「そうか………シズさん、逝っちまったのか」
三人の表情は暗い。エレンは涙を浮かべている。
姿を大きく変えたリムルに皆が驚愕してから数十分後、リグルドが静江さん用に持ってきた服をリムルに着せ、俺達は静江さんの最期を皆に話した。
「というか……本当にリムルの旦那なんでやんすか?」
「どうにも、その……ちっこいシズさんっぽいっつーか………」
「…………」
「間違いありません!」
「見くびるな! 姿形が変わったくらいで分からなくなるとでも思うのか!」
「兄上の言う通りだ! 我らが主人を間違えるわけがなかろう!」
「リグルド、ランガ、ヒョウガ、落ち着け……」
三人の反応は当然だ。普段の姿だけを見ていたら、そう思うのも無理はない。
「本当だよ、ホレ」
そう言って、リムルはいつものスライムの姿に戻る。
「「おお!」」
「ふへーーー……」
「見事なもんでやんすね……」
「………シズさんを食べたの? イフリートを食べたみたいに…………」
「……それが俺達にできる、唯一の葬送だったからね」
「…………ごめんなさい。仲間のあなた達に相談もなく……」
「いや……それがシズさんの望みだったのなら、仕方がないさ」
「すまんな、エレン。割り切れないかもしれないけど……」
リムルがそう言うと、エレンは首を振り、涙を拭って微笑みを浮かべる。
「ううん。ただ、最後にお別れの挨拶くらい、言いたかったな」
「シズさんは、最後の旅で皆さんと仲間になれて楽しかったと言っていました」
「ちょっと危なっかしいとも言ってたがな」
「あーーーーね……」
そう言って、ギドがカバルに目を向ける。
「おいコラ、なにこっちを見てんだ、お前らっ!」
「だって……ねぇ……」
「お前だってこの前、
「あ、あれは姐さんが急に押してきたからでやんす!」
「ちょっとぉ、私のせいにしないでよぉ。あの時は突然、蜘蛛が落ちてきて……」
「ははは……」
(こういうのが彼ららしくていいな)
「だな……」
二人は三人のやり取りを笑いながら見守った。
この三人だからこそ、最後の旅を楽しめたのだろう。
「あの時、シズさんが蜘蛛を取ってくれたのよねぇ」
「あれ以来、シズさんが罠探しを手伝ってくれやして」
「ホレ見ろ! 俺だけじゃねぇじゃん!」
「(なあ、話を聞いて思ったんだが……)」
「(あぁ……皆まで言うな)」
「(三人とも、シズさんに頼りすぎじゃね?)」
「(絶対本人達に言うなよ?)」
その後も続く三人のやり取りを、俺達は見守ることにした。
そして三人は、シズさんとの旅の思い出話もたくさん話してくれた。
「さてと、じゃ、そろそろお暇するかね」
俺達が旅の話を全て聞き終えた頃、カバルさんがそう言って立ち上がった。
「国に帰るのか?」
「ああ、ギルドマスターにこの森の調査結果と……それに、シズさんの事も報告しなきゃならんからな」
「そう言えば、前にも言ってましたね、ギルドって。どんなところなんですか?」
「自由組合つってな。ほとんどの冒険者が所属してるんだ」
俺が聞くと、カバルさんが簡潔に教えてくれた。
「もちろん、ここの事は悪いようには報告しないぜ」
「リムルさんとルイン君の事、ギルマスにちゃんと伝えとくね」
「旦那達も、何か困ったことがあれば、頼るといいでやんすよ」
「はい。その時は頼らせてもらいます」
「あー、その……ルインの旦那、今まで言えなかったが、俺達には敬語は不要だぜ。なんかよそよそしくてむず痒いっつーか……」
「うん。なんかルイン君のその見た目で敬語はちょっと……」
「そうでやんすね……なんだったら呼び捨てでも構いやせん」
三人は、ルインの言葉遣いに今まで違和感があったようで、言うに言えなかったのだ。
「……わかり……いや、わかった。それじゃあ……改めて、困ったことがあったら頼らせてもらうぞ。カバル、エレン、ギド」
「「「おう!/うん!」」」
「あっ、と……最後にもう一つ。なぁ、リムルの旦那。もう一度、人の姿になってもらえねぇかな」
カバルは何かを思い出し、リムルに人間の姿になるように頼む。
「? 別にいいけど」
そしてリムルは再び、人の姿に変わる。
「一体なんだって……」
「「「シズさん! ありがとうございました!!」」」
そう言って、三人は頭を下げる。
「俺、貴女に心配されないようなリーダーになります!」
「貴女と冒険できたこと、生涯の宝にしやす!」
そして、エレンがリムルに抱きつく。
「ありがとう………お姉ちゃんみたいって、思ってました」
リムルは優しくエレンの頭をポン、ポンと叩く。
その様子を見ていた俺は、静江さんの剣に触れる。
「(シズさん、聞こえてますか? あなたの仲間は最高な人達ですよ。本当に、彼らがシズさんの……最後の旅仲間でよかった)」
俺は視線を外し、エレンに抱きつかれているリムルを見つめる。
「なぁ、失礼かもしれないけど、イフリートとの戦いのせいか、所々焦げてるぞ。新しい装備に換えた方がいい」
「確かに、ボロボロだな」
「「「ひどっ!」」」
俺はスキルの『嗅覚』が『超嗅覚』に進化したため、匂いに敏感になっていた。
そういうわけで、三人を町の工房へと連れて行くことになった。
「………って、え?」
「あ、あの……」
「こ、これって……」
せめてもの餞別だ。
エレンには純白のローブを渡した。
カバルには甲殻鱗鎧を渡す。甲殻を用いた重鎧だが、見た目に反して軽い。
ギドには硬革鎧――魔獣の毛皮を加工した、魔法耐性付きの品だ。
上記の装備に加え、帰るまでの食料と水、野宿に必要な道具、新しい武器も渡した。
「ウチの職人の力作だ。紹介しよう。カイジンとガルム、ミルドにドルドだ」
「力作っつっても、まだ試作品だけどな」
「着心地はどうだい?」
「え? カイジンって、あの伝説の鍛冶師の!?」
「じゃあ、まさかガルム、ミルド、ドルドって、あのドワーフ三兄弟!?」
「うおーーーーーーーっ! 家宝にしますぅぅぅ!!」
「ありがとうございます! 嬉しいですぅぅぅ!」
「夢のようでやんすよぉぉぉ!」
三人とも大喜びだった。
自分達が思っていた以上に、カイジン達は有名人である。
改めて、物凄い人材を引き入れたと実感する俺達だった。
ガゼル王が直々に引き留めようとするほどだから、当然と言えば当然なのだろう。
「(良い土産を渡せて良かったと思わないか、ルイン?)」
「(ああ、喜んでもらえてよかった)」
「また来るぜー!」
「ありがとー!」
「おたっしゃでー!」
悲しみを吹き飛ばすように大はしゃぎした後、彼らは去っていった。
先程までの悲しみを乗り越え、前へと進むような後ろ姿だった。
そしてその後、遺体はないが、シズさんの墓を町を見渡せるあの丘に作った。
ないよりはマシだしな。
「さてと」
俺は隣にいるリムルに声をかける。
「じゃあ、俺は出かけてくる」
「ん? いつもの鍛錬か?」
「そんなところだ。俺達ももっと強くならないと……静江さんとも約束がある。いずれは……魔王と対峙することになるだろうしな」
「………わかった。気をつけろよな」
「ああ、何かあったらすぐに知らせてくれ。すぐに戻ってくる」
俺はそのまま飛び立ち、しばらく飛んで、いつも鍛錬している場所へとやって来た。
同時刻。
鍛錬に出たルインと、墓前に残ったリムルは、同じことを考えていた。
「(シズさんの心残りは、彼女の教え子達……)」
「(ドワルゴンに行った際、リムルの占いで見た五人の子供達と、二人の男女。しかし、何処に居るのか情報もない)」
「(地道に情報を集めるしかない。それこそ、ギルドを頼るのも一つの手だ)」
「(それから、もう一つ)」
「(俺達には、やらなければならない事がある)」
「((魔王……レオン・クロムウェル))」
「覚悟しろよ。そのイケてる面をぶん殴ってやるからな」
リムルはいずれ魔王を殴ると心に誓う。
俺は腰に黄緑色とマゼンタのグリップが付いたベルト――ゲーマドライバーを装着し、腰に付いているホルダーのスイッチを押す。
【ステージセレクト!】
俺の左手にはシズさんの刀を持ち、一人で真っ白な異空間に立つ。
そして、もう一方の手でライドブックを起動させる。
【戦国鎧武絵巻】
シズさんが眠っている間、俺は何もしていなかったわけじゃない。
町の復興を手伝う傍ら、俺は自分自身の力を鍛えていた。
今回のように、他のライダーのアイテムを使い、組み合わせ技のような戦い方もできるようになった。
セイバーの力だけじゃない。
仮面之王者によって得られる、数多の仮面ライダーの力……その全てを自在に扱えるようにならなければならない。
【GAME START!】
音声と共に、辺りは森へと変化し、複数の足音が聞こえる。
その足音の正体は、どこか木の実を彷彿とさせる異形の怪物。
そして、黒い鎧を纏い、槍を持った忍や足軽のような存在だった。
「シズさんとの約束を果たすためにも……俺は」
そして俺は、手にした『ライダーガシャット』の起動スイッチを入れる。
【マイティアクションX!】
ガシャットが起動し、特殊な空間『ゲームエリア』が展開される。
右手に持ったガシャットを素早く左手前に突き出すと、右に大きく両手を旋回。
そして、自らを変える言葉を叫ぶ。
「……大変身!」
ガシャットを左手に持ち替え、ベルト――『ゲーマドライバー』のスロットに装填する。
【ガッシャット!!】
すると、俺の周囲に無数のキャラクターパネルが浮かび上がる。
素早くベルトのレバーを展開する。
【ガッチャーン! レベルアーップ!】
複数のパネルの中から正面のアイコンを右手で触れると、アイコンに『SELECT!!』の文字が浮かび上がる。
一瞬、三等身のゆるキャラ体型の姿へと変わるが、すぐさま装甲が弾け、別の姿へと変わる。
【マイティジャンプ! マイティキック! マイティマイティアクション! エーックス!】
スポーツウェアを思わせるデザインの全身装甲。
ピンク色の逆立った髪の毛を思わせる派手なデザインの頭部パーツ。
胸の部分には武器のマークや体力ゲージのようなものが描かれた、風変わりな戦士。
その仮面ライダーの名はエグゼイド。
英文字で『EX-AID』と書き、究極の救済という意味を持つ名の仮面ライダーだ。
【ガシャコンブレイカー!】
俺はエグゼイドの専用武器、ガシャコンブレイカーを装備し、左手にはシズさんの剣を抜いて構える。
「セイバーの力だけじゃない……このエグゼイドの力も、他のライダー達の力も!」
俺はガシャコンブレイカーとシズさんの剣を構え直す。
「全部、この手で使いこなしてみせる!シズさん……俺は、いや…俺達は、あなたから受け取った想いを、絶対に無駄にはしない!」
そして俺は新たな決意を胸に地面を蹴り、一気に敵の群れへと飛び込んだ。
斯くして、リムルという名のスライムと、ルインという名の魔神は、一人の女性の姿と想いを受け継ぎ、新たなステージへと踏み入れる。
そして世界は………激動の時代を迎えることになる。
とある乾ききった大地。
日差しは強く、雨は何日も降らず、草木が全く生えていないその場所に、一人の魔物が倒れていた。
するとそこに、仮面を着け、シルクハットを被り、杖を持った男が近づく。
「ふん……お前に、名前と食事をやろう」
「…………あ、貴方は?」
「俺の名はゲルミュッド。俺のことは父と思うがいい。お前の名はゲルド。やがてジュラの大森林を手中に収め、“豚頭魔王(オーク・ディザスター)”となる者だ」
誰もが知らない場所で、事態は確実に、大きく動き始めていた。