無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第二章 生配信、その前に

 

雄英体育祭が終わって、数日。

 

教室には、いつも通りの時間が流れていた。

 

体育祭を終えたことで、クラスの雰囲気も少し変わっている。

 

以前よりも、お互いのことを知った。

 

一緒になることも増えた。

 

そして何より――。

 

「出久ちゃん、インタビュー受けるんだって?」

 

昼休み。

 

麗日が、出久の席へやってきた。

 

「うん」

 

出久は、小さく頷く。

 

「体育祭終わってから、私宛に色々届いてたから。お礼を言うのも兼ねてね」

 

「生配信なんでしょ?」

 

「うん。その方が伝わりやすいかなって」

 

「へぇ……」

 

麗日は少し驚いた顔をする。

 

「すごいね。私だったら緊張して何も喋れなくなりそう」

 

「私も緊張するよ」

 

出久は苦笑した。

 

「でも……せっかく応援してくれた人たちがいるから」

 

体育祭が終わってから、少しずつ届くようになった手紙。

 

応援している。

 

勇気をもらった。

 

ありがとう。

 

そんな言葉が、たくさん書かれていた。

 

その中には、自分と同じように個性について悩んでいる人からの手紙もあった。

 

出久は、それを思い出す。

 

「できるだけたくさんの人に、直接ありがとうって言いたいなって」

 

「そっか……」

 

麗日は笑った。

 

「出久ちゃんらしいね」

 

「そうかな?」

 

「うん」

 

その時。

 

麗日が、ふと勝己を見る。

 

「爆豪くんも出るの?」

 

「出ねぇよ」

 

勝己は即答した。

 

「そうなの?」

 

「でも近くにはいてくれるよ」

 

出久が言った。

 

「……ああ」

 

「へぇ……」

 

麗日が少しだけ目を丸くする。

 

「緊張するから?」

 

「うん」

 

出久は頷いた。

 

「近くにいてくれるだけで、安心するから」

 

「……そっか」

 

麗日は、それ以上は何も言わなかった。

 

勝己も何も言わない。

 

ただ。

 

昼休みが終わる時間が近づくと――。

 

「もう昼休み終わるぞ」

 

「うん。じゃあ、食べよう」

 

出久が弁当に向き直る。

 

「飯、ちゃんと食えよ」

 

「分かってるよ」

 

二人のやり取りを見ていた麗日は、小さく笑った。

 

やっぱり。

 

仲がいい。

 

そう思った。

 

同じ頃。

 

雄英高校、職員室。

 

「いやぁ……まさか、ここまでとはねぇ」

 

「最初は、体育祭後に届いた手紙やメッセージへのお礼を言う程度のものだと思っていたんだけどねぇ」

 

オールマイトが資料へ目を落とす。

 

「それが、インタビュー形式になったと」

 

「そういうことだねぇ」

 

「緑谷少女が希望したのですか?」

 

「うん」

 

根津は頷いた。

 

「一人で話すより、質問された方が自分の伝えたいことを話しやすいそうだ」

 

「なるほどな」

 

プレゼント・マイクが頷く。

 

「質問内容は決まってるのか?」

 

「ああ」

 

相澤が答える。

 

「緑谷が話をしたい内容を中心に決まっている」

 

「本人と共有もできている」

 

「問題はない筈だ」

 

相澤が資料を確認する。

 

「ただ――」

 

「生配信だ」

 

「そうだねぇ」

 

根津が答える。

 

「編集も、撮り直しもできないねぇ」

 

相澤の声は淡々としている。

 

「一つ間違えれば、それがその瞬間に全国へ流れる」

 

「確かに」

 

オールマイトも真剣な表情になる。

 

「緑谷少女にとって、初めてのインタビューですからね」

 

「だからこそ、事前にできることは全部やっておくのさ」

 

根津が言った。

 

「インタビュアーはミッドナイトに担当してもらうよ」

 

「彼女なら、話しやすいでしょうね」

 

オールマイトが頷く。

 

「ただし、今日は別の仕事が入っていてねぇ。今回の打ち合わせには参加できないんだ」

 

「それでいないのか」

 

プレゼント・マイクが周りを見る。

 

「問題ない」

 

相澤が答える。

 

「当日の進行については、こちらから共有しておく」

 

「それと――」

 

相澤が資料をめくる。

 

「爆豪がいるのはなぜ?」

 

「本人からの希望だよ」

 

根津が答える。

 

「近くにいてほしいそうだ」

 

「画面には?」

 

「映さないよ」

 

「カメラの外にいてもらう」

 

「……問題ないでしょう」

 

相澤が言った。

 

「オールマイトはどうします?」

 

プレゼント・マイクが聞く。

 

「私?」

 

オールマイトが自分を指差す。

 

「今回は、あまり近くにいない方がいい」

 

相澤が答えた。

 

「緑谷にとって、お前は特別すぎる」

 

「すぐ近くにいたら、余計に緊張する可能性がある」

 

「……なるほど」

 

オールマイトは苦笑した。

 

「では、私は別の場所から見守ることにしよう」

 

「根津校長もだ」

 

「うんうん。その方がいいだろうね」

 

根津が頷く。

 

「それと、配信の視聴者数は緑谷から見えないようにする」

 

「賛成だな」

 

プレゼント・マイクが頷いた。

 

「数字なんて見せたら、余計なプレッシャーになるだけだからな」

 

相澤が続ける。

 

「公式のアーカイブにも残さない」

 

「それでも、誰かが録画する可能性はある」

 

「その点は、完全には防げない」

 

「その通りだ」

 

オールマイトが頷く。

 

「だからこそ、配信中の対応を決めておく必要があるねぇ」

 

根津が資料へ目を落とす。

 

「何か問題があれば、管理側からミッドナイトへ合図を出す」

 

相澤が答える。

 

「そこで切り上げる」

 

「そうだねぇ」

 

根津は柔らかく笑った。

 

「状況によっては、予定より短く終わらせることも考えておこう」

 

「それでも危険だと判断した場合は?」

 

「その場合は――」

 

根津の声が少しだけ低くなる。

 

「こちらから配信を止めることにしようか」

 

「それでいいでしょう」

 

相澤が言う。

 

「本人が望んだことだから、できる限り尊重する」

 

「だが、安全が最優先」

 

「その通りだねぇ」

 

根津が頷いた。

 

「当日の配置はどうする?」

 

プレゼント・マイクが確認する。

 

「緑谷とミッドナイトがカメラの前」

 

相澤が指を動かす。

 

「カメラの外に爆豪」

 

「仕切りを置いて、俺とプレゼント・マイク」

 

「配信の管理はそこで行う」

 

「そして、オールマイトと根津校長は別室から見守る」

 

「了解だ」

 

プレゼント・マイクが頷いた。

 

「ここまで詰めれば、かなり安全だな」

 

「初めてのインタビュー。失敗する可能性を考えるのは、当然のことさ」

 

根津が言う。

 

「ええ」

 

「そのための準備です」

 

相澤が資料を閉じた。

 

「後は――」

 

一度、全員を見る。

 

「本人に任せましょう」

 

誰も反対しなかった。

 

放課後。

 

出久は、自宅の机に向かっていた。

 

これから目指すヒーローについて。

 

そして――。

 

自分が、何をしたいのか。

 

「……」

 

まだ、全部が決まっているわけじゃない。

 

だけど。

 

出久は、一枚の手紙をそっと机の横へ置いた。

 

「……ちゃんと、話そう」

 

小さく呟く。

 

明日は、生配信。

 

きっと緊張する。

 

それでも。

 

自分の言葉で。

 

自分が伝えたいことを。

 

ちゃんと伝える。

 

そして大人たちもまた。

 

一人の少女が、自分の言葉を届けるための舞台を――。

 

静かに整えていた。

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