無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第四章 努力の一歩

 

初夏の青空が、校庭いっぱいに広がっていた。

 

休み時間。

 

子どもたちは元気いっぱいに校庭を駆け回っている。

 

「待てー!」

 

「捕まえてみろー!」

 

笑い声があちこちから聞こえてくる。

 

出久も楽しそうに走っていた。

 

「やったー!」

 

鬼ごっこをしていた男の子が、高く跳び上がる。

 

「すごーい!」

 

周りの子どもたちが歓声を上げた。

 

出久も思わず拍手をする。

 

「すごいね!」

 

みんなが少しずつ個性を使いながら遊べるようになっていた。

 

その姿は、とても楽しそうだった。

 

出久は笑顔で見つめながらも、そっと自分の手を握る。

 

(わたしにも……。)

 

(何かできること、あるかな。)

 

その小さな想いは、胸の奥へ静かにしまわれた。

 

---

 

放課後。

 

「勝己!」

 

校門を出ると、出久が笑顔で駆け寄る。

 

勝己は振り返り、小さくうなずく。

 

「おう。」

 

二人は並んで帰り道を歩き始めた。

 

しばらく歩いたところで、勝己が急に立ち止まる。

 

「あそこ。」

 

指差した先には、大きな木が立っている。

 

「競争。」

 

「え?」

 

出久が首をかしげる。

 

勝己は少しだけ笑った。

 

「よーい。」

 

「どん。」

 

その瞬間。

 

勢いよく走り出した。

 

「わっ!」

 

「待ってー!」

 

出久も慌てて追いかける。

 

ランドセルを揺らしながら、一生懸命走る。

 

けれど。

 

勝己との差はどんどん開いていく。

 

先に大きな木へ着いたのは、もちろん勝己だった。

 

「はぁ……。」

 

息を切らしながら、出久もようやくたどり着く。

 

「また負けたぁ。」

 

勝己は少しだけ笑う。

 

「当たり前だ。」

 

その言葉に、出久も苦笑いするしかなかった。

 

---

 

その夜。

 

出久は机へ向かった。

 

ヒーローノートを開く。

 

一ページ目には、

 

『たすける。』

 

『えがお。』

 

幼い字が並んでいる。

 

そのページを眺めながら、今日のことを思い出す。

 

勝己の背中。

 

追いつけなかったこと。

 

そして、自分が口にした願い。

 

「勝己の隣に立てる人になりたい。」

 

出久は小さくつぶやく。

 

「そのために……。」

 

少し考える。

 

自分には個性はない。

 

でも。

 

走ることなら。

 

今からでも始められる。

 

誰かを助けるために、できることを少しずつ増やしていきたい。

 

その瞳に、小さな決意が宿った。

 

---

 

翌朝。

 

まだ少し眠たそうな空の下。

 

出久は運動靴を履き、玄関で靴ひもを結んでいた。

 

その様子に気づいた引子が、不思議そうに声をかける。

 

「あら?」

 

「今日は早いの?」

 

出久は少し照れくさそうに笑う。

 

「うん。」

 

「ちょっと走ってみようかなって。」

 

引子は少し驚いた表情を浮かべた。

 

でも、その理由を聞こうとはしなかった。

 

代わりに、優しく微笑む。

 

「そう。」

 

「気をつけて行ってらっしゃい。」

 

出久も笑顔でうなずく。

 

「うん!」

 

「行ってきます!」

 

玄関の扉が開く。

 

朝の澄んだ空気が、ふわりと頬をなでた。

 

出久はゆっくりと走り始める。

 

一歩。

 

また一歩。

 

まだ速くは走れない。

 

長い距離も走れない。

 

それでも、その足は止まらなかった。

 

夢へ向かう一歩は、とても小さい。

 

けれど、その一歩は確かに昨日の自分より前へ進んでいた。

 

朝日が、小さな背中を優しく照らしていた。

 

---

 

数週間が過ぎた。

 

初夏の陽射しは少しずつ強くなり、木々の緑も深みを増していた。

 

朝。

 

まだ町が静かな時間。

 

出久は運動靴を履き、いつものように家を飛び出す。

 

小さな足で、一歩。

 

また一歩。

 

毎朝少しずつ走ることは、いつの間にか出久の日課になっていた。

 

走る距離も少しずつ伸びている。

 

息も、以前ほど切れなくなった。

 

大きな変化ではない。

 

それでも。

 

昨日の自分より、ほんの少しだけ前へ進んでいた。

 

---

 

放課後。

 

「勝己!」

 

出久は笑顔で駆け寄る。

 

「おう。」

 

いつものように二人は並んで歩き始めた。

 

しばらく歩いたところで、勝己が立ち止まる。

 

「あそこ。」

 

前と同じ、大きな木。

 

出久は少し首をかしげる。

 

「……競争?」

 

勝己はにやりと笑う。

 

「よーい。」

 

「どん。」

 

勢いよく駆け出した。

 

「待って!」

 

出久もすぐに走り出す。

 

ランドセルを揺らしながら、夢中で足を動かす。

 

前より速く。

 

前より遠くへ。

 

勝己の背中を追いかける。

 

勝己は少しだけ振り返る。

 

ゴール。

 

やっぱり勝己の方が速かった。

 

「はぁ……。」

 

息を整えながら、出久は笑う。

 

「また負けちゃった。」

 

勝己は、少しだけ目を丸くする。

 

前回よりも、ずっと近くまで追いついていた。

 

「……前より速ぇ。」

 

その一言だった。

 

出久は思わず顔を上げる。

 

「ほんと!?」

 

「あぁ。」

 

勝己は照れくさそうに鼻を鳴らした。

 

「続けろ。」

 

その言葉が、何よりも嬉しかった。

 

「うん!」

 

出久は力いっぱい返事をした。

 

---

 

爆豪家。

 

玄関を開けると、光己が二人を見て笑った。

 

「あら?」

 

「競争?」

 

勝己は短く答える。

 

「おう。」

 

出久は少し照れくさそうに笑う。

 

「えへへ。」

 

「今日も負けちゃいました。」

 

光己はくすっと笑い、台所へ向かう。

 

「はいはい。」

 

「ジュース飲みな。」

 

テーブルに冷えたジュースを二つ並べる。

 

「いただきます!」

 

二人は声をそろえた。

 

コップを手に取り、一口飲む。

 

「おいしい!」

 

出久の笑顔を見て、光己は優しく目を細めた。

 

「いっぱい遊ぶのはいいけど、熱中しすぎるんじゃないよ。」

 

「はーい!」

 

元気な返事が部屋いっぱいに響いた。

 

---

 

その夜。

 

出久は机に向かい、ヒーローノートを開く。

 

新しいページを開くと、鉛筆を握った。

 

幼い文字で、ゆっくりと書いていく。

 

『きょうは』

 

少し考える。

 

そして、嬉しそうに続けた。

 

『まえより はやく はしれた。』

 

もう一行。

 

『もっと がんばる。』

 

書き終えると、出久は小さく笑った。

 

「うん。」

 

ノートをそっと閉じる。

 

まだ小さな努力。

 

でも、その一歩は確かに夢へ続いていた。

 

窓の外では、夕暮れの風が静かに木々を揺らしている。

 

昨日より今日。

 

今日より明日。

 

少しずつ前へ。

 

その積み重ねが、いつか誰かを助けられる自分へつながると信じて。

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