よし、今回もなんとか書けたぞ〜。
今回は結構ライの語りが多いです。
"私には、"前世の記憶"があります……"。
"前世の私は、"呪術師"と呼ばれる人間でした……"。
「──前の世界では、私は"呪い"の力を使って"呪霊"から人を守る為に戦っていました……」
彼女の口から語られたのは、ナウシカの予想を遥かに上回る真実だった。
「呪術師……? 呪霊……?」
聞き慣れない言葉に思わず戸惑うナウシカ。
「"呪霊"とは、人間の負の感情から漏れ出た呪いが形を成した存在です。そして、"呪いは呪いでしか祓えない"」
「呪い……」
「──呪いの力を持って呪いを祓う……。それが呪術師であり、前世の"私"です……」
ぽつりぽつりと、自身の秘密を話すライ。その声は今だに震え、無感情に徹しているがその実不安そうな怯えた顔をしている。
そして彼女がこれから語るのは、自身の血に塗れた人生。最悪、ナウシカに拒絶されるかも知れない……。それでも覚悟を決め、全てを話す事にした。
「私はずっと昔から続く呪術師の家系の出身でした。そして、私の家は呪術界において特殊な立ち位置にありました……。それは──」
ライは深く息を吸いナウシカの目をしっかりと見つめ、その全てを語った。
「──"呪詛師"と呼ばれる呪術を悪用する者達を、積極的に暗殺する一族でもあったんです……」
「暗殺……、それって……!」
「はい、前世の私は10歳の時点で多くの呪詛師達をこの手で殺してきました……」
「……っ!!」
とても悲痛な顔をするナウシカ。目の前の少女が、前世とはいえ10歳の時点でそんな血塗られた人生を送っていた事など誰が想像できただろうか──。
「幼い頃から厳しい訓練に明け暮れ、呪霊を祓い呪詛師を殺し続けて……。気がつけば私の両手は呪いの残穢と血で染まっていました……」
──"呪術師の人生なんて、こんな
それは人生を半ば諦めかけていた
「──だけど、ある日"五条悟"という男と出会って、私の人生は少しだけ変わりました」
「
思い返すのは、彼女が12歳の頃に任務先で偶然出会った男。
『
彼女の心の歪みを一瞬で見抜いた彼は、来夏を自身の庇護下に置く事で、呪術高専への入学までの間は普通の中学生として過ごす事を提案した。
『──いいんですか? 私は別に構いませんけど、そんなこと勝手に決めたら相模家の連中が黙ってませんよ?』
『大丈夫でしょ。もし君んところの家が色々言ってきてもその時は御三家としての権力を使って無理矢理黙らせるからさ』
『……貴方、普段からあくどいって言われません?』
『クックッ! ま、取り敢えずその辺りに関してはこの僕に任せなさい!』
『本当に大丈夫ですか……?』
『フフッ、大丈夫……』
『──僕、最強だから』
結果、"完全な実力至上主義"である相模家は五条悟という"圧倒的強者"の前には何も言えず、来夏は相模家から離れて暮らす事になった。
『……どうして、私なんかの為に手を差し伸べてくれるんですか?』
『──
──"
「そして私は五条先生を介して色んな人と出会いました。その過程で尊敬できる人が2人も出来て……。その後15歳になった私は"呪術高専"という呪いを本格的に学ぶ所へ入りました」
「私を含めて4人しか居なかったけど、共に肩を並べて戦う頼もしい仲間達でした。底抜けに明るい"真っ直ぐな馬鹿"や、無愛想だけど"なんだかんだ仲間想いの不器用な奴"に、最高に格好良い"私の初めての親友"……」
「1年にも満たない日々で辛い事や苦しい事も沢山あったけど、皆と過ごしたあの"時間"は、私にとってかけがえの無い日々でした」
"呪術師の人生も、案外捨てたものじゃない"。
「あの日々の中で、私は確かにそう思い始める様になりました……」
──"あの日"までは……。
2018年10月31日 19時00分──。
呪詛師及び特級呪霊による大規模呪術テロ『渋谷事変』発生。
「"
「惨劇……?」
ナウシカが聞き返す。
「当時、私の世界にある"
「あの中で、大勢の人達が呪霊の犠牲になりました……。私達を
目を瞑れば蘇る苛烈を極めた渋谷での戦い。仲間たちと合流する為に、『
呪詛師の凶刃により倒れた多くの補助監督達を目撃しながらも七海建人と合流。そして、彼に聞かされた最悪の事態──。
「──恩師である五条先生が敵の手により封印されてしまいました……」
現代最強と云われた男の"封印"。それは呪術界、引いてはこの国の終わりでもあった。これまで何とか保ってきた平和は、この事実と共に音を立てて崩れたのだ。
「何とか仲間と合流した私達は、これ以上犠牲を出さない為にこの混乱を引き起こした呪霊の内の一体と交戦。色々有りましたが、何とかその呪霊は祓われました」
実際には、伏黒恵が
「その直後にもう一体の呪霊が現れました……。そいつは先の呪霊とは比べ物にならない程の強さを持っていました……」
そしてライの顔が暗くなる。握り締めている手が震え始める。この"渋谷事変"における彼女の最大のトラウマ。
そして、前世において彼女の最期の記憶でもある。
「……っ」
「ライ……?」
「私の……、尊敬していた仲間2人が……、私の目の前で……、その呪霊に……、焼かれました……っ」
ライの声が震える──。
何も出来なかった。瞬く間にその場にいた者たちが次々と目の前で灼熱の炎に焼かれていった。唯一の救いは"謎の男"によって伏黒恵が外へ飛ばされ、その場に居なかったこと。
本当に一瞬だった……。自分がこの呪術界で尊敬していた七海建人と禪院真希を助けられなかった後悔──。
──"こいつはここで絶対に
「せめて仇を討つために、必死にその呪霊と戦いました……。でも、手も足も出ませんでした……」
「ライ、まさか……」
ナウシカは悟ってしまった。ライはこの戦いの果てに、
「……最後はその呪霊の炎に焼かれて、私の15年の人生は終わりました」
領域展開の押し合いに負け、領域の必中効果から逃れる術は無く、迫る炎を前に彼女が考えていたのは"仲間"の事。炎に身を包まれる中、最後の最後まで彼女は皆の安否を祈りながらこの世を去った……。
「──別に、死ぬ事は怖くなかったです。常に死と隣り合わせで戦う。呪術師とはそういうものです。ただ……」
「残してしまった仲間達の事が、私にとってどうしても心残りなんです……」
2人の間に風が吹き、木々がざわめく。何かを語る事は無く、只々その場を沈黙が支配した。
「ここまでが私の"前世"……、そして──」
「この世界にも、"呪霊"は存在します……。この谷に生まれ変わった私は、今日までずっとこの世界の呪霊を祓い続けてきました……」
「──これが、私の"秘密"です……」
全てを語り終えたライはそう締め括ると、黙って俯きながらその場から立ち去ろうとした。しかし、そんな彼女の手をナウシカは掴んだ。
「……姫様?」
突然の事にナウシカの方へ振り向くライ。そして目を見開いた。
──ナウシカが、泣いていたのだ。
ライの秘密はナウシカの想像を絶するものだった。血と呪いに塗れながら戦い続けた15年。その最期が炎に焼かれながら独りぼっちで死んでいく……。そして生まれ変わった今も、ライはたった独りでこの世界の"呪い"と戦い続けている……。
なんと過酷で哀しい人生か──。そんな彼女の生き様に、ナウシカの胸はキュッと締め付けられた。
「ライ……、話してくれて……ありがとう……。そんな辛い過去を、ずっと独りで……背負って来たんだね……」
「姫様、手を離してください……。さっきも話した通り私の手は汚れているんです……」
しかし、ナウシカは決して手を離さない。彼女のしなやかな両手がライの小さな手を優しく包み込む。そして、ポロポロと涙を流しつつも優しく微笑みながらライに語りかける。
「そんなこと無いわ……! ライ、貴方は誰かの為に今まで頑張って戦ってきた……そうでしょう? 貴方は誰よりも
"この子を決して独りにはさせない"というその思いを胸にライの瞳をしっかりと見つめるナウシカ。
「……だから私はライの事、受け入れるよ」
貴方が背負っているものを、私も一緒に背負う──!
「姫、様……っ」
「ライ、ずっとこの谷を守ってくれてありがとう……!」
────
──────
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──────────
「……だから私はライの事、受け入れるよ」
私は姫様に今まで隠していた前世の事、そして呪術の事全てを告白した。勿論、私がこれまで沢山の呪詛師を殺してきた事も全て話した。
姫様は優しく、全ての命を慈しむ方だ。両手を血で染めてきた私の事など、拒絶されて当然だと思っていた……。
でも、姫様はそんな私の手を握ってくれた。そして受け入れてくれた……。
あぁ……、やっぱりこの人は本当に優しいな……。
──だからこそ、私はこの人から離れなくてはならない……。
呪いに関わった人間がどんな末路を辿るか……。私は嫌と言うほど沢山見てきた。
無知ゆえに呪いと関わり、虎杖の前で惨い最期を遂げた"吉野順平"。八十八橋の肝試しが原因で呪われ、寝たきりになってしまった伏黒の姉である"津美紀"さん。
渋谷での戦いで『
そして、
…………"大切な人"?
──ともかく、他にも呪いに関わってしまった事で悲惨な末路を遂げた多くの非術師達や呪いとの戦いで散っていった術師達を、私はこの目で見てきた。
もう、たくさんだ……。これ以上"呪い"で何かを失うのは……。
もう誰も巻き込みたく無い……。誰も呪いの犠牲にしたくない……。
この数年間、私はずっと準備をしてきた。4級程度のみだが外で湧いた呪霊が谷に入って来られない様に、呪符を作って簡易的な結界も張った。私が居なくなっても誰も気にしないようにずっと皆との距離を取ってきた……。
いつか、この谷から立ち去れる様に──。
それでも、この場所があまりにも暖かく居心地が良くて……。
もう少しだけ、あともう少しだけと思いながらズルズルと此処に居続けてしまった。
──でも、もう
「姫様。こんな私を受け入れてくれて、ありがとう……」
「ええ、ライ! これからも、よろし──」
「そして、ごめんなさい……!」
私はそう言い切り、握ってくれていた手を私は振り払った。そして、私の足元から術式で大量の蝶を生み出した。
様々な色の蝶達が私と姫様の間を遮るように飛び交う。
「ラ、ライ!? 何を──っ!」
「姫様、私は貴方を呪いに巻き込みたく無い……!!」
これが、私の選択……──。
「……だからごめんなさい。私の事はどうか忘れて……」
「待って! ライ!! お願い! 行かないでっ!!」
私を呼び止めようとするナウシカの声が、後ろから聞こえる。それでも私は決して振り返らない。ナウシカが手を伸ばそうとするが、大量の蝶がより一層彼女の視界を遮る。
あぁ……。
貴方の優しさを無下にして、本当にごめんなさい……。
こんな最低な選択しか出来ない私をどうか許して……。
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「姫様、私は貴方を呪いに巻き込みたく無い……!!」
「……だからごめんなさい。私の事はどうか忘れて……」
突然手を振り払われたかと思えば、彼女の足元から沢山の蟲達が私とライの間を遮るかのように現れた。
「待って! ライ!! お願い! 行かないでっ!!」
私はそう叫びながら去ろうとするライの手をもう一度掴もうとした。けれど更に多くの蟲達が私の視界を遮り、伸ばした私の手は空振ってしまった……。
ライが話してくれた自身の"秘密"。それは私の想像を絶するもので、あまりにも辛すぎる過去に私の胸がまるできつく締め付けられる様な感覚だった……。
前世で今のライと同じ歳の頃に"呪い"との過酷な戦いや呪詛師と呼ばれる者たちの暗殺……。
己の心を殺して血塗られた道を歩むしか無かった日々。それでも、頼れる仲間達と出会えて少しづつ変わろうとしていたあの子の前世。だけど、希望になりつつあった日々もある日突然壊された……。
目の前で仲間がやられ、自分もなす術なく打ちのめされて……。
そして、その最期は敵の炎に焼かれながら独りでこの世を去った……。なのにライはその瞬間まで残した仲間達の事を考えていた。
こんなの……、こんなの悲しすぎる……っ!!
ライは、それを今までずっと独りで背負い続けてきた──。
この平和な"風の谷"に生まれ変わっても今だに呪霊との戦いを宿命づけられている。
だから、せめてあの子の背負ってきたもの……。少しでも良いから分かち合いたかった。きっと自分にはこれぐらいの事しかしてあげられないから……。なのに……!
それなのに……っ!!
あの子はそれでも独りになる道を選んだ。どれだけの痛みをその身に受けても、それら全てを自分だけで抱え込もうとしている。私を呪いに巻き込みたく無い──、だから自分の事は忘れろ? だったらなぜ、あんな寂しそうな顔をするの……?
「……ライ?」
蟲の群が消えた時には、もう既にライは居なかった。静まり返った森林。そこにはまるで最初から誰も居なかった様にライの痕跡一つ、残っていなかった。
「ライ!! 何処に行ったの!? お願い返事をして!! ライっ!!」
どれだけ叫んでも、ライの返事は返ってこない……。月灯りだけが、私を照らしていた。
「……そうだわ! あの子の家!」
居ても立ってもいられず、私は全力でライの家へと走った。暗くて道がよく見えず、何度か転びそうになっても構わず走った。
「姫様ぁ〜〜! どこへ行きなされたぁ〜〜!!」
途中で私の事を探してきたミトと鉢合わせたけど、私は気にせずとにかく走る。
「姫様! こんな時間まで一体どこに──。あれ? 姫様? 姫様ぁ!?」
早く……、早く……! お願い、間に合って……!!
「ちょ、ちょっと……、ゼェ……ゼェ……姫様ぁ。一体、どうなされたんじゃぁ……」
私は全力で走り、ライの家の前まで来た。数年前にあの子のお母さんが病気で亡くなって以来、ライはずっとこの家に一人で暮らしてきた。
「(お願い、此処に居てライ……)」
そう願いながら、私はゆっくりとドアを開けた。
「ライ……? 居るの?」
でも、家は既にもぬけの殻だった。誰も居ない真っ暗な部屋。何の気配も感じない……。
「なんじゃ? ライの奴までまだ家に帰っとらんかったのか?」
違う……、違うわミト。あの子はもう……。
「……間に合わなかった。ライ……。──っ!!」
失意のあまり私は膝をつき、手で顔を覆いながら静かに泣いた。
「……ぅ……っ……ライ……っ」
「姫様……」
どうして……? なぜ居なくなったの?
ねぇライ……、教えてよ……。
────
──────
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──────────
蝶の式神を使って姫様から逃げたあの後、わたしは一度自分の家に戻った。支度をする為だ。
この谷から出る為の──。
本当はもうあと数年経ってから出る予定だった。それが急遽このような事になった。まぁ、それでも荷物はそこまで無かった。
ほんの僅かな荷物と武器であるセラミック刀。そしてボロボロの布で出来た灰色のローブ。
本当にこの選択は正しかったのか──。最早、私自身にもそれは分からない。でも、これでいいんだ……。そんな事を考えながら私は裏口から家を出た。
それと同時に、姫様が玄関のドアを開けて家の中に入ってきた。
「ライ……? 居るの?」
「なんじゃ? ライの奴までまだ家に帰っとらんかったのか?」
姫様が、私を探している……。何故かミトじぃまでいるけど。私は黙って裏口横の壁にもたれる。
「……間に合わなかった。ライ……。──っ!!」
彼女のすすり泣く声が、家の中に響く。姫様の泣く声が聞こえる度に、後ろ髪を引っ張られる感覚になる。
拳を握りしめ、歯を食いしばって涙が出そうになるのを我慢する。
それでも、もう決めた事だ。今更辞める訳には行かない──。
ここから離れる為に、私は歩く。今だに姫様のすすり泣く声が聞こえてくる……。
ダメだ、振り向くな。耐えろ……、これでいいんだ!!
私はもう、ここには居られない……。
あぁ……クソ……。
なんでこんなに涙が溢れるんだよ……っ!!
「……ぅ……ライ……っ……ライっ……!」
この日、ライはこの風の谷から姿を消した──。
はい、というわけで曇らせタグを追加しました。
ちなみに、当たり前だけど来夏死亡後に起きた事を彼女自身は知りません。
真希は生き残ったけど、変わり果てた姿になったことも。ナナミンも漏瑚の炎には耐えたけど真人の手で惨い最期を遂げた事も。
釘崎野薔薇が戦線離脱してしまった事も。
虎杖悠仁が深い絶望に叩き落とされた事も。
宿儺と摩虎羅の戦いで渋谷が完全壊滅した事も来夏はぜーんぶ知りません。