「さあ――!」
スタジアムに。
プレゼント・マイクの声が響き渡る。
「いよいよ、雄英高校体育祭――最後の戦いだァァァ!!」
大歓声。
その声を受けて。
フィールドへ、二人の選手が歩いていく。
「決勝戦の組み合わせは――!」
巨大なスクリーンに。
二人の名前が映し出される。
「爆豪勝己!!」
「そして――轟焦凍!!」
会場が沸く。
けれど。
その歓声の中には。
別の声も混じっていた。
「緑谷と爆豪の決勝が見たかったのに……」
「緑谷さん、大丈夫なのか?」
「さっき倒れただろ」
「怪我が心配だ」
「でも、爆豪と轟か……」
様々な声が。
スタジアムへ広がっていく。
フィールドに立つ二人にも。
その声は聞こえていた。
轟は。
少しだけ目を伏せる。
自分は。
ここに立っていいのか。
準決勝で。
緑谷に敗れた。
それなのに。
自分が決勝にいる。
その事実を。
まだ。
自分の中へ落とし込めていなかった。
一方。
勝己は。
観客の声をほとんど聞いていなかった。
「……」
ミッドナイトが。
二人の前へ立つ。
「決勝戦は、これまで以上に激しい戦いになるでしょう」
「だからこそ――」
試合前の注意事項。
そして。
二人への激励。
けれど。
勝己の耳には。
ほとんど入っていなかった。
轟も。
どこか遠くを見ていた。
やがて。
ミッドナイトが話を終える。
「それじゃあ、二人とも」
「持ち場へ」
勝己が声を掛ける。
「轟」
「……何だ」
勝己が。
まっすぐに轟を見る。
「お前がここに立っていいのか」
「迷ってんのは分かる」
轟の目が。
わずかに動く。
「試合に集中できてねぇことを、責めるつもりはねぇが」
勝己が。
拳を握る。
「歯ぁ食いしばれよ」
「ここから先は」
一瞬。
言葉が止まる。
そして。
「俺の個人的な」
「やつあたりだ」
それ以上。
何も言わなかった。
二人は。
それぞれの持ち場へ戻る。
スタジアムが。
静まり返っていく。
ミッドナイトが。
二人を見る。
「両者、構えて!」
勝己が。
構える。
轟も。
構える。
そして。
「――始め!」
轟が。
動くより早く。
爆発が起きた。
ドォンッ!!
勝己の身体が。
一気に前へ飛ぶ。
「――!」
轟が。
反応する。
けれど。
間に合わない。
勝己が。
懐へ入った。
「ッ!」
轟の腹部へ。
強烈な一撃が叩き込まれる。
ドゴッ!!
「ぐっ……!」
轟の身体が。
大きく後ろへ吹き飛ぶ。
「な――!?」
プレゼント・マイクが叫ぶ。
「速ぇぇぇ!!」
「爆豪、開始直後から一気に懐へ飛び込んだァァァ!!」
観客席が。
一気に沸く。
轟が。
身体を起こす。
その瞬間。
足元から。
氷が広がった。
巨大な氷が。
フィールドを覆っていく。
勝己が。
距離を取り。
低く構える。
氷が。
さらに広がる。
その瞬間。
ドォンッ!!
轟が。
目を見開く。
「――!」
勝己が。
氷へ突っ込んでくる。
さっきよりも。
明らかに大きな爆発。
轟の氷を。
真正面から。
吹き飛ばす。
「なっ……!」
轟の目の前で。
氷が砕ける。
破片が。
宙へ舞う。
その中心から。
勝己が飛び出した。
「氷を真正面からぶっ壊したァァァ!!」
プレゼント・マイクが絶叫する。
「爆豪、止まらねぇ!!」
スタジアムが。
大きく揺れる。
轟が。
再び氷を出す。
勝己が。
爆破する。
氷が。
砕ける。
轟が。
距離を取る。
勝己が。
追う。
氷が。
広がる。
爆破する。
次々と。
轟の氷が。
破壊されていく。
「すげぇ……」
「爆豪、どうなってんだよ……」
観客席から。
驚きの声が上がる。
クラスメイトたちも。
フィールドを見つめていた。
「……なんか、爆豪やばくね?」
瀬呂が呟く。
「うん……」
麗日も。
目を丸くする。
「いつもの爆豪くんじゃないね」
芦戸が。
勝己を見る。
「何かめっちゃキレてない?」
「……」
誰も。
答えられない。
ただ。
勝己が。
轟へ向かって。
ひたすら攻め続けている。
氷。
爆破。
氷。
爆破。
その度に。
轟の防御が。
崩れ去っていく。
「くっ……!」
轟が。
再び氷を広げる。
勝己は。
正面から突っ込む。
爆破。
氷が。
粉々に砕ける。
そのまま。
勝己の拳が。
轟の身体へ叩き込まれる。
「ぐっ!」
轟が。
後ろへ飛ぶ。
着地。
すぐに。
氷。
勝己が。
爆破。
接近。
打撃。
プレゼント・マイクの声が。
スタジアム中へ響く。
「止まらねぇ!」
「爆豪、圧倒的な攻めだァァァ!!」
轟は。
必死に身体を動かす。
けれど。
勝己は。
止まらない。
一歩。
また一歩。
轟との距離を詰める。
拳。
蹴り。
爆破。
轟の身体が。
何度も揺れる。
ただ。
目の前の轟を。
徹底的に叩き潰していく。
「……っ!」
轟が。
再び氷を生み出す。
勝己が。
それを爆破で吹き飛ばす。
そのまま。
轟の懐へ。
「――!」
強烈な一撃。
轟が。
フィールドへ転がる。
「轟!」
ミッドナイトが。
一歩前へ出る。
けれど。
轟は。
「……まだ……」
腕をつく。
上体を起こす。
起き上がろうとする。
けれど。
身体が。
思うように動かない。
勝己は。
その前に立っていた。
荒い呼吸。
汗。
それでも。
視線は。
鋭いまま。
轟も。
勝己を見る。
「……」
次の瞬間。
轟の身体が。
ふらついた。
ミッドナイトが。
手を上げる。
「そこまで!」
勝己が。
轟に背を向ける。
「轟焦凍――!」
プレゼント・マイクが。
大きく声を張る。
「戦闘継続不可能!!」
そして。
「勝者――!!」
一瞬。
会場が静まる。
「爆豪勝己ィィィィ!!」
大歓声。
勝己は。
何も言わない。
ただ。
顔を上げる。
空を。
見る。
そして。
ゆっくり。
息を吐いた。
視線を動かす。
カメラ。
スタジアム中にある。
無数のカメラ。
その中から。
一つを探す。
やがて。
勝己の目が。
一台のカメラを捉えた。
そして。
そのカメラへ。
拳を突き出す。
---
医務室。
テレビ画面に。
その姿が映っていた。
出久は。
ベッドの上から。
じっと見ている。
「……かっちゃん、ズルいよ」
小さく。
呟く。
「いつもは、そんなことしないのに……」
テレビの中。
拳を突き出す勝己。
その姿を見ながら。
出久の頬を。
涙が伝った。
---
その頃。
フィールドでは。
勝己が。
倒れている轟へ歩いていく。
勝己が。
轟へ手を差し出した。
「……」
轟は。
その手を見る。
そして。
手を取った。
勝己が。
轟を引き上げる。
「悪かったな」
一言。
それだけだった。
勝己は手を離し。
その場を後にした。
轟は。
何も言わなかった。
ただ。
勝己の背中を。
見つめていた。
やがて。
表彰式の準備が始まる。
体育祭の最後。
選手たちが。
再びフィールドへ集まる。
けれど。
その中に。
出久の姿はなかった。
そして。
表彰台。
一位。
爆豪勝己。
二位。
空席。
三位。
轟焦凍。
本来なら。
二位の台には。
最低でも。
出久が立っていた。
けれど。
今。
そこに。
出久の姿はない。
轟は。
準決勝で敗れたことを理由に。
二位になることを辞退した。
三位については。
準決勝の戦いによる影響で。
常闇が閉会式へ参加できなかった。
そのため。
轟が。
三位の台に立つことになった。
少し。
不思議な表彰台だった。
けれど。
それが。
今年の体育祭だった。
その頃。
少し離れた場所では。
上鳴と峰田が。
小さな声で話していた。
「そういや、峰田」
「ん?」
「チアの時、マジで嘘つかなくてよかったよな」
「……オイラも、今それ思ってた」
「マジで危なかったよな」
二人は。
顔を見合わせる。
そして。
何も言わず。
小さく頷いた。
---
オールマイトが。
三人の前へ立つ。
「まずは!」
大きな声。
「皆、本当にお疲れ様だった!」
観客席から。
拍手が起こる。
「この体育祭で!」
「君たちは、それぞれの力を存分に示した!」
勝己は。
黙っている。
轟も。
静かに聞いている。
「だが!」
オールマイトの声が。
再び響く。
「今日が終わりではない!」
「ここから先!」
「君たちは、さらに強くなる!」
そして。
三人を見渡す。
「今日の勝敗も!」
「今日の結果も!」
「すべては、これから先へ進むための一歩だ!」
会場が。
静かになる。
「ならば!」
オールマイトが。
拳を突き上げる。
「さらに先へ!」
「PLUS ULTRA!!」
大歓声。
体育祭最後の声が。
スタジアムいっぱいに響き渡った。
そして。
その頃。
医務室では。
出久が。
テレビを見つめていた。
体育祭。
それが。
終わった。
一位は。
勝己。
表彰台に立っている。
そして。
自分は。
そこにいない。
けれど。
出久の姿は。
確かに。
全国へ届いていた。
無個性でも。
ここまで戦える。
個性がなくても。
夢を追い続けることができる。
それを。
この日。
多くの人が知った。
それは。
まだ。
ほんの小さな変化だった。
けれど。
緑谷出久という一人の少女の姿は。
確かに。
世界へ。
一石を投じた。
その波紋が。
どこまで広がっていくのか。
まだ。
誰も知らない。
――雄英高校体育祭。
その日。
一つの物語が終わり。
また一つ。
新しい物語が。
始まろうとしていた。