少し時を遡る。
保須市。
夕暮れの街を、ビルの屋上から見下ろす人影。
「保須市って……思いの外、栄えてるな」
死柄木弔が、周囲を見渡す。
高層ビル。
行き交う人々。
大通りを走る車。
その光景を眺めながら、死柄木は呟いた。
「死柄木弔」
隣を歩く黒霧が、静かに声を掛ける。
「悠長なことを言っている場合ではありませんよ」
「これ以上逃げられる前に、早く始末しなければ」
「こちらの情報が漏れる可能性があります」
「……黒霧」
死柄木が頭を掻く。
「分かってるよ」
そして。
視線を前へ向ける。
「なら」
「さっさと脳無を出せ」
黒霧は黙って頷く。
やがて。
その背後から。
異形の人型が姿を現す。
「大暴れ――」
死柄木が笑う。
「ゲームスタートだ」
脳無が歩き出す。
「こいつらに気を取られている隙に……」
「アイツをブッ潰すぞ」
---
新幹線。
座席に座りながら、勝己は窓の外を眺めていた。
流れていく景色。
夕暮れの空。
遠くに見える街並み。
「爺……」
「着くころには夜だな」
向かいの席に座るグラントリノも、窓の外を見る。
「ああ」
そして。
ニヤリと笑った。
「その方が小競り合いが増えて楽しいだろ」
「ハッ」
勝己も鼻で笑う。
「違えねぇ」
勝己は再び車窓へ視線を戻す。
そして。
心の中で呟いた。
(ここが保須市か)
その時だった。
「――!」
キィィィィィィィ!!
突然。
新幹線が大きく揺れた。
「お客様、座席にお捕まり下さい!緊急停止します――――」
ドンッ!!
激しい衝撃。
乗客の悲鳴が響き渡る。
「きゃあああああっ!」
「な、なんだ!?」
「事故か!?」
勝己が舌打ちする。
「っんだ、なっ……!」
視線の先。
車内の窓を突き破って、一人の人間が飛び込んできた。
「ヒーロー!?」
「きゃあああああ!」
乗客たちが逃げ惑う。
そして。
穴の開いた窓の向こう。
そこに。
異形の生物が立っていた。
「……!」
勝己の目が見開かれる。
「あれは……!」
「脳無!」
勝己が立ち上がる。
「爺!」
グラントリノも立ち上がる。
「おぅ!」
二人が同時に動いた。
次の瞬間。
ドンッ!!
二人の攻撃が脳無を吹き飛ばす。
車体の外へ。
「勝己、逸れるなよ!」
「わかった!」
二人は、そのまま車外へ飛び出した。
---
路地裏。
「探したぜぇ……」
死柄木弔が、笑っていた。
「ヒーロー殺し」
「……ヒーロー殺し?」
出久の視線が動く。
横にいる男を見る。
先ほどまで手当てをしていた男。
その正体が。
今の一言で繋がった。
(この人が……ヒーロー殺し)
だが。
それ以上考える暇はなかった。
「ほら」
死柄木が手を広げる。
「さっさと死ねよ」
死柄木の背後から。
異形の人型が現れる。
出久の表情が変わった。
「……!」
脳無。
死柄木が、脳無を指差す。
「こいつは、お前の個性が効かねえ特注だ」
「潰してやるよ」
そして。
「行け、脳無」
脳無が動き出す。
ズシン。
ズシン。
地面を踏み締めながら、二人へ近づいてくる。
出久は反射的に前へ出た。
「……ああん?」
死柄木が眉を上げる。
「何だ、お前?」
そして。
出久の顔をじっと見る。
「あ?」
「……見たことあるぞ?お前」
出久は、死柄木を睨みつける。
「雄英襲撃のこと」
「覚えてないとは言わせない」
「死柄木弔」
死柄木の手が止まる。
「お前……!」
頭を掻く。
「そうだ」
「体育祭でも見た」
「無個性の奴だな」
「……」
死柄木は、嬉しそうに笑った。
「こいつは、運がいい」
「お前が死ねば――」
口元が歪む。
「オールマイトも来るかもな」
「……!」
出久の表情が変わる。
その一方で。
出久は、後ろ手にスマホを取り出した。
死柄木からは見えないように。
画面を操作する。
位置情報を送信。
そして、すぐにスマホをしまう。
脳無が徐々に迫ってくる。
「……」
出久は警棒を握り締める。
勝てるとは思えない。
正面から戦えば。
おそらく、一瞬で負ける。
それでも。
一歩。
前へ出る。
背後には。
先ほど手当てをした男。
死柄木たちは、その男を殺そうとしている。
なら。
「……させない」
出久は構える。
死柄木が笑う。
「何だ?」
「お前がやる気か?」
「……この人を」
出久は、男の前に立つ。
「殺させない」
「……」
男の目が。
僅かに動いた。
死柄木は。
楽しそうに笑った。
「ハハッ!」
「お前、面白いなァ!」
「ヒーロー殺しを守ってやんの!」
その瞬間。
出久の背後から。
ゾクリ。
全身を撫でるような。
凄まじい悪寒が走った。
「……!」
「阿呆どもが……」
出久の後から低い声がする。
「偽物が蔓延るこの社会も」
「徒に力を振りまく犯罪者も」
男が出久の前へ歩み出る。
「粛清対象だ……」
「ハァ……」
男は振り返らない。
ただ。
死柄木と脳無だけを見据えている。
「全ては――」
男が刃を構える。
「正しき社会の為に」
――ヒーロー殺し。
その男が。
出久の前に立った。