「第一種目――!」
スタジアムに、解説のプレゼント・マイクの声が響き渡る。
「障害物競走!!」
歓声が、再び爆発した。
選手たちが、一斉にスタートラインへ並ぶ。
出久も、その中にいた。
少し離れた場所には、勝己。
さらに前方には、轟。
「位置について――!」
スタジアムが静まる。
「よーい――!」
そして。
「スタートォォォ!!」
一斉に。
選手たちが飛び出した。
爆発音。
勝己が、一気に前へ出る。
「うおおおおっ!」
その直後。
轟の足元から、巨大な氷が走った。
「なっ!?」
「うわぁ!」
前方にいた生徒たちが、次々と足を取られる。
轟は、そのまま氷の上を滑るように進んでいく。
だが。
勝己は地面へ爆発を叩きつけた。
身体が跳ね上がる。
氷の波を飛び越え、そのまま前へ。
先頭は。
勝己と轟。
そのずっと後ろ。
出久が走っていた。
「緑谷もいるぞ!」
「速っ!」
A組の生徒から声が上がる。
轟の氷が迫る。
出久は、横へ跳んだ。
氷が、すぐ脇を通り抜ける。
着地。
そのまま走る。
「今の避けた!?」
「轟の攻撃だぞ!?」
「しかも、ギリギリじゃない!」
出久は止まらない。
前方。
巨大な影が現れた。
「来たぞ!」
「第一関門――ロボ・インフェルノだァァァ!!」
プレゼント・マイクの声が響く。
巨大なロボットが、次々と動き出す。
腕が振り下ろされる。
出久が横へ跳ぶ。
地面が砕ける。
着地。
走る。
別のロボットが進路を塞ぐ。
出久は、速度を落とさない。
ロボットの腕が横薙ぎに振られる。
身体を沈める。
頭上を、巨大な腕が通り過ぎた。
その腕が、別のロボットへぶつかる。
ガンッ!
ロボット同士がぶつかった。
一瞬。
道が開く。
出久が、その隙間を抜ける。
「まただ!」
「ロボットの動きを利用してるのか!?」
「無個性の子だよな!?」
さらに前。
巨大なロボットが、出久へ向かって倒れ込んでくる。
出久は、止まらない。
倒れてくるロボットを横へ避ける。
地面を蹴る。
そのまま走る。
「危ねぇ!」
「避けた!」
「いや……あれ、ちゃんと見てるぞ!」
出久の進路には、まだロボットがいる。
けれど。
真正面から相手をしない。
倒そうともしない。
ロボットが動く。
出久が動く。
空いた場所へ。
ただ、抜けていく。
そして。
「ゼロポイント・ロボットォォォ!!」
巨大なロボットが姿を現した。
「うわあああ!」
生徒たちが散っていく。
轟は氷を伸ばす。
勝己は爆発で飛ぶ。
その中で。
出久が走る。
巨大な足が振り下ろされる。
出久が横へ飛ぶ。
地面が、大きく揺れた。
転がる。
すぐに立ち上がる。
走る。
「また避けた!」
「真正面から行かない!」
「倒さないのか!?」
「競走だからな!」
出久は、そのまま第一関門を抜けた。
「緑谷選手、突破ァァァ!!」
プレゼント・マイクの声が響く。
その先。
巨大な谷が現れる。
「第二関門――ザ・フォール!!」
谷の向こうまで。
一本のロープが張られている。
生徒たちが、次々とロープへ飛び移る。
二本の足で立とうとする。
身体が揺れる。
「うわっ!」
「落ちるなよ!」
その中へ。
出久が飛び込んだ。
ロープへ飛び移る。
身体を低くする。
両腕でロープを抱え込む。
脚を使う。
身体全体をロープへ預ける。
そして。
進んだ。
一歩。
また一歩。
その速度が、明らかに違う。
「な、なんだあれはー!?」
プレゼント・マイクの声が響く。
「普通の綱渡りじゃねぇぞ!? あんな体勢で、なんであんなに速ぇんだ!?」
観客席から、どよめきが起こる。
「速い!」
「何あれ!?」
「あの子、無個性だろ!?」
実況席。
相澤は、出久の動きを静かに追っていた。
「……あれは、ロープブリッジ渡過だな」
「ロープブリッジ渡過ぁ!?」
「消防隊なんかが使う渡過技術だ」
相澤は、淡々と続ける。
「雄英で練習したもんじゃないが……」
出久は止まらない。
腕だけに頼らず。
身体全体を使って、ロープを進んでいく。
「……よくできてる」
「マジかよ!?」
プレゼント・マイクが声を上げる。
「緑谷選手、まさかの専門的な渡過技術でザ・フォールを攻略していくー!」
出久は、ロープを渡り切った。
着地。
そのまま走る。
先頭では。
勝己と轟が、まだ競り合っていた。
だが。
出久は、二人の背中を追いかけていた。
その距離が。
少しずつ。
縮まっていく。
「緑谷、上がってきてる!」
「三位集団に入るぞ!」
「嘘だろ……!」
出久が走る。
「最終関門――地雷原だァァァ!!」
地面一面。
無数の地雷が埋め込まれている。
先行する生徒が踏んだ。
爆発。
「うわあああ!」
出久は、止まらない。
爆発した場所。
地面の状態。
前を走る生徒の動き。
そのすべてを見ながら。
走る。
一つ。
また一つ。
足を置く場所を変える。
爆発。
出久が跳ぶ。
着地。
さらに前へ。
「また避けた!」
「地雷の位置、分かってるのか!?」
「どうやって見てるんだよ!?」
出久は走る。
爆発した場所を抜ける。
前方で、また爆発。
その直後。
出久が進路を変える。
空いた場所へ飛び込む。
「速い!」
観客席が沸く。
「まだ三位以内だ!」
「無個性の子だ!」
「追いつくぞ!」
スタジアムだけではない。
テレビの画面にも、出久の姿が映っている。
「……あの子、まだ走ってる」
「無個性なんだよね?」
「さっきから、個性を使ってないぞ」
「三位にいるのか……」
先頭。
勝己。
轟。
二人は、最後の直線へ入っていた。
轟は、勝己を追う。
勝己は、前だけを見る。
二人の距離は近い。
互いに譲らない。
その後ろ。
出久が走ってくる。
轟は振り返らない。
今は。
爆豪に勝つ。
それだけに集中している。
勝己が。
一瞬だけ。
後ろを見る。
そこに。
出久がいた。
「……フッ」
勝己の口元が。
ほんの少しだけ上がる。
次の瞬間。
爆発。
さらに加速した。
「爆豪、速い!」
「轟も負けてない!」
二人が、ゴールへ迫る。
そして。
勝己が先に飛び込んだ。
「一位ィィィィ!!」
プレゼント・マイクの声が響く。
「爆豪勝己!!」
続いて。
轟がゴールする。
「二位、轟焦凍!!」
そして。
その少し後。
出久が。
ゴールラインを越えた。
「三位!」
「緑谷出久!!」
歓声が上がる。
一位。
爆豪勝己。
二位。
轟焦凍。
三位。
緑谷出久。
体育祭としては。
一位になった勝己への歓声が、大きく響いていた。
けれど。
その中には。
別の声も混じっていた。
「……あの子」
「無個性なんだよな?」
「三位……?」
「しかも、個性を使ってない?」
「凄いな……」
テレビの前でも。
「爆豪って子、凄いな」
「轟も凄い」
「でも……」
画面に映る。
息を整える出久。
「……あの子から、目が離せないな」
スタジアムでは。
一位になった爆豪勝己が、大きくフィーチャーされている。
それでも。
緑谷出久を見つめる視線も。
確かに増えていた。
その少し離れた場所。
勝己は、ゴールした出久を見る。
「……出久」
出久も。
勝己を見る。
言葉はない。
ただ。
二人の視線が交わった。
勝己は、前を向く。
出久も、前を向く。
体育祭は。
まだ始まったばかりだった。