無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

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第十二章 保須市

 

少し時を遡る。

 

保須市。

 

夕暮れの街を、ビルの屋上から見下ろす人影。

 

「保須市って……思いの外、栄えてるな」

 

死柄木弔が、周囲を見渡す。

 

高層ビル。

 

行き交う人々。

 

大通りを走る車。

 

その光景を眺めながら、死柄木は呟いた。

 

「死柄木弔」

 

隣を歩く黒霧が、静かに声を掛ける。

 

「悠長なことを言っている場合ではありませんよ」

 

「これ以上逃げられる前に、早く始末しなければ」

 

「こちらの情報が漏れる可能性があります」

 

「……黒霧」

 

死柄木が頭を掻く。

 

「分かってるよ」

 

そして。

 

視線を前へ向ける。

 

「なら」

 

「さっさと脳無を出せ」

 

黒霧は黙って頷く。

 

やがて。

 

その背後から。

 

異形の人型が姿を現す。

 

「大暴れ――」

 

死柄木が笑う。

 

「ゲームスタートだ」

 

脳無が歩き出す。

 

「こいつらに気を取られている隙に……」

 

「アイツをブッ潰すぞ」

 

---

 

新幹線。

 

座席に座りながら、勝己は窓の外を眺めていた。

 

流れていく景色。

 

夕暮れの空。

 

遠くに見える街並み。

 

「爺……」

 

「着くころには夜だな」

 

向かいの席に座るグラントリノも、窓の外を見る。

 

「ああ」

 

そして。

 

ニヤリと笑った。

 

「その方が小競り合いが増えて楽しいだろ」

 

「ハッ」

 

勝己も鼻で笑う。

 

「違えねぇ」

 

勝己は再び車窓へ視線を戻す。

 

そして。

 

心の中で呟いた。

 

(ここが保須市か)

 

その時だった。

 

「――!」

 

キィィィィィィィ!!

 

突然。

 

新幹線が大きく揺れた。

 

「お客様、座席にお捕まり下さい!緊急停止します――――」

 

ドンッ!!

 

激しい衝撃。

 

乗客の悲鳴が響き渡る。

 

「きゃあああああっ!」

 

「な、なんだ!?」

 

「事故か!?」

 

勝己が舌打ちする。

 

「っんだ、なっ……!」

 

視線の先。

 

車内の窓を突き破って、一人の人間が飛び込んできた。

 

「ヒーロー!?」

 

「きゃあああああ!」

 

乗客たちが逃げ惑う。

 

そして。

 

穴の開いた窓の向こう。

 

そこに。

 

異形の生物が立っていた。

 

「……!」

 

勝己の目が見開かれる。

 

「あれは……!」

 

「脳無!」

 

勝己が立ち上がる。

 

「爺!」

 

グラントリノも立ち上がる。

 

「おぅ!」

 

二人が同時に動いた。

 

次の瞬間。

 

ドンッ!!

 

二人の攻撃が脳無を吹き飛ばす。

 

車体の外へ。

 

「勝己、逸れるなよ!」

 

「わかった!」

 

二人は、そのまま車外へ飛び出した。

 

---

 

路地裏。

 

「探したぜぇ……」

 

死柄木弔が、笑っていた。

 

「ヒーロー殺し」

 

「……ヒーロー殺し?」

 

出久の視線が動く。

 

横にいる男を見る。

 

先ほどまで手当てをしていた男。

 

その正体が。

 

今の一言で繋がった。

 

(この人が……ヒーロー殺し)

 

だが。

 

それ以上考える暇はなかった。

 

「ほら」

 

死柄木が手を広げる。

 

「さっさと死ねよ」

 

死柄木の背後から。

 

異形の人型が現れる。

 

出久の表情が変わった。

 

「……!」

 

脳無。

 

死柄木が、脳無を指差す。

 

「こいつは、お前の個性が効かねえ特注だ」

 

「潰してやるよ」

 

そして。

 

「行け、脳無」

 

脳無が動き出す。

 

ズシン。

 

ズシン。

 

地面を踏み締めながら、二人へ近づいてくる。

 

出久は反射的に前へ出た。

 

「……ああん?」

 

死柄木が眉を上げる。

 

「何だ、お前?」

 

そして。

 

出久の顔をじっと見る。

 

「あ?」

 

「……見たことあるぞ?お前」

 

出久は、死柄木を睨みつける。

 

「雄英襲撃のこと」

 

「覚えてないとは言わせない」

 

「死柄木弔」

 

死柄木の手が止まる。

 

「お前……!」

 

頭を掻く。

 

「そうだ」

 

「体育祭でも見た」

 

「無個性の奴だな」

 

「……」

 

死柄木は、嬉しそうに笑った。

 

「こいつは、運がいい」

 

「お前が死ねば――」

 

口元が歪む。

 

「オールマイトも来るかもな」

 

「……!」

 

出久の表情が変わる。

 

その一方で。

 

出久は、後ろ手にスマホを取り出した。

 

死柄木からは見えないように。

 

画面を操作する。

 

位置情報を送信。

 

そして、すぐにスマホをしまう。

 

脳無が徐々に迫ってくる。

 

「……」

 

出久は警棒を握り締める。

 

勝てるとは思えない。

 

正面から戦えば。

 

おそらく、一瞬で負ける。

 

それでも。

 

一歩。

 

前へ出る。

 

背後には。

 

先ほど手当てをした男。

 

死柄木たちは、その男を殺そうとしている。

 

なら。

 

「……させない」

 

出久は構える。

 

死柄木が笑う。

 

「何だ?」

 

「お前がやる気か?」

 

「……この人を」

 

出久は、男の前に立つ。

 

「殺させない」

 

「……」

 

男の目が。

 

僅かに動いた。

 

死柄木は。

 

楽しそうに笑った。

 

「ハハッ!」

 

「お前、面白いなァ!」

 

「ヒーロー殺しを守ってやんの!」

 

その瞬間。

 

出久の背後から。

 

ゾクリ。

 

全身を撫でるような。

 

凄まじい悪寒が走った。

 

「……!」

 

「阿呆どもが……」

 

出久の後から低い声がする。

 

「偽物が蔓延るこの社会も」

 

「徒に力を振りまく犯罪者も」

 

男が出久の前へ歩み出る。

 

「粛清対象だ……」

 

「ハァ……」

 

男は振り返らない。

 

ただ。

 

死柄木と脳無だけを見据えている。

 

「全ては――」

 

男が刃を構える。

 

「正しき社会の為に」

 

――ヒーロー殺し。

 

その男が。

 

出久の前に立った。

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