第一章 約束の続き
春。
柔らかな陽射しが、真新しい制服を優しく照らしていた。
鏡の前に立った出久は、少し照れくさそうに笑う。
「なんだか……大人になったみたい。」
制服はまだ少しだけ着慣れない。
けれど、小学生だった頃より少しだけ背が伸びた自分の姿を見ていると、新しい季節が始まることを実感した。
「出久。」
引子が優しく声をかける。
「とっても似合ってるよ。」
出久は嬉しそうに笑った。
「えへへ。」
引子は娘の襟元をそっと整える。
「今日から中学生だね。」
「うん!」
「行ってきます!」
「行ってらっしゃい。」
引子は玄関先で娘を見送る。
その背中が見えなくなるまで、優しく手を振っていた。
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待ち合わせ場所。
「あっ。」
見慣れた後ろ姿が目に入る。
「おはよう!」
出久が笑顔で駆け寄る。
勝己は振り返り、小さく手を上げた。
「おう。」
二人とも真新しい制服に身を包んでいる。
出久は少し照れくさそうに笑う。
「制服、似合ってるね。」
勝己は鼻を鳴らした。
「制服なんざ、着りゃ同じだ。」
そのぶっきらぼうな返事に、出久は思わず笑ってしまう。
「ふふっ。」
「笑うな。」
「ごめん、ごめん。」
二人は顔を見合わせながら歩き始めた。
春風が制服の裾を優しく揺らしていく。
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入学式を終え、新しい教室へ入る。
新しい机。
新しい教室。
新しい友達。
先生が自己紹介を終えると、教室は少しずつ賑やかになっていった。
「あの人、同じ小学校だったよね!」
「よろしく!」
あちこちで楽しそうな声が聞こえる。
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休み時間。
子どもたちは思い思いに席を立ち、教室のあちこちで話に花を咲かせていた。
出久と勝己も、教室の後ろでクラスメイトたちと話している。
「そういえばさ。」
一人の男子生徒が口を開いた。
「将来、どこの高校行きたい?」
その一言で、話題は自然と進路の話になった。
「俺は普通科かな。」
「兄ちゃんが工業高校なんだ。」
「まだ分かんないなぁ。」
それぞれが思い思いの将来を話し始める。
すると、一人が勝己を見た。
「爆豪は決まってるだろ?」
「雄英だよな。」
「当たり前じゃん。」
「爆豪なら余裕だろ。」
勝己は迷いなく答えた。
「当然だ。」
その一言だけで、誰もが納得したようにうなずく。
すると、別の生徒が出久へ視線を向けた。
「緑谷さんもヒーロー目指してるんだよね?」
出久は少し照れながら笑う。
「うん。」
「目指してるよ。」
その返事を聞いた生徒は、少しだけ困ったような表情を浮かべた。
「でも……。」
「無個性で雄英って、かなり大変じゃない?」
悪意はなかった。
純粋な疑問だった。
だからこそ、教室は少しだけ静かになる。
出久は少しだけ視線を落とした。
「……そうだね。」
小さく笑って答える。
その時だった。
廊下からチャイムが鳴り響く。
次の授業の始まりを告げる音だった。
先生の姿が廊下の向こうに見える。
勝己は立ち上がった。
「行くぞ。」
出久が顔を上げる。
「次、移動教室だ。」
「あっ、そうだった!」
出久は慌てて教科書を抱える。
「待って、今行く!」
「早くしろ。」
「もう、勝己ってば。」
二人は顔を見合わせ、小さく笑った。
そのまま並んで教室を後にする。
慰めるわけでもない。
励ますわけでもない。
ただ、いつも通り隣にいる。
その変わらない姿が、出久には何より心強かった。
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放課後。
桜並木を二人で歩く。
制服姿にも少しずつ慣れ始めた帰り道。
「中学校、思ってたより広かったね。」
出久が笑う。
「あちこち迷いそうだった。」
勝己は少しだけ口元を緩める。
「お前だけだ。」
「えぇ?」
二人は笑い合う。
しばらく歩いたあと、出久がぽつりと口を開いた。
「今日ね。」
「ん?」
「やっぱり無個性で雄英って難しいのかなって……少し考えちゃった。」
勝己は立ち止まる。
出久も足を止めた。
春風が二人の間を吹き抜ける。
勝己は真っすぐ前を向いたまま言った。
「証明するぞ。」
出久は目を丸くする。
「え?」
「無個性でも雄英へ行けるって。」
短い言葉だった。
けれど、その声には迷いがなかった。
出久は少し驚いたあと、ゆっくりとうなずく。
「……うん。」
「絶対、受かろう。」
勝己は小さく鼻を鳴らす。
「当たり前だ。」
夕日に照らされた二人の影は、自然と並んでいた。
幼い日に交わした約束。
その約束は今、夢ではなく目標へと変わり始めていた。
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その夜。
出久は机へ向かった。
机の上には、一冊の新しいノート。
ゆっくりと表紙を開き、鉛筆を走らせる。
『雄英高校合格作戦』
少しだけ考えてから、最初のページへ書いた。
『勝己の隣に立てるヒーローになる。』
その文字を見つめ、出久は静かに微笑む。
「頑張ろう。」
そっとノートを閉じる。
窓の外では、春風が静かに木々を揺らしていた。
幼い日に交わした約束。
小学生の頃に積み重ねた努力。
そのすべては、まだ終わっていない。
夢は少しずつ、現実へ近づいている。
その第一歩が、静かに歩み始めていた。