空を駆ける。
爆音が、夕暮れの保須市に響き渡った。
グラントリノは空中で身体を翻し、脳無との距離を測る。
「勝己!これ以上、高度が上がると俺の個性じゃ届かなくなる!落とせるか!?」
「任せろ!」
脚から爆音。
身体が一気に跳ね上がる。
眼下には、逃げる脳無。
「爺!そこの広場に落とすぞ!」
「わかった!」
勝己が脳無へと一気に接近する。
拳を握る。
全身を捻る。
そして。
「――オラァァァ!!」
爆発。
脳無の身体が大きく弾き飛ばされ、地面へ叩きつけられる。
「まだまだ!」
グラントリノが空中で身体を回転させ、その勢いのまま脳無を踏みつける。
轟音。
地面が砕ける。
グラントリノが脳無を見る。
「――ったく」
「道路、割っちまったじゃねぇか」
勝己も着地し、肩で息をする。
グラントリノが勝己を見る。
「……勝己」
「ん?」
「こいつら、何者だ?」
「……詳しいことは知らねぇ」
「だけど、雄英襲撃の時に来た奴と同じだと思う」
グラントリノの表情が険しくなる。
その時だった。
遠くから悲鳴が聞こえた。
二人が同時に振り返る。
「……行くぞ!」
「おう!」
二人は駆け出した。
別の場所。
もう一体の脳無が、道路を破壊しながら進んでいた。
逃げ惑う人々。
倒れる車。
「クソッ!」
勝己が走る。
グラントリノも続く。
だが。
間に合わない。
脳無の腕が振り上げられた。
その瞬間。
脳無の身体を巨大な炎に包まれる。
「――!」
熱風が吹き抜けた。
そして。
炎の向こうから、一人の男が歩いてくる。
低い声。
炎を纏う巨体。
「偶々の出張だったが……タイミングの悪い奴だ」
市民の一人が声を上げる。
「エンデヴァーだ!」
No.2ヒーロー、エンデヴァー。
その姿を見て、勝己は目を細めた。
強い。
それだけは分かる。
「……大物が来やがったな」
グラントリノが鼻を鳴らす。
その時。
「ん?」
勝己が、咄嗟にスマホを取り出す。
そして。
スマホを見て、勝己の顔つきが変わった。
「勝己、どうした?」
「爺…」
---
路地裏。
そこには、無数の傷を負ったステインが立っていた。
いや。
立っているという表現すら、もう正確ではない。
身体は傷だらけ。
衣服は血に染まり。
手にした刀は、何本も折れている。
それでも。
「……」
目は死んでいなかった。
足元には、倒れた脳無。
一体。
二体。
三体。
そして。
四体目。
その身体には、深々と刀が突き立てられていた。
ステインが刀を抜く。
脳無が崩れ落ちる。
「……ハァ」
息を吐く。
ステインの個性「凝血」が効かない個体。
だからこそ。
頼ったのは、培った戦闘技術だけだった。
動きを読み。
急所を狙い。
隙を突く。
ただ、それだけで脳無を倒した。
しかし。
「……ハァ……ハァ」
「……グッ……ゴホゴホ」
ステインが血を吐く。
身体は限界に近い。
それでも。
その背後には、出久がいる。
ステインは振り返らなかった。
「……」
出久も、何も言わない。
その時。
「クソッ」
死柄木の声が響いた。
「何なんだ、こいつ!」
視線の先は、倒れた四体の脳無。
そして、その前に立つステイン。
「個性が効かない特注なのに」
死柄木の声が苛立ちに震える。
「市内に撒く脳無まで出したのに」
「何なんだよ、お前は!」
ステインは答えない。
ただ、刀を構える。
残った一本。
その刃は、血で濡れていた。
「来い……」
ステインが呟く。
「来てみろ……」
一歩。
踏み出す。
「俺を殺していいのは――」
ステインの身体が揺れる。
「オールマイトだけだ……」
恐ろしい程の圧力に、死柄木が下がる。
「死柄木弔、そのまま下がって下さい!」
「奴の個性は、私達に効果があります!」
「最悪、一撃で葬られます!」
「手負いの獣は危険です!」
黒霧が死柄木を呼ぶ。
しかし。
ステインの身体が、とうとう崩れる。
「――!」
咄嗟に、出久がステインを支える。
ステインの血が、出久の服を赤く染める。
「なんだよ」
「やっぱり、もうボロボロじゃねぇか」
「後ろの女なんか守ってるからよぉ」
死柄木の言葉に、出久の目がキツくなる。
出久はステインを支えながら、壁際へ移動する。
身体を預けられる場所。
そこまで運んで。
ゆっくり立ち上がる。
「……守ってくれて」
「ありがとうございました」
「……」
ステインからは、何の言葉も返ってこない。
出久は死柄木を見る。
「ここからは、私の番ですね」
出久が警棒を構える。
死柄木が首を傾げた。
「あん?」
出久は構えた。
「俺とやれると思ってるのか?」
死柄木が笑う。
「無個性のクセに」
出久は答えなかった。
しかし。
出久の目は、既に死柄木を見据えていた。
(右手)
(左手)
(指)
(手のひら)
(マスク)
(異常な程、手に拘っている)
(確証はないけど)
(――触れることが条件な個性)
(問題は、もう一人)
出久は、悟られないように死柄木の傍にいる黒霧と呼ばれるヴィランを見る。
(USJの時は、皆を分断させた個性)
(どうして今日は使わない)
(そう指示されているとか?)
(で、あるならば)
冷静に、今できることに出久は集中する。
出久は警棒を構え直した。
「何言ってるの」
「無個性がなに?」
声は冷静だった。
「個性がないとイキれない雑魚のクセに」
死柄木の眉が動く。
「気持ち悪いよ、あんた」
「……!」
死柄木が手を伸ばした。
出久は一歩下がる。
伸びてきた手を。
警棒で叩き落とす。
「っ!」
死柄木が手を引く。
次の瞬間。
出久の警棒が肩を打った。
「――ッ!」
さらに一歩。
脇腹。
「ぐっ!」
膝。
「てめぇ……!」
出久はニヤリと笑う。
「やっぱり、クソ雑魚じゃん」
「無個性すら倒せないなんて」
「恥ずかしい、あぁ恥ずかしい」
「この……!」
死柄木が苛立つ。
「黒霧!手を出すなよ!」
「こいつはグチャグチャにしてやる!」
「……」
黒霧は何も言わない。
そして。
出久は冷静だった。
(煽りに乗ってきた)
(ちょっと想定と違った所もあるけど)
(これで時間を稼げる)
(致命傷を与える必要はない)
痛がる場所を、適度に痛めつけ。
そして煽る。
「弱い、弱すぎる」
「只のヒョロガリじゃない」
「戦ったことないの?」
「黙れ!」
「無個性に負けるのが、あなたの個性?」
死柄木が歯を剥く。
「殺す……!」
「できるなら、やってみれば?」
警棒が、手首を叩く。
「――ッ!」
死柄木の顔が歪む。
出久は一歩下がった。
「過信…」
「軽率…」
「何もかもダメ」
「0点」
距離を取る。
「殺してやるッッ」
死柄木が距離を詰める。
「残念、時間切れ」
「ほら?聞こえない?」
出久が指を天に向ける。
死柄木も我に返り、辺りを見る。
――音が近づいて来ている。
黒霧も辺りを見回す。
――間違いなく近づいて来ている。
「何が来てるでしょう?」
「……分かんないよね」
「正解は……」
その時。
死柄木は、空に何かが浮かんでいるのを見た。
そしてそれは。
爆ぜた。
「幼馴染」
――出久に近づくんじゃねぇェェェェェェ!!
空から突っ込んできた男の拳が。
死柄木の顔面を捉えた。