結局ナナリンとのスパーリングは3勝6敗でワタシが負け越した……。
え、ワタシの初戦の勝因って口臭なの? めちゃくちゃ悔しい上に恥ずかしいんですけど。
「ちぇ……流石に本職にはまだ追いつけないか」
「でもすごいっすよ、ブロッサムは。まだ戦い始めて1年くらいなんすよね?」
「もうそのくらいになるかな」
9戦のスパーリングを終えたワタシ達は、並んで地面に寝転びながらおしゃべり中。
打撃だけならともかく、組み技はマジで体力持ってかれるからね。疲れ果てて動きたくない。
「早いような、短いようなって感じだなぁ」
1年前———特別釈放を経て、まずは吹っ飛ばされた右腕をなんとかするってことで局長に紹介されたのがエイボンだった。
ヘテロシティは異象を使った義肢ならそんなに苦労せず手に入るんだけど、なにせワタシの場合は異能が異能だからね。異象由来の義肢を着けて異能を使えば、消えるわ動かなくなるわで、なかなか苦労させられたよ。
でも骨董品屋エイボンならもしかしたら異象を使わない義肢があるかもってことで、店長と旧知の仲でもある局長に紹介されたのがワタシとエイボンとの出会いだった。
ちなみにワタシの右腕は長年倉庫の肥やしとして埃塗れになっていたのを引っ張り出して貰った一品だったりする。
懐かしい気持ちに浸りながらナナリンとおしゃべりを続けていると、後ろからポテポテと軽い足音が聞こえてきた。
「「 わっぷ⁉︎ 」」
見上げた瞬間、ワタシ達の顔面にタオルがぱさり。柔軟剤の良い香りと柔らかい感触がそのまま汗を吸い取ってくれる。
「鬼郎丸が部屋の隅っこで丸くなってるからもしかしたらって思ったけど、やっぱり来てたんだ」
「やっほーさきりん! お邪魔してるよ」
渡されたタオルで汗を拭きながら、片角の少女にワタシはご挨拶。
エイボン所属の異象ハンターの1人、さきりんこと早霧ちゃんは呆れたように腕組みをしてワタシ達を見下ろしていた。
子どもが無理に大人ぶった振る舞いをしてるようで微笑ましいなぁ。バチクソ可愛い。
「毎回毎回よくやるわね。オフで来てるんだから、のんびりしてけばいいのに」
「それはこれからさせてもらうよ。お菓子買ってきたから後でみんなで食べよ?」
「やった! ……あ、いや……っ」
『お菓子』という子どもなら誰もが心躍る単語に目を輝かせたさきりんだけど、慌てて澄まし顔に戻そうとしてる。そういうお年頃な仕草にワタシは萌えております! 非常に萌え萌えです!
こういうちょっと大人ぶりたい年頃の女の子にも、ワタシはママになってほしいと思う。女の子は女の子というだけで、ワタシのママになる可能性を秘めているものだからね! ばぶ〜!
そんな会う度にワタシを萌え萌えきゅん♡させてくれる早霧ちゃんだけど、実はワタシと
それは彼女の片角が示すもので、ワタシはさきりんほど分かりやすく見た目には出てないけど察してるだろうね。
さきりんがエイボンに来る前に居た場所と、ワタシが
厳密にどこって意味で同じかは分からないけど、少なくとも
それをワタシ達はお互いになんとなく察してる。察してるけど、何も言わない。別に辛く悲しい過去だから思い出すだけで過呼吸になるとかじゃなくて、単に口にしたところで意味がないから。
健全な人間関係ってのは、9割の『正直』と1割の『気付かないふり』で出来てるものだよ。
「お菓子! なに買ってきてくれたっすか⁉︎」
「えっとね〜ケーキでしょ? フィナンシェ、スイートポテト、羊羹、あとしょっぱい系でポテチを何種類か。あ、豚骨ラーメン味のポテチがあってさ? 面白そうだからそれも買ってみた!」
「流石ブロッサム! センスいい!」
「えっへへ〜!」
「シャワー浴びてくるっす! ブロッサムも早く汗流した方がいいっすよ!」
お菓子のラインナップに目を輝かせたナナリンは、スパーの疲れもどこへやら。もはや階段すら使わず異能で壁を登って2階の自室に駆けて行った。足早っ!
「まったく、ガキなんだから」
「喜んでもらえて嬉しいよ。さきりんも気になったやつあったかな?」
「まぁ……ね」
「なら良かった! お茶もワタシが淹れるからね。たぶん前より美味しく淹れられるようになったと思う!」
「あんたが来ると鬼郎丸に横取りされる心配なくて安心するわ。いつも居てほしいくらいよ」
「あはは……」
鬼郎丸っていうのはさきりんといつも一緒にいる異骸……厳密には違うのかな? まぁ、異象関係のひとつ目の謎生物。
異象由来の生物だからワタシの異能で簡単に消せるんだよね。それが本能で分かってるのか、あんまり会ったことない。
「鬼郎丸くんには悪いよね。申し訳ない」
「別にいいわよ。あんたが帰ったら何もなかったみたいに色々なもの食べて回ってるし。部屋で丸くなってるのが丁度いいくらい」
「哀れな」
「哀れなわけないでしょ。あ、聞いてよ! この間なんて、うちが頑張って貯めたバイト代を貯金箱ごと食べちゃったんだよ! ほんっとありえない! ナナリとエドガーの3人で遊びに行こうと思ってたのに!」
「あらま。それでどうしたの?」
「もちろんギタギタにして吐き出させてやったわ! ああいう学習能力のないアホは痛い目見せないと分かんないのよ!」
シュッシュッとシャドーボクシングの動きでギタギタを表現するさきりん、あまりにもきゅんです!
「……それにしても、2人と遊ぶ為にバイト代をねぇ」
「あっ、そ、それは! だって、お金かかるところだから……」
「
「そうだけど、ナナリが行きたいって言ってたから! うちが行きたいわけじゃないよ!」
「ふ〜ん」
彼女の本心を察してニヤニヤが止まらない。
恥ずかしそうにそっぽを向くさきりんのいじらしさに、ワタシはたまらず左腕を広げてにじる寄る。
「か〜わ〜い〜い〜!」
「ぎゃー! 汗だくの体でくっつくなぁー!」
死ぬほど嫌そうに走って逃げるさきりんを、ワタシは追いかけ回した。
ふへへ〜! ほーら、捕まえたらその可愛い角をちゅぱちゅぱしちゃうぞ〜!
シャワーをお借りしてとってもさっぱり。脱衣所に出ると、左目を髪で隠したお姉さんと目が合った。
「ん、すまないっ」
同性とはいえ裸を見てしまったという罪悪感から、お姉さんは慌てて目を逸らしてる。
おやまぁ初々しい。
「えっち♪」
「バスタオルを持ってきただけなんだ。覗くつもりはなかった」
「わかってるよ。ありがとう、ダフォさん」
いちいち疑ったりしないのに、ダフォさんことダフォディールさんは真摯に頭を下げてくる。
(いやぁ……それにしても絶景ですな)
スーツと燕尾服の合いの子のようなカチッとした服を窮屈そうに押し返している彼女のボディラインは、あまりにもドスケベだ。
パンツスタイルの女性がスタイル抜群だと、逆に扇状的だよね。
もう服の上からでも分かる。絶対安産型じゃん。もはやワタシを産んでほしい。
ワタシは彼女の肢体を舐めるように、それはもうペロペロキャンディも溶けて無くなるレベルで上から下までねっとりじっくりべったりと目で楽しみ、それからニッコリ笑ってドライヤーを渡す。
「髪お願いしてもいいです?」
「僕が、かい?」
「うん! やっぱ片腕だと上手く乾かせなくてさ」
不可抗力とはいえワタシの裸を見てしまった負い目のあるダフォさんは、口ごもりつつも断れない。
ワタシ気付かないふりをして、下着だけ着けてささっと鏡と彼女の間に割り込む。
「よろしくお願いしま〜す」
「あまり人の髪を乾かした経験は無いんだが……」
「これから経験していけばいいんだよ! さぁ、レッツトライ!」
「う、うん……」
ドライヤーのスイッチを入れたダフォさんは、おっかなびっくりといって手つきでワタシの黒髪に触れる。それから熱風を充ててくるんだけど、これがまた意外にもかなり上手い。
最初こそ不必要に左右へ揺らしてたけど、すぐにコツを掴んだらしく、熱さを感じるギリギリのタイミングでポイントをずらしていく。
どうもワタシの頭では無くワタシの反応を見てドライヤーを充てているらしく、鏡の中のダフォさんとめっちゃ目が合ってる。
ここまで美人に見つめられると、さすがのワタシも照れくさいよぉ。
もじもじ身じろぎすると、今度はポンと頭に手を乗せられた。動くな、ってことかな。
(ひゃ〜! まつ毛長い! 顔が良い!)
慣れないことをさせて少し困らせてやろうというワタシの悪戯心を顔面の良さだけで捩じ伏せたダフォさんは、もう鼻歌なんか唄っちゃってるよ。
このタイミングでそれは、少しあざとすぎやしませんかねぇ⁉︎
「ダフォさん。もう大丈夫だよ。ありがとう」
「もういいのかい? まだ少し濡れているようだが」
「ヘアオイル塗るから、このくらいで一旦ストップ」
「ヘアオイル……あぁ、ナナリも尻尾に塗っているものか」
「まぁ似たようなもの」
天然怖い……。きっとこうやって色々な人の初恋を奪ってきたんだろう。なんと罪な女。
ワタシはドキドキする胸を抑えようとして、けど片腕しかないからヘアオイルに手が伸ばせなくておたおた。
「僕が塗ろうか?」
「大丈夫です⁉︎」
「そうか……」
どうも楽しくなってきちゃったダフォさんは、少しうきうきした様子でヘアオイルを見てる。
これ以上ドキドキさせられたら心臓が爆発するので、ワタシは慌てて塗り始めた……って、なんかガン見してるし⁉︎
「な、なにかな?」
「どのようにするのか興味があるんだ。次来た時には僕がやってあげたい」
(……やってあげたい、か)
他人に対して受け身のダフォさんには珍しい言い回しだ。
「あと3年だったか」
「……覚えてたんだ」
「忘れるわけないよ。君はナナリ達の友達で、エイボンのお客様で、僕にとって……」
「ダフォさん」
ワタシは一言、名前を呼んで口を閉じてもらう。
そして、和風メイド服に袖を通してから振り返る。
「着付け、お願いして良いかな?」
片腕で和風メイド服は着にくいからね。一応できなくはないけど、誰かにやってもらった方が楽だ。
店長の着替えを手伝ってるのか、それとも別の経験があるのか、ダフォさんは和服の着付けに慣れてるらしくテキパキと帯を巻いてくれる。結び方も完璧だね。
鏡を見るとなんとなく、髪で隠れている左目と視線が合った気がした。詳しくは知らないけど、彼女の目は本質を見通すことができるらしい。
「残り3年も、ワタシは精一杯生きるよ———」
「———
汗も流して綺麗さっぱりしたワタシはエイボンのエントランスへ。
そこには仰々しくビロードに包まれた物がテーブルに鎮座していた。はい、ワタシの右腕です。
「メンテナンス、完了しました。大切に使ってくれているとタギドも喜んでいましたよ」
「タ……タギ……」
アドレーさんの影に隠れてタギタギ言っている異骸こそエイボンの整備士、タギドくん!
ラッコの体にオレンジ色のジャケットを羽織り、頭にはブラウン管テレビが乗っているという不思議な造形なんだけど、なんと彼は触れただけで物質の分解と再構築ができるという一家に1人は欲しいとんでも能力持ち。ちなみにオス個体らしい。
「いつもありがとね、タギドくん!」
「タタタタタギッ⁉︎」
屈んでタギドくんに目を合わせれば、アドレーさんの影からさらに遠くへ逃げてしまった。悲しい。
ワタシは異能の特性上、異骸にとって天敵だからね。誰だって触った瞬間に自分を消し去る人間なんて怖くて近付けないよ。
お客さんだからという理由があるにしろ、律儀にコミュニケーションを取ろうとしてくれるタギドくんはかなり希少な存在だったりする。タギタギしか喋れないから何言ってるかわからんけど。
ちなみにビビり散らかすタギドくんを、ナナリンとさきりんは爆笑しているよ。哀れな。
たぶん
バシュッと右腕を嵌め込んでグーパーグーパー。シュッシュとシャドーボクシングをしたり、肩をぐるぐる回したり、孤拳、掌底を素早くくり出す。
「いいね! 最高!」
「タギ? タギドタドタド?」
「な、なんて?」
「……たぶん、肘周りの感触を聞いてる」
ぼそっと、まだ声変わり前の高い声で翻訳してくれたのはエドガーくんだ。
ほっそりとした体型にあどけない顔立ちで、ショタコンなら誰もが誘拐を企てそうな容姿をしている。
女の子ならワタシが誘拐していた。
そんな彼は年齢に見合わない膨大な知識を有していて、異象には特に造詣が深い。
その観察眼を以て、タギドくんの言葉もある程度正確に分かるらしい。
人見知りなところはあるけど、
「肘? うーん……もしかして少し可動域が広がったかな?」
「タギ!」
「正解、だって」
当たり前だけど、義肢っていうのは生身に比べて色々な面で機能が劣る。
そもそも人体っていうのは精密機器の集合体だからね。それを別の何かで代用しようとしても、結局生身には遠く及ばない。
なのでこの改良はかなりありがたい。義肢ユーザーとしては、関節の可動域が1度でも広がるだけで世界が広がる気分だよ!
「タギド、義肢について色々聞いてきたんです。異象が絡まない技術は僕もあまり詳しくないから、一緒に勉強したりして」
マジか⁉︎めっちゃ頑張ってくれてるじゃん!
「苦労をかけたんじゃない? ありがとね」
「ううん。僕も……その……新しいこと知れて嬉しいから……」
照れくさそうにマフラーを引き上げて顔半分を埋めるエドガーきゅん。めっちゃ可愛いんだけど。
男の子は対象外だけど、男の娘ならちょっとイケるかもしれないとワタシの本能が轟き叫んでいるよ。……本当に
と、危ない危ない! ついワタシの中のママを求める本能が性別の壁すら超越してしまうところだった。
だって仕方ないじゃん! 可愛ければ性別なんて関係無くない? 可愛いければこの世界の全てがワタシのママなわけだし!
そう! 男の娘だってママになれるんだ! 少なくともワタシはいつでも赤ちゃんになる準備ができております‼︎(狂気)
「それじゃあこの腕で、タギドくんとエドガーくんにとびきり美味しい紅茶を淹れてあげようかな」
あんまり彼の近くにいると、つい治安官に追いかけ回されそうな所業に奔りそうになるのでさっさと離れよう。こちとらあと3年しか生きられない身。豚箱にぶち込まれてちゃ勿体ない。
というわけで、ワタシは当初の予定通りアドレーさんに試験してもらいながらエイボンの皆様へお茶を淹れるためお台所へ。
そうして人数分のお茶と差し入れに持参したお菓子でティーパーティをする運びになった。
ちなみに茶道師範の段位を持つアドレーさんからはしっかり上達しているとお墨付きを貰い、ワタシはにっこり。やったね! 帰ったらパパ達にも淹れてあげよっと!
「そういえば店長は?」
「ブロッサム様がお持ち頂いたお酒を飲んで、もうすっかり酔っ払ってしまわれました。『どうせ客なんて来ないだろうから』とのことで」
「えっ、ワタシって客だよね?」
ワタシの疑問に、アドレーさんは静かに微笑む大人の対応。それ便利だね⁉︎
「ほんと、どうしようもない酒カス。いい大人が恥ずかしくないのかしら」
「でも姉御、最近お酒すら買えないくらい赤字が続いてるって嘆いてたっす」
「タギ! タタタターギド!」
「……エドガー、こいつなんて言った?」
「『それはナナリと早霧が依頼人の家をぶっ壊したせい』って」
「タ〜ギ〜ド〜!」
「タ、タギ〜⁉︎」
タギドくんが逃げ、ナナリンとさきりんが追いかけ回す。エドガーくんは申し訳なさそうにワタシに頭を下げて、アドレーさんとダフォさんが3人を窘めてる。
……なんかいいな。やっぱりエイボンにいると心が温かくなる。血の繋がりがなくてもこういう家族団欒みたいな風景を見せられちゃうと、どうにも
ワタシはこちらに謝ってくるアドレーさん達に手を振って気にしてないと伝え、紅茶を一口。……うん。確かに美味しく淹れられたみたいだ。
『とまと〜ひゃくぱ〜おいしさひゃくぱ〜♪ とまと〜ひゃくぱ〜おいしさひゃくぱ〜♪』
「わわっごめんなさい」
ホッコリしてると、ワタシのスマホから愛しのレクイエム様が歌い出した。
以前レクイエム様が出演したトマト100%のCMソングを着信音に編集したワタシ自慢の一品だ。あぁ〜耳が幸せ……。
しかし、スマホの画面を見ると幸せ満面の我がプリティフェイスが凍り付いた。
『とまと〜ひゃくぱ〜みんな〜だいすきわぉわぉひゃくぱ〜♪ とまとまひゃくぱ〜わぉわぉひゃくぱ〜♪ みんなみんないっしょに〜うぉ〜♪』
「出なくていいっすか?」
全然電話に出ないワタシに気付いて、タギドくんを追いかけ回していたナナリンも不思議そうに尋ねてくる。
「出るんだけどさ。相手が白蔵だから」
「確かブロッサムのところの隊長だっけ? 仕事の連絡っすかね?」
「……妙だな。
「隊長だよね⁉︎」
「だって意地悪ばっかりするんだもん。朝からガーリック炒飯作ったり!」
この期に及んで口臭の言い訳をするワタシにナナリンとアドレーさんは苦笑いを浮かべてる。でも口臭い女って思われたくないからね!
未だに鳴り続ける着信音に観念したワタシはため息を漏らす。チッ……しゃーない出るか。
「はいもしもし。こちらブロッサム」
『あ、さくちゃ〜ん! やっと出てくれたー!』
「……着信拒否にしといたはずなんだけど?」
『あぁ、それは翳の番号。登録してた名前こっそり替えておいたんだ』
「なにしてくれてんだアホンダラ!」
じゃあワタシ、パパのこと着信拒否してたってこと⁉︎
てかなに勝手にワタシのスマホ弄ってんの⁉︎乙女のプライバシーをなんだと思ってんだボケ!
ワタシはすぐさま電話を切り、『白蔵』と登録されている方の着信拒否設定を解除して電話をかける。まずは謝らないと!
電話はすぐに繋がった。
『嘘で〜す! 本当は2台目のほうでした〜! ねぇ引っ掛かった? 引っ掛かったよね? 電話帳に「白蔵」って2つあるでしょ? もぅ〜、さくちゃんのあ・わ・て・ん・ぼ♪』
「こいつ……ッ!」
ビキリと青筋が立つ音が聞こえた。
いつの間にかワタシのスマホには『白蔵』が2つ登録してある。しかもよく見たら最初にかかってきた方は『白蔵』じゃなくて『臼蔵』だし!
怒りのあまりミシミシと音を立てるスマホ。ここがエイボンじゃなきゃぶん投げてたところだよ!
『休みの日にすまないブロッサム。今いいか?』
電話の声が軽薄なボケから、温かみのある低音に変わった。一応パパもそこにいたらしい。
「ねぇパパ! ホントなんなのそいつ!」
『あとでしっかり注意しておく。まさかこんなくだらない悪戯をしているとは思わなかったんだ』
「いいもん。帰ったらぶっ飛ばしてやる」
『右腕はちゃんと直ったのか?』
「うん。さっきちょうど着けて、今は皆さんとお茶してる。……んで、何かあったのかな? 緊急招集?」
『そういうわけじゃないんだが……まぁ、レクイエムが迷子になってな。捜索を手伝ってほしい』
「あぁー……」
レクイエム様はちょいちょい迷子になるからね。ヘテロシティにはワタシより長く暮らしてるはずなんだけど———そんなところもファンタスティック!
「了解。確かレクイエム様は日勤だったよね? 任務先で迷子って感じかな?」
『あぁ。合流して一緒に昼食の予定だったんだが案の定現れなくてな。みんなで探し回っているところだ』
「りょ〜」
そこでワタシはふとある事を思い出し、スマホを耳から離して操作してみる。お、やっぱり。
「レクイエム様の任務先ってミゲル区?」
『そうだ。あの子が居そうな場所に心当たりがあるのか?』
今レクイエム様が着てるブルゾンはワタシが入れ替えたやつだね。GPSが仕込んであるからどこにいるか分かる。
パパに詳しい場所を伝えてから、ワタシは一考。よし!
「ワタシも行くよ。もしかしたらコウモリになってて見つけにくいかもしれないし」
『いいのか? 今日はエイボンで過ごすと思っていたが』
さっきエイボンのわちゃわちゃを見て会いたくなったからね。ちょうど良い。
流石に恥ずかしいのでそれは口にせず立ち上がると、電話の声が改めて軽薄な隊長の声に変わった。
『なになに? さくちゃん寂しくなっちゃった?』
「おめぇはみんなに含まれない」
白蔵には絶対に仕返しすると心に誓って通話を切る。
「えぇ〜もう帰るっすか⁉︎」
「ごめんね。またオフの日にお邪魔させてもらうよ。今度はどっか遊びに行こう?」
「うん! 約束っすよ!」
皆さんにに手を振り、ワタシはエイボンを後にした。
話題———悩み
第6小隊のさだちゃん、あとエイボンのタギドくんと鬼郎丸くん、あとは管理局の袋さんとバラクータさん……ダメだ。挙げていくとキリがないや。
とにかく、異骸から怖がられるっいうのは尽きない悩みだよね。ワタシの異能的に仕方ないんだけどさ。でも仲良くなりたいから、自分から話しかけるようにはしています!
この間エイボンの近くにあるレコード屋さんで、タギドくんがボーカルしてる『Tayge Tayge Rhythm』なる謎レコードを見つけて、最近ワタシもフルコーラスで歌えるようになったんだよ!
話題———好きなもの
圧倒的にレクイエム様!あのポヤポヤした感じ、放っておけないんだよね〜!
常に母性を求めて止まないワタシに初めて母性を目覚めさせた、かけがえのない存在です!
ワタシがママになるんだよ!
話題———苦手なもの
う〜ん……実はトマトゼリーが苦手なの。レクイエム様には内緒だよ?
いや、味じゃなくて見た目というか…存在そのもの? やっぱり自分の右腕を吹っ飛ばす要因になったものだかね。正直見るのも怖い……。
話題———目指すもの
人器一体の境地!
ワタシは異骸相手ならそれこそ天下無双の自信があるけど、異能者が相手となると一気に戦力ダウンしちゃうからさ。
いつも使ってる大太刀を自分自身と認識できたら、そのまま異能を打ち消せて一気に戦略の幅が広がるよ。それに異能を太刀で一刀両断って絶対かっこいいじゃん!
ま、あと3年以内に習得できるかは分からないけどね!