はい、こちら異世界コールセンターです   作:らびどっぐ

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ちょっとだけ、続きを書いてみました。


説明だけで折れちゃうことも間々ある

 日当銅貨8枚、管理職なら銀貨1枚。円換算だと銅貨はゼロ3つ、銀貨はゼロ4つつくイメージをしてもらえると、大体合っている。時間は冒険者ギルドの開場から夕刻の鐘まで。これはおおよそ10時から17時と言ったところで、休憩1時間。実質6時間勤務で年齢、性別不問。ついでに言えば私も使えないので魔法の適性も不問……なかなかの好条件だとは思う。

 案の定、数日で14名の希望者が来たので、早速研修のスタートだ。

 

「おはようございます。私がここのセンター長で、皆さんの教師役です。まず、最初に覚えておいて欲しい事があります。皆さんは当然就業条件に惹かれてきたと思いますが、報酬額にはそれだけの理由があります。ここは戦場には出ませんが命がかかっています、私の体感ではここにかかってくる通信の7割は救助が必要な案件です」

「ええと、残りの3割は?」

 

 早速質問してくれる人がいたのは、悪くない傾向だ。

 

「2割は緊急性は低いけれど冒険者が慌てて過剰に反応しているパターン、あと1割はくだらないイタズラです。その辺の流し方は、やっているうちに慣れます。では早速、トークスクリプトを配りますね……基本的には、これを読みながら話すだけです」

 

 現場ではトースクと略される場合が多いトークスクリプトは、要するに話す内容の台本だ。中世は識字率が低かったという話だが、この世界では問題なく読み書きできる人がほとんどなので助かる……最悪、読めれば仕事にはなる。

 

「ここでの仕事は受信用通信魔法の巻物(スクロール)を使い、ダンジョンに潜っている冒険者の救助パーティを手配する事です。冒険者からここ、冒険者ギルド通信魔法窓口に魔法通信による救助連絡が入り、その連絡の内容を聞き取って救助パーティを手配する」

 

 だからこそ、前提条件として通信はマッピングが完了しているダンジョンからになり、連絡してくるのはほぼ初心者だ。だが、稀にベテランがアクシデントに見舞われて救助依頼してくることもある……未踏破ダンジョンから通信が来た場合はこちらでダンジョンの詳細を把握できないので、大まかな状況だけ聞いたらギルド本部へ転送する。

 

「これだけ聞いてもイメージしづらいと思うので、まずは1本録音を聞いてもらいましょう。ウチのオペレーターの対応の中でも、特に良かったものです」

 

『はい、冒険者ギルド通信魔法窓口、エリッサがお受けします』

『前線が崩壊しそうなの! すぐ救助お願い!!』

『わかりました、まず状況確認します。そこはどのダンジョンの何階ですか?』

『ファス坑道の地下3階!』

 

 これがわからなければどこに行けば良いかわからないので、最重要項目だ。最初はこれを確認する。

 

『ファス坑道ですね。パーティは何人ですか? それから、ヒーラーはいますか?』

『4人でヒーラーは1人いるけど……』

 

 ここでパーティ構成のうち、前衛が最低1、そして今通信している後衛1人とヒーラー1人まではわかる。回復役と壁役がいれば、救助の到着まで持ちこたえられる可能性は高い。

 

『わかりました、ファス坑道の3階なら2階から降りてきてまっすぐ行くといくつも横道がありますが、手前から2番目が行き止まりの小部屋になっています。そこに向かってください』

『ちょっ!? 殺す気!? 袋のネズミじゃない!!』

『落ち着いて聞いてください。そこの小部屋は入り口が狭くなっているので、モンスターが一度に入ってこれません。そこで前衛を回復しながら籠城してください。その間に救助パーティが向かいます』

『わ、わかった! もうアイテムもほとんど無いの、急いで!!』

『安心して下さい、すぐにC級パーティが向かいます』

 

 パニックになりかけているところに、ちゃんと救援を手配すると言えば、それだけで結構安心してくれるものだ。

 

『それでは、今回は冒険者ギルド通信魔法窓口のエリッサがお受けしました。失礼いたします』

 

 緊急窓口と言えど、クロージングは丁寧に。コールセンターというのは応対品質もとても大事なのだ。

 

「どうでしたか? この案件はその後救助パーティが間に合い救助されました。しかし、状況が悪かったり受信した内容の伝え方が悪いと間に合わないケースもあります。そういう意味で、成長速度には個人差がありますが皆さんには最終的には今の応対に近いところまで仕事を覚えてもらう必要があります」

 

 実はエリッサは3か月ちょっとで今の通信が出来たのだが、これは言ってしまうと研修生の大部分が折れてしまうので口には出さない。

 

「いきなり今のをやれと言っても無理なのは分かっていますので安心してください。これからの研修に加えて、実際に通信を受信し始めても最初のうちは慣れたオペレーターがサポートします。なので、受信を始めた段階である程度は出来ます」

 

 と、実例を交えたうえで初日は基本情報を座学で教える。実際に連絡があるダンジョン、主な出現モンスター、各階の特徴などをざっと、資料を交えて説明する。踏破済み、マッピング済み、かつそこまで深くないダンジョンであり危険度は低いのだが駆け出し冒険者というのは得てして自信家であり、調子に乗る事で危険度が跳ね上がる。なので資料では大したことない、と思っても危険な状況に陥って緊急連絡をしてくる例は後を絶たない……だからこのコールセンターが成立するのは皮肉と言えば皮肉か。

 

 自己紹介や交流の時間もとりつつ、一日目が終わる。覚える事は多いが、今日は初日なのでそれこそ心構えや大まかなダンジョンの情報だけでそれほどの情報量ではない。

 

(……そう。初日の情報量なんて大したことないんだよ。だけど、説明だけで折れちゃうことも間々あるんだよねえ)

 

 正確には2日目に言ってきた形だが、トークスクリプトの読み込みを始めた2日目にして5人脱落。実際の現場ではほぼ無意識に認識している事実、心構えだけでプレッシャーになってしまううえにエリッサの応対品質を聞かされると自信を失ってしまうのだ。

 

(ある意味初日が一番ダメージが大きいんだよな。ここから少しでも順応できる人が残る事を祈ろう)




初日でこれだけ落ちるのは酷い方ですが、コールセンターはマジで定着率低いです。(経験談)
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