雄英体育祭が終わって、数日。
教室には、いつも通りの時間が流れていた。
体育祭を終えたことで、クラスの雰囲気も少し変わっている。
以前よりも、お互いのことを知った。
一緒になることも増えた。
そして何より――。
「出久ちゃん、インタビュー受けるんだって?」
昼休み。
麗日が、出久の席へやってきた。
「うん」
出久は、小さく頷く。
「体育祭終わってから、私宛に色々届いてたから。お礼を言うのも兼ねてね」
「生配信なんでしょ?」
「うん。その方が伝わりやすいかなって」
「へぇ……」
麗日は少し驚いた顔をする。
「すごいね。私だったら緊張して何も喋れなくなりそう」
「私も緊張するよ」
出久は苦笑した。
「でも……せっかく応援してくれた人たちがいるから」
体育祭が終わってから、少しずつ届くようになった手紙。
応援している。
勇気をもらった。
ありがとう。
そんな言葉が、たくさん書かれていた。
その中には、自分と同じように個性について悩んでいる人からの手紙もあった。
出久は、それを思い出す。
「できるだけたくさんの人に、直接ありがとうって言いたいなって」
「そっか……」
麗日は笑った。
「出久ちゃんらしいね」
「そうかな?」
「うん」
その時。
麗日が、ふと勝己を見る。
「爆豪くんも出るの?」
「出ねぇよ」
勝己は即答した。
「そうなの?」
「でも近くにはいてくれるよ」
出久が言った。
「……ああ」
「へぇ……」
麗日が少しだけ目を丸くする。
「緊張するから?」
「うん」
出久は頷いた。
「近くにいてくれるだけで、安心するから」
「……そっか」
麗日は、それ以上は何も言わなかった。
勝己も何も言わない。
ただ。
昼休みが終わる時間が近づくと――。
「もう昼休み終わるぞ」
「うん。じゃあ、食べよう」
出久が弁当に向き直る。
「飯、ちゃんと食えよ」
「分かってるよ」
二人のやり取りを見ていた麗日は、小さく笑った。
やっぱり。
仲がいい。
そう思った。
同じ頃。
雄英高校、職員室。
「いやぁ……まさか、ここまでとはねぇ」
「最初は、体育祭後に届いた手紙やメッセージへのお礼を言う程度のものだと思っていたんだけどねぇ」
オールマイトが資料へ目を落とす。
「それが、インタビュー形式になったと」
「そういうことだねぇ」
「緑谷少女が希望したのですか?」
「うん」
根津は頷いた。
「一人で話すより、質問された方が自分の伝えたいことを話しやすいそうだ」
「なるほどな」
プレゼント・マイクが頷く。
「質問内容は決まってるのか?」
「ああ」
相澤が答える。
「緑谷が話をしたい内容を中心に決まっている」
「本人と共有もできている」
「問題はない筈だ」
相澤が資料を確認する。
「ただ――」
「生配信だ」
「そうだねぇ」
根津が答える。
「編集も、撮り直しもできないねぇ」
相澤の声は淡々としている。
「一つ間違えれば、それがその瞬間に全国へ流れる」
「確かに」
オールマイトも真剣な表情になる。
「緑谷少女にとって、初めてのインタビューですからね」
「だからこそ、事前にできることは全部やっておくのさ」
根津が言った。
「インタビュアーはミッドナイトに担当してもらうよ」
「彼女なら、話しやすいでしょうね」
オールマイトが頷く。
「ただし、今日は別の仕事が入っていてねぇ。今回の打ち合わせには参加できないんだ」
「それでいないのか」
プレゼント・マイクが周りを見る。
「問題ない」
相澤が答える。
「当日の進行については、こちらから共有しておく」
「それと――」
相澤が資料をめくる。
「爆豪がいるのはなぜ?」
「本人からの希望だよ」
根津が答える。
「近くにいてほしいそうだ」
「画面には?」
「映さないよ」
「カメラの外にいてもらう」
「……問題ないでしょう」
相澤が言った。
「オールマイトはどうします?」
プレゼント・マイクが聞く。
「私?」
オールマイトが自分を指差す。
「今回は、あまり近くにいない方がいい」
相澤が答えた。
「緑谷にとって、お前は特別すぎる」
「すぐ近くにいたら、余計に緊張する可能性がある」
「……なるほど」
オールマイトは苦笑した。
「では、私は別の場所から見守ることにしよう」
「根津校長もだ」
「うんうん。その方がいいだろうね」
根津が頷く。
「それと、配信の視聴者数は緑谷から見えないようにする」
「賛成だな」
プレゼント・マイクが頷いた。
「数字なんて見せたら、余計なプレッシャーになるだけだからな」
相澤が続ける。
「公式のアーカイブにも残さない」
「それでも、誰かが録画する可能性はある」
「その点は、完全には防げない」
「その通りだ」
オールマイトが頷く。
「だからこそ、配信中の対応を決めておく必要があるねぇ」
根津が資料へ目を落とす。
「何か問題があれば、管理側からミッドナイトへ合図を出す」
相澤が答える。
「そこで切り上げる」
「そうだねぇ」
根津は柔らかく笑った。
「状況によっては、予定より短く終わらせることも考えておこう」
「それでも危険だと判断した場合は?」
「その場合は――」
根津の声が少しだけ低くなる。
「こちらから配信を止めることにしようか」
「それでいいでしょう」
相澤が言う。
「本人が望んだことだから、できる限り尊重する」
「だが、安全が最優先」
「その通りだねぇ」
根津が頷いた。
「当日の配置はどうする?」
プレゼント・マイクが確認する。
「緑谷とミッドナイトがカメラの前」
相澤が指を動かす。
「カメラの外に爆豪」
「仕切りを置いて、俺とプレゼント・マイク」
「配信の管理はそこで行う」
「そして、オールマイトと根津校長は別室から見守る」
「了解だ」
プレゼント・マイクが頷いた。
「ここまで詰めれば、かなり安全だな」
「初めてのインタビュー。失敗する可能性を考えるのは、当然のことさ」
根津が言う。
「ええ」
「そのための準備です」
相澤が資料を閉じた。
「後は――」
一度、全員を見る。
「本人に任せましょう」
誰も反対しなかった。
放課後。
出久は、自宅の机に向かっていた。
これから目指すヒーローについて。
そして――。
自分が、何をしたいのか。
「……」
まだ、全部が決まっているわけじゃない。
だけど。
出久は、一枚の手紙をそっと机の横へ置いた。
「……ちゃんと、話そう」
小さく呟く。
明日は、生配信。
きっと緊張する。
それでも。
自分の言葉で。
自分が伝えたいことを。
ちゃんと伝える。
そして大人たちもまた。
一人の少女が、自分の言葉を届けるための舞台を――。
静かに整えていた。