでいる為、踊るたびに彼女の長い髪が艶やかに
月の優しい光に包まれながら森の中で舞を踊るライ。それはまさに、絵にも描けない様な幻想的な光景がそこに広がっていた。
「なんて綺麗なの……」
そう呟きながら森の中で踊るライに見惚れるナウシカ。森を照らす月灯りも、谷に吹き抜ける風も、そしてライの周りを飛ぶ虫達さえも、今はその全てが彼女の舞台を飾る演出になっていた。
舞を踊り終えたライ。フゥ…と一息つきなら腕を伸ばし、手の甲にスズメバチを留まらせる。そして優しい笑みでスズメバチの頭を撫でるライ。
その横顔は美しく慈愛に満ちた表情で、しかし触れただけで砕け散りそうな弱々しい、そんな儚げのある顔だった。
「……っ!」
そんなライの優しい笑顔を初めて見たナウシカの胸が不意にドキリと高鳴り、彼女の頬が紅く染まる。
「どうしてだろう……、すごく胸がドキドキする……」
自分の胸に手を当てる、どうしようもないくらいに高鳴っていくのを感じる。だがそれは決して不吉な胸騒ぎではなく、どこか心地の良い初めての感覚だった……。
──そうだ、嬉しいんだ私。
ナウシカはどこか孤独を感じていた。谷の人々はこんな自分を慕ってくれている。しかし、それでも腐海や蟲に対しては過剰では無いものの、やはりそれなりの恐怖を感じている。
"私だけなのかな……、蟲達を愛しているのは"。
彼女の脳裏に過るのは、かつて幼少の頃に目の前で王蟲の幼生を取り上げられた記憶──。
"蟲と人は同じ世界には住めないのだよ"
決して蟲を忌み嫌っていた訳では無い。その言葉も今は理解できる。しかし、それでも蟲達と心を交わしたいと思っているのは自分だけなのだろうか……。
彼女の天真爛漫な笑顔の裏には、言い知れぬ孤独感がいつも在った。この世界で、自分だけが変わっている。きっとこの先も、この気持ちを分かち合える人は居ないのかも知れない……。
そんな中、自分と同じ様に蟲を愛でる存在が自分以外にも居たという事をナウシカは知ったのだ。
ナウシカは意を決して、蟲を撫でながら立ち去ろうとしているライに声をかけた。
彼女への"愛おしさ"をその胸に抱きながら──。
「……ライ!」
「……っ!?」
まるで透き通るような澄んだ声が背後から聞こえた。ライの肩がビクリと跳ね上がる。そしてゆっくりとその声の主であるナウシカの方へ振り向いた。
その表情は驚愕と、"見られてしまった"という"絶望"に染まっていた。
「あっ……、えっ……。 姫、様……? なっ、なんで……、ここに……」
隠しきれない動揺に震える声でそう呟くライ。そこには普段の大人びた姿の彼女は無く、隠し事がバレて
ナウシカが一歩近づく、ライは一歩後ずさる。また一歩近づく、また一歩後ずさる。
瞬間、全力で走り逃げようとし──。
「待って……!」
ナウシカにその手を掴まれる──。
「驚かせてごめんなさい! でも私、貴方の事が知りたいの……ライ」
「……」
「私ね、嬉しかったの……。私以外にも蟲を愛している子がいるんだって知れて……」
手を掴まれ逃げられないライはただひたすら顔を俯かせる。それでもナウシカは未だ怯えるライの手を優しく握り直し、語りかけ続ける。
「だから怖がらないで……。貴方の孤独、背負っているもの……。私はそれに寄り添いたい……、分かち合いたいの。大丈夫、例え貴方にどんな秘密があっても──」
ゆっくりと顔を上げて振り向くライ。月灯りを反射したナウシカの綺麗な瞳が、ライの琥珀色の瞳を捉える。
「──私は絶対に、ライの味方だからっ……!! 」
「……ッ」
言葉を詰まらせるライ。彼女はこんなにも自分の事をまっすぐに見てくれている。その事実に、思わず熱いものが込み上げそうになる。
「わ、私は……」
「……うん」
「私、にはっ……!」
ゆっくりと、ライはナウシカに自身の"本当の秘密"を打ち明ける事にした。
「私には、"前世の記憶"があります……」
「前、世……?」
「前世の私は、"呪術師"と呼ばれる人間でした……」
「……え」
この日、ナウシカとライにとって最も忘れられない夜となった。後に2人はこの出来事をこう呼ぶ。
"運命の夜"と──。
さて、次回もしっかり書けるかな…。
追記:この作品は読む方によっては「これは解釈違い」と思われる事もあるかもしれません。まぁ作品の好みは人それぞれなので、私も頑張ってしっかり書いていきます(要約:お気に入りがまた1件増えたと思ったら、今度は1件減ってちょっとヘコんだ…)