「爆豪くんとは付き合ってるの?」
「……」
出久は、少しだけ考えた。
「付き合ってません。でも、結婚するとは思います」
「え?」
ミッドナイトの表情が固まった。
「勝己はどう?」
出久が画面外へ目を向ける。
「ああ」
「そうだな」
画面外から、勝己の声が響いた。
「…………」
ミッドナイトは、しばらく二人を見つめていた。
「……ええ?」
思わず声が漏れる。
「ちょ、ちょっと!」
「どういうこと?!」
ミッドナイトが困惑したように聞き返す。
「どういうって……」
出久は首を傾げ。
「私は、付き合うっていうのは、お互いを知るための大切な時間だと思うんです」
「お互いがどんな人なのか」
「何が好きなのか」
「何を大切にしているのか」
「そういうことを知っていく時間なんだと思います」
「でも、勝己となら」
出久は少しだけ笑った。
「そういう時間は、いらないかなって」
「……いらない?」
「はい」
「だって」
出久は、画面の外にいる勝己を見た。
「昔からずっと一緒にいたから」
「勝己が何を考えてるか、だいたい分かるわけじゃないですか」
「だから、付き合うことはないけど」
出久は笑った。
「でも」
「ずっと一緒にいたいのは、勝己なので」
「結婚はすると思います」
「勝己はどう?」
出久が画面外へ目を向ける。
「ああ」
「同じだ」
画面外から、勝己の声が響いた。
「……」
ミッドナイトは、完全に言葉を失っていた。
自分が想像していた答えとは、あまりにも違う。
もっとこう。
「そんなことないですよ」
とか。
「仲のいい友達です」
とか。
そういう、青春らしい答えが返ってくると思っていた。
それを少しだけからかって。
笑って。
配信を終える。
そのつもりだった。
まさか。
こんな答えが返ってくるなんて。
「……そ、そう」
「えっと……」
その瞬間だった。
カメラの横に置かれていたランプが消える。
配信終了の合図。
「え?」
ミッドナイトが仕切りの方を見る。
「配信は止めた」
低い声が返ってきた。
仕切りの中から。
ゆっくりと。
相澤が姿を現した。
「相澤先生?」
「……」
相澤は、ミッドナイトの前で立ち止まる。
その顔には。
明らかに怒りが浮かんでいた。
「何で、質問外のことを聞いた?」
「え?」
「生徒のプライバシーに関わることだぞ」
「いや……」
ミッドナイトは困ったように両手を上げる。
「真面目な話が続いてたし……」
「だから?」
「最後に少し、冗談のつもりで……」
「100万」
「え?」
「視聴者数は100万人以上だ」
相澤の声が低くなる。
「お前は、その前で生徒のプライバシーを晒したんだぞ」
「……」
ミッドナイトの顔から、血の気が引いていく。
「デジタルタトゥーの怖さを、お前は知らないのか?」
「……」
ミッドナイトは、ようやく事態の重さを理解した。
「……あ」
自分が想像していたのは。
緑谷が少し照れながら質問に答えて。
その様子を見て、少し笑って終わる。
そんな、他愛のない青春の一幕だった。
けれど。
実際の緑谷出久は。
そんな少女ではなかった。
そして。
爆豪勝己もまた。
そんな少年ではなかった。
「……ごめんなさい」
ミッドナイトが、小さく頭を下げる。
その横から、プレゼント・マイクもやって来た。
「緑谷、爆豪」
「本当にすまなかった」
「俺たちの管理が行き届いてなかった」
相澤も続ける。
「二人に謝る」
「……大丈夫ですよ」
出久は困ったように笑った。
「私は、別に気にしてません」
「俺もだ」
勝己も短く答える。
「……そうか」
相澤は少しだけ息を吐いた。
「これから校長たちとも話す」
「今晩、家に謝罪に行かせてもらう」
「え?」
出久が目を丸くする。
「そんな、大丈夫ですよ」
「学校側の問題だ」
相澤は首を横に振った。
「すまないが、俺たちはここから離れる」
「お前たちも、今日はもう帰宅してくれ」
「はい」
「……分かった」
相澤は頷いた。
そして。
青ざめたままのミッドナイトを引き連れるようにして、相澤達は部屋を後にした。
残された出久と勝己は。
顔を見合わせる。
「……帰るか」
「うん」
二人もまた。
いつものように、並んで部屋を出た。
---
雄英高校、校長室。
「これは、なかなかのやらかしだねぇ」
「申し訳ありません……」
ミッドナイトは小さくなっている。
相澤とプレゼント・マイクも、さすがに疲れた顔をしていた。
「まあ、起きてしまったことは仕方がないさ」
根津は穏やかに言う。
「それより、二人のご家族への対応を考えないとね」
「はい」
「学校として、きちんと謝罪する必要がある」
相澤が頷く。
「では」
根津は時計を見る。
「そろそろ行く準備をしないとね」
「行く?」
オールマイトが首を傾げる。
「どこへ?」
根津は笑った。
「決まっているさ」
「二人のお宅へ謝罪だよ」
「……!」
オールマイトが目を見開く。
「大変なやらかしをしてしまったからねぇ」
「私も行きましょうか?」
「いや」
根津は首を横に振った。
「オールマイトは来なくて大丈夫さ」
「しかし……」
「君まで行くと、話が大きくなりすぎる」
「……なるほど」
根津は立ち上がる。
「さて」
「謝りに行こうか」
---
緑谷家。
引子と光子は、生配信を見ていた。
「まさか、あんなことを言うとは」
引子が呟く。
「でも」
光子が笑った。
「なんだか、分かった気がするわ」
「うん」
引子も頷く。
「私も」
二人は顔を見合わせた。
以前から。
二人が仲がいいことは知っていた。
ずっと一緒にいることも。
お互いを大切にしていることも。
だから。
「付き合えばいいのにね」
そんな話をしたこともある。
けれど。
二人自身が。
どう考えているのか。
それまでは、知らなかった。
「付き合う必要がないくらい、もう分かってるってことなのね」
「そういうことみたいね」
「……ふふ」
引子が嬉しそうに笑う。
「なんだか、出久らしいわ」
「勝己らしくもあるわね」
光子も笑う。
「ずっと一緒にいたいから、結婚する」
「うん」
「素敵じゃない」
「ええ」
二人とも。
デジタルタトゥーだとか。
世間がどう見るかだとか。
そんなことは、気にしていなかった。
この二人が。
離れるなんて。
そんな未来を。
想像したことすらない。
「いい配信だったわね」
「ええ」
二人は、満足そうに笑った。
そして。
その数十分後。
二人は学校側からの謝罪を受けるが。
学校側の想像とは裏腹に。
騒動は穏やかに終わったのであった。
---
そして。
同じ頃。
とある場所。
薄暗い部屋の中。
一人の少女が。
小さな画面を眺めていた。
再生されているのは。
雄英高校の生配信。
その一部を切り抜いた動画だった。
『ヴィランになってしまった人についても?』
画面の中。
ミッドナイトの質問に。
緑谷出久が答える。
『……はい』
『悪いことをしたなら、止めなきゃいけないと思います』
『けど』
『その人が、どうしてそこまで追い詰められたのか』
『何に苦しんでいたのか』
『それを知ることまで、諦めたくないです』
少女は。
画面をじっと見つめていた。
「……へぇ」
小さく呟く。
「変なの」
口元が。
少しだけ緩む。
「ヒーローなのに」
「ヴィランのことまで知りたいんだぁ」
画面の中の出久が続ける。
『もし、その人がやり直せるなら』
『いつか誰かを助ける側になれるなら』
「やり直せるなら……かぁ」
少女は少し考える。
「そんなこと、言う人いるんだ」
「無個性なのに、体育祭であんなに頑張って」
「ヴィランのことまで考えてて」
少女は楽しそうに笑った。
「なんだか、もっと知りたくなっちゃう」
画面を止める。
映っているのは。
緑谷出久。
「緑谷出久ちゃん……」
少女は。
その名前を口にして。
「……どんな子なんだろう」
「カァイイ」
楽しそうに。
笑った。