第一章 雄英高校入試
雄英高校。
日本最高峰のヒーロー育成機関。
数え切れないほどのプロヒーローを世に送り出し、多くの人々を救ってきた名門校である。
その門を目指し、全国から集まる受験生たち。
誰もが夢を抱き、その第一歩を踏み出そうとしていた。
そして今日。
緑谷出久と爆豪勝己も、その舞台へ立っていた。
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筆記試験を終えた廊下。
試験会場から出てきた受験生たちは、それぞれ手応えを語り合っている。
「思ったより難しかった……。」
「実技の方が緊張するな。」
様々な声が飛び交う中、出久は大きく息を吐いた。
「終わったね。」
勝己が歩きながら答える。
「ああ。」
「手応えは?」
「ある。」
迷いのない返事だった。
出久も嬉しそうに笑う。
「私も。」
「ちゃんと解けたと思う。」
勝己は小さく鼻を鳴らす。
「なら問題ねぇ。」
「次だ。」
「うん。」
二人は自然と歩幅を合わせ、実技試験会場へ向かった。
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巨大な演習場。
建物が立ち並び、本物の街のように作られた試験フィールド。
道路。
交差点。
路地裏。
公園。
どこから何が現れてもおかしくない。
受験生たちは静かに周囲を見渡していた。
その中には、どこか見覚えのある顔もある。
腕時計を確認しながら気持ちを落ち着かせる真面目そうな少年。
「燃えてきた!」と拳を握る赤髪の少年。
静かに目を閉じ、集中している黒い影をまとった少年。
少し緊張した様子で深呼吸する少女。
誰もが、この場所へ辿り着くため努力を重ねてきた。
出久はその姿を見渡し、小さくつぶやく。
「みんな、本気だ。」
勝己は前だけを見ていた。
「当たり前だ。」
「ここは雄英だからな。」
その一言で十分だった。
出久も静かにうなずく。
「うん。」
ここまで積み重ねてきた努力を信じよう。
そう心の中で、自分へ言い聞かせた。
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試験開始前。
試験官の声が演習場へ響き渡る。
「これより実技試験を開始する!」
「仮想敵を撃破し、ポイントを獲得せよ!」
「なお、試験中は周囲への注意も怠るな!」
受験生たちの空気が一気に張り詰める。
出久は静かに周囲を見渡した。
建物の配置。
道路の広さ。
遮蔽物。
見通し。
仮想敵が出現しやすそうな場所。
逃げ道。
頭の中で、演習所の地図が組み上がっていく。
勝己が横目で尋ねる。
「見えたか。」
出久は小さく笑った。
「うん。」
「右前方。」
「道幅が広いから、最初はそこが動きやすいと思う。」
勝己は口元だけで笑う。
「十分だ。」
試験開始の合図が出た。
その瞬間。
二人は誰よりも早く地面を蹴った。
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「速っ!」
周囲の受験生たちが思わず目を見開く。
勝己は爆破の反動で一気に加速する。
出久も迷うことなく、その背中を追った。
鍛え続けた脚は、三年前とは比べものにならないほど力強く地面を蹴る。
息は乱れない。
視線はぶれない。
「右!」
出久の声。
「二体!」
勝己は返事をしない。
返事をする必要がない。
ドォンッ!!
爆炎が一体目を吹き飛ばす。
続けざまに二体目へ接近。
爆破が肩関節を正確に捉えた。
装甲が砕け、内部機構が露出する。
「肩!」
勝己が短く叫ぶ。
「了解!」
出久は一気に踏み込んだ。
全身を大きくひねり、積み重ねてきた力を、その一点へ集中させる。
そして――
全体重を乗せて、振り抜いた。
ガキンッ!!
露出した関節が砕ける。
仮想敵は大きく傾き、そのまま地面へ倒れ込んだ。
出久は一瞬だけ、その姿を確認する。
「……いけた。」
勝己はほんの少しだけ口元を上げる。
「次。」
「うん!」
喜ぶ時間はない。
二人はすぐに次の敵へ向かった。
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その後も二人の動きは止まらない。
「左奥!」
「見えてる!」
爆炎。
「三体!」
「任せろ!」
ドォンッ!!
「肩!」
「了解!」
ガキンッ!!
言葉は少ない。
だが、それだけで十分だった。
周囲の受験生たちは思わず足を止める。
「あの二人……。」
「何なんだ?」
「今ので通じるのか?」
「作戦なんて立ててないよな?」
別の受験生が静かにつぶやく。
「……まるで、何年も一緒に戦ってきたみたいだ。」
一人が前へ出れば、もう一人がその背中を迷いなく預かる。
言葉より先に身体が動く。
それは、その日初めて組んだ者同士には決してできない連携だった。
もちろん、その通りだった。
三年間。
放課後の河川敷。
数え切れないほど繰り返した走り込み。
勝己の動きを分析した時間。
出久の指示を信じ続けた勝己。
その積み重ねが、今この瞬間、自然な連携となって現れていた。
二人は周囲の声など聞こえていない。
見るのは、次の仮想敵だけ。
そして。
別の区画へ足を踏み入れた瞬間、二人の表情が変わる。
そこでは複数の仮想敵が暴れ回り、多くの受験生が足止めされていた。
悲鳴にも似た声が響く。
出久は一瞬で状況を見渡した。
勝己も同じ光景を見つめ、静かに息を吐く。
「ここからだな。」
「うん。」
二人は小さくうなずき合い、それぞれの役割を果たすため、一斉に駆け出した。
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「まずい!」
「動けない!」
瓦礫につまずき転倒した者。
逃げ道を見失い立ち尽くす者。
思うようにポイントを稼げず焦る者。
試験場の一角だけが、混乱に包まれていた。
勝己が小さく息を吐く。
「散らかってんな。」
出久は一瞬で周囲を見渡した。
建物。
道路。
仮想敵の位置。
受験生の動き。
すべてを頭の中で整理する。
「勝己。」
「あぁ。」
言葉はそれだけ。
もう十分だった。
勝己は迷わず前へ飛び出す。
出久は反対方向へ駆け出した。
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「右側、道が空いてます!」
出久の声が響く。
「慌てず、順番に!」
「動ける人から避難してください!」
その落ち着いた声に、受験生たちが顔を上げる。
「足を痛めた人はいませんか!」
一人の男子受験生が手を挙げた。
「こっち!」
出久はすぐに駆け寄る。
「立てますか?」
「……少しだけ。」
「肩を貸します。」
受験生を支え、安全な場所まで誘導する。
仮想敵がそれに気づき、迫ろうとする。
「失せろ!!」
勝己の爆破が割って入る。
ドォンッ!!
仮想敵は進路を変え、そのまま吹き飛んだ。
「ありがとう!」
「礼は後だ!」
勝己は次の敵へ向かう。
出久も立ち止まらない。
「次はあちらです!」
「ゆっくりで大丈夫!」
中学生の頃から何度もノートへ書き続けた言葉。
図書館で学んだ知識。
ヘドロ事件で経験した避難誘導。
そのすべてが、自然と身体を動かしていた。
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一方。
勝己は仮想敵の群れへ飛び込んでいた。
「邪魔だァ!!」
爆炎。
一体。
二体。
三体。
次々と仮想敵が崩れていく。
「左!」
少し離れた場所から出久の声。
勝己は振り向かない。
爆破だけを左へ放つ。
ドォンッ!!
「ナイス!」
「次!」
受験生たちは驚きを隠せなかった。
「あの二人……。」
「離れてても連携してる。」
「何で位置が分かるんだ……?」
それは特別な能力ではない。
三年間。
何百回、何千回と繰り返してきた積み重ねだった。
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試験官室。
教師たちがモニターを見つめる。
「爆豪勝己。」
「戦闘能力は群を抜いている。」
別の教師が隣の画面を見た。
「こちらの女子生徒も面白い。」
「撃破数だけではない。」
「救助と状況判断を両立している。」
さらに別の教師が資料を見ながら口を開く。
「この二人……。」
「先日の田等院商店街の事件にいた中学生ですね。」
その言葉に、数人がうなずく。
しかし。
相澤消太だけは腕を組んだまま言った。
「だから何だ。」
部屋が静まり返る。
相澤はモニターから目を離さない。
「ここは雄英だ。」
「評価するのは肩書きでも過去でもない。」
「今日、この試験場で何をしたか。」
「それだけを見ればいい。」
その一言に、教師たちは再びモニターへ目を向けた。
オールマイトは静かに二人を見つめる。
そして、小さく微笑む。
「だからこそ……。」
「今日の姿が、とても嬉しい。」
誰にも聞こえないほど、小さな声だった。
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その時だった。
ゴゴゴゴ……。
地面が揺れる。
受験生たちが一斉に顔を上げた。
巨大な影。
建物を見下ろすほどの巨体。
試験終了間際に現れる、倒しても得点にならない巨大ロボット。
「逃げろ!」
誰かが叫ぶ。
受験生たちは一斉に走り出した。
だが。
瓦礫が崩れる。
悲鳴が上がる。
出久は一瞬で状況を見た。
路地裏。
倒れた受験生が一人。
足を押さえ、立ち上がれない。
出久は勝己を見る。
勝己も同じ瞬間、出久を見た。
ほんの一瞬。
視線が交わる。
言葉はない。
それだけで十分だった。
勝己は巨大ロボットの前へ飛び出す。
出久は倒れた受験生へ駆け出した。
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「大丈夫ですか!」
「足が……。」
「肩を貸します!」
出久は受験生を支え、ゆっくり立ち上がらせる。
「歩けますか?」
「……うん。」
「焦らなくて大丈夫です。」
後ろでは爆炎が響く。
ドォンッ!!
ドォンッ!!
勝己が巨大ロボットの脚部へ爆破を叩き込み、進路を少しずつ変えていく。
真正面から止めようとはしない。
重心を崩し、安全な方向へ誘導している。
それは、何度も出久と戦術を組み立ててきたからこその判断だった。
出久は受験生を安全圏へ送り届ける。
そして、すぐに周囲を見渡した。
右。
左。
建物の陰。
路地裏。
逃げ遅れた人影はない。
大きく息を吸う。
「勝己!!」
その声に、勝己が振り向く。
出久は大きく手を振った。
「東側、安全!」
さらに反対側を見る。
「西側も避難完了!」
最後に、大きく叫ぶ。
「逃げ遅れ、なし!!」
勝己の口元が力強く上がる。
「なら。」
掌を構える。
爆炎が膨れ上がる。
「終わりだァ!!」
轟音。
巨大な爆風が巨大ロボットの脚部を横から撃ち抜く。
重心を失った巨体は、ゆっくりと傾き始める。
そして。
誰もいない広場へ向かって、そのまま倒れ込んだ。
凄まじい衝撃。
砂煙が舞い上がる。
それと同時に――
試験終了のサイレンが鳴り響いた。
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静まり返る試験場。
やがて、一人の受験生がぽつりとつぶやく。
「助かった……。」
別の受験生が二人を見つめる。
「すごいな……。」
「ポイントだけじゃなくて。」
「最後まで、人を助けてた。」
憧れ。
尊敬。
そんな視線が、二人へ自然と集まっていた。
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帰り道。
夕焼けが街を優しく染めていた。
二人は並んで歩いている。
しばらく無言だった。
やがて出久が小さく笑う。
「全部出し切ったね。」
「ああ。」
勝己も短く答える。
少しだけ沈黙。
出久が空を見上げる。
「受かるといいね。」
勝己は前を向いたまま鼻を鳴らした。
「受かる。」
「二人ともな。」
出久は嬉しそうに笑う。
「うん。」
幼い日に交わした約束。
小学生の頃に始めた努力。
中学生で積み重ねた日々。
そのすべてが、この日のためにあった。
二人はまた歩き始める。
夢は、もう憧れではない。
約束は、少しずつ現実になろうとしていた。
夕焼けに伸びる二つの影は、今日も自然と並んでいた。