無能力なのに国唯一の異能学園に入った俺。周りの反応が、なんかおかしい   作:都頃天

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第16話

 

放課後、生徒がほとんどいなくなった旧校舎の屋上。夕陽が二人分の影を長く伸ばしていた。

 

「――で、今年の体育祭、あなたはどうするおつもりなんですか」

 

フェンスにもたれて煙草を咥えるでもなく、ただ懐手にしたまま結城迅がそう切り出した。銀髪が風に揺れ、左右で色の違う瞳が、隣に立つ男を面白がるように見つめている。

 

「別に。例年通り、模範演技で少し暴れて終わりだ」

 

答えたのは白崎玲だった。粗野な口調とは裏腹に、その横顔にはいつもの気だるさが滲んでいる。

 

「例年通り、ですか。……あなたがそれで満足するとは、僕には思えませんけどねえ」

 

「…何が言いたい」

 

「いえ、なに。今年は妙に見学者が多いらしいじゃないですか。国家機関の方々も、体育祭にかこつけて品定めに来るとかなんとか」

 

結城はくすりと笑った。だがその笑みの奥に、何を考えているのか読み取れる者は、この学園には誰もいない。玲でさえも、時折その底を測りかねる。

 

「見世物にされるのは、今に始まったことじゃねェ」

 

「それはそうでしょうね。……ただ」

 

結城はゆっくりと玲の方へ向き直った。

 

「あなたが本気で"隠す"おつもりなら、そろそろ限界も近いんじゃないか、という話です。裏門の一件、僕の耳にも入ってきていますよ。あれだけ派手にやっておいて、まだ隠し通せるとお思いですか?」

 

「お前には関係ねェ」

 

「関係ないことはないですよ。……何しろ僕は」

 

結城は目を細め、どこか愉快そうに続けた。

 

「あなたが誰よりも大事にしている"あの子"に、当日直接お会いできるかもしれないんですから。雑用枠でしょう? あの一色澄人とかいう」

 

その名前が出た瞬間、玲の纏う空気が、目に見えて張り詰めた。

 

「――名前を口にするな」

 

「怖い怖い。冗談も言えませんね、相変わらず」

 

結城は肩をすくめてみせたが、その視線だけは、なおも玲の反応を注意深く観察していた。

 

「まあご安心を、僕はあなたの邪魔をするつもりはありません。ただ純粋に、興味があるだけです。あなたほどの化け物が、これほどまでに執着する存在とやらに」

 

「興味本位で近づくなら、容赦はしねェぞ」

 

「存じていますよ、それくらいは」

 

結城はそう言って、屋上の柵から夕焼けに染まる校庭を見下ろした。体育祭の準備で、テントを運ぶ生徒たちの声が遠くから響いている。

 

「――ねえ、玲さん。僕の"未来選択"には、面白い癖がありましてね」

 

「なんだ、急に」

 

「分岐を先読みすればするほど、"読めない未来"の存在がやけに際立って見えてくるんですよ。今のところ、僕の計算に一切乗らない変数は、この学園にたった一つしかありません」

 

玲は何も答えなかった。だがその沈黙こそが、何よりの答えのように、結城には思えた。

 

「面白いですねえ、本当に。……体育祭、僕も少し楽しみになってきました」

 

結城はそう呟くと、それ以上は何も語らず、屋上の扉へと歩き出した。残された玲は、夕陽に沈む校庭を、しばらくの間、無言で見下ろし続けていた。

 

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