無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第四章 その後

 

「爆豪くんとは付き合ってるの?」

 

「……」

 

出久は、少しだけ考えた。

 

「付き合ってません。でも、結婚するとは思います」

 

「え?」

 

ミッドナイトの表情が固まった。

 

「勝己はどう?」

 

出久が画面外へ目を向ける。

 

「ああ」

 

「そうだな」

 

画面外から、勝己の声が響いた。

 

「…………」

 

ミッドナイトは、しばらく二人を見つめていた。

 

「……ええ?」

 

思わず声が漏れる。

 

「ちょ、ちょっと!」

 

「どういうこと?!」

 

ミッドナイトが困惑したように聞き返す。

 

「どういうって……」

 

出久は首を傾げ。

 

「私は、付き合うっていうのは、お互いを知るための大切な時間だと思うんです」

 

「お互いがどんな人なのか」

 

「何が好きなのか」

 

「何を大切にしているのか」

 

「そういうことを知っていく時間なんだと思います」

 

「でも、勝己となら」

 

出久は少しだけ笑った。

 

「そういう時間は、いらないかなって」

 

「……いらない?」

 

「はい」

 

「だって」

 

出久は、画面の外にいる勝己を見た。

 

「昔からずっと一緒にいたから」

 

「勝己が何を考えてるか、だいたい分かるわけじゃないですか」

 

「だから、付き合うことはないけど」

 

出久は笑った。

 

「でも」

 

「ずっと一緒にいたいのは、勝己なので」

 

「結婚はすると思います」

 

「勝己はどう?」

 

出久が画面外へ目を向ける。

 

「ああ」

 

「同じだ」

 

画面外から、勝己の声が響いた。

 

「……」

 

ミッドナイトは、完全に言葉を失っていた。

 

自分が想像していた答えとは、あまりにも違う。

 

もっとこう。

 

「そんなことないですよ」

 

とか。

 

「仲のいい友達です」

 

とか。

 

そういう、青春らしい答えが返ってくると思っていた。

 

それを少しだけからかって。

 

笑って。

 

配信を終える。

 

そのつもりだった。

 

まさか。

 

こんな答えが返ってくるなんて。

 

「……そ、そう」

 

「えっと……」

 

その瞬間だった。

 

カメラの横に置かれていたランプが消える。

 

配信終了の合図。

 

「え?」

 

ミッドナイトが仕切りの方を見る。

 

「配信は止めた」

 

低い声が返ってきた。

 

仕切りの中から。

 

ゆっくりと。

 

相澤が姿を現した。

 

「相澤先生?」

 

「……」

 

相澤は、ミッドナイトの前で立ち止まる。

 

その顔には。

 

明らかに怒りが浮かんでいた。

 

「何で、質問外のことを聞いた?」

 

「え?」

 

「生徒のプライバシーに関わることだぞ」

 

「いや……」

 

ミッドナイトは困ったように両手を上げる。

 

「真面目な話が続いてたし……」

 

「だから?」

 

「最後に少し、冗談のつもりで……」

 

「100万」

 

「え?」

 

「視聴者数は100万人以上だ」

 

相澤の声が低くなる。

 

「お前は、その前で生徒のプライバシーを晒したんだぞ」

 

「……」

 

ミッドナイトの顔から、血の気が引いていく。

 

「デジタルタトゥーの怖さを、お前は知らないのか?」

 

「……」

 

ミッドナイトは、ようやく事態の重さを理解した。

 

「……あ」

 

自分が想像していたのは。

 

緑谷が少し照れながら質問に答えて。

 

その様子を見て、少し笑って終わる。

 

そんな、他愛のない青春の一幕だった。

 

けれど。

 

実際の緑谷出久は。

 

そんな少女ではなかった。

 

そして。

 

爆豪勝己もまた。

 

そんな少年ではなかった。

 

「……ごめんなさい」

 

ミッドナイトが、小さく頭を下げる。

 

その横から、プレゼント・マイクもやって来た。

 

「緑谷、爆豪」

 

「本当にすまなかった」

 

「俺たちの管理が行き届いてなかった」

 

相澤も続ける。

 

「二人に謝る」

 

「……大丈夫ですよ」

 

出久は困ったように笑った。

 

「私は、別に気にしてません」

 

「俺もだ」

 

勝己も短く答える。

 

「……そうか」

 

相澤は少しだけ息を吐いた。

 

「これから校長たちとも話す」

 

「今晩、家に謝罪に行かせてもらう」

 

「え?」

 

出久が目を丸くする。

 

「そんな、大丈夫ですよ」

 

「学校側の問題だ」

 

相澤は首を横に振った。

 

「すまないが、俺たちはここから離れる」

 

「お前たちも、今日はもう帰宅してくれ」

 

「はい」

 

「……分かった」

 

相澤は頷いた。

 

そして。

 

青ざめたままのミッドナイトを引き連れるようにして、相澤達は部屋を後にした。

 

残された出久と勝己は。

 

顔を見合わせる。

 

「……帰るか」

 

「うん」

 

二人もまた。

 

いつものように、並んで部屋を出た。

 

---

 

雄英高校、校長室。

 

「これは、なかなかのやらかしだねぇ」

 

「申し訳ありません……」

 

ミッドナイトは小さくなっている。

 

相澤とプレゼント・マイクも、さすがに疲れた顔をしていた。

 

「まあ、起きてしまったことは仕方がないさ」

 

根津は穏やかに言う。

 

「それより、二人のご家族への対応を考えないとね」

 

「はい」

 

「学校として、きちんと謝罪する必要がある」

 

相澤が頷く。

 

「では」

 

根津は時計を見る。

 

「そろそろ行く準備をしないとね」

 

「行く?」

 

オールマイトが首を傾げる。

 

「どこへ?」

 

根津は笑った。

 

「決まっているさ」

 

「二人のお宅へ謝罪だよ」

 

「……!」

 

オールマイトが目を見開く。

 

「大変なやらかしをしてしまったからねぇ」

 

「私も行きましょうか?」

 

「いや」

 

根津は首を横に振った。

 

「オールマイトは来なくて大丈夫さ」

 

「しかし……」

 

「君まで行くと、話が大きくなりすぎる」

 

「……なるほど」

 

根津は立ち上がる。

 

「さて」

 

「謝りに行こうか」

 

---

 

緑谷家。

 

引子と光子は、生配信を見ていた。

 

「まさか、あんなことを言うとは」

 

引子が呟く。

 

「でも」

 

光子が笑った。

 

「なんだか、分かった気がするわ」

 

「うん」

 

引子も頷く。

 

「私も」

 

二人は顔を見合わせた。

 

以前から。

 

二人が仲がいいことは知っていた。

 

ずっと一緒にいることも。

 

お互いを大切にしていることも。

 

だから。

 

「付き合えばいいのにね」

 

そんな話をしたこともある。

 

けれど。

 

二人自身が。

 

どう考えているのか。

 

それまでは、知らなかった。

 

「付き合う必要がないくらい、もう分かってるってことなのね」

 

「そういうことみたいね」

 

「……ふふ」

 

引子が嬉しそうに笑う。

 

「なんだか、出久らしいわ」

 

「勝己らしくもあるわね」

 

光子も笑う。

 

「ずっと一緒にいたいから、結婚する」

 

「うん」

 

「素敵じゃない」

 

「ええ」

 

二人とも。

 

デジタルタトゥーだとか。

 

世間がどう見るかだとか。

 

そんなことは、気にしていなかった。

 

この二人が。

 

離れるなんて。

 

そんな未来を。

 

想像したことすらない。

 

「いい配信だったわね」

 

「ええ」

 

二人は、満足そうに笑った。

 

そして。

 

その数十分後。

 

二人は学校側からの謝罪を受けるが。

 

学校側の想像とは裏腹に。

 

騒動は穏やかに終わったのであった。

 

---

 

そして。

 

同じ頃。

 

とある場所。

 

薄暗い部屋の中。

 

一人の少女が。

 

小さな画面を眺めていた。

 

再生されているのは。

 

雄英高校の生配信。

 

その一部を切り抜いた動画だった。

 

『ヴィランになってしまった人についても?』

 

画面の中。

 

ミッドナイトの質問に。

 

緑谷出久が答える。

 

『……はい』

 

『悪いことをしたなら、止めなきゃいけないと思います』

 

『けど』

 

『その人が、どうしてそこまで追い詰められたのか』

 

『何に苦しんでいたのか』

 

『それを知ることまで、諦めたくないです』

 

少女は。

 

画面をじっと見つめていた。

 

「……へぇ」

 

小さく呟く。

 

「変なの」

 

口元が。

 

少しだけ緩む。

 

「ヒーローなのに」

 

「ヴィランのことまで知りたいんだぁ」

 

画面の中の出久が続ける。

 

『もし、その人がやり直せるなら』

 

『いつか誰かを助ける側になれるなら』

 

「やり直せるなら……かぁ」

 

少女は少し考える。

 

「そんなこと、言う人いるんだ」

 

「無個性なのに、体育祭であんなに頑張って」

 

「ヴィランのことまで考えてて」

 

少女は楽しそうに笑った。

 

「なんだか、もっと知りたくなっちゃう」

 

画面を止める。

 

映っているのは。

 

緑谷出久。

 

「緑谷出久ちゃん……」

 

少女は。

 

その名前を口にして。

 

「……どんな子なんだろう」

 

「カァイイ」

 

楽しそうに。

 

笑った。

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