右腕が直ってから数日。現場に忘れてきた大太刀も返還されて、ワタシは完全装備に戻ったぜ。
あいむ、べりー、ふらあーまー!
今日のワタシの予定は外勤……なんだけど、今は管理局のソファーでレクイエム様に膝枕をしている! あぁ〜幸せ!
「すぅ……んむぅ……すぅ……」
「レクイエム様ねんねだねぇ〜。きゃわきゃわばぶばぶで幸せだねぇ〜?」
本日は珍しく定時出勤なされたレクイエム様だけど、基本寝不足女子だから管理局に着いた時点で二度寝に入っちゃった。
管理局で寝泊まりしてるワタシと違って、レクイエム様は街中に部屋を借りてるからね。朝っぱらから満員電車で通勤してきた時点で、もう今日の仕事は終わりでいいんじゃない?
慈愛溢れる聖母の心で、ワタシはツートンカラーの頭をナデナデ。ついでにくんかくんか。
うん、まさにMs.いちごみるく! いつかワタシがMrs.いちごみるくにしてあげたい!
やっぱりレクイエム様しか勝たん。ワタシのママで赤ちゃんでお嫁さん、それがレクイエム様なのだ!
てか、もしかして白い方がミルクのフレーバーで、黒い方がいちごなのかな?
「あら、こんなところにいたのね?」
「あ、おはようママ!」
無限に垂れてくるヨダレを拭いながらレクイエム様の全てを堪能していると、背中からとんでもない感触がしなだれかかってきた。
妖艶で豊満な女体の感触は———そう! 我が第4小隊のママ、ファルディーヤさん!
「さくちゃんは今日外勤の予定じゃなかったかしら?」
「そうだよ。
「そうなの。うふふ、可愛い寝顔」
背もたれ側からバックハグをしつつ、ワタシのお膝で寝息を立てているレクイエム様を覗き込んで艶やかに微笑むママ。
今やワタシは
「んにゅ……っ……」
「あ、ちょっと! ほっぺつねっちゃダメだよ!」
「ごめんなさいね。ミサちゃんを迎えに行けってあのクソ犬に言われたから」
「だからここにいたのか。てか、そんな雑用白蔵に任せればいいのに」
「あれはサボり」
「まだ始業から30分も経ってないよ⁉︎」
いや、始業から30分経たずに同僚を膝枕してるワタシも人のこと言えないけどさ⁉︎
「今度ミサちゃんの服を見繕いに行くのだけど、さくちゃんもどう? 買ってあげるわよ?」
「おぉ! 行きたい!」
「決まり、ね」
「でもいいの? この間も新しいメイド服くれたのに」
「いいのよ。可愛い女の子はお洒落することこそ義務だもの。それに、その服ばっかりじゃつまらないでしょう?」
「別につまらないってことはないけど……」
ワタシの和風メイド服は全部ママからのプレゼントだったりする。
第4小隊は元々
ママとしては男しかいないむさ苦しい中にレクイエム様という美少女が入ってきて大歓喜。さらに系統が違う美少女のワタシも入ってきたもんだから、ワタシ達はちょくちょく着せ替え人形として遊ばれている。
ママはワタシと同じで、
ちなみにグーヘロス島にぶち込んだのは
「ふぁ〜……レクイエム、顔いたい」
「おはようミサちゃん。よく眠れたかしら?」
「ん。おはよう、ファルディーヤ。ブロッサムも、おはよう」
「おはようございます、レクイエム様。あーあ、ほっぺ赤くなっちゃってる」
ママがつねった部分をワタシはこねこね。うぉっ柔らか!
もっと堪能しようかと手を伸ばしたら、今度はワタシのほっぺがプニっと引っ張られた。
「待ち人も来たみたいだし、気を付けていってらっしゃい」
それだけ言い残して、ママはレクイエム様と手を繋いでエレベーターに歩いて行った。
太ももに残るレクイエム様の体温を名残惜しく思っていると、背後から鈴の音が近付いてくる。
「待たせてごめんね
「おはようございまっす! 今日は外勤の付き添い、よろし……」
「待ってチェリちゃん! 今ここにファルディーヤ先輩とレクイエム先輩いなかった⁉︎」
名は体を表すようなミント色の髪と猫耳を一心不乱に揺らしながら、収容二課のエース(自称)のミントちゃんは嵐の勢いでワタシに迫ってきた。
(おっふぉー! おっぱいでっけぇ‼︎)
……てか、この巨乳を間近で見せつけられると———
「———第4小隊のおっぱいとか調子こいてすみませんでした」
「えっ、情緒大丈夫……?」
始業開始30分で急におっぱいとか言い始めたワタシに本気で戸惑うミントちゃんは尻尾で『?』を作っていた。
「よーし! じゃあ今日も、元気に見回り頑張っちゃうよー!」
「おぉー‼︎」
「頑張ったらご褒美に、このミント先輩がアイス奢ってあげるからね!」
「いつもご馳走様です!」
ミントちゃん、いっぱいちゅき♡
電車に乗り、場所は変わってミゲル区。
線路を挟んで
駅のホームにはトマトゼリーの自販機があって、そこで買い占めた結果、持ち運べなくなってるところをみんなで手分けしたんだったかな。閑話休題。
「まぁ、ご褒美っていうか実情はお礼なんだけどね……ごめんね、チェリちゃん。あたしの追試に付き合ってもらっちゃって……」
「また試験に落ちちゃったの?」
「そうなんだよぉ〜! 聞いてよ! あの時ね、三が出てたら受かったかもしれないの!」
「もしかして鉛筆転がしてない?」
アイスのキッチンカーに目を輝かせたり、肩を落としたり、ワタシの手を握って愚痴ったり、ミントちゃんの表情筋は今日も大忙し。
今日ワタシ達がミゲル区に来た主な理由は、ミントちゃんの追試だったりする。厳密には追試資格の取得。
ミントちゃんは戦闘能力こそピカイチだけど、どうにもお勉強が苦手みたいで、定期的に行われてる管理局のテストではほぼ毎回追試を食らっている。大抵は普通に追試を受けさせてもらえるんだけど、あまりにも落ちるものだから補修みたいな形でワタシの外勤に付き添うという課題を出されたらしい。
なんかワタシの付き添いが罰ゲームみたいな扱いになってるのがムカつくな。
とはいえワタシも元囚人。その上、異能が暴走した場合はⅦ級異象として問答無用の排除を推奨されている身なので、確かに端から見たら罰ゲームなのかもしれない。てか、Ⅶ級異象扱いのワタシに単独で付き添わせる時点でミントちゃんは相当有能だと思われてるんじゃないだろうか。
「ミントサンダー無敵トーマス旋回疾風斬!」
適当に駄弁りながら、ワタシ達はミゲル区線路沿いの住宅街を歩いている。
何故かこの道は定期的に異象が出現するスポットで、駅に降り立ってから1時間も経っていないのに、既に4回目の戦闘も終盤に迫っていた。
ミントちゃんの斬撃と異能が生み出す突風がワタシの黒髪セミロングをバサバサ〜と揺らす。
目を開ければ異象が赤黒い煙となって消えていくのが見えた。お見事!
ワタシも大太刀を振り抜き、最後の1体を排除!
「はぁー疲れたー! もぉ多すぎだよぉ〜」
「ね。ホントなんなのこの地区? 呪われてるんじゃないかな」
「よしチェリちゃん! 一旦休憩! 甘いの食べに行くよ!」
「あれ? 仕事終わりにアイス食べるんじゃなかったっけ?」
「終わりにも食べます! でも休憩でも食べます! 頑張った日はね……どれだけ甘いの食べても良いんだよ?」
「……天才か?」
「というわけで、チェリちゃんは何食べたいかな? ヘテロシティのグルメ辞典、ミント選手がどこでも連れてってあげる!」
「マリトッツォ!」
「ごめん。それはもうどこにも売ってない」
なん……だと……っ⁉︎
「あの絶望的に食べにくい上に大して美味しくもない、SNSの流行り廃りで消費される為だけに生まれたようなあの子は……もう食べられないの?」
「チェリちゃん、本当はマリトッツォのこと嫌いじゃない?」
ワタシが
それは、中のクリームが溢れ出してほっぺに付いてしまうこと!
猫耳が生えてるわりに性格が大型犬みたいなミントちゃんなら、ワタシのほっぺに付いたクリームを舐め取ってくれると確信している! だから願った! マリトッツォが食べたいと‼︎
なのに……なのに! もうあの子はどこにもいない! こんな不条理が世の中に蔓延っていいのか⁉︎許されるのか⁉︎
ワタシはただ、ミントちゃんにほっぺをペロペロして欲しいだけだと言うのに! そして可能ならワタシもミントちゃんをペロペロしたい‼︎
悔しさのあまり四つん這いになり拳で地面を叩く。生身の方でやると痛いから
「あ、あー……じゃあシュークリームにしよう! ほら、マリトッツォもシュークリームもほとんど一緒じゃない? 見た目とか」
「……天才か?」
なるほど。マリトッツォが一瞬で消えた理由がよく分かる。
機嫌が直ったワタシはミントちゃんの腕を取り、完全密着でケーキ屋さんへ連れて行ってもらうことに……なんということだ⁉︎
(ワタシの腕が……ミントちゃんのマリトッツォに……沈むッ⁉︎)
ちなみに本来マリトッツォというのはクリームを挟んでいるパンの部分を指すらしい。
ならばワタシの夢、ワタシの望み、ワタシの願いはミントッツォのクリームになることなのかもしれはい。
「———オラァ! 開けんかいボケェ!」
おっぱいへと沈む腕と比例するように欲望の渦へ耽溺するワタシの思考は、野蛮な怒鳴り声で現実に戻された。
「うっわ、なにあれ……」
ワタシ達の視線の先には黒い学生服の男女が5人。
男はリーゼントにバッドで武装し、女はもうそれ履いてる方が逆にエロくない? と言いたくなるような深いスリットの入ったセーラー服を着てる。
ヘテロシティでもよく見かける『カルラ』のメンバーだ。
そいつらがワタシ達の目的地であるケーキ屋さんの扉をバンバン叩いたり、店内のスタッフを睨みつけたり……うんまぁ、端的に言えば威嚇している。
連中の隙間から店内を覗けば、スタッフは女性。しかも美人。おっとこれは早く仕留めに掛からなければ!
名残惜しくもミントちゃんから離れ、背中の大太刀を抜きながらダッシュで接近。
飛び上がって唐竹割りの軌道で男連中に斬りかかる。
「死ねぇー!」
「「「「 危ねぇ⁉︎ 」」」」
チッ、避けられた。大太刀を掠めた男Aのリーゼントがハラリと地面に落ちる。
連中が驚いている隙に素早く扉の前に移動し、背中で守る位置に。肩越しに店内を見れば、美人スタッフ2名が抱き合いながら涙目でワタシを見ていた。
管理局の職員証をかざして、暗にワタシが味方であることを伝えれば、心の底から安堵した表情になる。
「チェリちゃん! 一度警告! 攻撃は警告してからじゃないとダメだよ!」
「異象管理局の者です。男は殺し、女は捕える為に攻撃をするから無駄な抵抗はやめろ!」
「それは警告じゃなくて宣戦布告! ていうか文言があまりにも蛮族過ぎない⁉︎」
追い付いてきたミントちゃんに連中の向こう側から怒られてしまった。泣けちゃう。
今やカルラの5人はワタシとミントちゃんに挟まれている状態。数的有利はそちらにあるが、管理局の面々と分かれば大人しく退散するだろう。
そう思ったんだけど……
「て、てめぇ! よくも俺の髪切りやがったな!」
ワタシがリーゼントを斬り落とした男Aがバッドを構えて臨戦態勢に入った。どうやら冷静さを失ってしまったみたいだね。まったく男ってのはすぐ頭に血が上るから嫌だ嫌だ。
ワタシは大太刀を背中に納めて、説得の姿勢に入る。
「うるせぇバーカ! なんだその髪型! なんて注文したらそんな風になるんだよ言ってみろ!」
「人のこと言えた義理かブス! そっちこそなんだ黒髪セミロングってよ! キャラが立ってねぇんだよ!」
「言いやがったなゴミカス! どいつだワタシの髪型おディスりあそばされたのは⁉︎」
「俺だよ! 今の今までずっと俺しか喋ってねぇだろうが⁉︎」
「なんで髪型だけじゃなくて顔と声帯まで同じなんだよ! 見分けも聞き分けもつかないんだよモブ顔!」
男4人が同じ顔を一瞬見合わせ、一斉にバッドで殴りかかってくる。
「ごめんミントちゃん! 説得失敗した!」
「だろうね⁉︎一から十まで煽り散らかしてたもん!」
ワタシはミントちゃんに謝りながら、4人のバッド攻撃を捌く。
こいつらは全員デュラハンという異象から異能を授かっている異能者。
蒼い炎を纏わせたバッドの攻撃に苦戦する。
(くっそ、ワタシ対人戦苦手なのに!)
物体
理由は単純に運動エネルギーを打ち消せないから。
シンプルなド突き合いとなると、ワタシは身体能力一本勝負で戦うしかない。
「こんにゃろ!」
とはいえ、所詮は街の不良。人間にバットをフルスイングする度胸は脅威だけど、モーションそのものは大きい。
まずは男AとBのフルスイングを躱す。
Cの一撃は避けられないと判断したので、
防いだ右腕でそのままバッドを掴み、鼻っ柱に左掌底を1、2、3発! 痛みで力が抜けたので無理矢理バッドを奪い取り、お返しに
「ぎにゃあ⁉︎」
汚い悲鳴を上げながら片足を抑えてピョンピョンする男Cに追い打ちを掛けようとしたところで、最後のDがバレーボールのスパイクをするように蒼い炎を撃ち込んできやがった。
「オラァ!」
「クーリングオフじゃい!」
我がプリティフェイスに迫る火球を斬り上げで打ち返そうとするが、スゥとすり抜けて顔面に直撃した。
しかし異能100%の攻撃は当たった瞬間に打ち消せるので問題なし。なんの脈絡も無く無効化された自分の攻撃に驚いている男Dの着地に合わせて、ワタシはバッドをオーバーハンドスローでぶち当たる。
残念ながら投げたバッドは防がれ、元の
「ちょっ……危なかっ! ……ひぇ……ぶひぃ⁉︎」
意趣返しのつもりか、ワタシの美脚を狙った上下を交えた波状攻撃はなかなかに厄介。
背中の大太刀を再度抜く暇も無いくらいで、敵ながら良い連携してやがるよこんちくしょー!
入り乱れる連続攻撃に、もうAだかBだかCだか誰だか分からなくなってきた! あ、おめぇはリーゼントの先端がないからAか。
てか無理! やっぱ対人戦きつい!
「ミントちゃん‼︎チェンジプリーズ! こっちの相手しんどい」
空色のメッシュが入った番長らしき女の子とチャンバラを演じるミントちゃんへ、ワタシは堪らず泣き言を叫ぶ。
あちらはあちらで、二刀流vs二刀流の熱い戦いをしてるんだけど……ごめんなさい。多人数よりは1対1の方がまだやれます。
「OKチェリちゃん! こっち任せた!」
攻撃を弾いたミントちゃんは、女番長の肩を踏んで跳躍。さらに空中で異能を使い加速して、ワタシの真横に着地した。
「次はチェリちゃんの番!」
何故かワタシに斬り上げのような軌道で剣を振ってくるミントちゃんに一瞬ビビりつつも、すぐに意図を察することができた。
迫る双剣の峰に片足ずつジャンプで飛び乗り、異能で吹っ飛ばされるワタシ。あいきゃんふらーい!
男4人を飛び越え、女番長の真上で抜刀。勢いそのままに振り下ろし!
X字に構えられた二刀とぶつかり火花を散らす。
「選手交代! やっぱり女の子相手の方がやる気出るってもんだよ!」
「あいつら相手に苦戦してた奴がずいぶん余裕じゃないか!」
「タイマンの方がまだ得意なもんで……ねっ!」
刃を交えたまま着地したワタシは大太刀を振り上げ、その重さに任せて体を反らしながら二刀の交点を蹴り上げる。
振り上げた大太刀を逆手に持ち変え、バンザイの姿勢でガラ空きになった胴体へ横薙ぎ一閃。
下がって避けられるが、もちろんそのまま逃しはしない。全身の回転や前腕でバトンのようにクルクル持ち変えて5連撃の猛攻を放つ。
大太刀の長い間合いを活かした一方的な斬撃の最後の一振りを、フッと消えて躱わされる。
「パンツ丸見えだよ、レディ?」
いつの間にかワタシの前方斜め上空でふわふわ浮いてる番長に言ってやった。
動揺の1つでもしてくれたらなと思ったけど、特にそんな様子はない。さては見せパンだな?
男連中と同じく二刀に蒼い炎っぽいものを纏わせて構える姿は、明らかに大技を放ちますって感じだ。
よろしい。受けて立ちましょう!
大太刀を鞘に収めて腰溜めに———抜刀術の構え。
「さぁ来いパンモロ番長!」
「パンモロ言うな!」
あ、ちゃんと気にしてた。
巨大鋏を作るような形で突っ込んでくる番長。
対してワタシは大太刀を右手で抜き放ち———当然刃渡りがワタシの右腕より長いので抜き切れない。でも問題なし!
中途半端に抜刀された大太刀の鍔に足先を引っ掛け、前蹴りの要領で射出する。
「きゃっ⁉︎」
まさか武器が飛んでくるとは思わなかったらしい女番長は、可愛らしい悲鳴を上げて防ぐしかない。
途中で大技をキャンセルされ地面に落ちてきたところを、ワタシは鞘で追い打ち。彼女の持つ二刀を弾き飛ばした。
相手が男ならこのまま鞘で滅多打ちにしてやるところだけど、嬉し……じゃなくて悲しいことに相手は女の子。そんな乱暴なことはできませんよ。
てなわけで鞘をポイ捨てして徒手空拳の間合いまで入り込み足払い。バランスを崩したところを押し倒し、両膝で相手の二の腕に乗る
「ふへへ〜。さぁさぁ楽しいボディーチェックの時間だよ?」
ワタシの股の下には女番長のマリトッツォ(隠語)が鎮座している。
そちらを美味しくいただいてもいいし、スリットの隙間から伸びる瑞々しいおみ足をソフトクリーム(隠語)にしても良い! ひゃっはー‼︎
こちらの戦闘はひと段落付いたのでミントちゃんの様子を見やれば、異能で竜巻と化して男4人をまとめて蹴散らしていた。
なんだそのアクションRPGゲームで例えると通常攻撃長押しみたいな技は。ワタシもやりたい!
「チェリちゃんお疲れ〜! ……って、なんでその人の服の中に手突っ込んでるの?」
「あーいやほら、なんか武器とか隠し持ってたら怖いじゃない? だからボディーチェックをね」
「なるほど賢い! あたしもやった方がいいよね!」
「逃げられないように気絶させるか足の腱切っとけばいいよ」
「あまりにも蛮族⁉︎」
危なかった。ミントちゃんに汚い男の体を触らせるわけにはいかないからね。
フレーメン反応みたいな顔で突っ込みを入れてくれたミントちゃんが真似しないよう、ワタシも渋々ボディーチェックを中断させる。とっっっても残念です。
その後はよくある光景が続いた。
異能者の犯罪行為なので異象管理局と治安官のどちらの管轄かは怪しいけど、今回は治安官さん達に引き渡して処理終了。なんかクッキーくれた。
治安官さんがワタシのことをとんでもない目で見ていたけど何だったんだろう? 実はミントちゃんの目を盗んでコソコソ女番長にボディーチェックかましてたの見られてたのかな?
とはいえ一件落着!
ワタシ達は絡まれてたケーキ屋さんから無料でシュークリームを譲ってもらい、活力漲ったところで残りの
「んんん〜! 労働後のアイス最高〜!」
夕陽に照らされながら美味しそうにチョコミントアイスを食べるミントちゃんの笑顔に癒される。
ワタシも大きな口でさくらんぼ味のアイスを頬張った。
「そういえば、チェリちゃんいつもその味だよね? やっぱり
「いや、そう呼んでるのミントちゃんだけだからね?」
ミントちゃんがワタシを『チェリちゃん』と呼ぶのは、単純にワタシからチェリー———さくらんぼのような匂いがするかららしい。
香水は使わないし、ボディーソープやシャンプー類にそういった香りのものは使ってないんだけど……まぁ不思議なものだよね。
てか、さくらんぼって言うほど匂いあるかな?
ミントちゃん曰く『2つで1つの、渋さの中に優しい甘さがある匂い』とのこと。たぶん単純な匂いじゃなくて概念的なものも嗅ぎ取ってるのかもしれない。
とはいえ、ミントちゃんのような美少女に『チェリー』と連呼されると、なんとも言えない胸の高鳴りが湧いてくる。もし男なら傷付いてたのかな?
ワタシほどのレベルになれば、もはや興奮しかない。
「呼び方は関係無いよ」
スプーンでアイスを一口分掬い、ミントちゃんに差し出す。
夕陽に負けないくらい目を輝かせたミントちゃんはパクリ。お返しに差し出されたチョコミントをワタシもいただく。やったぜ狙い通りの間接キス。
「また一緒にこの味を食べようって約束したから」
妖精のように美しい少女の姿をした
ワタシが異象管理局に入るきっかけとなった最初の事件。
それはワタシの名前が
「よし! 帰ろうか!」
人生を思い返すにはまだ早い。それは死ぬ間際の3年後までとっておこう。
後輩らしくミントちゃんのカップもゴミ箱に捨て、ついでにホームの自販機でトマトゼリーも補充。
車内は少し混んでたけど運良く2人分の席が空いたので並んで座ることができた。
ワタシ達は心地良い電車の揺れで眠りに落ち———めっちゃ寝過ごして管理局に着いたのは夜9時を回ってたんだけど……これって残業代出ますかね?
公式資料———詳細情報
ブロッサムという少女が管理局に雇用されるまでの半生は、ごく短い文章で語ることができる。
なんとなく出来そうだからという理由で作られた。
思ったものと違ったという理由で見放された。
でもどこかで使えるかもしれないからという理由で保管された。
当時の彼女が過ごす10メートル四方の白い部屋にあった物は、ペット用の自動餌やり機と国語辞典が1冊のみ。
昼と夜の2回に分けて食パンが1枚ずつ配給され、そこに餌やり機から出てくる栄養サプリメントを載せて齧る。あとはひたすら国語辞典を捲る日々。彼女の世界は完結していた。
ある日唐突に、その世界に異物が現れる。
完結した世界を壊したのは、姉を自称する白髪の姉妹。黒髪の自分の姉が白髪というのに、ほんの少しの疑問を持った。
聞くところによると、血の繋がりは無いらしい。
それどころか、2人も血の繋がりは無い姉妹とのことだ。それどころか自分には2人以外にも大量の姉がおり、全員血の繋がりはないらしい。
ブロッサム———当時の名前は『桜花』———は、ひどく困惑した。外の世界では血の繋がらない姉妹という存在がメジャーなのかもしれない。
桜花は自称姉の2人から自身の生い立ちを知る。
2人は組織の工作員で、ボスは母親。
そのボスの命令で造られたが、成長するに連れて能力が低下したことにより半ば捨てられている状態らしい。
ちなみに家系図に記すと、桜花は自称姉の叔母にあたり、2人は姉ではなく姪とのことだ。もはや意味が分からない。
後に知ることとなる。
姉(姪)2人が所属する組織の名前は『スカーレット・レター』。
2人の組織内でのコードネームは『赤葵』と『一品紅』。
そして自分は組織のボス————『マダムT』のクローンである、と。