無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第三部 中学生編
第一章 約束の続き


 

春。

 

柔らかな陽射しが、真新しい制服を優しく照らしていた。

 

鏡の前に立った出久は、少し照れくさそうに笑う。

 

「なんだか……大人になったみたい。」

 

制服はまだ少しだけ着慣れない。

 

けれど、小学生だった頃より少しだけ背が伸びた自分の姿を見ていると、新しい季節が始まることを実感した。

 

「出久。」

 

引子が優しく声をかける。

 

「とっても似合ってるよ。」

 

出久は嬉しそうに笑った。

 

「えへへ。」

 

引子は娘の襟元をそっと整える。

 

「今日から中学生だね。」

 

「うん!」

 

「行ってきます!」

 

「行ってらっしゃい。」

 

引子は玄関先で娘を見送る。

 

その背中が見えなくなるまで、優しく手を振っていた。

 

---

 

待ち合わせ場所。

 

「あっ。」

 

見慣れた後ろ姿が目に入る。

 

「おはよう!」

 

出久が笑顔で駆け寄る。

 

勝己は振り返り、小さく手を上げた。

 

「おう。」

 

二人とも真新しい制服に身を包んでいる。

 

出久は少し照れくさそうに笑う。

 

「制服、似合ってるね。」

 

勝己は鼻を鳴らした。

 

「制服なんざ、着りゃ同じだ。」

 

そのぶっきらぼうな返事に、出久は思わず笑ってしまう。

 

「ふふっ。」

 

「笑うな。」

 

「ごめん、ごめん。」

 

二人は顔を見合わせながら歩き始めた。

 

春風が制服の裾を優しく揺らしていく。

 

---

 

入学式を終え、新しい教室へ入る。

 

新しい机。

 

新しい教室。

 

新しい友達。

 

先生が自己紹介を終えると、教室は少しずつ賑やかになっていった。

 

「あの人、同じ小学校だったよね!」

 

「よろしく!」

 

あちこちで楽しそうな声が聞こえる。

 

---

 

休み時間。

 

子どもたちは思い思いに席を立ち、教室のあちこちで話に花を咲かせていた。

 

出久と勝己も、教室の後ろでクラスメイトたちと話している。

 

「そういえばさ。」

 

一人の男子生徒が口を開いた。

 

「将来、どこの高校行きたい?」

 

その一言で、話題は自然と進路の話になった。

 

「俺は普通科かな。」

 

「兄ちゃんが工業高校なんだ。」

 

「まだ分かんないなぁ。」

 

それぞれが思い思いの将来を話し始める。

 

すると、一人が勝己を見た。

 

「爆豪は決まってるだろ?」

 

「雄英だよな。」

 

「当たり前じゃん。」

 

「爆豪なら余裕だろ。」

 

勝己は迷いなく答えた。

 

「当然だ。」

 

その一言だけで、誰もが納得したようにうなずく。

 

すると、別の生徒が出久へ視線を向けた。

 

「緑谷さんもヒーロー目指してるんだよね?」

 

出久は少し照れながら笑う。

 

「うん。」

 

「目指してるよ。」

 

その返事を聞いた生徒は、少しだけ困ったような表情を浮かべた。

 

「でも……。」

 

「無個性で雄英って、かなり大変じゃない?」

 

悪意はなかった。

 

純粋な疑問だった。

 

だからこそ、教室は少しだけ静かになる。

 

出久は少しだけ視線を落とした。

 

「……そうだね。」

 

小さく笑って答える。

 

その時だった。

 

廊下からチャイムが鳴り響く。

 

次の授業の始まりを告げる音だった。

 

先生の姿が廊下の向こうに見える。

 

勝己は立ち上がった。

 

「行くぞ。」

 

出久が顔を上げる。

 

「次、移動教室だ。」

 

「あっ、そうだった!」

 

出久は慌てて教科書を抱える。

 

「待って、今行く!」

 

「早くしろ。」

 

「もう、勝己ってば。」

 

二人は顔を見合わせ、小さく笑った。

 

そのまま並んで教室を後にする。

 

慰めるわけでもない。

 

励ますわけでもない。

 

ただ、いつも通り隣にいる。

 

その変わらない姿が、出久には何より心強かった。

 

---

 

放課後。

 

桜並木を二人で歩く。

 

制服姿にも少しずつ慣れ始めた帰り道。

 

「中学校、思ってたより広かったね。」

 

出久が笑う。

 

「あちこち迷いそうだった。」

 

勝己は少しだけ口元を緩める。

 

「お前だけだ。」

 

「えぇ?」

 

二人は笑い合う。

 

しばらく歩いたあと、出久がぽつりと口を開いた。

 

「今日ね。」

 

「ん?」

 

「やっぱり無個性で雄英って難しいのかなって……少し考えちゃった。」

 

勝己は立ち止まる。

 

出久も足を止めた。

 

春風が二人の間を吹き抜ける。

 

勝己は真っすぐ前を向いたまま言った。

 

「証明するぞ。」

 

出久は目を丸くする。

 

「え?」

 

「無個性でも雄英へ行けるって。」

 

短い言葉だった。

 

けれど、その声には迷いがなかった。

 

出久は少し驚いたあと、ゆっくりとうなずく。

 

「……うん。」

 

「絶対、受かろう。」

 

勝己は小さく鼻を鳴らす。

 

「当たり前だ。」

 

夕日に照らされた二人の影は、自然と並んでいた。

 

幼い日に交わした約束。

 

その約束は今、夢ではなく目標へと変わり始めていた。

 

---

 

その夜。

 

出久は机へ向かった。

 

机の上には、一冊の新しいノート。

 

ゆっくりと表紙を開き、鉛筆を走らせる。

 

『雄英高校合格作戦』

 

少しだけ考えてから、最初のページへ書いた。

 

『勝己の隣に立てるヒーローになる。』

 

その文字を見つめ、出久は静かに微笑む。

 

「頑張ろう。」

 

そっとノートを閉じる。

 

窓の外では、春風が静かに木々を揺らしていた。

 

幼い日に交わした約束。

 

小学生の頃に積み重ねた努力。

 

そのすべては、まだ終わっていない。

 

夢は少しずつ、現実へ近づいている。

 

その第一歩が、静かに歩み始めていた。

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