無個性の私と、幼馴染のかっちゃん   作:千遇万歩

56 / 57
第十四章 芽吹き

 

「出久に近づくんじゃねぇェェェェェェ!!」

 

空から突っ込んできた勝己の拳が、死柄木の顔面を捉えた。

 

「――ぐっ!!」

 

身体が宙を舞う。

 

そのまま地面へ叩きつけられ、死柄木は何度も転がった。

 

「死柄木弔!」

 

黒霧が叫ぶ。

 

倒れた死柄木へ駆け寄る。

 

「死柄木弔!しっかりしてください!」

 

「……」

 

返事がない。

 

起き上がる様子もない。

 

黒霧は死柄木の身体を確認する。

 

致命傷ではない。

 

だが、これ以上の戦闘は不可能だった。

 

今回の裏の目的。

 

それは、死柄木を成長させること。

 

今の破壊衝動だけでは足りないもの。

 

それを自覚させるために、あえて考えさせる。

 

それが『先生』の意向だった。

 

だが。

 

「先生……」

 

黒霧が呟く。

 

「もう限界です」

 

「……先生?」

 

出久の目が僅かに動いた。

 

そして。

 

黒い霧が死柄木を包み始める。

 

――戦力的撤退。

 

しかし。

 

「逃がすと思うか?」

 

男の声に、黒霧が振り返る。

 

その瞬間。

 

巨大な炎が、空を赤く染めた。

 

「――!?」

 

黒霧が目を見開く。

 

炎の中から、人影が現れる。

 

「エンデヴァー!?」

 

黒霧の声が響く。

 

「そんな……まさか!何故、ここに!」

 

「まったく、タイミングが悪い奴らだ」

 

炎を纏ったエンデヴァーが歩み寄る。

 

「まぁ、俺からしてみれば運がいいがなァ!フン!」

 

真っ赤に燃える火炎が、黒霧へと襲い掛かった。

 

「アアアァァアアアァァ!!」

 

黒霧の叫び声が響く。

 

炎が街を照らす。

 

そして。

 

叫び声が消えた時。

 

炎の中に、二人の姿はなかった。

 

「チッ……逃げたか」

 

エンデヴァーが吐き捨てる。

 

遠くから。

 

パトカーと救急車の音が聞こえてきた。

 

---

 

―――

――

―

 

「良かった!」

 

出久が目を開けたステインを見つめる。

 

目元には涙が浮かんでいる。

 

「目が覚めた!」

 

「……」

 

ステインは何も言わない。

 

出久は安堵したように息を吐いた。

 

「守ってくれて、ありがとうございました」

 

「これから病院に搬送されます」

 

「その後は警察に移送されますけど……」

 

少しだけ言葉を止める。

 

「私は、あなたのことを忘れませんから」

 

ステインは何も言わない。

 

ただ。

 

二人の目が合った。

 

しばらくして。

 

「そろそろ搬送しますので」

 

救急隊員が声を掛ける。

 

出久がステインから離れようとした。

 

その時。

 

「……緑谷出久」

 

低い声が響く。

 

出久が振り返る。

 

再び。

 

二人の目が合った。

 

「何を成し遂げるにも……」

 

ステインが静かに口を開く。

 

「信念……想いが要る」

 

「……」

 

「無い者。弱い者が淘汰される」

 

ステインの目は、出久を真っ直ぐ見ていた。

 

「それを忘れるな……」

 

そして。

 

「お前は俺とは違う」

 

僅かに目を細める。

 

「だが」

 

「お前の芽吹きを、俺は楽しみにしている」

 

出久は何も言わなかった。

 

ただ。

 

静かにステインへ向かって頭を下げる。

 

「……」

 

しばらくして。

 

「緑谷さん」

 

誰かが出久を呼ぶ。

 

振り向くと、綾小路だった。

 

「彼のことは、お任せ下さい」

 

「綾小路さんも乗るんですか?」

 

「ええ」

 

綾小路は救急車へ向かう。

 

「万が一のこともありますから」

 

「……分かりました」

 

救急車の後部ハッチが閉まる。

 

サイレンが鳴る。

 

一台の救急車が、その場から走り去っていった。

 

「行っちまったか……」

 

出久が振り返る。

 

そこには勝己がいた。

 

「勝己……」

 

出久は、そのまま勝己に抱きついた。

 

「おい」

 

勝己が僅かに身体を固くする。

 

「周りに人がいるだろ」

 

「……おい」

 

「勝己……」

 

「来てくれて、ありがとう……」

 

出久の身体が震えていた。

 

勝己は何も言わなかった。

 

ただ。

 

そっと、出久を抱きしめた。

 

「……どうして、こんなに早く来れたの?」

 

出久が尋ねる。

 

「新幹線で移動中に巻き込まれた」

 

「ここいることも、知ってたから」

 

「気にしてた」

 

勝己が答える。

 

「かっちゃん……」

 

「ん?」

 

「大好き」

 

「…………俺もだ」

 

しばらく。

 

二人とも何も言わない。

 

やがて。

 

出久がゆっくりと顔を上げた。

 

勝己の方を向く。

 

目が合う。

 

近い。

 

いつもなら、気にも留めない距離。

 

けれど。

 

今は違った。

 

勝己の視線が、出久の顔へ落ちる。

 

戦っている時とは違う。

 

力の抜けた表情。

 

少し赤くなった目元。

 

そして。

 

少女の唇。

 

それが艶やかに濡れて見える。

 

勝己の呼吸が、僅かに止まった。

 

出久もまた。

 

何も言わない。

 

少しずつ。

 

少しずつ。

 

二人の距離が近づいていく。

 

出久が、そっと目を閉じる。

 

そのまま。

 

身を委ねるように。

 

あと少し。

 

もう少しで――。

 

「オイオイ、若いねぇ」

 

「「――!?」」

 

二人が慌てて離れる。

 

「……」

 

勝己がゆっくり振り返る。

 

そこには。

 

グラントリノがいた。

 

「こんな所でギューするとはな」

 

「ワハハ、ん?どうした?」

 

「……」

 

出久は言葉が出ない。

 

顔が真っ赤になっている。

 

勝己も、しばらく何も言わない。

 

「出久……」

 

「俺の職場体験先の人」

 

「グラントリノ……まぁ、俺の師匠だ」

 

グラントリノがニヤリと笑う。

 

出久が慌てて頭を下げる。

 

「初めまして、緑谷出久です!」

 

「おう。よろしくな!」

 

「しかし、隅に置けんな、勝己も」

 

「うるせえな、爺!」

 

「ハッハッハ!」

 

三人の間に笑い声が響いた。

 

---

 

走る救急車。

 

車内には、ステインと綾小路。

 

しばらく、静寂が続いていた。

 

やがて。

 

「……ヒーロー殺し」

 

綾小路が口を開く。

 

「緑谷さんを守ってくれて、ありがとうございました」

 

「……」

 

ステインが横目で見る。

 

「警察がそんなこと言っていいのか」

 

「犯罪者だぞ」

 

「……警察としてではありませんよ」

 

綾小路は静かに答える。

 

「ただ、個人的に」

 

「警察官という立場を押してでも、礼を伝えておきたかっただけです」

 

「……そうか」

 

再び。

 

静寂。

 

しばらくして。

 

ステインが口を開く。

 

「芽吹きを……潰させる訳にはいかないな」

 

「……?」

 

「犯罪者は粛清対象だ……」

 

綾小路がステインを見る。

 

「何を言っているのです?」

 

ステインが、綾小路へ視線を向ける。

 

そして。

 

「俺の知ってる奴等の情報を教えてやる」

 

綾小路の目が僅かに細くなった。

 

---

 

―――

――

―

 

雄英高校。

 

その日の夜。

 

「……なんと、そんなことが」

 

オールマイトが呟く。

 

「うん。僕もビックリしたさ」

 

根津が楽しそうに笑う。

 

「まさか、ヒーロー殺しのステインが口を割るとは思いもしなかった」

 

「しかし」

 

相澤が口を挟む。

 

「まだフェイク。もしくは、こちらを誘き寄せる為の罠という可能性もあります」

 

「その通りだね」

 

根津が頷く。

 

「その為にも、今回は半端じゃないヒーロー達で臨むという訳さ」

 

机の上には、今回の作戦に参加するヒーロー達の資料。

 

「オールマイトに、エンデヴァー」

 

相澤が資料を眺める。

 

「他にも沢山。選り取り見取りですね」

 

「うん」

 

根津が頷く。

 

「そういえば」

 

相澤が口を開く。

 

「死柄木が言っていたという『先生』という言葉も気になりますね」

 

「……」

 

一瞬。

 

空気が止まった。

 

オールマイトと根津の表情が僅かに強張る。

 

相澤は二人を見る。

 

「何か?」

 

「いや」

 

根津が笑う。

 

いつもの笑顔。

 

けれど。

 

「少し、気になる名前だと思ってね」

 

オールマイトも。

 

「……同感です」

 

短く答えた。

 

二人は、その言葉の意味を知っている。

 

『先生』と呼ばれる、その先にいる存在を。

 

「じゃあ、そろそろ準備といこうか」

 

根津が言う。

 

「今日で、ヴィラン連合を壊滅させるよ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。