放課後。
雄英高校からの帰り道を、出久と勝己は並んで歩いていた。
「来週から、職場体験だね」
「ああ」
「勝己は、先生に紹介してもらったところに行くんだよね」
「そうだな」
「クラスのみんな、驚いてたね」
「……」
勝己は答えない。
思い返せば、教室はかなり騒がしかった。
誰もが名前を知っているようなプロヒーローではない。
それでも、相澤が紹介すると言った場所。
それだけで、皆が興味を持った。
「……そうだったな」
しばらく歩いてから、勝己が口を開いた。
「出久」
「ん?」
「ヒーロー名は」
「……あれでよかったのか?」
「デクのこと?」
「ああ」
出久は少し考える。
「昔、嫌なこと言われたことあったろ?」
「出久がデクって読めるから、木偶の坊って言われたこと?」
「ああ」
「気にしてないよ」
出久は笑った。
「勝己が守ってくれたから」
「それから、何もなかったし」
「……そうか」
勝己は前を向いたまま呟く。
「わかりやすいかなって」
「私の名前、初見で読めないでしょ?」
「それなら、分かりやすい方がいいかなって」
「そう思ったの」
そして。
出久は勝己を見る。
「勝己もそうでしょ」
「ダイナマイト」
「……まあな」
勝己は自分のヒーロー名を思い返す。
「個性見りゃ、わかるからな」
「ふふふ」
出久が小さく笑った。
「似てるね」
「……そうだな」
二人は、そのまま歩いていく。
---
職場体験当日。
雄英高校。
出発を前に、生徒たちはそれぞれの荷物を確認していた。
相澤が生徒たちを見渡す。
「コスチュームは持ったな」
生徒たちが一斉に頷く。
「本来なら、公共の場じゃ着用厳禁の身だ」
「落としたりするなよ」
「はーい!」
芦戸が元気よく手を挙げる。
「芦戸、伸ばすな」
「はい!」
「くれぐれも失礼のないように」
「じゃあ、行け」
生徒たちが、それぞれの目的地へ向かおうとする。
その時。
「勝己」
「ん?」
出久が声をかける。
そして。
手に持っていた袋を差し出した。
「これ」
「……どうした?」
「お弁当」
「しばらく作れないから」
「少し多めに作っちゃった」
勝己は袋を受け取る。
「……ありがとな」
その瞬間。
少し離れたところにいた芦戸が、耳郎の肩を軽く叩いた。
「ねえねえ」
「ん?」
「見た?」
耳郎が二人を見る。
出久から弁当を受け取り、普通に礼を言っている勝己。
「……またやってるな」
耳郎が苦笑する。
「職場体験前にもお弁当渡すんだね」
「しかも爆豪、普通に受け取ってるし」
瀬呂も笑う。
「もう完全にいつもの光景だな」
「いいじゃん」
芦戸が楽しそうに笑う。
「仲良しなんだから」
「まあな」
切島も頷く。
「爆豪も、ああいう時は素直なんだな」
「意外と素直なのかもね」
耳郎が呟く。
「聞こえてんぞ」
勝己が振り返る。
「げっ」
芦戸が笑う。
「聞こえてた?」
「ああ」
「じゃあ、気をつけてね!緑谷ちゃん!」
「うん!」
出久が笑顔で手を振る。
勝己も袋を片手に歩き出す。
その背中を見送りながら。
「……やっぱり仲いいよね」
芦戸が笑う。
「そうだね」
耳郎も微笑んだ。
そして。
二人は、それぞれの職場体験先へ向かっていった。
新幹線で45分。
勝己は窓の外を見ていた。
駅に着いてから、しばらく歩く。
そして。
「……ここか」
目の前にあったのは。
年季の入った建物だった。
お世辞にも綺麗とは言えない。
壁には傷。
窓も古い。
勝己は建物を見上げた。
そして。
扉を叩く。
コンコン。
「……」
返事はない。
もう一度。
コンコン。
「……」
やはり返事はない。
勝己は眉をひそめた。
「失礼します」
扉を開ける。
「雄英高校から来ました」
「爆豪です」
中へ入った瞬間。
勝己の目が変わった。
老人が、血まみれで床に倒れている。
勝己は一瞬で周囲を確認する。
他に人影はない。
物音もない。
気配も感じない。
待ち伏せはいないと判断。
勝己は駆け寄る。
老人の手を取る。
脈は……ある。
勝己は携帯電話を取り出した。
救急を呼ぶとの並行して、救護を行うのが最優先……
判断は一瞬だった
その瞬間。
「生きてる!」
老人が顔を上げた。
「いやぁぁぁ!」
「切ってないソーセージにケチャップぶっかけた奴を運んでたらコケたァ~~!」
「……」
勝己の眉間に、深い皺が刻まれる。
「人騒がせだな……」
老人が勝己の顔を見る。
「誰だ君は!?」
「爆豪勝己です」
「飯が食いたい!」
「飯が!!」
老人が一方的に話をする。
勝己は、はぁ、と大きく息を吐いた。
そして。
持っていた袋を差し出す。
「食い物ならありますよ」
「……何?」
「食ってから」
「やりましょう」
老人の表情が変わった。
「……」
勝己は、老人を真っ直ぐ見る。
「試してるんですよね」
「……」
数秒。
沈黙。
そして。
老人が笑った。
「なるほどな」
次の瞬間。
老人の身体が跳ねる。
「!?」
まるで弾丸。
老人は天井へ飛び上がり、そのまま壁を蹴って方向を変える。
勝己は目で追った。
速い。
だが。
「……」
対応できないとは思わなかった。
「やるじゃねえか」
「撃ってこいや、受精卵小僧」
勝己の口元が僅かに上がる。
「悪くねぇな」
「爺さん」
次の瞬間。
壁を蹴る衝撃が、建物内に響き渡った。
---
同時刻。
雄英高校、職員室。
「どうした、オールマイト」
相澤が書類から目を上げる。
「やけにソワソワしてるな」
「いや」
オールマイトは落ち着かない様子で座っていた。
「爆豪少年のインターンの件でね」
「グラントリノのことか」
「……」
オールマイトが黙る。
「頼まれて連絡を取ったのは私だが」
「大丈夫かなと思ってね」
相澤は小さく息を吐いた。
「問題ないだろ」
「爆豪少年が、かい?」
「ああ」
相澤は椅子に座り直す。
「何が恐ろしいのか」
「言わんとすることは分かるが」
「グラントリノみたいな気性の人間と、爆豪は」
「案外、気が合うと思うぞ」
「……そういうものかな」
「そういうもんだ」
相澤はそう言って、再び書類へ視線を戻した。
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グラントリノ事務所。
「やるじゃねえか!」
老人の声が響く。
「俺に背後を取らせねえとはな!」
部屋の中を、老人が縦横無尽に飛び回っている。
いや。
縦横無尽に飛び回るグラントリノが、そこにいた。
「チッ」
勝己が舌打ちする。
「速えな」
だが。
勝己の拳が、何もない空間を振り抜く。
(こいつ……!)
次の瞬間。
(俺の軌道に)
(カウンターを乗せてきやがった!)
グラントリノと勝己の拳。
それが、ぶつかろうとする瞬間。
二人の動きが止まった。
「……」
グラントリノが、勝己の腕を触る。
「おまえ」
「柔らかいな」
「……ありがとうございます」
勝己が答える。
「何で個性使わなかった?」
「ここで使ったら」
勝己は周囲を見る。
「爺さんの家、なくなりますから」
一瞬。
グラントリノが目を見開いた。
そして。
ニヤリと笑う。
「思考も柔軟とはな」
「それ」
グラントリノが、勝己の袋を指差す。
「食ったら続きやるぞ」
「お前の個性については知ってるからな」
「使える場所を用意してある」
「存分に掛かってきな」
勝己は、ニヤリと笑う。
「よろしいお願いします……」
「……と、その前に」
グラントリノが部屋を見回す。
「掃除だな」
「ウス……」
その顔には。
確かな笑みが浮かんでいた。
もっと強く。
そのために。
この人から、何でも吸収してやる。
そんな覚悟が、そこにあった。