障害物競走が終わり。
選手たちは、次の種目へ移っていった。
第二種目。
騎馬戦。
四人一組となり。
それぞれの騎馬が、広いフィールドへ散っていく。
開始の合図と同時に。
そこかしこで、激しい攻防が始まった。
奪われるハチマキ。
飛び交う個性。
それぞれの騎馬が、生き残るために動いていく。
そして。
しばらくして。
第二種目が終了する。
「勝ち残った選手は――」
プレゼント・マイクの声が、スタジアムへ響いた。
「次の個人戦へ進出だァァァ!!」
歓声が上がる。
出久も。
勝己も。
その中にいた。
そして。
第三種目。
個人戦。
その準備が始まる。
控え室へ戻った生徒たちの間には。
さっきまでの熱気が、まだ残っていた。
「いやー、疲れたぁ……」
「騎馬戦、思ったよりキツかったね」
「でも、これで次は個人戦だよ!」
そんな声が飛び交う中。
女子生徒たちの一角では。
少し違った空気が流れていた。
「……で、どうする?」
「どうするって言われても……」
「チアでしょ?」
「うーん……」
女子たちは顔を見合わせる。
体育祭を盛り上げるための、チアリーダー。
けれど。
誰もが、すぐに乗り気になるわけではなかった。
「私、ちょっと恥ずかしいな……」
「私も……」
「そもそも、なんで私たちが?」
そんな声が続く。
その中で。
出久も、困ったように周りを見ていた。
「どうしよう……」
やりたくないわけではない。
けれど。
自分から進んで、
「やろう!」
と言えるほど、積極的でもない。
みんなが困っている。
自分も。
どうしたらいいのか分からなかった。
「……出久」
「え?」
振り向く。
そこには。
勝己がいた。
「何してんだ?」
「勝己……」
出久は、少し困ったように笑う。
「チアの話をしてるんだけど……」
「チア?」
「うん」
勝己が女子たちを見る。
「体育祭を盛り上げるために、チアをやってほしいって話みたい」
「……誰が言った」
「え?」
勝己の視線が。
女子たちの後ろへ向く。
そこには。
上鳴と峰田がいた。
「……」
二人の動きが止まる。
「お前らか」
「いや、その……」
峰田が、慌てて口を開く。
「女子のみんなにチアをやってもらえたら、その……体育祭ももっと盛り上がるかなって……」
「……なるほどな」
勝己は、二人を見る。
怒鳴るわけでもない。
拳を握るわけでもない。
ただ。
静かに聞いていた。
「で」
「はい」
「本人たちは?」
峰田が。
女子たちを見る。
女子たちは。
少し困った顔をしている。
「……あんまり乗り気じゃない、かな」
「私も……」
「だったら、無理にやらせんな」
勝己は、それだけ言った。
「……」
上鳴が黙る。
そして。
勝己を見る。
(……待て)
(これ)
(ここで誤魔化したら――)
上鳴の本能が。
危険信号を鳴らしていた。
(たぶん、一生取り返しつかないことになる)
「分かった」
上鳴が、素直に頷いた。
「俺たちが悪かった」
「おい、上鳴!」
峰田が慌てる。
「もういいだろ」
上鳴は、峰田を止める。
「これ以上は、やめとこうぜ」
「……」
峰田は、少しだけ考え。
そして。
「……分かった」
小さく頷いた。
勝己は、それ以上何も言わなかった。
「じゃあな」
そのまま。
出久の横を通り過ぎる。
そして。
少しだけ振り返った。
「……出久」
「うん?」
「次、個人戦だぞ」
「あ……」
出久は、スタジアムを見る。
まだ。
たくさんの観客がいる。
そして。
次は。
一対一。
自分自身の力だけで戦う。
「……うん」
出久は、小さく頷いた。
「楽しみだね」
「ああ」
勝己は、前を向く。
個人戦。
ここからは。
誰かと組むことはない。
誰かに任せることもない。
自分自身の力で。
勝ち上がっていく。
そして。
その戦いを。
大勢の人が見ている。
体育祭の視線が。
これから。
一人の生徒へ。
より強く集まっていくことになる。
――個人戦。
その幕が。
今、開こうとしていた。