「さあ――!」
スタジアムに、プレゼント・マイクの声が響き渡る。
「ここからは、いよいよ個人戦だァァァ!!」
再び。
大きな歓声が上がった。
フィールドの中央。
一人の女性ヒーローが、ゆっくりと前へ出る。
「ここからの個人戦で、レフェリーを務めるのは――」
プレゼント・マイクが声を張る。
「18禁ヒーロー! ミッドナイトォォォ!!」
「よろしくね」
ミッドナイトが、軽く手を振る。
「ルールは簡単よ」
マイクを手に。
選手たちへ視線を向ける。
「場外、降参、戦闘不能」
そして。
「私が危険と判断した場合も、そこで試合終了」
「分かりやすい!」
プレゼント・マイクが叫ぶ。
「それじゃあ――!」
個人戦が。
始まった。
最初に。
フィールドへ呼ばれたのは。
出久だった。
そして。
その向かい側に立ったのは――。
心操人使。
「両者、構えて!」
ミッドナイトの声が響く。
出久が。
静かに構える。
心操も。
構えた。
「それでは――」
一瞬。
静寂が訪れる。
「始め!」
その瞬間。
心操が口を開いた。
「……無個性で、雄英に入ったんだってな」
出久は。
何も答えない。
「さっきの選手宣誓」
「随分、立派なことを言ってたじゃないか」
出久は。
静かに相手を見る。
「無個性でも夢を諦めるな?」
「綺麗事だな」
「どうせ個性持ちには――」
その瞬間。
出久の姿が。
消えた。
「……え?」
心操の目が追いつかない。
次の瞬間。
目の前が――。
真っ暗になった。
何が起きたのか。
心操には、分からなかった。
ただ。
最後に見えたのは。
美しく。
一閃した。
緑谷の脚だった。
「――ッ!」
そのまま。
心操の身体が倒れる。
ミッドナイトが。
倒れた心操を見る。
「戦闘不能!」
「勝者――緑谷出久!」
歓声が上がる。
出久は。
倒れた心操へ近づいた。
「心操くん」
「……」
心操が、ゆっくりと顔を上げる。
「私は、会話で相手を誘導するタイプだと思ったから」
「答えなかった」
「……」
「でもね」
出久は、静かに続ける。
「私以外の人たちには、ちゃんと謝った方がいいと思うよ」
それだけ言って。
出久は、その場を離れた。
続いて。
勝己の試合。
向かいに立ったのは。
麗日お茶子だった。
「……よろしくね、爆豪くん」
「ああ」
開始の合図。
麗日が動く。
これまで。
クラスメイトたちと練習してきた。
どうすれば勝己に届くのか。
どうすれば、この強敵を倒せるのか。
麗日は。
自分にできることを、全て使った。
そして。
大量の落下物を。
一気に無重力にする。
「おおおおっ!?」
プレゼント・マイクが叫ぶ。
「これは凄い量だァァァ!!」
空中に浮かぶ。
大量の瓦礫。
その全てを。
麗日が、勝己へ向けて落とした。
「――!」
勝己が動く。
爆発。
一つ。
二つ。
三つ。
次々と迫る落下物を。
爆発で吹き飛ばす。
避ける。
飛ぶ。
さらに爆発。
最後の一つを。
紙一重でかわした。
そして。
静かになったフィールド。
麗日は。
その場に立っていた。
「……参った」
「私の負け」
「勝者――爆豪勝己!」
歓声が上がる。
けれど。
勝己は。
麗日の様子を見ていた。
「……おい」
「え?」
「大丈夫か」
「う、うん……」
麗日は笑おうとする。
けれど。
顔色が悪い。
「……ちょっと、気持ち悪くて」
「……こっち来い」
勝己が周囲を見る。
そして。
カメラの向いていない場所へ、麗日を連れていく。
「これ使え」
差し出したのは。
エチケット袋だった。
「……爆豪くん?」
「気にすんな」
勝己は、周囲を確認する。
「カメラにも映ってねぇ」
「……」
麗日は。
少しだけ目を丸くした。
そして。
「……爆豪くん、ありがとう」
「……別に」
勝己は、それだけ言った。
個人戦は。
その後も続いていく。
いくつもの戦いが。
次々と終わっていった。
そして。
出久の次の試合。
対戦相手は。
瀬呂範太。
「瀬呂選手の個性は、両肘からテープを放出する――」
プレゼント・マイクが説明する。
「中距離から相手を捕らえることができる、厄介な個性だァ!」
試合開始。
瀬呂が。
テープを放つ。
出久が避ける。
また。
テープ。
横へ。
さらに。
テープ。
出久は。
少しずつ距離を詰めていく。
「速い!」
「瀬呂のテープを避けながら近づいてるぞ!」
「捕まえろ、瀬呂!」
瀬呂が。
さらにテープを放つ。
出久は。
その軌道をかわした。
そして。
一気に懐へ入る。
「なっ――!」
拳が。
瀬呂の右脇腹へ入った。
「ぐっ……!」
「おおっと!?」
プレゼント・マイクが声を上げる。
瀬呂の身体が。
大きく揺れる。
さらに。
もう一撃。
「……参った」
「これ以上は無理だ……!」
ミッドナイトが確認する。
「降参を受理!」
「勝者――緑谷出久!」
歓声が上がる。
「えっ!? もう終わり!?」
プレゼント・マイクが驚く。
「いや」
相澤が、静かに口を開いた。
「あれは、ただの打撃じゃない」
「瀬呂の右脇腹」
「肝臓のある場所を正確に狙ってる」
「なるほど!」
プレゼント・マイクが声を上げる。
「急所への打撃で動きを止めたってことかァ!」
相澤は。
静かに出久を見る。
「……ちゃんと格闘技をやってるな」
一方。
勝己の試合も続いていた。
次の相手は。
飯田天哉。
「爆豪くん!」
飯田が構える。
「以前の訓練では、君に敗れた!」
「だが!」
「今度こそ――!」
「……ああ」
開始。
飯田が、一気に加速する。
その速度は。
以前よりも速い。
けれど。
勝己は。
その動きを見ていた。
踏み込む。
避ける。
懐へ入る。
「なっ……!」
一撃。
飯田の身体が揺れる。
さらに。
もう一撃。
最後は。
場外。
「勝者――爆豪勝己!」
歓声が上がる。
飯田は。
場外から勝己を見る。
勝己も。
少しだけ飯田を見る。
「前より速くなったな」
「……!」
それだけ言って。
勝己はフィールドを後にした。
試合は。
さらに進んでいった。
そして。
気づけば。
残る選手も。
少なくなっていた。
出久は。
勝ち上がっていた。
勝己も。
勝ち上がっていた。
轟も。
勝ち上がっていた。
やがて。
準決勝を前に。
出久は。
控え場所から、フィールドを見ていた。
そこへ。
轟がやってくる。
「緑谷」
「轟くん」
「……ここまで来たな」
「うん」
轟が。
出久を見る。
「個性もないのに、凄いな」
「え?」
「ここまで勝ち上がってきた」
出久は。
少しだけ笑った。
「いやいや」
「私だけの力じゃないよ」
「みんなのお陰だよ」
「……そうか」
「うん」
少しだけ。
沈黙が流れる。
出久は。
轟を見る。
「……一つだけ」
「ん?」
「聞いてもいい?」
「何だ」
「轟くんは」
「まだ使ってない個性があるよね」
「……」
轟が黙る。
出久は。
その先を聞かなかった。
「なんで使わないのかは、聞かない」
「……」
「でもね」
出久は。
ゆっくりと言葉を続ける。
「私は思うの」
「使えないと」
「使わないは」
「まるで違うと思う」
轟が。
出久を見る。
「だって」
「使えば、助けられる場面もあるかもしれないから」
「だから私は」
「いつか、轟くんが使えるようになってほしいと思う」
「……」
轟は。
しばらく何も言わなかった。
「……そうか」
それだけ。
二人は。
それ以上、話さなかった。
その後。
出久が一人で歩いていると。
「緑谷さん」
声をかけられた。
振り向く。
そこにいたのは。
国内トップクラスのプロヒーロー。
No.2ヒーロー――エンデヴァーだった。
燃え盛る炎を纏った巨体が。
出久の前に立っている。
「……はい?」
「先ほど、焦凍と話していたな」
「轟くんと?」
「ああ」
「焦凍と何を話した」
出久は。
少しだけ考える。
「えっと……」
エンデヴァーは。
出久を見る。
「焦凍は、私の息子だ」
「……!」
出久の目が。
少しだけ開く。
「そうだったんですね」
「ああ」
「私は、ただ……」
出久は。
さっき轟に話したことを思い出す。
「その個性が」
「いつか誰かのために使えるようになればいいと思っただけです」
エンデヴァーは。
少しだけ黙る。
「……そうか」
それだけだった。
そして。
エンデヴァーは。
轟のいる方へ視線を向ける。
出久は。
その場を離れた。
そして。
スタジアムへ。
再び。
プレゼント・マイクの声が響き渡る。
「さあ――!!」
「いよいよ準決勝だァァァ!!」
観客席が。
一気に沸き上がる。
フィールド中央。
ミッドナイトが立つ。
「ここから先は」
「もう、簡単には勝ち上がれないわよ」
そして。
選手たちが。
フィールドへ向かう。
「まずは第一試合――!」
プレゼント・マイクが。
大きく声を張る。
「緑谷出久!!」
歓声。
「対――!!」
出久が。
フィールドへ歩き出す。
「轟焦凍!!」
轟も。
ゆっくりと歩き出す。
二人が。
フィールド中央で向かい合う。
ミッドナイトが。
二人を見る。
「準備はいい?」
出久が。
構える。
轟も。
構える。
そして。
「――始め!」
その瞬間。
スタジアムが。
大歓声に包まれた。