無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第七章 もっと強く

 

放課後。

 

雄英高校からの帰り道を、出久と勝己は並んで歩いていた。

 

「来週から、職場体験だね」

 

「ああ」

 

「勝己は、先生に紹介してもらったところに行くんだよね」

 

「そうだな」

 

「クラスのみんな、驚いてたね」

 

「……」

 

勝己は答えない。

 

思い返せば、教室はかなり騒がしかった。

 

誰もが名前を知っているようなプロヒーローではない。

 

それでも、相澤が紹介すると言った場所。

 

それだけで、皆が興味を持った。

 

「……そうだったな」

 

しばらく歩いてから、勝己が口を開いた。

 

「出久」

 

「ん?」

 

「ヒーロー名は」

 

「……あれでよかったのか?」

 

「デクのこと?」

 

「ああ」

 

出久は少し考える。

 

「昔、嫌なこと言われたことあったろ?」

 

「出久がデクって読めるから、木偶の坊って言われたこと?」

 

「ああ」

 

「気にしてないよ」

 

出久は笑った。

 

「勝己が守ってくれたから」

 

「それから、何もなかったし」

 

「……そうか」

 

勝己は前を向いたまま呟く。

 

「わかりやすいかなって」

 

「私の名前、初見で読めないでしょ?」

 

「それなら、分かりやすい方がいいかなって」

 

「そう思ったの」

 

そして。

 

出久は勝己を見る。

 

「勝己もそうでしょ」

 

「ダイナマイト」

 

「……まあな」

 

勝己は自分のヒーロー名を思い返す。

 

「個性見りゃ、わかるからな」

 

「ふふふ」

 

出久が小さく笑った。

 

「似てるね」

 

「……そうだな」

 

二人は、そのまま歩いていく。

 

---

 

職場体験当日。

 

雄英高校。

 

出発を前に、生徒たちはそれぞれの荷物を確認していた。

 

相澤が生徒たちを見渡す。

 

「コスチュームは持ったな」

 

生徒たちが一斉に頷く。

 

「本来なら、公共の場じゃ着用厳禁の身だ」

 

「落としたりするなよ」

 

「はーい!」

 

芦戸が元気よく手を挙げる。

 

「芦戸、伸ばすな」

 

「はい!」

 

「くれぐれも失礼のないように」

 

「じゃあ、行け」

 

生徒たちが、それぞれの目的地へ向かおうとする。

 

その時。

 

「勝己」

 

「ん?」

 

出久が声をかける。

 

そして。

 

手に持っていた袋を差し出した。

 

「これ」

 

「……どうした?」

 

「お弁当」

 

「しばらく作れないから」

 

「少し多めに作っちゃった」

 

勝己は袋を受け取る。

 

「……ありがとな」

 

その瞬間。

 

少し離れたところにいた芦戸が、耳郎の肩を軽く叩いた。

 

「ねえねえ」

 

「ん?」

 

「見た?」

 

耳郎が二人を見る。

 

出久から弁当を受け取り、普通に礼を言っている勝己。

 

「……またやってるな」

 

耳郎が苦笑する。

 

「職場体験前にもお弁当渡すんだね」

 

「しかも爆豪、普通に受け取ってるし」

 

瀬呂も笑う。

 

「もう完全にいつもの光景だな」

 

「いいじゃん」

 

芦戸が楽しそうに笑う。

 

「仲良しなんだから」

 

「まあな」

 

切島も頷く。

 

「爆豪も、ああいう時は素直なんだな」

 

「意外と素直なのかもね」

 

耳郎が呟く。

 

「聞こえてんぞ」

 

勝己が振り返る。

 

「げっ」

 

芦戸が笑う。

 

「聞こえてた?」

 

「ああ」

 

「じゃあ、気をつけてね!緑谷ちゃん!」

 

「うん!」

 

出久が笑顔で手を振る。

 

勝己も袋を片手に歩き出す。

 

その背中を見送りながら。

 

「……やっぱり仲いいよね」

 

芦戸が笑う。

 

「そうだね」

 

耳郎も微笑んだ。

 

そして。

 

二人は、それぞれの職場体験先へ向かっていった。

 

新幹線で45分。

 

勝己は窓の外を見ていた。

 

駅に着いてから、しばらく歩く。

 

そして。

 

「……ここか」

 

目の前にあったのは。

 

年季の入った建物だった。

 

お世辞にも綺麗とは言えない。

 

壁には傷。

 

窓も古い。

 

勝己は建物を見上げた。

 

そして。

 

扉を叩く。 

 

コンコン。

 

「……」

 

返事はない。

 

もう一度。

 

コンコン。

 

「……」

 

やはり返事はない。

 

勝己は眉をひそめた。

 

「失礼します」

 

扉を開ける。

 

「雄英高校から来ました」

 

「爆豪です」

 

中へ入った瞬間。

 

勝己の目が変わった。

 

老人が、血まみれで床に倒れている。

 

勝己は一瞬で周囲を確認する。

 

他に人影はない。

 

物音もない。

 

気配も感じない。

 

待ち伏せはいないと判断。

 

勝己は駆け寄る。

 

老人の手を取る。

 

脈は……ある。

 

勝己は携帯電話を取り出した。

 

救急を呼ぶとの並行して、救護を行うのが最優先……

 

判断は一瞬だった

 

その瞬間。

 

「生きてる!」

 

老人が顔を上げた。

 

「いやぁぁぁ!」

 

「切ってないソーセージにケチャップぶっかけた奴を運んでたらコケたァ~~!」

 

「……」

 

勝己の眉間に、深い皺が刻まれる。

 

「人騒がせだな……」

 

老人が勝己の顔を見る。

 

「誰だ君は!?」

 

「爆豪勝己です」

 

「飯が食いたい!」

 

「飯が!!」

 

老人が一方的に話をする。

 

勝己は、はぁ、と大きく息を吐いた。

 

そして。

 

持っていた袋を差し出す。

 

「食い物ならありますよ」

 

「……何?」

 

「食ってから」

 

「やりましょう」

 

老人の表情が変わった。

 

「……」

 

勝己は、老人を真っ直ぐ見る。

 

「試してるんですよね」

 

「……」

 

数秒。

 

沈黙。

 

そして。

 

老人が笑った。

 

「なるほどな」

 

次の瞬間。

 

老人の身体が跳ねる。

 

「!?」

 

まるで弾丸。

 

老人は天井へ飛び上がり、そのまま壁を蹴って方向を変える。

 

勝己は目で追った。

 

速い。

 

だが。

 

「……」

 

対応できないとは思わなかった。

 

「やるじゃねえか」

 

「撃ってこいや、受精卵小僧」

 

勝己の口元が僅かに上がる。

 

「悪くねぇな」

 

「爺さん」

 

次の瞬間。

 

壁を蹴る衝撃が、建物内に響き渡った。

 

---

 

同時刻。

 

雄英高校、職員室。

 

「どうした、オールマイト」

 

相澤が書類から目を上げる。

 

「やけにソワソワしてるな」

 

「いや」

 

オールマイトは落ち着かない様子で座っていた。

 

「爆豪少年のインターンの件でね」

 

「グラントリノのことか」

 

「……」

 

オールマイトが黙る。

 

「頼まれて連絡を取ったのは私だが」

 

「大丈夫かなと思ってね」

 

相澤は小さく息を吐いた。

 

「問題ないだろ」

 

「爆豪少年が、かい?」

 

「ああ」

 

相澤は椅子に座り直す。

 

「何が恐ろしいのか」

 

「言わんとすることは分かるが」

 

「グラントリノみたいな気性の人間と、爆豪は」

 

「案外、気が合うと思うぞ」

 

「……そういうものかな」

 

「そういうもんだ」

 

相澤はそう言って、再び書類へ視線を戻した。

 

---

 

グラントリノ事務所。

 

「やるじゃねえか!」

 

老人の声が響く。

 

「俺に背後を取らせねえとはな!」

 

部屋の中を、老人が縦横無尽に飛び回っている。

 

いや。

 

縦横無尽に飛び回るグラントリノが、そこにいた。

 

「チッ」

 

勝己が舌打ちする。

 

「速えな」

 

だが。

 

勝己の拳が、何もない空間を振り抜く。

 

(こいつ……!)

 

次の瞬間。

 

(俺の軌道に)

 

(カウンターを乗せてきやがった!)

 

グラントリノと勝己の拳。

 

それが、ぶつかろうとする瞬間。

 

二人の動きが止まった。

 

「……」

 

グラントリノが、勝己の腕を触る。

 

「おまえ」

 

「柔らかいな」

 

「……ありがとうございます」

 

勝己が答える。

 

「何で個性使わなかった?」

 

「ここで使ったら」

 

勝己は周囲を見る。

 

「爺さんの家、なくなりますから」

 

一瞬。

 

グラントリノが目を見開いた。

 

そして。

 

ニヤリと笑う。

 

「思考も柔軟とはな」

 

「それ」

 

グラントリノが、勝己の袋を指差す。

 

「食ったら続きやるぞ」

 

「お前の個性については知ってるからな」

 

「使える場所を用意してある」

 

「存分に掛かってきな」

 

勝己は、ニヤリと笑う。

 

「よろしいお願いします……」

 

「……と、その前に」

 

グラントリノが部屋を見回す。

 

「掃除だな」

 

「ウス……」

 

その顔には。

 

確かな笑みが浮かんでいた。

 

もっと強く。

 

そのために。

 

この人から、何でも吸収してやる。

 

そんな覚悟が、そこにあった。

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