無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第四章 個人戦

 

「さあ――!」

 

スタジアムに、プレゼント・マイクの声が響き渡る。

 

「ここからは、いよいよ個人戦だァァァ!!」

再び。

 

大きな歓声が上がった。

 

フィールドの中央。

 

一人の女性ヒーローが、ゆっくりと前へ出る。

 

「ここからの個人戦で、レフェリーを務めるのは――」

 

プレゼント・マイクが声を張る。

 

「18禁ヒーロー! ミッドナイトォォォ!!」

 

「よろしくね」

 

ミッドナイトが、軽く手を振る。

 

「ルールは簡単よ」

 

マイクを手に。

 

選手たちへ視線を向ける。

 

「場外、降参、戦闘不能」

 

そして。

 

「私が危険と判断した場合も、そこで試合終了」

 

「分かりやすい!」

 

プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

「それじゃあ――!」

 

個人戦が。

 

始まった。

 

最初に。

 

フィールドへ呼ばれたのは。

 

出久だった。

 

そして。

 

その向かい側に立ったのは――。

 

心操人使。

 

「両者、構えて!」

 

ミッドナイトの声が響く。

 

出久が。

 

静かに構える。

 

心操も。

 

構えた。

 

「それでは――」

 

一瞬。

 

静寂が訪れる。

 

「始め!」

 

その瞬間。

 

心操が口を開いた。

 

「……無個性で、雄英に入ったんだってな」

 

出久は。

 

何も答えない。

 

「さっきの選手宣誓」

 

「随分、立派なことを言ってたじゃないか」

 

出久は。

 

静かに相手を見る。

 

「無個性でも夢を諦めるな?」

 

「綺麗事だな」

 

「どうせ個性持ちには――」

 

その瞬間。

 

出久の姿が。

 

消えた。

 

「……え?」

 

心操の目が追いつかない。

 

次の瞬間。

 

目の前が――。

 

真っ暗になった。

 

何が起きたのか。

 

心操には、分からなかった。

 

ただ。

 

最後に見えたのは。

 

美しく。

 

一閃した。

 

緑谷の脚だった。

 

「――ッ!」

 

そのまま。

 

心操の身体が倒れる。

 

ミッドナイトが。

 

倒れた心操を見る。

 

「戦闘不能!」

 

「勝者――緑谷出久!」

 

歓声が上がる。

 

出久は。

 

倒れた心操へ近づいた。

 

「心操くん」

 

「……」

 

心操が、ゆっくりと顔を上げる。

 

「私は、会話で相手を誘導するタイプだと思ったから」

 

「答えなかった」

 

「……」

 

「でもね」

 

出久は、静かに続ける。

 

「私以外の人たちには、ちゃんと謝った方がいいと思うよ」

 

それだけ言って。

 

出久は、その場を離れた。

 

続いて。

 

勝己の試合。

 

向かいに立ったのは。

 

麗日お茶子だった。

 

「……よろしくね、爆豪くん」

 

「ああ」

 

開始の合図。

 

麗日が動く。

 

これまで。

 

クラスメイトたちと練習してきた。

 

どうすれば勝己に届くのか。

 

どうすれば、この強敵を倒せるのか。

 

麗日は。

 

自分にできることを、全て使った。

 

そして。

 

大量の落下物を。

 

一気に無重力にする。

 

「おおおおっ!?」

 

プレゼント・マイクが叫ぶ。

 

「これは凄い量だァァァ!!」

 

空中に浮かぶ。

 

大量の瓦礫。

 

その全てを。

 

麗日が、勝己へ向けて落とした。

 

「――!」

 

勝己が動く。

 

爆発。

 

一つ。

 

二つ。

 

三つ。

 

次々と迫る落下物を。

 

爆発で吹き飛ばす。

 

避ける。

 

飛ぶ。

 

さらに爆発。

 

最後の一つを。

 

紙一重でかわした。

 

そして。

 

静かになったフィールド。

 

麗日は。

 

その場に立っていた。

 

「……参った」

 

「私の負け」

 

「勝者――爆豪勝己!」

 

歓声が上がる。

 

けれど。

 

勝己は。

 

麗日の様子を見ていた。

 

「……おい」

 

「え?」

 

「大丈夫か」

 

「う、うん……」

 

麗日は笑おうとする。

 

けれど。

 

顔色が悪い。

 

「……ちょっと、気持ち悪くて」

 

「……こっち来い」

 

勝己が周囲を見る。

 

そして。

 

カメラの向いていない場所へ、麗日を連れていく。

 

「これ使え」

 

差し出したのは。

 

エチケット袋だった。

 

「……爆豪くん?」

 

「気にすんな」

 

勝己は、周囲を確認する。

 

「カメラにも映ってねぇ」

 

「……」

 

麗日は。

 

少しだけ目を丸くした。

 

そして。

 

「……爆豪くん、ありがとう」

 

「……別に」

 

勝己は、それだけ言った。

 

個人戦は。

 

その後も続いていく。

 

いくつもの戦いが。

 

次々と終わっていった。

 

そして。

 

出久の次の試合。

 

対戦相手は。

 

瀬呂範太。

 

「瀬呂選手の個性は、両肘からテープを放出する――」

 

プレゼント・マイクが説明する。

 

「中距離から相手を捕らえることができる、厄介な個性だァ!」

 

試合開始。

 

瀬呂が。

 

テープを放つ。

 

出久が避ける。

 

また。

 

テープ。

 

横へ。

 

さらに。

 

テープ。

 

出久は。

 

少しずつ距離を詰めていく。

 

「速い!」

 

「瀬呂のテープを避けながら近づいてるぞ!」

 

「捕まえろ、瀬呂!」

 

瀬呂が。

 

さらにテープを放つ。

 

出久は。

 

その軌道をかわした。

 

そして。

 

一気に懐へ入る。

 

「なっ――!」

 

拳が。

 

瀬呂の右脇腹へ入った。

 

「ぐっ……!」

 

「おおっと!?」

 

プレゼント・マイクが声を上げる。

 

瀬呂の身体が。

 

大きく揺れる。

 

さらに。

 

もう一撃。

 

 

「……参った」

 

「これ以上は無理だ……!」

 

ミッドナイトが確認する。

 

「降参を受理!」

 

「勝者――緑谷出久!」

 

歓声が上がる。

 

「えっ!? もう終わり!?」

 

プレゼント・マイクが驚く。

 

「いや」

 

相澤が、静かに口を開いた。

 

「あれは、ただの打撃じゃない」

 

「瀬呂の右脇腹」

 

「肝臓のある場所を正確に狙ってる」

 

「なるほど!」

 

プレゼント・マイクが声を上げる。

 

「急所への打撃で動きを止めたってことかァ!」

 

相澤は。

 

静かに出久を見る。

 

「……ちゃんと格闘技をやってるな」

 

一方。

 

勝己の試合も続いていた。

 

次の相手は。

 

飯田天哉。

 

「爆豪くん!」

 

飯田が構える。

 

「以前の訓練では、君に敗れた!」

 

「だが!」

 

「今度こそ――!」

 

「……ああ」

 

開始。

 

飯田が、一気に加速する。

 

その速度は。

 

以前よりも速い。

 

けれど。

 

勝己は。

 

その動きを見ていた。

 

踏み込む。

 

避ける。

 

懐へ入る。

 

「なっ……!」

 

一撃。

 

飯田の身体が揺れる。

 

さらに。

 

もう一撃。

 

最後は。

 

場外。

 

「勝者――爆豪勝己!」

 

歓声が上がる。

 

飯田は。

 

場外から勝己を見る。

 

勝己も。

 

少しだけ飯田を見る。

 

「前より速くなったな」

 

「……!」

 

それだけ言って。

 

勝己はフィールドを後にした。

 

試合は。

 

さらに進んでいった。

 

そして。

 

気づけば。

 

残る選手も。

 

少なくなっていた。

 

出久は。

 

勝ち上がっていた。

 

勝己も。

 

勝ち上がっていた。

 

轟も。

 

勝ち上がっていた。

 

やがて。

 

準決勝を前に。

 

出久は。

 

控え場所から、フィールドを見ていた。

 

そこへ。

 

轟がやってくる。

 

「緑谷」

 

「轟くん」

 

「……ここまで来たな」

 

「うん」

 

轟が。

 

出久を見る。

 

「個性もないのに、凄いな」

 

「え?」

 

「ここまで勝ち上がってきた」

 

出久は。

 

少しだけ笑った。

 

「いやいや」

 

「私だけの力じゃないよ」

 

「みんなのお陰だよ」

 

「……そうか」

 

「うん」

 

少しだけ。

 

沈黙が流れる。

 

出久は。

 

轟を見る。

 

「……一つだけ」

 

「ん?」

 

「聞いてもいい?」

 

「何だ」

 

「轟くんは」

 

「まだ使ってない個性があるよね」

 

「……」

 

轟が黙る。

 

出久は。

 

その先を聞かなかった。

 

「なんで使わないのかは、聞かない」

 

「……」

 

「でもね」

 

出久は。

 

ゆっくりと言葉を続ける。

 

「私は思うの」

 

「使えないと」

 

「使わないは」

 

「まるで違うと思う」

 

轟が。

 

出久を見る。

 

「だって」

 

「使えば、助けられる場面もあるかもしれないから」

 

「だから私は」

 

「いつか、轟くんが使えるようになってほしいと思う」

 

「……」

 

轟は。

 

しばらく何も言わなかった。

 

「……そうか」

 

それだけ。

 

二人は。

 

それ以上、話さなかった。

 

その後。

 

出久が一人で歩いていると。

 

「緑谷さん」

 

声をかけられた。

 

振り向く。

 

そこにいたのは。

 

国内トップクラスのプロヒーロー。

 

No.2ヒーロー――エンデヴァーだった。

 

燃え盛る炎を纏った巨体が。

 

出久の前に立っている。

 

「……はい?」

 

「先ほど、焦凍と話していたな」

 

「轟くんと?」

 

「ああ」

 

「焦凍と何を話した」

 

出久は。

 

少しだけ考える。

 

「えっと……」

 

エンデヴァーは。

 

出久を見る。

 

「焦凍は、私の息子だ」

 

「……!」

 

出久の目が。

 

少しだけ開く。

 

「そうだったんですね」

 

「ああ」

 

「私は、ただ……」

 

出久は。

 

さっき轟に話したことを思い出す。

 

「その個性が」

 

「いつか誰かのために使えるようになればいいと思っただけです」

 

エンデヴァーは。

 

少しだけ黙る。

 

「……そうか」

 

それだけだった。

 

そして。

 

エンデヴァーは。

 

轟のいる方へ視線を向ける。

 

出久は。

 

その場を離れた。

 

そして。

 

スタジアムへ。

 

再び。

 

プレゼント・マイクの声が響き渡る。

 

「さあ――!!」

 

「いよいよ準決勝だァァァ!!」

 

観客席が。

 

一気に沸き上がる。

 

フィールド中央。

 

ミッドナイトが立つ。

 

「ここから先は」

 

「もう、簡単には勝ち上がれないわよ」

 

そして。

 

選手たちが。

 

フィールドへ向かう。

 

「まずは第一試合――!」

 

プレゼント・マイクが。

 

大きく声を張る。

 

「緑谷出久!!」

 

歓声。

 

「対――!!」

 

出久が。

 

フィールドへ歩き出す。

 

「轟焦凍!!」

 

轟も。

 

ゆっくりと歩き出す。

 

二人が。

 

フィールド中央で向かい合う。

 

ミッドナイトが。

 

二人を見る。

 

「準備はいい?」

 

出久が。

 

構える。

 

轟も。

 

構える。

 

そして。

 

「――始め!」

 

その瞬間。

 

スタジアムが。

 

大歓声に包まれた。

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