「な、なぁ、あのな……俺は」
リムルは、目の前にいる五人のオーガを説得しようと語りかける。
しかし――。
「貴様の言葉など聞く耳も持たん! 全て、その仮面が物語っている!」
「え? この仮面? 待て待て待て、待ってくれ! これはある人の形見で……」
「同胞の無念、その億分の一でも貴様の首で贖ってもらおう! 邪悪なるブタどもの仲間め!!」
「(邪悪なるブタ? ブタって、多分ルインが言ってたオークのことだよな? まさか、俺達勘違いされてるのか!?)」
赤髪のオーガが刀の切っ先をリムルへ向け完全に誤解されている。その事実に、リムルは仮面の下で困った表情を浮かべていた。
すると、隣にいるランガが思念伝達で話しかけてくる。
『どう致しますか?』
『どうって……一旦、ルインに連絡する』
『ルイン様に? しかし、ルイン様は遠くへ出かけられております。思念伝達の範囲外におられますが……』
『お前には黙ってたけど、昨夜、オークに襲われていたオーガのお姫様をルインが助けて保護したみたいでな。多分、あいつらが言ってる「豚野郎」ってのはオークのことだ。おそらく俺達を、そのオークの仲間だと勘違いしてる』
『なんと!? そのようなことが……。ですが、彼らは話を聞く耳を持っておりませんが……』
『出来るだけ話し合いで解決したいが、そうはいかないかもしれないな。まぁ、その時は任せろ。……あーあー、テステス! ルイン、聞こえるかぁ!?』
リムルはルインへ現在の状況を伝えるため、『魂之絆』を通じて脳内会話を試みる。
その頃――。
「す、すごい……数刻くらい走っているのに、全く速度が落ちていない」
「ヒョウガは体力が凄いからな。このままノンストップで町までたどり着ける」
「オーガの姫君。我のことは心配無用だ」
「ヒョウガ、キツイと思ったらすぐに言えよ。二人乗りは初めてなんだから、無理は禁物だぞ?」
「心得ております、我が主よ」
ヒョウガは速度を落とすことなく森を駆け抜ける。
その背に乗りながら、ルインとオーガの姫は会話を続けていた。
姫から故郷についての話を聞き、ルインもまた、この世界について知らなかったことを知っていく。
「(まだまだ俺達は、この世界について知らないことだらけ――)」
『(ルイン、聞こえるかぁ!?)』
「……っ!?」
突如として、脳内にリムルの声が響き渡る。
その声から、何か問題が起きたのだとルインは即座に察した。
「(どうした? 何かあったのか?)」
『(ああ。今、俺の目の前に、お前が昨日言ってたオーガがいる)』
「(オーガの生き残りか!? 数は?)」
『(五人だ。しかも、少しまずい状況……)』
「(五人か……。リムル、その中に赤い肌に赤髪、黒い角が二本あって、目元に血涙のような模様があるオーガはいるか?)」
ルインは昨夜、姫から兄の特徴を聞いていた。その五人の中に、兄がいるのかもしれない。
そんな期待を抱きながら、リムルへ確認する。
『(ちょい待ち…………ああ、いるいる。そいつがどうしたんだ?)』
「(いるのか!? リムル、そのオーガは、俺が今連れてきている姫様のお兄さんだ……)」
『(マジか!? ってことは、目の前にいる奴はオーガの若様ってことか?)』
「(そういうことになる。話し合いに応じてくれそうか?)」
『(厳しいな。なんかシズさんの仮面を見て、魔人だとかオークの仲間だとか言ってきて、全く聞く耳を持ってくれない……!)』
「(戦闘は避けられそうにないか?)」
『(ああ。敵意丸出しだしな。そっちはあとどのくらいで戻れる?)』
「(俺一人ならともかく、今は姫様を運びながら向かってるから、五分以上はかかる……)」
しかし、今は姫と一緒だ。あまり速度を上げれば、姫に負担がかかってしまう可能性がある。そのため、どうしても時間がかかってしまう。
「(とりあえず、姫様には話してすぐに向かう。出来るだけ傷つけないでくれよな)」
『(ああ、もちろんだ。少し強引な止め方にはなるけどな……)』
二人は脳内の回線を切り、会話を終える。
すると、ルインの後ろに乗っていた姫が、不思議そうに彼の顔を見つめた。
「ルインさん、どうかなされましたか?」
「姫様、今……俺の仲間から連絡が来た。五人の生き残ったオーガと遭遇した、と」
「ほ、本当ですか!? そ、その中に、兄は……!」
「いる。君のお兄さんは無事だ」
「お、お兄様……!」
オーガの姫は瞳に涙を浮かべる。兄が生きている…その事実を知った喜びが、表情から伝わってくる。
だが――事態は、そう簡単なものではなかった。
「しかし、少しまずい状況だ。向こうは今、戦闘になっているかもしれない……」
「え? ど、どうして?」
「どうやら、姫様達を襲撃したオークの仲間だと思われているらしい。話し合いに応じる気配もないそうだ」
「そ、そんな……」
姫は、まさかそんな事態になっているとは思ってもみなかったのだろう。
顔色が悪くなる。
「姫様、少し急ぐが……構わないか?」
「構いません! お兄様達を急いで止めないと! ルインさんの仲間が……!」
「大丈夫だ。俺の仲間は、そう簡単にはやられはしないさ」
ルインは安心させるように言葉を続ける。
「俺は……リムル達を信じるだけだ」
そう言うと、ルインは『仮面之王者』の力を使う。
腰にベルトが出現すると――その直後、空から紅いカブトムシが飛来してきた。
「姫様、少し驚くかもしれないが、しっかりヒョウガにつかまっていてくれ」
「は、はい!」
オーガの姫がルインの身体から手を離し、ヒョウガにしっかりとつかまったことを確認する。
それを見届けたルインは、飛び回るカブトゼクターを掴み取るように手に取った。
「変身!」
【HENSHIN】
カブトゼクターをベルトへ装填したのと同時にゼクターホーンを倒してバックルを展開させる。
「キャストオフ!」
【CASTOFF】
だが、今回はマスクドフォームへ移行することはない。カブトゼクターの起動と同時に、真紅の装甲が一瞬でルインの身体を包み込んでいく。
【CHANGEBEETLE】
変身を終えたルインは、紅い装甲を纏った戦士――仮面ライダーカブトとなっていた。
「これなら、もう少し速度を上げられる」
ルインはヒョウガの背から落ちないよう、姫の身体を確認する。
「姫様、もう一度聞く。大丈夫か?」
「は、はい! 大丈夫です!」
「よし……行くぞ!」
ルインはヒョウガへ指示を出す。
「ヒョウガ、全速力だ!」
「承知!」
ヒョウガが大地を蹴る。その瞬間、先ほどまでとは比較にならない速度で森を駆け抜けていく。
風圧が二人を襲うが、カブトへと変身したルインが姫の身体を支えることで、その負担を可能な限り抑えていく。
「お兄様……!」
姫はルインの身体にしっかりとつかまりながら、祈るように呟いた。
「どうか……無事でいてください……!」
「大丈夫だ」
ルインは前方を見据える。
「必ず、間に合わせる」
そして――。
リムル達の元へ向けて、二人を乗せたヒョウガはさらに速度を上げていった。