不老不死の私と彼女~800年も一緒に居た私たちを百合と呼ぶのは些か軽すぎるのかもしれません~ 作:すっごい性癖
「それなりに長い時を過ごしいろいろな種族を見てきたが、あれだな。近年流行りの魔法少女、ってのも、もしかしたら実は本当に存在しているのかもな」
「何ですか急に」
じとぉ、と急に変なことを言い出した吸血鬼を見つめる。一週間のゲームお預けを食らった彼女は、暇を持て余していたのかテレビでちょうどやっていた魔法少女物のアニメを見ていたようだけれども……。
それに感化されてしまったのか、妙なことを口走りましたね、今。
「いや、なんだ。私たちもこの八百年で様々なモノを見ただろう。妖怪や、それを祓う陰陽師であったり、私たち吸血鬼を追う吸血鬼狩りもそうだ。噂に聞くところによると悪魔祓いなる生業の者たちもいるという」
「だから、魔法少女もいるのでは……と?」
「そうだ」
まぁ、言いたいことはわからなくもない。確かに、私たちが長い時の中で見聞きした存在のことを思えば、魔法少女なんて一風変わった存在も、あり得ないと切り捨てるのは難しくはある。
そもそも、吸血鬼なる存在自体が人の世にとっては架空のそれなのだ。一部、それらを敵とする吸血鬼狩りなどはその存在を知っているが、一般的に知られているものではない。
それと同じで、私たちも魔法少女という存在について、今日の今日まで知ることがなかっただけで、どこか別の場所では普通に生きているって可能性も無きにしも非ずではある。
「そも、魔法少女……、つまりは主体は魔法と女児だろう? この国では古来から子供を神聖視する信仰が存在していたし、女という性別自体もそう言った魔の道とは縁が深い」
確かに。それこそエレナの出身であるヨーロッパでは悪魔と契約した女性を特別に魔女と呼んでいたという。確か、出産という生命の誕生と縁が深い女体はそういった神秘的なものと相性が良かったのだったか。
「それらを踏まえると、女性でかつ子供でもある女児が魔法を繰る魔法少女という存在は理に適っている、と」
「あぁ、そうだ」
なるほど。そう言われると、そうかもしれないと思ってしまう。
『くらえ、正義の矢! ジャッジメント・アロー!』
テレビからやけに通る声が聞こえてくる。子供向けらしい、わかりやすい技名だ。テレビの音量をどれだけ上げているのかは知らないけれども、かなりうるさい。
「だいたいの魔法少女ものはヘンテコな生命体と契約することで魔法少女となる。これも、ヘンテコな生命体を悪魔と見ればまんま魔女のフォーマットと一緒じゃないか」
「本当ですね……」
私は日本から出たことが無いから欧州の悪魔は見たことが無いけれども、そこ出身のエレナからは何度か話を聞いたことがある。あちらでは呼び出した悪魔に対価を渡すことで願いを叶えてもらったり、力を授けてもらったりする、だったか。
言われてみれば魔法少女と全くの同じ形式ではないか。アニメの中の彼女たちは、マスコットのようなキャラクターと契約をすることで魔法を手にする。
むしろ一緒過ぎて魔法少女と魔女との区別が難しいほどだし。
ちなみにエレナは八百年も前から日本に来ていたがために、中世ヨーロッパで流行った魔女狩りの影響を受けなかった数少ない吸血鬼であるという。あの件以降、吸血鬼も、そしてそれらを狩る吸血鬼狩りも大きく数を減らしたそうな。
『くっ、舐めるな!!』
それにしてもテレビの音声が大きい。というか、魔法少女が『舐めるな』とか、あんまり言わない方が良いんじゃないだろうか。見ているの、大体は年齢一桁の小さい女の子でしょうに。
中には八百歳を優に越す吸血鬼も居るには居るけれども……。
「魔法少女と魔女との親和性を思うと、根っからの魔法少女というものは存在しないかもしれないが、それこそ魔女なんかが現代に迎合し魔法少女を名乗っている、なんてことはあるかもしれないな」
まぁ、そんなことするのはよっぽどの変わり者だろうがね、と吸血鬼はケラケラと笑う。私としては貴女以上の変わり者なんていないだろ、って感じなんだけれども。
「魔女や……、日本で言うと陰陽師などが魔法少女ごっこをしている可能性ならある、と?」
「かみ砕いて言うならそうなるな。アニメのようにファンシーな生物と契約して魔法の力を手に、そして世界を守るために悪と戦う! なんてのは考えにくいが、それこそアニメに影響をされた年若い術者が、個人でごっこ遊びをしているくらいならありえるだろうよ」
「なるほど……」
考えてみれば私がこれまでに会ってきた陰陽師などの、人間でありながら特殊な力を扱う人たちは大体が変わっていたっけ。そういった人種の中からだったら一人や二人、そういう人間が出てきても何ら不思議ではない。
まぁでも、そんなヘンテコなことをわざわざするような人なんて――
『トドメだ、死ねぇ!』
「うるさいですね……」
テレビから今日一の爆音が流れ、私は思わずボヤいてしまう。というか、先程もなかなかだったけれども『死ね』はダメじゃないですかね、子供向け番組で。小さい子が真似をしたらどうするつもりなんでしょうか。最近、コンプラというのも厳しいと言いますし。
私はエレナにテレビの音量を下げるようにお願いをして……
「え? テレビの音量、別に普通なんだけど」
「なんですって……?」
そんなバカな、と思い私は彼女からテレビのリモコンを受け取りカチカチと操作する。画面に出てくる音量の調整を示す数字。
確かに、特別大きな数字にはなってはいない。
『やったー!!』
「っく、これ、脳内に――!?」
それを意識してから再度拾った大音量の声に意識を向けてみれば、どうやらその声はテレビからではなく、直接脳内で響いていることに気が付く。
聞こえる声が魔法少女の技名であったりと、テレビ画面に合いすぎていたがために気が付けなかった。
しかし、じゃあこの声は一体どこから……?
「なんか、やけに外が騒がしいな」
「あ、ちょっと……」
シャー、とエレナが遠慮なしに近くのカーテンをめくる。
私もカーテンの隙間から入る光がチカチカと点滅していたようで若干気になってはいたが、日中の今、吸血鬼である彼女に日光を浴びせるわけにもいかなかったので開けないでいたのだけれども……。まさか本人が日光を気にせずカーテンを開くとは、……って。
「おいこら」
この吸血鬼、開けると同時に私を盾にしたな。ぐい、と手を引っ張って前に置く形で。確かに彼女が日光を浴びればすぐさまその箇所が灰と化すし、文句は無いんですけれどもね。
まぁ、いいか。私はそのまま、外の景色へと目を向けて……
「……へ?」
「おぉ」
そこで、私たちの住むアパートのすぐ近くの交差点にて、やけにふりっふりのドレスのような恰好に身を包んだ少女が、何らかの魔の存在を打ち倒し、勝ち誇っていた。
「正義は、必ず勝つ!!」
外の彼女がそう宣言すると同時に『正義は、必ず勝つ!!』と脳内に同じセリフが響いてくる。あぁ、どうやら先ほどまでの声の主は彼女らしい。彼女の声が何故だかはわからないが、私の脳内に直接送り込まれていたから先ほどからずっとうるさかったのだ。
「……知らない間に愉快な国になったな、日本は」
「……元からじゃないですか?」
「……そうかも」
はぁ、と二人してがっくりと肩を落とす。
「イエーイ!!」
そう交差点で勝ち誇る彼女の姿を形容するとするならば、そう。それは、魔法少女と呼ぶほかの選択肢は存在しないのであった。