本作の主人公。本編の牢屋敷脱出から数ヶ月経過している。
エマとよく会うようになったからなのか、魔女因子が無くなったからなのか、性格が本編より丸くなっている。
「二階堂ヒロ、それならその牢屋敷から来たという証拠が欲しいわ。」
ナノカが私の方を睨んだ。
私を黒幕だと疑っているのだろう。
「わかった。それなら君の魔法について答えよう。」
「すまない、少し耳を貸してくれ。後で少女たちに伝えるが不確かな情報を伝えるのは正しくないからな。」
「ナノカの魔法は【幻視】。
相手に触れた人や物の過去を見ることができる。
長く触れ合っていれば未来を見ることもできる。
君の銃はかつて囚われた人が魔法で制作して隠していたのを視て回収した。
装填数は6発で1日1発自動装填される...これで合っているか?」
ナノカは驚いていたがすぐに顔を戻した。
「ええ、十分よ。」
マーゴやココも怪しんでいたようなので魔法を答えた。
どうやら相違点はないようだった。
────
自由時間が終わり、私たちは監房へと戻る。
監房の中で今までとの相違点を考えていた。
この牢屋敷では【魔女】という言葉が全て【マゾ】に置き換えられている。これが一番わかりやすい変化だ。
そして死を連想させるものは尽く鞭だったり尊厳だったりに変換されている。
この牢屋敷では死ぬこともできない。つまり、私の【死に戻り】も発動することはない...。
牢屋敷内も心なしかまだ過ごしやすい環境になっているようだ。どことなくベッドのマッドレスが柔らかいし毛布もマシになっている。
それ以外の変化は現時点では無い....魔法も、衣服も、ゴクチョーも、おそらく機関側の立場も変化がない。
ただ1つ、気がかりなのが....
(なぜゴクチョーは魔女因子を知らないか.....だな)
私のポケットには万年筆、もといユキの依代がある。ということは少なくとも【私の学校に月代ユキが存在した】。そしてそこから辿ると【魔女】も存在した可能性が出てくる。
魔女=マゾになってるならユキも【マゾ】という存在に塗り替えられてる可能性は否めないが....。
「ねぇ、ヒロちゃん......」
私はエマの声を聞き考えるのを後回しにした。
「なんだ、エマ。」
「あのね、ヒロちゃんが過ごした所は難しくてよく分からないけど...」
でも、とエマが続ける
「前みたいに仲良く過ごしたり....ってできるかな?」
「........残念だけど、それは難しい。」
「うぅ.....」
エマが悲しそうな声を上げる。
「私の禁忌は【自殺】....そして【桜羽エマ】、君なんだ。」
「君を見てると....なんというか、その、正しくない感情が出てしまう。」
「だから....少し離れてもらえると、助かる。私とエマ、お互いのために。」
悲しいのは私だってそうだ。
エマともっと楽しい思い出を作りたい。
エマともっと遊びたい。
今までの事なんて笑い飛ばせるくらい、いい思い出で塗り替えていきたい。
...それは私の独りよがりじゃないのか。
いや違う、エマもきっとそう思っている。
「そっか....わかったよ。」
エマは自信のなさそうな声でそう呟く。
ああエマ、君はどうしてそんなに情けない声で言うのか。
もっと君を....まただ、やはり私はエマのことを考えないほうがいいようだ。
やがて監房の扉が開き、私たちは食堂へと向かった。
────
食堂には意外な物が出ていた。
普通のサラダ、普通の白米、普通の味噌汁....
普通と言っているが、あの牢屋敷のご飯と比べればどれも絶品に見えるほどだ。
私はほどほどの量を乗せ、少女たちから離れた場所で食べることにした。
「いただきます。」
すごく美味しい、と言うほどではないが、あの牢屋敷のご飯と比べればどれも美味しいものだ。
「うめぇ!うめぇですわっ!!」
ハンナが遠くで泣きながらご飯を食べている。
ハンナの過去を思い浮かべると....仕方がないとも思える。
「ハンナ、ご飯を口に入れすぎないこと。一気に食べるのは正しくない。」
「分かっていますわ!」
(はぁ....みんな世話が焼けるな)
そんな事をしているうちに、やはりレイアとナノカが私の側に来た。
「隣、いいかい?」
「別に構わない、君とは話が通じそうだ。」
「私もここで食べさせてもらう、いい?」
「ああ、いいぞ」
しかし私が想定していない、意外な人物も座ってきた。
「お、おじさんもここで食べていい...かな?」
「.....??ああ、いいぞ。」
佐伯ミリア。
彼女は私の知っている牢屋敷ではココとマーゴと同席だったはず...
「それにしても、このような環境でもご飯は意外としっかりしているんだね。」
「私としてはもっと上品な味付けの方が良かったが....。」
「庶民の味を確かめられるいい機会だと思えばいい。それにそんな発言は作ってもらった人に失礼だ。」
「ああ、そうだよね、すまない。」
「お、おじさんはとても美味しいと思うよ!うん!」
「ところでヒロくん、キミはこの牢屋敷についてどう思う?」
「どうにか脱出する方法はないものだろうか。」
「ヒロくんはここではない牢屋敷の記憶があるだろう、何か知らないかい?」
「心当たりが無いと言ったら嘘になるな...ただ今明かしてしまうとみんなに期待を持たせてしまう。だから現時点では言えないな。」
「そうかい、わかったよ。」
「あ、あと──」
食事中の私語は慎むようにしている、か。
過去の私は正しい、正しくないを常日頃心がけてきた。実際今もそうだ。
しかし、それを少し緩めてみるのも....ありかもしれない。
「いや、なんでもない」
「あぁ〜!そうだ!忘れてたことがあった!」
ミリアが慌てたように私に近づく。
「これ、みんながいない場所で読んでほしいな。【エマちゃん】にも、誰にも伝えないでくれる?」
ミリアは紙を渡して早々食堂から離れていった。
(みんながいない場所...1つ、いや2つ思い浮かぶ場所がある。)
「これがわたくしの魔法ですわあぁぁっ!」
ハンナが叫びながら10cmだけ浮かぶ。
(ハンナの魔法は【浮遊】、相違点はなし、と。)
「魔法お披露目会ですね!ではでは私ももっとやっちゃいます!」
「ああシェリー、リンゴを使うならエマのじゃなくて奥の腐っているリンゴを使ってくれないか?」
「わかりました〜!というか、ヒロさんネタバレしちゃってません?」
「そうかもしれないな。」
シェリーはバケットに入っているリンゴを握りつぶした。
「なんとなんと、シェリーちゃんの魔法は【怪力】なのでした!」
「みなさんの魔法もぜひ見せてください〜!」
その呼びかけに誰も反応をしなかった。
(だが、ここでは傷害事件は起きても殺人事件は起きない。)
(なら、ここで魔法を話してもいいのかもしれない。)
エマの優しさが感染ってしまったのだろう。私は席から立ち、こう宣言した。
「私の魔法は【死に戻り】。死ぬとその日の朝、目覚めた時間に巻き戻るといったものだ。」
「だけどここでは死ぬことはできない。なれはててしまったら魔法も発動できない。」
「すまないが、私はここではあまり頼りにならなそうだ。」
「そ、そんなこと、ありません!」
メルルが珍しく声をあげる。
「ヒ、ヒロさんは魔法がなくても、リーダーシップを取れます!!」
「なので、頼りにならないなんて、言わないでください!!」
あまりここで対抗しても意味はないか。
「...確かにそうだな、メルル、ありがとう。」
「そう言ってもらえて、嬉しいです。」
「ごちそうさま。」
私はその足でビュッフェカウンターへと向かい、お皿に盛り付けていく。
レイアにノアの分のご飯を届けに行くことを伝え、私はノアのいる監房へ向かう。
────
「やっぱり....こうなっているか」
ノアとアンアンの監房は全面が赤のスプレーで塗りつぶされていた。
「ノア、部屋の全面を塗りつぶすのは正しくない。通路まで匂いが充満しているぞ。」
「誰かが匂いを嗅いで倒れたらそうするんだ?」
「うーん....そうなんだぁ。気づかなかったなぁ。」
ノアは【液体操作】の魔法を使い、赤のスプレーを戻した。
(ノアの魔法も相違点はないか)
「ほら、綺麗になったよ〜!これでいいかな?」
「ああ、それでいい」
「じゃあ、次の絵を描こうっと」
ノアはお絵描きを制限しても耐えきれなくなってまた同じようなことをするだろう。
制限を前より緩める必要がある。
「いや待て、ここでお絵描きは禁止だ。」
「えー....そんなの無理だよ?だってのあ、お絵描きしないと生きていけないもん。」
「そうか....ならお絵描きする時のルールを作らないといけないな。」
「るーる?」
私はピンと人差し指を指した。
「ああ、例えば....壁の一面だけにお絵描きをする、とか」
「匂いがあまりしないスプレーを使う、とか」
「この2つのルールは守れそうか?」
ノアは少し考えて答えを出した。
「それなら、お絵描き禁止より守れそう!」
「匂いがあまりしない色は青色だったかな....?」
「でも自由にお絵描き、したいなぁ〜」
「なら私が君の為に自由にお絵描きできる場所を探す。これでいいか?」
「うん!いいよ〜!」
(どうやら納得してくれたようだ)
「あ、あとこれを持ってきた。」
ご飯を見た瞬間、ノアがさらに笑顔になった。
「わぁ、ごはんだ!そう言えばお腹空いてた!」
「ありがとう、ええっと....」
「ヒロ、私の名前は二階堂ヒロ、ヒロでも二階堂でもどう呼んでくれて構わない。」
(と言っても、ノアはヒロちゃんって呼ぶだろうが)
「ありがとう、ヒロちゃん!」
「次はちゃんと食事の時間に来ること、嫌がっていても無理に連れ出す。」
用事を終えて私は【みんながいない場所】へと向かう。
作者です。
更新ペースは1週間に1話のペースにします。
出来上がってすぐに投稿だとモチベなくなった時に大変ですからね!(あと色々間違っている可能性もありますし......)
書き溜めの方が完成して文章も違和感がなくなったら3日に1話か毎日投稿に変える予定です。
気長にお待ちください。