無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第四部 雄英高校編
第一章 雄英高校入試


 

雄英高校。

 

日本最高峰のヒーロー育成機関。

 

数え切れないほどのプロヒーローを世に送り出し、多くの人々を救ってきた名門校である。

 

その門を目指し、全国から集まる受験生たち。

 

誰もが夢を抱き、その第一歩を踏み出そうとしていた。

 

そして今日。

 

緑谷出久と爆豪勝己も、その舞台へ立っていた。

 

---

 

筆記試験を終えた廊下。

 

試験会場から出てきた受験生たちは、それぞれ手応えを語り合っている。

 

「思ったより難しかった……。」

 

「実技の方が緊張するな。」

 

様々な声が飛び交う中、出久は大きく息を吐いた。

 

「終わったね。」

 

勝己が歩きながら答える。

 

「ああ。」

 

「手応えは?」

 

「ある。」

 

迷いのない返事だった。

 

出久も嬉しそうに笑う。

 

「私も。」

 

「ちゃんと解けたと思う。」

 

勝己は小さく鼻を鳴らす。

 

「なら問題ねぇ。」

 

「次だ。」

 

「うん。」

 

二人は自然と歩幅を合わせ、実技試験会場へ向かった。

 

---

 

巨大な演習場。

 

建物が立ち並び、本物の街のように作られた試験フィールド。

 

道路。

 

交差点。

 

路地裏。

 

公園。

 

どこから何が現れてもおかしくない。

 

受験生たちは静かに周囲を見渡していた。

 

その中には、どこか見覚えのある顔もある。

 

腕時計を確認しながら気持ちを落ち着かせる真面目そうな少年。

 

「燃えてきた!」と拳を握る赤髪の少年。

 

静かに目を閉じ、集中している黒い影をまとった少年。

 

少し緊張した様子で深呼吸する少女。

 

誰もが、この場所へ辿り着くため努力を重ねてきた。

 

出久はその姿を見渡し、小さくつぶやく。

 

「みんな、本気だ。」

 

勝己は前だけを見ていた。

 

「当たり前だ。」

 

「ここは雄英だからな。」

 

その一言で十分だった。

 

出久も静かにうなずく。

 

「うん。」

 

ここまで積み重ねてきた努力を信じよう。

 

そう心の中で、自分へ言い聞かせた。

 

---

 

試験開始前。

 

試験官の声が演習場へ響き渡る。

 

「これより実技試験を開始する!」

 

「仮想敵を撃破し、ポイントを獲得せよ!」

 

「なお、試験中は周囲への注意も怠るな!」

 

受験生たちの空気が一気に張り詰める。

 

出久は静かに周囲を見渡した。

 

建物の配置。

 

道路の広さ。

 

遮蔽物。

 

見通し。

 

仮想敵が出現しやすそうな場所。

 

逃げ道。

 

頭の中で、演習所の地図が組み上がっていく。

 

勝己が横目で尋ねる。

 

「見えたか。」

 

出久は小さく笑った。

 

「うん。」

 

「右前方。」

 

「道幅が広いから、最初はそこが動きやすいと思う。」

 

勝己は口元だけで笑う。

 

「十分だ。」

 

試験開始の合図が出た。

 

その瞬間。

 

二人は誰よりも早く地面を蹴った。

 

---

 

「速っ!」

 

周囲の受験生たちが思わず目を見開く。

 

勝己は爆破の反動で一気に加速する。

 

出久も迷うことなく、その背中を追った。

 

鍛え続けた脚は、三年前とは比べものにならないほど力強く地面を蹴る。

 

息は乱れない。

 

視線はぶれない。

 

「右!」

 

出久の声。

 

「二体!」

 

勝己は返事をしない。

 

返事をする必要がない。

 

ドォンッ!!

 

爆炎が一体目を吹き飛ばす。

 

続けざまに二体目へ接近。

 

爆破が肩関節を正確に捉えた。

 

装甲が砕け、内部機構が露出する。

 

「肩!」

 

勝己が短く叫ぶ。

 

「了解!」

 

出久は一気に踏み込んだ。

 

全身を大きくひねり、積み重ねてきた力を、その一点へ集中させる。

 

そして――

 

全体重を乗せて、振り抜いた。

 

ガキンッ!!

 

露出した関節が砕ける。

 

仮想敵は大きく傾き、そのまま地面へ倒れ込んだ。

 

出久は一瞬だけ、その姿を確認する。

 

「……いけた。」

 

勝己はほんの少しだけ口元を上げる。

 

「次。」

 

「うん!」

 

喜ぶ時間はない。

 

二人はすぐに次の敵へ向かった。

 

---

 

その後も二人の動きは止まらない。

 

「左奥!」

 

「見えてる!」

 

爆炎。

 

「三体!」

 

「任せろ!」

 

ドォンッ!!

 

「肩!」

 

「了解!」

 

ガキンッ!!

 

言葉は少ない。

 

だが、それだけで十分だった。

 

周囲の受験生たちは思わず足を止める。

 

「あの二人……。」

 

「何なんだ?」

 

「今ので通じるのか?」

 

「作戦なんて立ててないよな?」

 

別の受験生が静かにつぶやく。

 

「……まるで、何年も一緒に戦ってきたみたいだ。」

 

一人が前へ出れば、もう一人がその背中を迷いなく預かる。

 

言葉より先に身体が動く。

 

それは、その日初めて組んだ者同士には決してできない連携だった。

 

もちろん、その通りだった。

 

三年間。

 

放課後の河川敷。

 

数え切れないほど繰り返した走り込み。

 

勝己の動きを分析した時間。

 

出久の指示を信じ続けた勝己。

 

その積み重ねが、今この瞬間、自然な連携となって現れていた。

 

二人は周囲の声など聞こえていない。

 

見るのは、次の仮想敵だけ。

 

そして。

 

別の区画へ足を踏み入れた瞬間、二人の表情が変わる。

 

そこでは複数の仮想敵が暴れ回り、多くの受験生が足止めされていた。

 

悲鳴にも似た声が響く。

 

出久は一瞬で状況を見渡した。

 

勝己も同じ光景を見つめ、静かに息を吐く。

 

「ここからだな。」

 

「うん。」

 

二人は小さくうなずき合い、それぞれの役割を果たすため、一斉に駆け出した。

 

---

 

「まずい!」

 

「動けない!」

 

瓦礫につまずき転倒した者。

 

逃げ道を見失い立ち尽くす者。

 

思うようにポイントを稼げず焦る者。

 

試験場の一角だけが、混乱に包まれていた。

 

勝己が小さく息を吐く。

 

「散らかってんな。」

 

出久は一瞬で周囲を見渡した。

 

建物。

 

道路。

 

仮想敵の位置。

 

受験生の動き。

 

すべてを頭の中で整理する。

 

「勝己。」

 

「あぁ。」

 

言葉はそれだけ。

 

もう十分だった。

 

勝己は迷わず前へ飛び出す。

 

出久は反対方向へ駆け出した。

 

---

 

「右側、道が空いてます!」

 

出久の声が響く。

 

「慌てず、順番に!」

 

「動ける人から避難してください!」

 

その落ち着いた声に、受験生たちが顔を上げる。

 

「足を痛めた人はいませんか!」

 

一人の男子受験生が手を挙げた。

 

「こっち!」

 

出久はすぐに駆け寄る。

 

「立てますか?」

 

「……少しだけ。」

 

「肩を貸します。」

 

受験生を支え、安全な場所まで誘導する。

 

仮想敵がそれに気づき、迫ろうとする。

 

「失せろ!!」

 

勝己の爆破が割って入る。

 

ドォンッ!!

 

仮想敵は進路を変え、そのまま吹き飛んだ。

 

「ありがとう!」

 

「礼は後だ!」

 

勝己は次の敵へ向かう。

 

出久も立ち止まらない。

 

「次はあちらです!」

 

「ゆっくりで大丈夫!」

 

中学生の頃から何度もノートへ書き続けた言葉。

 

図書館で学んだ知識。

 

ヘドロ事件で経験した避難誘導。

 

そのすべてが、自然と身体を動かしていた。

 

---

 

一方。

 

勝己は仮想敵の群れへ飛び込んでいた。

 

「邪魔だァ!!」

 

爆炎。

 

一体。

 

二体。

 

三体。

 

次々と仮想敵が崩れていく。

 

「左!」

 

少し離れた場所から出久の声。

 

勝己は振り向かない。

 

爆破だけを左へ放つ。

 

ドォンッ!!

 

「ナイス!」

 

「次!」

 

受験生たちは驚きを隠せなかった。

 

「あの二人……。」

 

「離れてても連携してる。」

 

「何で位置が分かるんだ……?」

 

それは特別な能力ではない。

 

三年間。

 

何百回、何千回と繰り返してきた積み重ねだった。

 

---

 

試験官室。

 

教師たちがモニターを見つめる。

 

「爆豪勝己。」

 

「戦闘能力は群を抜いている。」

 

別の教師が隣の画面を見た。

 

「こちらの女子生徒も面白い。」

 

「撃破数だけではない。」

 

「救助と状況判断を両立している。」

 

さらに別の教師が資料を見ながら口を開く。

 

「この二人……。」

 

「先日の田等院商店街の事件にいた中学生ですね。」

 

その言葉に、数人がうなずく。

 

しかし。

 

相澤消太だけは腕を組んだまま言った。

 

「だから何だ。」

 

部屋が静まり返る。

 

相澤はモニターから目を離さない。

 

「ここは雄英だ。」

 

「評価するのは肩書きでも過去でもない。」

 

「今日、この試験場で何をしたか。」

 

「それだけを見ればいい。」

 

その一言に、教師たちは再びモニターへ目を向けた。

 

オールマイトは静かに二人を見つめる。

 

そして、小さく微笑む。

 

「だからこそ……。」

 

「今日の姿が、とても嬉しい。」

 

誰にも聞こえないほど、小さな声だった。

 

---

 

その時だった。

 

ゴゴゴゴ……。

 

地面が揺れる。

 

受験生たちが一斉に顔を上げた。

 

巨大な影。

 

建物を見下ろすほどの巨体。

 

試験終了間際に現れる、倒しても得点にならない巨大ロボット。

 

「逃げろ!」

 

誰かが叫ぶ。

 

受験生たちは一斉に走り出した。

 

だが。

 

瓦礫が崩れる。

 

悲鳴が上がる。

 

出久は一瞬で状況を見た。

 

路地裏。

 

倒れた受験生が一人。

 

足を押さえ、立ち上がれない。

 

出久は勝己を見る。

 

勝己も同じ瞬間、出久を見た。

 

ほんの一瞬。

 

視線が交わる。

 

言葉はない。

 

それだけで十分だった。

 

勝己は巨大ロボットの前へ飛び出す。

 

出久は倒れた受験生へ駆け出した。

 

---

 

「大丈夫ですか!」

 

「足が……。」

 

「肩を貸します!」

 

出久は受験生を支え、ゆっくり立ち上がらせる。

 

「歩けますか?」

 

「……うん。」

 

「焦らなくて大丈夫です。」

 

後ろでは爆炎が響く。

 

ドォンッ!!

 

ドォンッ!!

 

勝己が巨大ロボットの脚部へ爆破を叩き込み、進路を少しずつ変えていく。

 

真正面から止めようとはしない。

 

重心を崩し、安全な方向へ誘導している。

 

それは、何度も出久と戦術を組み立ててきたからこその判断だった。

 

出久は受験生を安全圏へ送り届ける。

 

そして、すぐに周囲を見渡した。

 

右。

 

左。

 

建物の陰。

 

路地裏。

 

逃げ遅れた人影はない。

 

大きく息を吸う。

 

「勝己!!」

 

その声に、勝己が振り向く。

 

出久は大きく手を振った。

 

「東側、安全!」

 

さらに反対側を見る。

 

「西側も避難完了!」

 

最後に、大きく叫ぶ。

 

「逃げ遅れ、なし!!」

 

勝己の口元が力強く上がる。

 

「なら。」

 

掌を構える。

 

爆炎が膨れ上がる。

 

「終わりだァ!!」

 

轟音。

 

巨大な爆風が巨大ロボットの脚部を横から撃ち抜く。

 

重心を失った巨体は、ゆっくりと傾き始める。

 

そして。

 

誰もいない広場へ向かって、そのまま倒れ込んだ。

 

凄まじい衝撃。

 

砂煙が舞い上がる。

 

それと同時に――

 

試験終了のサイレンが鳴り響いた。

 

---

 

静まり返る試験場。

 

やがて、一人の受験生がぽつりとつぶやく。

 

「助かった……。」

 

別の受験生が二人を見つめる。

 

「すごいな……。」

 

「ポイントだけじゃなくて。」

 

「最後まで、人を助けてた。」

 

憧れ。

 

尊敬。

 

そんな視線が、二人へ自然と集まっていた。

 

---

 

帰り道。

 

夕焼けが街を優しく染めていた。

 

二人は並んで歩いている。

 

しばらく無言だった。

 

やがて出久が小さく笑う。

 

「全部出し切ったね。」

 

「ああ。」

 

勝己も短く答える。

 

少しだけ沈黙。

 

出久が空を見上げる。

 

「受かるといいね。」

 

勝己は前を向いたまま鼻を鳴らした。

 

「受かる。」

 

「二人ともな。」

 

出久は嬉しそうに笑う。

 

「うん。」

 

幼い日に交わした約束。

 

小学生の頃に始めた努力。

 

中学生で積み重ねた日々。

 

そのすべてが、この日のためにあった。

 

二人はまた歩き始める。

 

夢は、もう憧れではない。

 

約束は、少しずつ現実になろうとしていた。

 

夕焼けに伸びる二つの影は、今日も自然と並んでいた。

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