無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第二章 はじめての友達

 

翌日。

 

双葉幼稚園の門をくぐると、出久はきょろきょろと辺りを見回した。

 

「……。」

 

小さな胸が、なんだかそわそわする。

 

昨日出会った男の子。

 

「爆豪勝己。」

 

その名前だけが、頭の中を何度もぐるぐる回っていた。

 

「あ。」

 

園庭の隅で、一人しゃがみ込んでいる姿が目に入る。

 

少し跳ねた金色の髪。

 

間違いない。

 

「かっちゃん!」

 

出久はぱたぱたと駆け寄った。

 

勝己は振り向き、不思議そうに辺りを見回す。

 

「……。」

 

「俺か?」

 

出久は嬉しそうにこくんとうなずいた。

 

「うん!」

 

「かつき、だから、かっちゃん!」

 

勝己は少しだけ目を丸くする。

 

そんな呼ばれ方をしたのは初めてだった。

 

「……好きに呼べ。」

 

少し照れ隠しのようにぶっきらぼうに言う。

 

「うん!」

 

出久は満面の笑みになる。

 

「わたしは、いずくだよ!」

 

「知ってる。」

 

「昨日聞いた。」

 

「あ、そっか。」

 

照れくさそうに笑う出久。

 

その様子に、勝己も思わず小さく笑った。

 

「何してるの?」

 

出久は勝己の隣へしゃがみ込む。

 

「ダンゴムシ。」

 

見ると、小さなダンゴムシが丸くなったり、ゆっくり歩いたりしている。

 

「かわいい。」

 

「……お前もそう思うのか。」

 

勝己は少し意外そうだった。

 

「みんな、虫なんか嫌いって言う。」

 

「アリさんも好き。」

 

「ダンゴムシも好き。」

 

「テントウムシも。」

 

出久は指折り数え始める。

 

勝己は少しだけ目を丸くした。

 

「変わってんな。」

 

「そうかな?」

 

「まぁ。」

 

勝己は肩をすくめる。

 

「俺は嫌いじゃねぇ。」

 

その一言だけで、出久の顔がぱっと明るくなった。

 

「ほんと?」

 

「あぁ。」

 

「やった!」

 

嬉しそうに笑う出久。

 

その笑顔を見ていると、不思議と勝己まで笑いそうになる。

 

そのときだった。

 

「勝己くーん!」

 

園児の一人が駆け寄ってくる。

 

「鬼ごっこやろうぜ!」

 

「おう。」

 

勝己は立ち上がった。

 

「行く。」

 

「うん!」

 

出久も立ち上がる。

 

「お前じゃねぇ。」

 

勝己はきょとんとした顔の出久を見る。

 

「足、遅ぇだろ。」

 

「えっ。」

 

出久はしゅんと肩を落とした。

 

その表情を見た勝己は、少しだけ困った顔になる。

 

「……。」

 

数秒考えてから、ぽりぽりと頭をかいた。

 

「まぁ。」

 

「ついて来るくらいなら勝手にしろ。」

 

「いいの?」

 

「別に。」

 

その言葉だけで十分だった。

 

出久は満面の笑みになる。

 

「うん!」

 

そうして、小さな二人は園庭を駆け出した。

 

一人は前を。

 

もう一人は、その少し後ろを。

 

まだ歩幅は違う。

 

でも、その距離は昨日より少しだけ近くなっていた。

 

「つかまえた!」

 

「きゃー!」

 

園庭に笑い声が広がる。

 

鬼ごっこは、子どもたちが入り乱れて大騒ぎになっていた。

 

勝己は誰よりも速く駆ける。

 

逃げる子も、追う子も、あっという間に追いついてしまう。

 

「はやーい!」

 

「ずるーい!」

 

そんな声が飛ぶたび、勝己は少しだけ得意そうに笑った。

 

その少し後ろを、出久は一生懸命走っていた。

 

「ま、まってぇ……。」

 

息を切らしながらも、懸命についていく。

 

「いずくー!」

 

保育士が思わず声をかける。

 

「無理しなくていいよー!」

 

「だいじょうぶ!」

 

そう返事はするものの、次の瞬間。

 

「わっ!」

 

小さな石につまずき、ぺたん、と芝生の上へ転んでしまった。

 

「いたた……。」

 

膝についた土を見つめる。

 

泣きそうになる。

 

そのときだった。

 

「何やってんだ。」

 

勝己が戻ってきていた。

 

鬼ごっこなんて、とっくに続いている。

 

それでも戻ってきた。

 

「ほら。」

 

勝己は出久へ手を差し出す。

 

昨日とは逆だった。

 

昨日は、帽子を渡した手。

 

今日は、立ち上がるための手。

 

出久は少しだけ目を丸くする。

 

それから、嬉しそうにその手を握った。

 

「ありがと。」

 

「……。」

 

勝己は何も言わない。

 

ぐいっと引っ張る。

 

出久は立ち上がった。

 

「また泣くかと思った。」

 

「もう泣かないもん。」

 

出久は胸を張る。

 

勝己はふっと笑う。

 

「少しだけ強くなったな。」

 

その一言が、出久はたまらなく嬉しかった。

 

午後。

 

自由遊びの時間。

 

園児たちは思い思いに遊び始める。

 

勝己は砂場で山を作っていた。

 

その隣へ、何も言わずに出久が座る。

 

「……。」

 

「……。」

 

しばらく無言。

 

でも、不思議と気まずくない。

 

出久は小さなスコップで山を高くする。

 

勝己はその横に道を作る。

 

「こっち、お城にしよう。」

 

「じゃあ、こっちは橋。」

 

自然に言葉が重なっていく。

 

保育士は少し離れたところから、その様子を見ていた。

 

「昨日まで、一人だったのにね。」

 

隣にいた先生が微笑む。

 

「勝己くんも、あんなふうに誰かと遊ぶんだ。」

 

二人とも、どこか一人で遊ぶことの多い子だった。

 

だからこそ。

 

隣に誰かがいることが、少しだけ新鮮だった。

 

帰りの時間。

 

保護者が迎えに来る中、出久は靴を履きながら何度も後ろを振り返る。

 

「また明日ね!」

 

勝己は靴箱の前で振り返る。

 

「おう。」

 

それだけ言って歩き出す。

 

少し歩いてから、また止まる。

 

「いずく。」

 

「なあに?」

 

「明日。」

 

「ダンゴムシの続き見るぞ。」

 

出久の顔がぱっと明るくなる。

 

「うん!」

 

「やくそくだね!」

 

「忘れねぇよ。」

 

勝己は少し照れくさそうに鼻を鳴らした。

 

出久は何度も手を振る。

 

勝己も、小さく一度だけ手を上げる。

 

夕焼けに染まる幼稚園。

 

まだ出会って二日。

 

それでも二人は、もう知っていた。

 

明日も会えることが楽しみだという気持ちを。

 

それは、小さな約束。

 

けれど、二人にとっては何より大切な約束だった。

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