ラグナロクは終わった。
神――零勝。
人類――零勝。
引き分け――十三。
勝者はいなかった。
敗者もいなかった。
そして。
世界は残った。
◇ ◇ ◇
誰にも認識することのできない場所。
神々ですら辿り着けない、世界の外側。
そこに、一人の存在がいた。
始祖。
神々よりも上位にあり、人類からはあまりにも遠く。
世界そのものを管理する者。
「…………」
始祖は、一つの世界を見つめていた。
神々によるラグナロク永久禁止の決議。
十三人の子供たちのために建てられた、小さな碑。
そして。
誰もいなくなったヴァルハラ闘技場に並ぶ、十三本の花。
何も言わず。
ただ、それらを見ていた。
「珍しいな」
不意に、声がした。
「…………」
始祖は振り返らない。
いつの間にか、もう一人の存在が傍らに立っていた。
始祖とほぼ同じ役割を持ちながら、別の世界を管理する者。
彼らは互いを。
――観測者。
そう呼んでいた。
「お前が、一度見限った世界をまだ見ているとは思わなかった」
「…………」
始祖は答えない。
「それだけではない。処分まで撤回した」
「…………」
「お前が、だ」
観測者は僅かに面白そうな顔をする。
「一度下した裁定を、自分から覆した。そのうえ、あの世界の者たちへ真相まで教えてやったそうじゃないか」
「…………」
「随分と親切になったものだ」
「違う」
ようやく、始祖が口を開いた。
「親切ではない」
「なら」
観測者は始祖の隣へ並ぶ。
「なぜだ?」
「…………」
「なぜ、そこまでした?」
始祖は答えなかった。
ただ。
十三本の花を見つめていた。
そして。
静かに、過去を思い返した。
◇ ◇ ◇
始まりは、ラグナロクだった。
神々が人類の存亡を決め。
人類がそれへ抗う。
十三対十三。
神と人。
勝者と敗者。
そして。
敗者は、魂ごと完全に消滅する。
「…………」
始祖は、その光景を見ていた。
落胆した。
だが。
その時点では、まだ見限ってはいなかった。
「……またか」
小さく呟いただけだった。
世界は、長い時間の中で何度も過ちを犯す。
神も。
人も。
間違える。
それ自体は珍しいことではない。
だから始祖は考えた。
この世界を、一度終わらせる。
ただし。
すべてを完全に消し去るわけではない。
再編する。
神々も。
人類も。
一度、白紙へ戻す。
そして。
もう一度、世界を作り直す。
同じ過ちを繰り返さないために。
今度こそ、神と人が互いを一つの存在として尊重できる世界を。
そのためには。
新しい世界の核となる者たちが必要だった。
◇ ◇ ◇
選定は本来、無作為に行われる。
年齢。
性別。
出身。
生前の境遇。
それらは関係ない。
無数の魂から必要な数だけを選び。
一部は人として。
一部は神として。
再編後の世界へ送り込む。
旧世界の失敗を知った者たちが、異なる立場から新しい世界を作っていく。
それが、始祖の計画だった。
そして。
十三の魂が選ばれた。
「…………」
始祖は最初。
選定に何らかの不具合が生じたのだと思った。
十三人。
全員。
五歳。
「……?」
確認する。
だが、間違いではない。
死亡時の年齢。
十三人すべてが五歳だった。
しかも。
奇妙なのは、それだけではない。
病。
事故。
遺棄。
虐待。
飢え。
死に至った理由はそれぞれ違う。
だが、一つだけ。
明確な共通点があった。
誰にも愛されていない。
少なくとも。
自分が誰かにとって大切な存在だったと信じることのできないまま。
十三人全員が死んでいた。
「…………」
始祖は、選定機構をもう一度調べた。
異常なし。
無作為選定。
正常。
ならば。
「あり得ない」
十三人全員が五歳。
さらに、ここまで似た境遇。
偶然で片付けられる確率ではない。
「…………」
始祖は。
ゆっくりと上を見た。
自分よりも。
さらに上。
「……誰かが」
いるのか。
自分たちよりも上位に位置する。
何かが。
「…………」
証拠はない。
答えもない。
ただ。
十三人の子供たちだけが、そこにいた。
◇ ◇ ◇
「ここ、どこ?」
一人の子供が尋ねた。
「…………」
「おうち?」
「ママは?」
「…………」
始祖は、すぐには答えられなかった。
十三人は。
自分たちが死んだことすら、完全には理解していない。
「…………」
始祖は彼らを見つめた。
この十三人を。
次の世界へ送り込む。
一部は神として。
一部は人として。
ならば、その前に。
なぜ今の世界を終わらせるのか。
何が間違っていたのか。
それを見せておくべきだと思った。
「見るか?」
十三人が首を傾げる。
「なにを?」
「今の世界を」
◇ ◇ ◇
映し出されたのは。
神々。
人類。
そして、ラグナロク。
「すごい」
「おっきい」
「こわい……」
最初は。
そんな反応だった。
神と人が戦う。
拳。
武器。
血。
歓声。
やがて。
一人の子供が尋ねた。
「ねえ」
「…………」
「負けた人は、どうなるの?」
「消える」
「消える?」
「存在そのものが」
「…………」
「もう会えない?」
「会えない」
「ずっと?」
「そうだ」
「…………」
十三人が静かになった。
そして。
一人が。
ぽつりと呟いた。
「……かわいそう」
「…………」
始祖は、僅かに言葉を失った。
想定していなかった。
この世界の何が間違っていたのか。
神々の傲慢。
人間たちの愚かさ。
それを見せ。
次の世界では同じことをしてはいけないと学んでもらう。
そのつもりだった。
だが。
十三人が最初に気にかけたのは。
そこではなかった。
「引き分けにできないの?」
「…………」
始祖が目を細める。
「何?」
「どっちも負けなかったら」
子供は画面を見る。
「誰も消えないんでしょ?」
「…………」
「じゃあ」
無邪気に。
そう言った。
「引き分けにしてあげて」
「…………」
始祖はしばらく黙っていた。
そして。
はっきりと言った。
「駄目だ」
「どうして?」
「お前たちは、次の世界へ行く」
「…………」
「そこから、もう一度世界を作る」
「…………」
「だから」
少しだけ強く。
「旧世界のために、自分たちを使う必要はない」
「…………」
十三人は顔を見合わせる。
やがて、一人が言った。
「でも」
「…………」
「負けた人、消えちゃうんでしょ?」
「…………」
「だったら」
困ったような顔で。
「かわいそうだよ」
◇ ◇ ◇
始祖は説明した。
ラグナロクへ直接干渉することはできる。
結果を変えることも可能。
だが。
代価が必要になる。
「だいか?」
「一試合につき、一人」
「…………」
「願った者自身が、完全に消える」
「…………」
わざと難しい言葉は使わなかった。
五歳の子供たちにも分かるように。
はっきりと伝えた。
「お前自身がいなくなる」
「…………」
「二度と生まれない」
「…………」
「どこにも行けない」
「…………」
「完全に、消える」
「…………」
十三人が黙った。
これで諦める。
始祖は、そう思った。
当然だった。
彼らはまだ五歳。
本来なら。
次の世界で、もう一度生きるはずだった。
今度は誰かに愛されるかもしれない。
誰かに必要とされるかもしれない。
幸せになることだってできる。
それなのに。
一人。
小さな手が上がった。
「じゃあ」
「…………」
「ぼくので、いいよ」
「…………」
始祖は言葉を失った。
「何を言っている」
「だって」
子供は画面を見る。
「負けた人、消えちゃうんでしょ?」
「…………」
「ぼくが消えたら、その人は消えなくていいんでしょ?」
「…………」
「なら」
笑った。
「いいよ」
◇ ◇ ◇
「駄目だ」
始祖は、もう一度拒否した。
「でも」
「駄目だ」
「なんで?」
「お前は」
思わず。
声が少し強くなる。
「これから生きる」
「…………」
「次の世界で、今度こそ……」
そこで。
言葉が止まった。
幸せに。
そう続けるつもりだった。
「だから、消える必要はない」
「…………」
子供は首を傾げる。
「でも」
「…………」
「あの人も、生きたいんじゃないの?」
「…………」
始祖は答えられなかった。
「だったら」
子供はもう一度笑う。
「やっぱり、ぼくのでいいよ」
「…………」
すると。
その隣で。
もう一つの手が上がった。
「わたしも」
「…………」
「ぼくも」
「わたしも」
一人。
また一人。
十三人全員が、小さな手を上げる。
「やめろ」
始祖は。
初めて命令した。
「やめろ」
それでも。
誰一人、手を下ろさなかった。
「みんな引き分けなら」
一人が笑う。
「誰も、いなくならないんでしょ?」
「…………」
その時。
始祖は初めて。
自分には、この子たちを止められないのかもしれないと知った。
◇ ◇ ◇
第一回戦。
トール対、呂布奉先。
決着の瞬間。
一人目の子供が始祖の前へ立つ。
「……本当に、いいのか」
「うん」
「…………」
「ありがとう」
「何が」
「お願い、聞いてくれて」
「…………」
子供は。
嬉しそうに笑った。
そして。
消えた。
光になったわけでもない。
煙になったわけでもない。
そこにいた存在が。
ただ。
どこにもいなくなった。
「…………」
始祖は動かなかった。
ラグナロク第一回戦。
引き分け。
トール生存。
呂布生存。
その裏側で。
一人の子供が。
永遠に消えた。
◇ ◇ ◇
第二回戦。
二人目。
――ありがとう。
第三回戦。
三人目。
――お願い聞いてくれて、ありがとう。
第四回戦。
四人目。
――これで大丈夫だね。
第五回戦。
五人目。
――みんな生きてる?
第六回戦。
六人目。
――よかった。
「…………」
始祖は。
そのたびに止めた。
何度も。
もういい。
撤回していい。
まだ間に合う。
だが。
誰一人として。
願いを撤回しなかった。
そして。
第七回戦。
◇ ◇ ◇
ハデス対、始皇帝。
七人目。
「ありがとう」
「…………」
「みんな、大丈夫?」
「ああ」
「そっか」
子供は笑った。
「よかった」
そして。
消えた。
「…………」
始祖は。
残された六人を見た。
七試合。
七引き分け。
七勝という勝利条件は。
もう達成できない。
ここで終わる。
そう思った。
これ以上。
誰も消えなくていい。
だが。
神々の会議から。
声が届いた。
――十三戦で足りぬなら、もう十三戦やればよい。
「…………」
始祖の目が細くなる。
――第二回でも決まらぬなら、第三回。
そして。
人類側。
ブリュンヒルデの声。
――そこまで私たちの勝敗を消したいのなら。
――どちらが先に折れるか。
――付き合ってあげます。
「…………」
その瞬間。
始祖の中で。
何かが切れた。
「……もういい」
低い声だった。
「…………」
残る六人が始祖を見る。
「もういい」
「どうしたの?」
「お前たちは」
始祖ははっきりと言った。
「消える必要はない」
「…………」
「願いを撤回しろ」
「…………」
「これ以上」
その声から。
温度が消える。
「あの世界を救う必要はない」
「…………」
六人が顔を見合わせた。
「奴らは終われた」
「…………」
「それでも続けることを選んだ」
「…………」
「意地で」
「好奇心で」
「自分たちに干渉する存在への対抗心で」
「…………」
始祖は。
初めて。
明確に言った。
「お前たちの存在を使ってまで」
「救う価値などない」
「…………」
六人は。
しばらく黙っていた。
やがて。
一人が尋ねた。
「でも」
「…………」
「まだ戦うんでしょ?」
「……そうだ」
「じゃあ」
少し不安そうに。
「また、負けた人はいなくなっちゃう?」
「…………」
「そうなる」
「…………」
子供は俯いた。
しばらく考えた。
そして。
顔を上げた。
「じゃあ」
小さく。
しかし。
はっきりと。
「やめない」
「…………」
始祖が目を見開く。
「何?」
「だって」
「…………」
「かわいそうだよ」
「…………」
始祖は。
何も言えなかった。
そして。
初めて。
尋ねた。
「……なぜだ」
「?」
「なぜ、そこまでして救う」
「…………」
「お前たちを愛さなかった世界だ」
「…………」
「お前たちを必要としなかった者たちだ」
「…………」
「それなのに」
始祖の声が。
わずかに揺れる。
「なぜ」
「そこまでして救おうとする」
「…………」
子供は。
困ったように首を傾げた。
「わかんない」
「…………」
「でも」
少し考えて。
いつものように。
答えた。
「消えちゃうのは、かわいそうだから」
「…………」
それだけだった。
始祖には。
もう。
何も言えなかった。
◇ ◇ ◇
第八回戦。
八人目。
――ありがとう。
第九回戦。
九人目。
――みんな、生きてる?
第十回戦。
十人目。
――よかった。
第十一回戦。
十一人目。
――お願い聞いてくれて、ありがとう。
第十二回戦。
十二人目。
――あと一人だね。
「…………」
始祖は。
もう何度口にしたのか分からない。
やめろ。
撤回しろ。
お前たちは消える必要などない。
それでも。
誰も止まらなかった。
そして。
最後。
第十三回戦。
◇ ◇ ◇
最後の一人。
五歳の子供が。
始祖の前に立っていた。
「…………」
始祖には。
もう説得の言葉が残っていなかった。
ただ。
一つだけ。
尋ねた。
「……本当に、いいのか」
「うん」
「…………」
「これで」
最後の子供が笑う。
「みんな、消えないんでしょ?」
「ああ」
「神様も?」
「ああ」
「人も?」
「ああ」
「そっか」
嬉しそうに。
「よかった」
「…………」
そして。
少し照れたように笑って。
「ありがとう」
「…………」
「お願い聞いてくれて」
「…………」
始祖は。
その顔から目を逸らせなかった。
「あとね」
「…………」
「みんなに言ってほしい」
「何を」
「もう」
子供は言った。
「けんかしないでって」
「…………」
「なかよくしてねって」
「…………」
「しあわせになってねって」
「…………」
「言ってくれる?」
「…………」
始祖は。
長い間。
答えられなかった。
それでも。
最後には。
「……ああ」
静かに答えた。
「約束する」
「うん」
子供は。
とても嬉しそうに笑った。
「ありがとう」
そして。
消えた。
「…………」
十三人がいた場所には。
もう。
誰もいなかった。
始祖は。
長い間。
そこから動かなかった。
◇ ◇ ◇
本来なら。
その後。
神界も。
人界も。
消去するはずだった。
裁定は、すでに下していた。
ラグナロク。
存在の消滅を伴う戦いを。
歓声を上げ。
娯楽のように扱った。
そして。
第七戦で終われたにもかかわらず。
意地と対抗心で。
最後まで戦い続けた。
始祖は。
完全に。
あの世界を見限っていた。
「…………」
消去。
実行。
その直前。
蘇った。
――けんかしないでね。
「…………」
幻聴ではない。
ただの。
記憶。
――みんな、なかよくしてね。
「…………」
十三人の顔が。
一人ずつ。
浮かんだ。
――ありがとう。
――お願い聞いてくれて。
――よかった。
――みんな生きてる?
「…………」
始祖の手が。
止まった。
本来なら。
迷わない。
一度下した裁定を。
感情で覆すことはない。
世界の管理とは。
そういうものではない。
それでも。
消せなかった。
「…………」
理由は。
分かっていた。
認めるまでに。
少し時間がかかっただけだった。
あの子たちが。
自らの存在を使って守った世界。
その世界を。
自分の手で消す。
それは。
十三人の選択を。
十三人の最後を。
すべて無意味にすることと同じだった。
「…………」
始祖は。
長い沈黙の後。
裁定を変更した。
世界消去。
撤回。
一度決めたことを。
自ら覆した。
初めてのことだった。
だが。
後悔は。
なかった。
◇ ◇ ◇
「だが」
観測者の声が。
始祖を現在へ引き戻した。
「処分を撤回した理由は分かった」
「…………」
「だが、それだけならまだ理解できる」
観測者が始祖を見る。
「なぜ真相まで教えた?」
「…………」
始祖は再び。
世界へ視線を戻した。
ブリュンヒルデ。
十三戦の記録を何度も調べる。
分からない。
なぜ。
十三試合すべてが引き分けたのか。
誰が。
何のために。
「…………」
始祖は。
それを見ていた。
本来なら。
放っておけばいい。
一度見限った世界。
これ以上関わる理由などない。
だが。
いつまで経っても。
頭から消えなかった。
十三人の笑顔。
――ありがとう。
「…………」
始祖は。
一枚の紙を用意した。
十三回の引き分け。
その理由。
始祖の存在。
十三人の願い。
代価。
そして。
自らが下した裁定。
すべてを書いた。
「…………」
そして。
送った。
理由を問われれば。
自分でも。
完全には説明できなかった。
ただ。
一つだけ。
確かなことがあった。
「約束した」
「何?」
観測者が見る。
「最後の一人と」
「…………」
「伝えると」
始祖は。
世界を見つめたまま言った。
「もう、けんかしないで」
「なかよくして」
「幸せになってほしいと」
「…………」
「だから」
始祖は静かに言う。
「伝えた」
◇ ◇ ◇
そして。
神々は真相を知った。
人類も知った。
泣いた。
悔いた。
謝った。
感謝した。
そして。
ラグナロクは。
永久に禁じられた。
十三人のために。
小さな碑が建てられた。
誰もいない闘技場には。
十三本の花が置かれた。
「…………」
始祖は。
そのすべてを見ていた。
「どうだった?」
観測者が尋ねる。
「…………」
「お前が見限った神と人は」
「…………」
始祖は少し考える。
「愚かだ」
「変わらないか?」
「愚かだ」
もう一度。
はっきりと言う。
「簡単には変わらない」
「…………」
「同じ過ちを、また犯すかもしれない」
「なら」
観測者が僅かに笑う。
「やはり、見限ったままか?」
「…………」
始祖は答えない。
世界を見る。
ゼウスがラグナロクを禁じる。
アダムが十三人へ謝る。
トールが頭を下げる。
ポセイドンが目を伏せる。
ハデスと始皇帝が、彼らの残した世界を守ると約束する。
ブリュンヒルデが。
十三本の花を。
一つずつ。
置いていく。
「…………」
やがて。
始祖の表情が。
ほんの僅かに。
和らいだ。
「多少は」
「ん?」
「見直した」
「…………」
観測者が。
少しだけ驚く。
「お前が?」
「何だ」
「いや」
観測者は小さく笑った。
「珍しいと思ってな」
「…………」
「それで?」
「何が」
「まだ見ている理由だ」
「…………」
「処分は撤回した」
「約束も果たした」
「真相も伝えた」
観測者は十三本の花を見る。
「なら、もう見る必要はないだろう?」
「…………」
始祖は。
すぐには答えなかった。
長い沈黙。
視線の先。
十三人のために建てられた碑。
そこに刻まれた。
一つの言葉。
――もう、けんかしないでね。
「…………」
やがて。
始祖は静かに口を開いた。
「もう一度」
「…………?」
「見てみたくなった」
観測者が目を細める。
「何を?」
「この世界を」
「…………」
「あの子たちが」
始祖は。
十三本の花を見る。
「自分たちのすべてを使って」
「残した世界が」
「…………」
「これから」
「どうなるのか」
ほんの僅か。
始祖は笑った。
「もう一度」
「見てみようと思った」
「…………」
観測者は。
その横顔を見た。
そして。
「そうか」
それ以上。
何も言わなかった。
◇ ◇ ◇
始祖は。
世界を見続けた。
一度は見限った世界。
消すはずだった世界。
それでも。
十三人の子供たちが。
自分たちの存在と引き換えに。
残した世界。
神。
人類。
そして。
もしかすると。
救われたのは。
それだけではなかったのかもしれない。
「…………」
始祖は目を閉じる。
今でも。
はっきりと思い出せる。
十三人の。
最後の笑顔。
――ありがとう。
「…………」
目を開く。
世界を見る。
今度は。
裁くためではない。
終わらせるためでもない。
ただ。
見届けるために。
十三人の子供たちが。
最後に残した世界を。
始祖は。
もう一度。
見始めた。
――終――
以上で終わりとなります。
ここまで読んで下さりありがとうございます。