無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第六章 医務室

 

目を覚ました。

 

白い天井が見える。

 

「……?」

 

出久は、ぼんやりと目を開けた。

 

ここは。

 

どこだろう。

 

身体を動かそうとする。

 

けれど。

 

全身が重い。

 

「……っ」

 

そこで。

 

少しずつ記憶が戻ってくる。

 

体育祭。

 

準決勝。

 

轟くんとの戦い。

 

氷。

 

炎。

 

そして――。

 

「……そうか」

 

出久は、小さく呟いた。

 

「私……試合のあと、運ばれたんだ」

 

その声に。

 

近くで作業していた人物が気づく。

 

「気がついたかい」

 

出久が顔を向ける。

 

そこには、小柄な老女が立っていた。

 

雄英高校の看護教諭。

 

リカバリーガールこと、修善寺治与。

 

彼女の個性「癒し」は、対象者自身が持つ治癒力を一時的に大きく活性化させるもの。

 

傷を瞬く間に治すこともできる。

 

ただし。

 

それには、治癒される本人の体力が必要になる。

 

つまり。

 

どんな傷でも、無条件に治せるわけではない。

 

「ずいぶん無茶したね」

 

「……修善寺先生」

 

出久は、苦笑する。

 

「すみません」

 

「謝るくらいなら、最初から無茶をするんじゃないよ」

 

そう言いながら。

 

リカバリーガールは、出久の身体を見る。

 

「全身にあれだけ炎を浴びたんだ」

 

「氷がなかったら、大火傷だけじゃ済まなかっただろうね」

 

「……」

 

「幸い、私の個性で傷はほとんど残らないところまで治してある」

 

「親御さんに感謝するんだね」

 

「丈夫な身体に産んでもらったことをさ」

 

「……はい」

 

「ありがとうございます」

 

そこで。

 

少しだけ。

 

間が空く。

 

リカバリーガールの表情が。

 

少しだけ曇った。

 

「……それでね」

 

「はい?」

 

言いにくそうに。

 

口を開く。

 

「あんたの身体には、もうほとんど体力が残ってない」

 

「……」

 

「私の個性で治療することはできても、体力そのものを作り出すことはできない」

 

そして。

 

はっきりと。

 

「だから、これ以上の試合を今日続けることは認められないよ」

 

出久は。

 

黙った。

 

「……ということは」

 

少しだけ。

 

声が震える。

 

「決勝には……出られない」

 

「そういうことだね」

 

「……」

 

「残念だろうけど」

 

リカバリーガールは、優しく言う。

 

「今は受け止めな」

 

「……そうですか」

 

それ以上。

 

出久は何も言わなかった。

 

リカバリーガールは。

 

その様子を見て。

 

これ以上は何も言わず、席を立つ。

 

「じゃあ、私は――」

 

「……あの!」

 

出久が声を上げた。

 

「ん?」

 

「他の準決勝は、どうなりましたか?」

 

「準決勝かい?」

 

「はい」

 

リカバリーガールは少し考える。

 

「ああ」

 

そして。

 

「あの爆発の個性の子が勝ってたよ」

 

「爆豪くんですよね」

 

「そう」

 

「さっきまで、ここにいたんだけどね」

 

「試合に呼ばれて出ていって」

 

「すぐに勝ってたよ」

 

「……そうなんだ」

 

出久が少し笑う。

 

「もう少ししたら、また来るんじゃないかね」

 

そのとき。

 

コンコンコン。

 

扉が叩かれた。

 

「失礼します」

 

扉が開く。

 

「……あ」

 

「……あ」

 

二人の声が重なった。

 

勝己だった。

 

リカバリーガールは二人を見比べる。

 

そして。

 

「何かあったら呼びな」

 

そう言って。

 

医務室を出ていった。

 

扉が閉まる。

 

二人きり。

 

勝己が。

 

ゆっくりと出久のところまで歩いてくる。

 

「……準決勝、勝ったんだね」

 

「ああ」

 

「……よかった」

 

出久が笑う。

 

けれど。

 

勝己は。

 

何も言わない。

 

ただ。

 

出久を見ている。

 

「……心配したぞ」

 

「……」

 

「目ぇ覚ましてよかった」

 

出久の笑顔が。

 

少しだけ揺れる。

 

「……心配かけて、ごめん」

 

「……」

 

しばらく。

 

二人の間に。

 

何も言葉がなかった。

 

そして。

 

出久が。

 

小さく口を開く。

 

「……あのね」

 

「ん」

 

「私」

 

少しだけ。

 

息を吸う。

 

「決勝、出られないって」

 

「ああ」

 

「聞いてる」

 

「常闇も出られそうにないから」

 

「轟とやることになった」

 

「……そっか」

 

出久は。

 

天井を見る。

 

「何だかなぁ……」

 

少しだけ。

 

明るい声を作る。

 

「私って、いつもこうだよね」

 

「大事なときに、動けなくなる」

 

「……」

 

「かっちゃんと」

 

そこで。

 

言葉が止まる。

 

しばらく。

 

沈黙。

 

そして。

 

「……決勝、出たかったな」

 

涙が。

 

ぽろぽろと。

 

こぼれた。

 

「かっちゃんと……決勝に出たかった」

 

「せっかく、ここまで来れたのに」

 

「やっと私も……」

 

声が。

 

震える。

 

出久は。

 

布団で顔を覆った。

 

「……ごめんね」

 

「決勝前なのに」

 

勝己は。

 

何も言わなかった。

 

ただ。

 

しばらく。

 

出久の声を聞いていた。

 

そして。

 

そっと。

 

出久の頭へ手を置く。

 

「気にすんな」

 

「……」

 

「出久は、よくやったよ」

 

布団の中から。

 

小さな声。

 

「……ほんと?」

 

「ああ」

 

勝己は。

 

静かに言う。

 

「誰も咎めやしねぇ」

 

「……そんな奴がいたら」

 

「俺がぶっ飛ばす」

 

出久は。

 

何も言わない。

 

勝己の手だけが。

 

頭の上にある。

 

「俺ら、二人でヒーローだろ」

 

「……」

 

「お前の分も、戦ってくる」

 

勝己が。

 

ゆっくり手を離す。

 

「ちゃんと」

 

一歩。

 

出口へ向かう。

 

「見とけよ」

 

扉へ。

 

手を伸ばす。

 

そのとき。

 

「……かっちゃん」

 

布団から顔を出さないまま。

 

出久が呼ぶ。

 

勝己が。

 

振り返る。

 

「ん」

 

少しだけ。

 

間があって。

 

「……頑張ってね」

 

勝己は。

 

一瞬だけ。

 

出久を見る。

 

そして。

 

「……ああ」

 

扉を開ける。

 

「行ってくる」

 

扉が閉まる。

 

医務室に。

 

静けさが戻った。

 

出久は。

 

布団の中で。

 

静かに涙を拭った。

 

その頃。

 

勝己は。

 

決勝の舞台へ向かっていた。

 

胸の中に。

 

まだ。

 

言葉にならない感情を抱えたまま。

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