USJ襲撃事件。
その後の対応は、慌ただしく進んでいった。
負傷した相澤。
そして、13号。
二人は重傷を負い、すぐに治療を受けることになった。
幸い。
生徒たちに、大きな怪我はなかった。
それぞれが飛ばされた場所で。
戦闘を避けながら仲間と合流した者。
ヴィランと戦い。
複数のヴィランを拘束した者もいた。
そして。
飯田もまた。
重要な役割を果たしていた。
襲撃を受けた直後。
一人でUSJから脱出し、外部へ事件を知らせたのである。
その判断がなければ。
救援が来るまで、さらに時間がかかっていたかもしれない。
「飯田くん」
教師の一人が声をかける。
「よくやったな」
「ありがとうございます!」
飯田は背筋を伸ばす。
「ですが、俺一人の力ではありません」
「それでもだ」
教師が頷く。
「よく状況を判断した」
「はい!」
飯田は深く頭を下げた。
その姿を。
少し離れた場所から出久は見ていた。
「……飯田くんも、頑張ったんだね」
「そうだな」
勝己が答える。
今日。
自分たちが戦っている間にも。
クラスの誰もが。
それぞれの場所で戦っていた。
そして。
それぞれが。
自分にできることをしていた。
それを知っただけで。
出久は少しだけ嬉しくなった。
「みんな、無事でよかった」
「ああ」
勝己も短く答える。
そして。
二人は顔を見合わせた。
「……帰るか」
「うん」
雄英を出る。
夕方。
空は、少しずつ赤く染まり始めていた。
二人並んで歩く。
いつもの帰り道。
けれど。
今日は。
二人とも、なかなか口を開かなかった。
しばらく歩いたところで。
「……なぁ」
勝己が口を開いた。
「ん?」
「少し付き合えよ」
「え?」
出久が振り向く。
勝己は前を向いたまま。
「ちょっと寄る」
「どこに?」
「いいから」
「……うん」
出久は頷いた。
勝己についていく。
やがて。
二人の前に。
見慣れた景色が現れた。
「……ここ」
出久が目を丸くする。
昔から。
何度も来た場所。
二人が子どもの頃から、走って。
鍛えて。
何度も汗を流した。
河川敷。
「懐かしいね」
「そうだな」
勝己が土手に腰を下ろす。
出久も隣に座った。
川の水が。
夕日に照らされている。
風が。
二人の間を通り抜ける。
「……今日」
勝己が呟く。
「……うん」
出久が答える。
少しだけ間が空く。
「……無事でよかった」
出久は黙って勝己を見る。
勝己は川の方を見たまま。
「どこに飛ばされたのかも分かんねぇし」
「勝己も」
出久が言う。
「どこにいるのか分からなかった」
「そうだな」
二人とも。
あの時を思い出す。
黒い霧。
伸ばした手。
届かなかった。
「……怖かった」
出久が小さく言う。
「私ね」
川を見る。
「先生を助けたかった」
「……」
「でも、届かなかった」
勝己は何も言わない。
「勝己も」
「相澤先生を助けようとしてたんだよね」
「当然だろ」
短い返事。
けれど。
その声は。
いつもより少しだけ低かった。
「……そっか」
出久は小さく笑った。
「私たち、ちゃんとヒーローになろうとしてたんだね」
「当たり前だ」
勝己が答える。
「でも」
出久は空を見る。
「まだまだだね」
「……ああ」
「オールマイト、すごかった」
勝己は少し黙る。
そして。
「……俺もそう思う」
それだけ言った。
出久も頷く。
「うん」
しばらく。
二人は黙って川を見ていた。
やがて。
出久が立ち上がる。
「そろそろ帰ろうか」
「ああ」
勝己も立ち上がる。
二人並んで土手を歩く。
その時。
出久が。
ふと。
勝己を見る。
「……ねえ」
「ん?」
「手」
「……繋いで帰らない?」
「なんで?」
「昔」
出久が笑う。
「よく繋いでたじゃん」
「……まぁ、そうだな」
勝己が少しだけ考える。
そして。
何も言わず。
手を差し出した。
出久は。
その手を。
そっと握った。
「……あったかい」
「そうか?」
「うん」
手を繋いで。
歩き出す。
昔と同じように。
でも。
昔とは少し違う。
二人とも。
もう子どもではない。
今日。
本物のヴィランと戦った。
本物のヒーローを見た。
そして。
自分たちに足りないものも。
少しだけ分かった。
それでも。
こうして隣を歩いている。
出久が。
小さく笑う。
「なんだかね」
「ん?」
「勝己と手を繋いで帰りたくなったんだ」
勝己は。
少しだけ黙った。
「……そうか」
それ以上は言わない。
けれど。
繋いだ手は。
離さなかった。
しばらく歩いて。
勝己が小さく呟く。
「……まあ」
出久が顔を上げる。
「……悪くねぇな」
「うん」
二人は。
そのまま。
並んで歩いていく。
夕暮れの帰り道。
昔から変わらない。
二人の歩幅で。
――第五部。
残すは。
あと一章。