代償はまぁまぁ大きかったけど、ワタシは自由を手に入れた。
ワタシはもう、どこへでも行ける。
ワタシはもう自分で靴紐を結べるんだよ、レクイエム様
これは異常が日常の街で、訳ありE.T.D隊員が過ごす日常のお話。
キャラや設定の矛盾などあれば教えていただけると幸いです。
海風香るこの場所は、異常が日常な街『ヘテロシティ』。
その路地裏で女性の甲高い悲鳴に、ワタシは和風メイド服のスカートとお気に入りの赤いブルゾンをはためかせて駆けつけていた。
路地裏では上半身に刀を持った右腕のみが生えた
「今すぐ助けるので動かずに!」
ワタシは叫びながら背中の大太刀を抜刀一閃。ガキィンと金属音を上げながら受け止められた。チッ! 刃が傷むだろうがよ!
メイド服を着た者にあるまじき悪態を心の中で吐き捨てつつもう一体の刀を伏せて避け、ワタシは女性を守る位置へ。力任せの横薙ぎ払いで妖刀達を牽制する。2体は無理に詰めようとせず、並んで下がった。
「お怪我はありませんか、レディ?」
「う、うん……」
肩越しに女性の安否確認。見たところ怪我はないようだけど、突然現れた救援がメイド服を着ていることにめちゃくちゃ戸惑ってるね。いやほんとすみません。
「E.T.Dです。必ずお守りいたします」
よく見るとなかなかの美人さん。お姉さんって感じのおっとりした雰囲気の女性は、潤んだ瞳でワタシを見上げてる。
これはカッコよく助けて、後で連絡先聞いちゃおう!
と、内心よだれを垂らしてデレデレしてたところを異象2体が同時に斬り掛かってくる。
一応こいつらは街中によく発生する異象で、ワタシ自身も交戦経験は何度かある。お得意の3連撃が
(3段目だけ、妙な大振り……ここ!)
隙を狙った一閃は、もう一体に阻まれる。
クソ、なんだよこいつら仲良しか⁉︎もう結婚しろ!
鍔迫り合いは一瞬。動きが止まったところを、今度は足を狙ってくる。
ピョンと避け、そのまま空中で横に1回転。飛び回し蹴りを鍔迫り合い中の一体目に叩き込んで、着地と同時に二体目へ斬り上げ。当然下がって避けられた。
異象のクセになかなか冷静沈着な奴らだよ。面倒くさい。
そのまま深追いして追撃を加えようとすれば、蹴り飛ばした方が復活して攻撃してくる。当然捌くけど、やりにくいったらありゃあしない。
その後も何度か
「ひっ!」
埒があかない現状に歯噛みしていると、守っていた女性が悲鳴を上げた。
敵から視線を外すのは怖いけど確認しないわけにもいかず、そちらをチラ見すれば———マジかよ⁉︎もう2体、ワタシと女性を分断するように現れていた。まさかの増援だ。
「こんにゃろう!」
ワタシは切先を前方の2体に向けながら、背中の鞘を片手で外し、力任せに増援の2体へぶちかます。
こいつらに目があるかどうかは分からないけど、一応背後からの一撃は命中して、まとめて吹っ飛ばしてやった。
しかし当然、今のワタシは隙だらけ。元々対峙していた奴らが斬りかかってくるのは気配で察していたので、大太刀も鞘も捨てて女性の方へダイブ。自慢の黒髪を何本か犠牲にしながらも、なんとか食らわずに済んだ。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
質問の意図は、ワタシの心配じゃないね。『このままだとアンタやられて私も死ぬんじゃないの』的な、そういう利己的な方だ。
この状況なら当たり前だけど、なんて言うのかな? こんな綺麗な美人さんが、緊急事態とはいえ自分勝手なことを考えていることに———それこそ平時なら自己中とさえ罵られる言動に、むしろワタシは胸が高鳴る。
やっぱり女の子って、綺麗なだけじゃない一面があるからこそ可愛いものだよ!
(ちょっとからかいたくなるのは、ワタシの悪い癖かな?)
「あー、正直ちょっとヤバいかも」
「えぇ⁉︎」
実際、状況だけ見ればかなりヤバい。
だって2体でさえ苦戦してた相手が4体に増えてるし、ワタシは武器を捨てて徒手空拳だもん。
普通なら来世にご期待くださいって感じだよね。
———それでもワタシは負けない。敵が異常である限り、負けるなんてありえない。
「え、なにその腕……?」
想定内の質問にウインクのみで応じる。
ワタシは和風メイド服とブルゾンの片肌を脱いでいた。
十中八九女性の視線はワタシの瑞々しい柔肌や、天使の翼のような肩甲骨ではなく、その先に繋がっている右腕に向けられてるだろうね。
「ふふ。えっち♪」
ワタシの右腕はタンパク質でできていない。とても無骨でゴツゴツの金属でできた義肢。
バチくそプリティなワタシにそんな物が繋がってるのは、ひょっとしたら目の前の
「必ずお守りいたしますよ、レディ」
ちゅ、と投げキスをサービスした瞬間、妖刀2体が左右同時に斬り掛かってくる。狙いは首と胴体。
それをワタシはそれぞれ
『『 ッ!? 』』
斬り掛かってきた2体は、肩をびくりと震わせた。え、君たちって驚くとかそういうリアクションするんだ。意外。
でも当然か。ワタシが掴んだ刃の先が、ポロッと麩菓子でも折れたかのように地面に落ちたんだからね。
すぐさま距離を取る妖刀に見せつけるように、ワタシは両掌を向ける。
金属製の右手はもちろん、普通の左手にも傷一つない。薄らと赤黒い煙が上がってるいるのは、
「やっぱり
赤黒い煙を振り払い、半身に構える。
右半身は引き、すぐ動けるようにつま先は斜め45°に向けて踵を浮かせる。両手は開き、どちらも軽く前方へ伸ばす。
対
ここからは、ワタシの異能を最も活かした戦闘スタイルでお相手致しますよ。
『『『『 ッ! 』』』』
構えた瞬間、妖刀4体は同時に動いた。
先ほどと同じチームワーク抜群の波状攻撃。
(ほんとに仲良しだね。もしかして地元一緒?)
そんな益体もない考えが浮かぶくらいにはリラックスできている。うん、やっぱり人間は素手が1番!
ワタシは1体目の一撃をスゥと滑るように大きく踏み出て避け、2体目との間に割り込んだ。
そのどちらも、刃の横腹へ
2体は胴体に掌底形の風穴を開けながら、ボトっと殺虫剤を掛けられた虫のように地面へ落ちて赤黒い煙に変わっていった。まずは2体排除。
次の3体目は地を這うような低い軌道でワタシの美脚を狙ってくる。でも残念。
『 ッ!? 』
ワタシの可愛らしい膝小僧へ振り抜かれた刃は消失。
「ほうら、驚いてる場合じゃないよ!」
スニーカーを履いた足でワントラップ。顔の前まで蹴り上げた妖刀の胴体へ、ニキビ一つないワタシのおでこが
「いや! 来ないでぇ‼︎」
本日3度目の悲鳴に振り向けば、4体目の妖刀がワタシの頭上を通り越して女性に斬りかかっていた。
敵わないと分かって、死なば諸共ってところかな。勝てないなら逃げればいいのに。
「そういうところだけ武士道精神発揮してんじゃないよ!」
この距離は素手じゃ間に合わない———普通ならね。
———ジャラララララララ! 流れる鎖のような金属音を挙げながらワタシの
「おんどりやあぁぁ!」
空気を切り裂く手刀払いが、今まさに女性へと刀を振り下ろす妖刀を両断した。これにて4体目排除。
敵性
さ、
「あ、パパ!」
事件も解決したのでこのまま管理局へ、といきたいところだったけど、悲しいことにそういう訳にもいかなかった。
「ブロッサム……立場を弁えて行動しろといつも言っているだろう」
「あたっ」
ポコンと、ワタシの頭頂部に毛むくじゃらのゲンコツが落とされる。
「自分の所属を言ってみろ」
「うぅ……異象管理局E.T.D第4小隊
「そうだ」
「あと、Ⅶ級……」
「それは今関係ない」
有無を言わさない口調で遮りながら、先ほど落とされたゲンコツが開かれてワタシの頭に乗せられる。
毛むくじゃらの掌から伝わる優しい体温が、ワタシは大好きだ。
毛むくじゃらなのは手だけではなく全身。一見するとバカでかい犬がスーツに身を包んでるようにさえ見える彼は、ワタシが便宜上所属してるE.T.D第4小隊の
第4小隊はちゃらんぽらんな人ばっかりだけど、この翳副隊長だけは同情するくらい真面目で、だからこそ色々苦労が多い。ちなみにワタシはパパと呼んでる。
なんかね、もうね、パパなんよ。
ワタシお父さんっていないから分からないけど、街中を見てると多分こんな感じなのかなって思うんだよね。
「お前は便宜上E.T.D所属だが、正規の隊員じゃない。敵性
「でも、そんな悠長なことしてたはあの人が危なかったから……」
「———わかってる」
翳パパは目を細めて、ワタシのダランと伸びた
これ、1度伸ばすと自分じゃ元に戻せないんだよね。しかも形だけならともかく、ちゃんと動かせるようになるまで直すとなると、この腕を買った骨董品屋でしっかり整備してもらわないといけないし。
「わかってるから、無茶をするな。ただでさえお前の立場は複雑なんだ」
「……大丈夫だよ。ファルママだって色々あったらしいけど、今はパパの同僚じゃん」
「奴とお前は違う」
パパは諭すように言いながら、ワタシの右腕を元の長さまで戻してくれる。
腕が戻っても動かせないことを知ってるから、片肌脱ぎのままだった和風メイド服の袖を通し、赤いブルゾンもしっかり羽織らせてくれた。
「寒くないか?」
「うん。温かいよ」
体はもちろん、今は心も温かい。
ブルゾンの襟を掴み、肩から滑り落ちないようにしっかりと抑えた。
「そういえばレクイエム様は?」
ワタシはこの赤いブルゾンをくれた少女の行方を尋ねる。
事件解決を報告した時、パパとレクイエム様が迎えに来るって話だったからてっきり一緒に来ると思ってたんだけどな。
「別の事件を解決した後、直接向かうと言っていたが……心配だ」
「迷子になる確率?」
「無事に来られるだろうか……あぁ、良かった。今回はちゃんと辿り着けたみたいだ」
パパの視線が右上を見たのでワタシもそれを追うと、黒いコウモリがパタパタと羽ばたいてこちらに向かってきてる。
そのまま目の前に降り立つと、ポンッとワタシとお揃いのブルゾンをオーバーサイズに着こなした少女の姿になった。いつも思うけど、
「ブロッサム、けが、してない?」
「していませんよ。腕を使ったので、こっちは動かせませんけど」
「じゃあ、レクイエムが手つないであげる。転んだら、たいへん」
「ありがとうございます」
ワタシはブルゾンから左手を離し、彼女の手を取る。
風ではためいて肩から落ちそうになるブルゾンを、パパが事務用クリップでメイド服の襟に留めてくれた。
お礼を言おうと見上げれば、またポンと頭を撫でられる。
「ブロッサム。レクイエム、おなかすいた」
「トマトゼリーなら上着のポケットに入ってますよ。良かったらどうぞ」
「ブロッサム、いつもトマトゼリー持ってる。すごい」
「そんなに褒めてもトマトゼリーしか出ませんよ」
冷えてなくて申し訳ないけど、常備してるトマトゼリーを渡せばレクイエム様は目を輝かせて飲み始めた。
……ちょっと待って。ワタシ今重大なことに気付いちゃった。
ワタシの体温で人肌温度になったトマトゼリーをレクイエム様が吸ってる———これすなわち授乳では⁉︎ねぇパパ! そう思うよね⁉︎
「レクイエム。ブロッサムと一緒に管理局まで戻ってくれ。局まで送ったらそのまま帰っていい」
「わかった。わんわん人間は?」
「俺はもう少し被害者から話しを聞かなければならないから、それが終わった後に戻る」
「うん。わんわん人間、気を付けて」
「ごめんね、パパ。帰ったら報告書書いておくから」
「お前は明日エイボンで腕を直さないといけないだろう。報告書は俺がやっておくから早めに休め」
「でも……」
「かまわん。これも副隊長の仕事だ」
たぶん違うと思うよ? 流石に報告書くらいは……と反論しようとしたら、すたすたと被害者女性の方に歩いて行っちゃった。背が高いせいか、歩くの速い。
ワタシは今度パパへ何か贈り物をしようと心に決めた。
「ブロッサム、かえろ?」
「……ですね!」
ワタシ達は車の運転ができないので、電車で管理局へ向かう。
駅は階段があるから、転ばないように気を付けないと。レクイエム様を巻き込んだらそれこそ大変だ。
ワタシ達は歩く。お揃いのブルゾンを着て、傍目から見れば仲の良い姉妹に見えるかもしれない。
実際、第4小隊じゃそんな感じだと思ってる。
翳副隊長がパパで、色気がエッグいファルディーヤさんがママ。
「ふふっ」
「ブロッサム?」
「あーごめんなさい。なんかワタシ達、姉妹みたいだなって」
「レクイエムが、おねえさん?」
「えぇー? ワタシがお姉ちゃんがいいですよ。ワタシ、お姉ちゃんは
「だめ。レクイエムがおねえさん」
ふんすふんすと得意げに手を引く姿に微笑ましくなりながら、ワタシ達は歩く。
手を繋いで、ワタシ達は歩く。周囲からは「可愛い」とささやき声が聞こえた。
ワタシとレクイエム様、どっちのことかな? どっちもか! どっちも可愛いもんね!
でも、きっと誰も気づいていない。
ワタシの左手を引くこの少女が———
———ワタシの右腕を吹っ飛ばした張本人なんだと、きっと誰も気付いていないだろう。
自分について———異能
特に名前らしい名前はないけど、ワタシは無難に『侵食』って呼んでるよ。
この世界では異常が日常を侵食してるけど、ワタシは自分が触れた異常を日常で侵食することができるの。つまり打ち消せるってことだね。
じゃあ異象相手には無敵じゃんって思うけど、そうでもないんだ。例えばルール異象が作り出す異象空間の中でもルール違反できるけど、そもそも異象空間からの脱出ってルールに則らないとダメじゃない?だからそんなに旨味はないし、多少ルールを破って有利に進めるくらいしかできないんだよ。
あとは翳パパやミントちゃんみたいに、異能の代償で耳が生えてる人っているじゃん?そんな人たちを元の姿に戻したりもできないし。
あと1番面倒なのが、『自分』っていう部分。この『自分』がどこまでか、ってワタシ自身の認識によってだいぶ変わるの。わかりにくい?
そうだなぁ…じゃあ洋服は自分の一部?それとも自分以外? 髪の毛はどう?死んだ細胞って言われるけど、でも自分から繋がってるよね? 爪もそう。 こんな感じで、ワタシにとっての『自分』がどこまでかによって侵食できる部分が変わるんだよね。
だから昔は見るだけで異常を打ち消せたよ。ほら、小さい子って『自分』と『自分以外』の境界が曖昧じゃん?自分は無条件に世界から愛されてるって思うから、世界=自分って認識だったのかもね。
とにかく、成長した今だと素肌に触れなければ使えないものになっちゃったんだ。それでもオンオフができるから、街中でうっかり異骸に触って消し飛ばすってこともないし安心してね。
まぁ、わりと地味な異能ではあるよね。使う時に何か決め台詞があったらカッコいいかな?
「まずは、その幻想をぶち殺す!」とかどう?