無能力なのに国唯一の異能学園に入った俺。周りの反応が、なんかおかしい 作:都頃天
放課後、生徒がほとんどいなくなった旧校舎の屋上。夕陽が二人分の影を長く伸ばしていた。
「――で、今年の体育祭、あなたはどうするおつもりなんですか」
フェンスにもたれて煙草を咥えるでもなく、ただ懐手にしたまま結城迅がそう切り出した。銀髪が風に揺れ、左右で色の違う瞳が、隣に立つ男を面白がるように見つめている。
「別に。例年通り、模範演技で少し暴れて終わりだ」
答えたのは白崎玲だった。粗野な口調とは裏腹に、その横顔にはいつもの気だるさが滲んでいる。
「例年通り、ですか。……あなたがそれで満足するとは、僕には思えませんけどねえ」
「…何が言いたい」
「いえ、なに。今年は妙に見学者が多いらしいじゃないですか。国家機関の方々も、体育祭にかこつけて品定めに来るとかなんとか」
結城はくすりと笑った。だがその笑みの奥に、何を考えているのか読み取れる者は、この学園には誰もいない。玲でさえも、時折その底を測りかねる。
「見世物にされるのは、今に始まったことじゃねェ」
「それはそうでしょうね。……ただ」
結城はゆっくりと玲の方へ向き直った。
「あなたが本気で"隠す"おつもりなら、そろそろ限界も近いんじゃないか、という話です。裏門の一件、僕の耳にも入ってきていますよ。あれだけ派手にやっておいて、まだ隠し通せるとお思いですか?」
「お前には関係ねェ」
「関係ないことはないですよ。……何しろ僕は」
結城は目を細め、どこか愉快そうに続けた。
「あなたが誰よりも大事にしている"あの子"に、当日直接お会いできるかもしれないんですから。雑用枠でしょう? あの一色澄人とかいう」
その名前が出た瞬間、玲の纏う空気が、目に見えて張り詰めた。
「――名前を口にするな」
「怖い怖い。冗談も言えませんね、相変わらず」
結城は肩をすくめてみせたが、その視線だけは、なおも玲の反応を注意深く観察していた。
「まあご安心を、僕はあなたの邪魔をするつもりはありません。ただ純粋に、興味があるだけです。あなたほどの化け物が、これほどまでに執着する存在とやらに」
「興味本位で近づくなら、容赦はしねェぞ」
「存じていますよ、それくらいは」
結城はそう言って、屋上の柵から夕焼けに染まる校庭を見下ろした。体育祭の準備で、テントを運ぶ生徒たちの声が遠くから響いている。
「――ねえ、玲さん。僕の"未来選択"には、面白い癖がありましてね」
「なんだ、急に」
「分岐を先読みすればするほど、"読めない未来"の存在がやけに際立って見えてくるんですよ。今のところ、僕の計算に一切乗らない変数は、この学園にたった一つしかありません」
玲は何も答えなかった。だがその沈黙こそが、何よりの答えのように、結城には思えた。
「面白いですねえ、本当に。……体育祭、僕も少し楽しみになってきました」
結城はそう呟くと、それ以上は何も語らず、屋上の扉へと歩き出した。残された玲は、夕陽に沈む校庭を、しばらくの間、無言で見下ろし続けていた。