無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

34 / 57
第六章 帰り道

 

USJ襲撃事件。

 

その後の対応は、慌ただしく進んでいった。

 

負傷した相澤。

 

そして、13号。

 

二人は重傷を負い、すぐに治療を受けることになった。

 

幸い。

 

生徒たちに、大きな怪我はなかった。

 

それぞれが飛ばされた場所で。

 

戦闘を避けながら仲間と合流した者。

 

ヴィランと戦い。

 

複数のヴィランを拘束した者もいた。

 

そして。

 

飯田もまた。

 

重要な役割を果たしていた。

 

襲撃を受けた直後。

 

一人でUSJから脱出し、外部へ事件を知らせたのである。

 

その判断がなければ。

 

救援が来るまで、さらに時間がかかっていたかもしれない。

 

「飯田くん」

 

教師の一人が声をかける。

 

「よくやったな」

 

「ありがとうございます!」

 

飯田は背筋を伸ばす。

 

「ですが、俺一人の力ではありません」

 

「それでもだ」

 

教師が頷く。

 

「よく状況を判断した」

 

「はい!」

 

飯田は深く頭を下げた。

 

その姿を。

 

少し離れた場所から出久は見ていた。

 

「……飯田くんも、頑張ったんだね」

 

「そうだな」

 

勝己が答える。

 

今日。

 

自分たちが戦っている間にも。

 

クラスの誰もが。

 

それぞれの場所で戦っていた。

 

そして。

 

それぞれが。

 

自分にできることをしていた。

 

それを知っただけで。

 

出久は少しだけ嬉しくなった。

 

「みんな、無事でよかった」

 

「ああ」

 

勝己も短く答える。

 

そして。

 

二人は顔を見合わせた。

 

「……帰るか」

 

「うん」

 

雄英を出る。

 

夕方。

 

空は、少しずつ赤く染まり始めていた。

 

二人並んで歩く。

 

いつもの帰り道。

 

けれど。

 

今日は。

 

二人とも、なかなか口を開かなかった。

 

しばらく歩いたところで。

 

「……なぁ」

 

勝己が口を開いた。

 

「ん?」

 

「少し付き合えよ」

 

「え?」

 

出久が振り向く。

 

勝己は前を向いたまま。

 

「ちょっと寄る」

 

「どこに?」

 

「いいから」

 

「……うん」

 

出久は頷いた。

 

勝己についていく。

 

やがて。

 

二人の前に。

 

見慣れた景色が現れた。

 

「……ここ」

 

出久が目を丸くする。

 

昔から。

 

何度も来た場所。

 

二人が子どもの頃から、走って。

 

鍛えて。

 

何度も汗を流した。

 

河川敷。

 

「懐かしいね」

 

「そうだな」

 

勝己が土手に腰を下ろす。

 

出久も隣に座った。

 

川の水が。

 

夕日に照らされている。

 

風が。

 

二人の間を通り抜ける。

 

「……今日」

 

勝己が呟く。

 

「……うん」

 

出久が答える。

 

少しだけ間が空く。

 

「……無事でよかった」

 

出久は黙って勝己を見る。

 

勝己は川の方を見たまま。

 

「どこに飛ばされたのかも分かんねぇし」

 

「勝己も」

 

出久が言う。

 

「どこにいるのか分からなかった」

 

「そうだな」

 

二人とも。

 

あの時を思い出す。

 

黒い霧。

 

伸ばした手。

 

届かなかった。

 

「……怖かった」

 

出久が小さく言う。

 

「私ね」

 

川を見る。

 

「先生を助けたかった」

 

「……」

 

「でも、届かなかった」

 

勝己は何も言わない。

 

「勝己も」

 

「相澤先生を助けようとしてたんだよね」

 

「当然だろ」

 

短い返事。

 

けれど。

 

その声は。

 

いつもより少しだけ低かった。

 

「……そっか」

 

出久は小さく笑った。

 

「私たち、ちゃんとヒーローになろうとしてたんだね」

 

「当たり前だ」

 

勝己が答える。

 

「でも」

 

出久は空を見る。

 

「まだまだだね」

 

「……ああ」

 

「オールマイト、すごかった」

 

勝己は少し黙る。

 

そして。

 

「……俺もそう思う」

 

それだけ言った。

 

出久も頷く。

 

「うん」

 

しばらく。

 

二人は黙って川を見ていた。

 

やがて。

 

出久が立ち上がる。

 

「そろそろ帰ろうか」

 

「ああ」

 

勝己も立ち上がる。

 

二人並んで土手を歩く。

 

その時。

 

出久が。

 

ふと。

 

勝己を見る。

 

「……ねえ」

 

「ん?」

 

「手」

 

「……繋いで帰らない?」

 

「なんで?」

 

「昔」

 

出久が笑う。

 

「よく繋いでたじゃん」

 

「……まぁ、そうだな」

 

勝己が少しだけ考える。

 

そして。

 

何も言わず。

 

手を差し出した。

 

出久は。

 

その手を。

 

そっと握った。

 

「……あったかい」

 

「そうか?」

 

「うん」

 

手を繋いで。

 

歩き出す。

 

昔と同じように。

 

でも。

 

昔とは少し違う。

 

二人とも。

 

もう子どもではない。

 

今日。

 

本物のヴィランと戦った。

 

本物のヒーローを見た。

 

そして。

 

自分たちに足りないものも。

 

少しだけ分かった。

 

それでも。

 

こうして隣を歩いている。

 

出久が。

 

小さく笑う。

 

「なんだかね」

 

「ん?」

 

「勝己と手を繋いで帰りたくなったんだ」

 

勝己は。

 

少しだけ黙った。

 

「……そうか」

 

それ以上は言わない。

 

けれど。

 

繋いだ手は。

 

離さなかった。

 

しばらく歩いて。

 

勝己が小さく呟く。

 

「……まあ」

 

出久が顔を上げる。

 

「……悪くねぇな」

 

「うん」

 

二人は。

 

そのまま。

 

並んで歩いていく。

 

夕暮れの帰り道。

 

昔から変わらない。

 

二人の歩幅で。

 

――第五部。

 

残すは。

 

あと一章。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。