というわけで作ってみましたコールセンター……しかし戦わなくても問題は山積みだった!!
街に夕刻を告げる鐘が響く。本日も業務終了だ……冒険者をはじめとする肉体労働で稼ぐ者達ならば一仕事終えて悠々酒場へ繰り出すか、宿や自宅へと向かうだろう。しかしこちらは完全なるデスクワーク……固い椅子から尻を持ち上げ、肩こりや腰痛という体の悲鳴は聞こえないことにして各々必要な資料を片付ける。やりきった充実感というのはあまり感じられず、ようやく解放されたという緩やかな解放感と共に帰宅準備をしていくスタッフ達。そんな中で一人、まだ対応を続ける子がいたので様子を見る。
「本日はご連絡いただきありがとうございました、失礼致します」
対応終了。この後、今の対応の後処理をすれば彼女も業務終了だ。
「お疲れ様」
「お疲れ様です。それで、センター長……話したいことがあるんですけど」
「わかった、それじゃ食事でもしながら聞こうか」
すっかり馴染みになった酒場で切り出されたのは、退職相談。
「あの、もう辞めたくて……」
「あ〜……まあねえ。この仕事キツいもんね。無理は言わないよ。でも、資料の破棄やら私物の回収やら、諸々手続きはやって欲しいからあと3日頑張って欲しい」
「……わかりました」
何となく察してはいたので驚きは無い。だが、この先の事を考えると頭が痛い。
(条件は破格だという自信はあるけど、それでも定着してくれないからなあ……次の研修は何人残るやら)
とにかく人が足りないので、センター運営の方は部下に頼んで自分が研修を行う必要がある。研修期間は3週間……正直全然足りないのだが、蓋を開けてみれば想像の数倍需要があり、とにかく拡大してくれと言われている状況もあって、最低限のことを教えられるギリギリまで詰めた期間だ。
いくら大量の資料を用意しても覚える事が冗談みたいに多いうえ、実際にやらないとわからない事の方が多いからなるべく実戦で鍛えるしかないという事情もある。
ちょっと考えれば出てきそうな案から始めたコールセンターなのに、駆け出しの冒険者の死亡率が3割も低下し通信魔法用の
小説によくある異世界転移。物語では強力なスキルやゲーム知識で強く出られるものだが、一つ重大な前提が抜け落ちている。それは『若いこと』だ。
体力や運動神経が能力に付いてくる、そんなものはまあ冒険活劇ならば当たり前だ。だが、アラフォーのデスクワーカーにそれをやれと言われても無理筋だ。
仕方がないので、冒険者ギルドで裏方として働けないか聞いたところ、まさかの快諾……聞けば冒険者に憧れ、ダンジョンで一獲千金を夢見る若者は多いがその需要に対して冒険者に依頼を斡旋するギルド側は希望者も少なく人手不足の傾向があるらしい。
依頼書の作成でペンを走らせる……内容を見るとどうにも後味が悪いのに、毎日のように出てくる依頼だ。
(ダンジョンに潜ったきりのパーティの捜索か……)
何故後味が悪いのか? 簡単だ。この手の依頼は結構な割合で『遺品回収』になる。捜索パーティが見つけた時には手遅れのケースが多いのだ。
私はふとした気付きから、こんな依頼が毎日のように出され死者が出続ける地獄を少しでも改善しようとコールセンターをギルド内に立ち上げたのだが……その先にあったのは別の地獄だった。
死者が出ないのは平和と言えば平和だが、仕事をしている側がシャレにならないストレスに晒され続けるのもある意味地獄だ。毎日冒険者とオペレーターの悲鳴が響き渡り、胃薬の売り上げが急増し、頻繁にオペレーターの顔触れが変わる。そんな事情を知らない人々からは規模を拡大してくれと言われるのだからたまったものではない。
たまに何故自分はこんなことを思いつき、あまつさえ実行に移してしまったのかと過去の自分を殴り飛ばしたくなるが、結果が出ている事は間違いなく社会貢献として感謝されているのが何とも複雑なところだ。
(希望者自体は数日もあればある程度集まるだろう。人数が確定したら人数分の資料とトークスクリプト準備して録音は……いつものでいいか)
本当は音声にせよスクリプトにせよ資料にせよ、こまめに改訂すべきなのだがあまり不都合が起きていない状況ではどうしても億劫になってしまい後回しになっている。
(しっかし、こんなオッサンのスキルが役に立つとはねえ……本当、世の中分からないもんだ)
これはコールセンター業務が冒険者達の世界を、知らない間に変えてしまう物語。
実は筆者自身がコールセンター勤務だったりします。なので、ある意味実体験に基づいています。ただし、実在の企業・人物・業務内容をモデルにしたものではありません。