無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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幕間 それぞれの日常

 

幕間① 女子会

 

放課後。

 

女子更衣室。

 

「いやー!」

 

芦戸が勢いよくロッカーを閉める。

 

「今日の戦闘訓練、めっちゃ面白かった!」

 

「緑谷ちゃん!」

 

「最後すっごい怖かった!」

 

出久は苦笑した。

 

「え?」

 

「そうだった?」

 

耳郎も頷く。

 

「うん。」

 

「普段とのギャップ。」

 

「静かに武器だけ壊してくるの。」

 

「普通に怖い。」

 

葉隠も両手を振る。

 

「私だったら泣く!」

 

八百万は少し申し訳なさそうに笑う。

 

「実際、かなり焦りました。」

 

「生成する度に破壊されるので……。」

 

出久は頭を掻いた。

 

「ごめんね。」

 

「でも、八百万さんの個性がすごく強いって思ったから。」

 

「止めるなら、そこしかないかなって。」

 

八百万は優しく微笑む。

 

「ありがとうございます。」

 

「そう言っていただけると救われます。」

 

その時だった。

 

芦戸がニヤリと笑う。

 

「で。」

 

空気が変わる。

 

「緑谷ちゃん。」

 

「一つ聞いていい?」

 

「?」

 

「爆豪くんと付き合ってるの?」

 

一瞬。

 

静まり返る。

 

出久はきょとんと瞬きをした。

 

「付き合ってないよ。」

 

あまりにも自然な返事だった。

 

葉隠が思わず目を丸くする。

 

「えっ?」

 

耳郎も首を傾げた。

 

「じゃあ。」

 

「爆豪くんって何なの?」

 

出久は少しだけ考えた。

 

静かに微笑む。

 

「……とっても大切な人。」

 

女子更衣室が静まり返る。

 

葉隠が固まる。

 

芦戸も固まる。

 

耳郎が思わず吹き出した。

 

「いや。」

 

「その答えの方が重いって。」

 

出久は不思議そうに首を傾げる。

 

「?」

 

「小さい頃からずっと一緒だから。」

 

「私の中では。」

 

少しだけ照れくさそうに笑う。

 

「かけがえのない存在なんだ。」

 

八百万は感心したように頷いた。

 

「なるほど。」

 

「そういう関係でしたのね。」

 

芦戸が両手で頭を抱える。

 

「百ちゃん!」

 

「そこじゃないの!」

 

「もっとツッコんで!」

 

葉隠も笑いながら続く。

 

「緑谷ちゃん!」

 

「その答えで納得する人、絶対いないよ!」

 

出久は最後まで首を傾げたままだった。

 

「そうなの?」

 

その一言に。

 

女子更衣室は笑い声に包まれた。

 

 

 

幕間② 男子会

 

放課後。

 

男子更衣室。

 

「いやぁー!」

 

上鳴が勢いよくロッカーを閉める。

 

「今日の戦闘訓練、見応えあったな!」

 

瀬呂もタオルを首へ掛けながら笑う。

 

「特に爆豪。」

 

「壁だけぶち抜くとか意味分かんねぇ。」

 

切島が豪快に笑う。

 

「しかも柱も爆弾も無傷だぜ?」

 

「どんなコントロールしてんだよ!」

 

その時。

 

制服へ着替え終えた飯田が眼鏡を押し上げた。

 

「実は。」

 

三人が振り向く。

 

「爆豪君は、近接戦闘でも本気ではなかった。」

 

「「「……は?」」」

 

男子更衣室が静まり返る。

 

飯田は真面目な表情のまま続ける。

 

「途中までは互角でした。」

 

「ですが。」

 

「あれは俺に合わせていただけだったのでしょう。」

 

「最後の数秒で、その差を痛感しました。」

 

切島が思わず頭を掻く。

 

「マジかよ……。」

 

瀬呂も苦笑する。

 

「そりゃ壁も抜けるわ。」

 

上鳴が肩をすくめた。

 

「やっぱアイツ化け物じゃん。」

 

その時だった。

 

ガチャ。

 

更衣室の扉が開く。

 

「……。」

 

爆豪勝己が入ってきた。

 

タオルで髪を拭きながら、自分のロッカーへ向かう。

 

上鳴がニヤリと笑う。

 

「なぁ、爆豪。」

 

勝己は返事をしない。

 

「一つ聞いていいか?」

 

制服へ腕を通しながら、短く返す。

 

「何だ。」

 

上鳴は瀬呂と目を合わせる。

 

そして。

 

「お前さ。」

 

「緑谷と付き合ってんの?」

 

更衣室が静まり返った。

 

切島も興味津々で見ている。

 

飯田だけが事情を飲み込めず、首を傾げた。

 

勝己はロッカーを閉める。

 

ガタン。

 

振り返る。

 

「付き合ってねぇ。」

 

即答だった。

 

「だよなぁ。」

 

上鳴が笑いかけた、その時。

 

勝己が続ける。

 

「ただ。」

 

ほんの少しだけ間が空く。

 

「大事な幼なじみだ。」

 

静寂。

 

上鳴の笑顔が固まる。

 

瀬呂も固まる。

 

切島だけが何度か瞬きを繰り返した。

 

数秒後。

 

上鳴が口を開く。

 

「いや。」

 

「付き合ってるって言われた方が納得できるんだけど。」

 

瀬呂も大きく頷く。

 

「それな。」

 

「今日の連携見たあとじゃ、なおさら。」

 

勝己は眉一つ動かさない。

 

「事実だ。」

 

「それ以上でも。」

 

「それ以下でもねぇ。」

 

言い切る。

 

迷いは一切ない。

 

上鳴は頭を抱えた。

 

「だから重いんだって!」

 

瀬呂も苦笑する。

 

「本人だけ気付いてねぇ。」

 

勝己は制服のボタンを留め終えると、鞄を肩へ掛けた。

 

「うるせぇ。」

 

ぶっきらぼうに言い残し、更衣室を後にする。

 

扉が閉まる。

 

静寂。

 

しばらく誰も口を開かなかった。

 

やがて切島が笑う。

 

「でもよ。」

 

「アイツ、全部本気で言ってたな。」

 

飯田も静かに頷く。

 

「ええ。」

 

「爆豪君にとって、緑谷君は何物にも代え難い存在なのでしょう。」

 

上鳴は深くため息を吐く。

 

「いやぁ……。」

 

「俺、恋愛ってもっと軽いもんだと思ってた。」

 

瀬呂が笑う。

 

「アイツら見てると。」

 

「何かもう別ジャンルだよな。」

 

男子更衣室に、笑い声が響いた。

 

 

 

幕間③ 母たちの昼下がり

 

休日の昼下がり。

 

駅前の喫茶店。

 

「いらっしゃいませ。」

 

店員が二人を見るなり笑顔を浮かべた。

 

「あら、お二人。いつものお席へどうぞ。」

 

「ありがとうございます。」

 

引子と光己は顔を見合わせ、小さく笑う。

 

窓際の席へ腰を下ろす。

 

慣れた様子で注文を済ませると、穏やかな時間が流れ始めた。

 

---

 

光己がコーヒーカップを手に取りながら口を開く。

 

「出久ちゃん、雄英はどう?」

 

引子は自然と笑みを浮かべた。

 

「毎日、本当に楽しそうなんです。」

 

「帰ってくると、その日にあったことを嬉しそうに話してくれて。」

 

「見ている私まで嬉しくなっちゃって。」

 

光己も優しく笑う。

 

「勝己もよ。」

 

「最近ね。」

 

「家を出る時、機嫌がいいのよ。」

 

引子は優しく微笑み、窓の外へ目を向けた。

 

桜が春風に揺れている。

 

「夢を叶えた……でしょうね。」

 

その一言に、光己も静かに微笑む。

 

「言わなくても分かるものね。」

 

二人は顔を見合わせ、小さく笑った。

 

しばらく穏やかな沈黙が流れる。

 

やがて引子が、少しだけ真剣な表情になった。

 

「……私。」

 

「勝己くんには、本当に感謝しているんです。」

 

光己は静かに顔を上げる。

 

引子は優しく微笑んだ。

 

「出久は昔から泣き虫で。」

 

「何度も泣いて帰ってきました。」

 

少しだけ遠くを見る。

 

「それでも。」

 

「勝己くんだけは、ずっとあの子の隣にいてくれた。」

 

「だから今の出久がいるんです。」

 

光己は小さく笑った。

 

「何言ってんの。」

 

「こっちの台詞よ。」

 

コーヒーを一口飲む。

 

「あのバカ。」

 

「昔から真っ直ぐ過ぎるのよ。」

 

「思ったら一直線。」

 

「周りなんて全然見えてなかった。」

 

少しだけ笑う。

 

「でも。」

 

「出久ちゃんだけは、ずっと勝己を見ててくれた。」

 

「だから。」

 

「あの子も少しずつ、人を見るようになった。」

 

優しく微笑む。

 

「勝己がここまで来られたのは。」

 

「出久ちゃんのおかげ。」

 

引子は少し照れながら笑った。

 

「お互い様ですね。」

 

「そうね。」

 

二人は同時に笑う。

 

料理が運ばれてきた。

 

「お待たせしました。」

 

店員が去る。

 

再び穏やかな昼下がり。

 

光己がコーヒーカップを手に取り、何気なく呟く。

 

「……ひっつけばいいのにね。」

 

引子は思わず吹き出した。

 

「ふふっ。」

 

「まだまだですよ。」

 

「そう?」

 

光己が笑う。

 

引子も優しく笑い返した。

 

「はい。」

 

「今はきっと。」

 

「あの子たち、ヒーローになることで頭がいっぱいですから。」

 

「恋愛なんて、まだまだ先です。」

 

光己は肩をすくめる。

 

「まあ。」

 

「あの二人らしいわね。」

 

「ええ。」

 

引子は優しく頷いた。

 

「でも。」

 

「これからも二人で笑っていてくれたら。」

 

「私は、それだけで十分です。」

 

光己も静かに頷く。

 

「私も。」

 

「元気で笑ってりゃ、それでいい。」

 

少しだけ間が空く。

 

光己が、いたずらっぽく笑った。

 

「まあ。」

 

「本人たちが気付くの、一番最後でしょうけど。」

 

引子も思わず笑う。

 

「ふふっ。」

 

「そうかもしれませんね。」

 

二人の笑い声が、春の陽射しに溶けていく。

 

いつもの喫茶店。

 

いつもの席。

 

いつもの昼下がり。

 

そんな穏やかな時間が、これからもきっと続いていく。

 

 

 

幕間④ 作戦会議

 

出久は図面を見つめる。

 

「飯田くんは、勝己を止めると思う。」

 

「八百万さんは、私を止めに来る。」

 

勝己は黙って聞いている。

 

出久が図面を指差した。

 

「だから。」

 

「勝己は正面。」

 

「私は爆弾へ向かう。」

 

勝己は一度だけ頷く。

 

「分かった。」

 

短い沈黙。

 

勝己が口を開く。

 

「五分。」

 

出久は意味を理解したように笑う。

 

「うん。」

 

「五分経ったらお願い。」

 

勝己は口元を少しだけ上げた。

 

「ああ。」

 

 

 

幕間⑤ 本人たち

 

昼休み。

 

1年A組教室。

 

「あーー!」

 

芦戸が机へ突っ伏した。

 

「もう我慢できない!」

 

葉隠が笑う。

 

「まだ気にしてたの?」

 

「気にするでしょ!」

 

芦戸は勢いよく立ち上がった。

 

「昨日、緑谷ちゃんに聞いたじゃん!」

 

「爆豪くんと付き合ってるの?って!」

 

耳郎も思い出したように笑う。

 

「付き合ってないって言ってたね。」

 

「そう!」

 

「でも!」

 

「『とっても大切な人。』だよ?」

 

葉隠も頷く。

 

「『かけがえのない存在なんだ。』」

 

「もう付き合ってるより重いって!」

 

女子たちが笑い合う。

 

その時。

 

「何の話?」

 

上鳴たち男子が教室へ入ってきた。

 

芦戸は待ってましたと言わんばかりに振り返る。

 

「ちょうどいい!」

 

「上鳴!」

 

「聞いてよ!」

 

上鳴は首を傾げる。

 

「ん?」

 

「実はさ!」

 

「昨日、緑谷ちゃんに爆豪くんとのこと聞いたの!」

 

その一言で。

 

男子たちの動きが止まった。

 

瀬呂が笑う。

 

「マジ?」

 

切島も苦笑する。

 

「俺らも昨日、爆豪に聞いたぞ。」

 

「え?」

 

今度は女子が固まる。

 

「どうだったの?」

 

上鳴は肩をすくめた。

 

「付き合ってねぇって。」

 

「ほら!」

 

芦戸が腕を組む。

 

「やっぱり!」

 

「でも。」

 

瀬呂が笑いを堪えながら続ける。

 

「『大事な幼なじみだ。』って。」

 

女子全員。

 

「…………」

 

耳郎がゆっくり口を開く。

 

「え。」

 

葉隠も固まる。

 

「同じこと言ってない?」

 

切島が笑った。

 

「しかも最後。」

 

「『それ以上でも、それ以下でもねぇ。』だって。」

 

教室が静まり返る。

 

数秒後。

 

芦戸が頭を抱えた。

 

「だから!」

 

「付き合ってるって言われた方が納得できるって!」

 

上鳴も勢いよく頷く。

 

「俺もそう言った!」

 

瀬呂が笑う。

 

「本人たちだけ気付いてねぇ。」

 

耳郎も苦笑する。

 

「もう別ジャンルでしょ。」

 

その時だった。

 

八百万が真剣な表情で口を開く。

 

「ですが。」

 

全員が振り向く。

 

「双方とも交際は否定しております。」

 

静寂。

 

芦戸が思わず叫ぶ。

 

「百ちゃん!」

 

「そこじゃないの!」

 

葉隠も笑いながら続く。

 

「そこを真面目に分析しないで!」

 

飯田も眼鏡を押し上げる。

 

「つまり。」

 

「極めて強い信頼関係ということですね。」

 

全員。

 

「違う違う違う!」

 

教室が笑い声に包まれる。

 

その時だった。

 

ガラリ。

 

教室の扉が開く。

 

勝己と出久が並んで入ってくる。

 

笑い声が止まる。

 

二人は不思議そうに教室を見渡した。

 

「?」

 

出久が首を傾げる。

 

「どうしたの?」

 

誰も答えられない。

 

勝己が眉をひそめる。

 

「変な空気だな。」

 

沈黙。

 

数秒後。

 

芦戸がぎこちなく笑う。

 

「な、何でもないよ!」

 

「そ、そうそう!」

 

上鳴も慌てて頷く。

 

「気にすんな!」

 

勝己は怪訝そうな顔をしながら、自分の席へ向かう。

 

出久も小さく首を傾げながら、その後を追った。

 

席へ座る二人。

 

自然に言葉を交わす。

 

「勝己」

 

「ん?」

 

「お弁当食べよ。」

 

「おう。」

 

そのやり取りを見たクラス全員が、同じタイミングで顔を見合わせた。

 

そして。

 

芦戸が小さく呟く。

 

「……やっぱり。」

 

芦戸は肩をすくめ、大きくため息をついた。

 

「もう付き合えばいいのに。」

 

教室に、小さな笑い声が広がった。

 

 

 

幕間⑥ 約束の意味

 

演習場。

 

戦闘訓練を終えた演習場には、静かな空気が流れていた。

 

オールマイトは一人、モニターの前に立っている。

 

映像には、先ほどの戦闘記録が映し出されていた。

 

飯田と爆豪。

 

八百万と緑谷。 

 

そして――

 

「五分。」

 

その一言。

 

オールマイトは映像を止める。

 

「これは……。」

 

「聞いてみたくなるね。」

 

廊下。

 

帰り支度を終えた勝己と出久が並んで歩いていた。

 

「二人とも。」

 

聞き慣れた声に、二人は振り返る。

 

「オールマイト。」

 

オールマイトは笑顔で歩み寄った。

 

「少し聞いてもいいかな?」

 

「何ですか?」

 

出久が首を傾げる。

 

オールマイトは穏やかに笑いながら尋ねた。

 

「『五分。』」

 

「『右。』」

 

「あれは、どういう意味だったんだい?」

 

出久は一度だけ勝己を見る。

 

勝己は短く頷いた。

 

出久も小さく微笑む。

 

「『五分。』は。」

 

「五分経ったら。」

 

「勝己に来てもらう約束でした。」

 

オールマイトは感心したように頷く。

 

「なるほど!」

 

「では、『右。』は?」

 

今度は勝己が口を開いた。

 

「飯田は最短で来る。」

 

「だから。」

 

「飯田が来る方向。」

 

短い説明。

 

それだけだった。

 

オールマイトは一瞬だけ考える。

 

そして、思わず笑みを浮かべた。

 

「そういうことか!」

 

少しだけ二人を見つめる。

 

「言葉じゃなく。」

 

「互いを信じていたんだね。」

 

出久は照れくさそうに笑った。

 

「はい。」

 

勝己は鼻を鳴らす。

 

「当然だ。」

 

オールマイトは嬉しそうに微笑んだ。

 

「いい連携だった。」

 

少しだけ表情を引き締める。

 

「だが。」

 

「相澤君の言う通り。」

 

「これからは、誰とでもその信頼を築けるヒーローになってくれ。」

 

「はい!」

 

「……おう。」

 

二人は力強く頷いた。

 

並んで歩く二人。

 

夕陽が長い影を伸ばしていた。

 

その背中を見送りながら、オールマイトは静かに笑う。

 

春の夕焼けが、雄英高校を優しく照らしていた。

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