無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第三章 騎馬戦と、その後

 

障害物競走が終わり。

 

選手たちは、次の種目へ移っていった。

 

第二種目。

 

騎馬戦。

 

四人一組となり。

 

それぞれの騎馬が、広いフィールドへ散っていく。

 

開始の合図と同時に。

 

そこかしこで、激しい攻防が始まった。

 

奪われるハチマキ。

 

飛び交う個性。

 

それぞれの騎馬が、生き残るために動いていく。

 

そして。

 

しばらくして。

 

第二種目が終了する。

 

「勝ち残った選手は――」

 

プレゼント・マイクの声が、スタジアムへ響いた。

 

「次の個人戦へ進出だァァァ!!」

 

歓声が上がる。

 

出久も。

 

勝己も。

 

その中にいた。

 

そして。

 

第三種目。

 

個人戦。

 

その準備が始まる。

 

控え室へ戻った生徒たちの間には。

 

さっきまでの熱気が、まだ残っていた。

 

「いやー、疲れたぁ……」

 

「騎馬戦、思ったよりキツかったね」

 

「でも、これで次は個人戦だよ!」

 

そんな声が飛び交う中。

 

女子生徒たちの一角では。

 

少し違った空気が流れていた。

 

「……で、どうする?」

 

「どうするって言われても……」

 

「チアでしょ?」

 

「うーん……」

 

女子たちは顔を見合わせる。

 

体育祭を盛り上げるための、チアリーダー。

 

けれど。

 

誰もが、すぐに乗り気になるわけではなかった。

 

「私、ちょっと恥ずかしいな……」

 

「私も……」

 

「そもそも、なんで私たちが?」

 

そんな声が続く。

 

その中で。

 

出久も、困ったように周りを見ていた。

 

「どうしよう……」

 

やりたくないわけではない。

 

けれど。

 

自分から進んで、

 

「やろう!」

 

と言えるほど、積極的でもない。

 

みんなが困っている。

 

自分も。

 

どうしたらいいのか分からなかった。

 

「……出久」

 

「え?」

 

振り向く。

 

そこには。

 

勝己がいた。

 

「何してんだ?」

 

「勝己……」

 

出久は、少し困ったように笑う。

 

「チアの話をしてるんだけど……」

 

「チア?」

 

「うん」

 

勝己が女子たちを見る。

 

「体育祭を盛り上げるために、チアをやってほしいって話みたい」

 

「……誰が言った」

 

「え?」

 

勝己の視線が。

 

女子たちの後ろへ向く。

 

そこには。

 

上鳴と峰田がいた。

 

「……」

 

二人の動きが止まる。

 

「お前らか」

 

「いや、その……」

 

峰田が、慌てて口を開く。

 

「女子のみんなにチアをやってもらえたら、その……体育祭ももっと盛り上がるかなって……」

 

「……なるほどな」

 

勝己は、二人を見る。

 

怒鳴るわけでもない。

 

拳を握るわけでもない。

 

ただ。

 

静かに聞いていた。

 

「で」

 

「はい」

 

「本人たちは?」

 

峰田が。

 

女子たちを見る。

 

女子たちは。

 

少し困った顔をしている。

 

「……あんまり乗り気じゃない、かな」

 

「私も……」

 

「だったら、無理にやらせんな」

 

勝己は、それだけ言った。

 

「……」

 

上鳴が黙る。

 

そして。

 

勝己を見る。

 

(……待て)

 

(これ)

 

(ここで誤魔化したら――)

 

上鳴の本能が。

 

危険信号を鳴らしていた。

 

(たぶん、一生取り返しつかないことになる)

 

「分かった」

 

上鳴が、素直に頷いた。

 

「俺たちが悪かった」

 

「おい、上鳴!」

 

峰田が慌てる。

 

「もういいだろ」

 

上鳴は、峰田を止める。

 

「これ以上は、やめとこうぜ」

 

「……」

 

峰田は、少しだけ考え。

 

そして。

 

「……分かった」

 

小さく頷いた。

 

勝己は、それ以上何も言わなかった。

 

「じゃあな」

 

そのまま。

 

出久の横を通り過ぎる。

 

そして。

 

少しだけ振り返った。

 

「……出久」

 

「うん?」

 

「次、個人戦だぞ」

 

「あ……」

 

出久は、スタジアムを見る。

 

まだ。

 

たくさんの観客がいる。

 

そして。

 

次は。

 

一対一。

 

自分自身の力だけで戦う。

 

「……うん」

 

出久は、小さく頷いた。

 

「楽しみだね」

 

「ああ」

 

勝己は、前を向く。

 

個人戦。

 

ここからは。

 

誰かと組むことはない。

 

誰かに任せることもない。

 

自分自身の力で。

 

勝ち上がっていく。

 

そして。

 

その戦いを。

 

大勢の人が見ている。

 

体育祭の視線が。

 

これから。

 

一人の生徒へ。

 

より強く集まっていくことになる。

 

――個人戦。

 

その幕が。

 

今、開こうとしていた。

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