初夏の青空が、校庭いっぱいに広がっていた。
休み時間。
子どもたちは元気いっぱいに校庭を駆け回っている。
「待てー!」
「捕まえてみろー!」
笑い声があちこちから聞こえてくる。
出久も楽しそうに走っていた。
「やったー!」
鬼ごっこをしていた男の子が、高く跳び上がる。
「すごーい!」
周りの子どもたちが歓声を上げた。
出久も思わず拍手をする。
「すごいね!」
みんなが少しずつ個性を使いながら遊べるようになっていた。
その姿は、とても楽しそうだった。
出久は笑顔で見つめながらも、そっと自分の手を握る。
(わたしにも……。)
(何かできること、あるかな。)
その小さな想いは、胸の奥へ静かにしまわれた。
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放課後。
「勝己!」
校門を出ると、出久が笑顔で駆け寄る。
勝己は振り返り、小さくうなずく。
「おう。」
二人は並んで帰り道を歩き始めた。
しばらく歩いたところで、勝己が急に立ち止まる。
「あそこ。」
指差した先には、大きな木が立っている。
「競争。」
「え?」
出久が首をかしげる。
勝己は少しだけ笑った。
「よーい。」
「どん。」
その瞬間。
勢いよく走り出した。
「わっ!」
「待ってー!」
出久も慌てて追いかける。
ランドセルを揺らしながら、一生懸命走る。
けれど。
勝己との差はどんどん開いていく。
先に大きな木へ着いたのは、もちろん勝己だった。
「はぁ……。」
息を切らしながら、出久もようやくたどり着く。
「また負けたぁ。」
勝己は少しだけ笑う。
「当たり前だ。」
その言葉に、出久も苦笑いするしかなかった。
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その夜。
出久は机へ向かった。
ヒーローノートを開く。
一ページ目には、
『たすける。』
『えがお。』
幼い字が並んでいる。
そのページを眺めながら、今日のことを思い出す。
勝己の背中。
追いつけなかったこと。
そして、自分が口にした願い。
「勝己の隣に立てる人になりたい。」
出久は小さくつぶやく。
「そのために……。」
少し考える。
自分には個性はない。
でも。
走ることなら。
今からでも始められる。
誰かを助けるために、できることを少しずつ増やしていきたい。
その瞳に、小さな決意が宿った。
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翌朝。
まだ少し眠たそうな空の下。
出久は運動靴を履き、玄関で靴ひもを結んでいた。
その様子に気づいた引子が、不思議そうに声をかける。
「あら?」
「今日は早いの?」
出久は少し照れくさそうに笑う。
「うん。」
「ちょっと走ってみようかなって。」
引子は少し驚いた表情を浮かべた。
でも、その理由を聞こうとはしなかった。
代わりに、優しく微笑む。
「そう。」
「気をつけて行ってらっしゃい。」
出久も笑顔でうなずく。
「うん!」
「行ってきます!」
玄関の扉が開く。
朝の澄んだ空気が、ふわりと頬をなでた。
出久はゆっくりと走り始める。
一歩。
また一歩。
まだ速くは走れない。
長い距離も走れない。
それでも、その足は止まらなかった。
夢へ向かう一歩は、とても小さい。
けれど、その一歩は確かに昨日の自分より前へ進んでいた。
朝日が、小さな背中を優しく照らしていた。
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数週間が過ぎた。
初夏の陽射しは少しずつ強くなり、木々の緑も深みを増していた。
朝。
まだ町が静かな時間。
出久は運動靴を履き、いつものように家を飛び出す。
小さな足で、一歩。
また一歩。
毎朝少しずつ走ることは、いつの間にか出久の日課になっていた。
走る距離も少しずつ伸びている。
息も、以前ほど切れなくなった。
大きな変化ではない。
それでも。
昨日の自分より、ほんの少しだけ前へ進んでいた。
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放課後。
「勝己!」
出久は笑顔で駆け寄る。
「おう。」
いつものように二人は並んで歩き始めた。
しばらく歩いたところで、勝己が立ち止まる。
「あそこ。」
前と同じ、大きな木。
出久は少し首をかしげる。
「……競争?」
勝己はにやりと笑う。
「よーい。」
「どん。」
勢いよく駆け出した。
「待って!」
出久もすぐに走り出す。
ランドセルを揺らしながら、夢中で足を動かす。
前より速く。
前より遠くへ。
勝己の背中を追いかける。
勝己は少しだけ振り返る。
ゴール。
やっぱり勝己の方が速かった。
「はぁ……。」
息を整えながら、出久は笑う。
「また負けちゃった。」
勝己は、少しだけ目を丸くする。
前回よりも、ずっと近くまで追いついていた。
「……前より速ぇ。」
その一言だった。
出久は思わず顔を上げる。
「ほんと!?」
「あぁ。」
勝己は照れくさそうに鼻を鳴らした。
「続けろ。」
その言葉が、何よりも嬉しかった。
「うん!」
出久は力いっぱい返事をした。
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爆豪家。
玄関を開けると、光己が二人を見て笑った。
「あら?」
「競争?」
勝己は短く答える。
「おう。」
出久は少し照れくさそうに笑う。
「えへへ。」
「今日も負けちゃいました。」
光己はくすっと笑い、台所へ向かう。
「はいはい。」
「ジュース飲みな。」
テーブルに冷えたジュースを二つ並べる。
「いただきます!」
二人は声をそろえた。
コップを手に取り、一口飲む。
「おいしい!」
出久の笑顔を見て、光己は優しく目を細めた。
「いっぱい遊ぶのはいいけど、熱中しすぎるんじゃないよ。」
「はーい!」
元気な返事が部屋いっぱいに響いた。
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その夜。
出久は机に向かい、ヒーローノートを開く。
新しいページを開くと、鉛筆を握った。
幼い文字で、ゆっくりと書いていく。
『きょうは』
少し考える。
そして、嬉しそうに続けた。
『まえより はやく はしれた。』
もう一行。
『もっと がんばる。』
書き終えると、出久は小さく笑った。
「うん。」
ノートをそっと閉じる。
まだ小さな努力。
でも、その一歩は確かに夢へ続いていた。
窓の外では、夕暮れの風が静かに木々を揺らしている。
昨日より今日。
今日より明日。
少しずつ前へ。
その積み重ねが、いつか誰かを助けられる自分へつながると信じて。