ミリアの様子がおかしい....といえばあの時もそうだった。
「ミリア、そういえば今日の連絡先交換の時にあの禁忌はでなかったのか?」
「あの禁忌.....っておじさんがいじめられてた事だよね?」
「なんでかわからないんだけど、その時は大丈夫だったんだ。....禁忌を克服した.....とかはないよね。
見たところヒロちゃん、エマちゃんのこと避けてるし。」
「ああ、どうやら禁忌を自覚していてもマゾ化には抗えないようだ。」
「マゾ化.....」
聞くたびに酷い改変だ。
【魔女化】も【マゾ化】もどちらも正しくないことがわかっても、マゾ化の方が言葉的にどうかしていると思ってしまう。
「.....おじさんの禁忌ってどうなったんだろうね?」
「1つ考えられるのはミリアの魔法だ。」
「サバトの儀式の時に私たちの記憶の入れ替わりが起きた。
あの入れ替わりは強化された君の魔法に関係がある。」
「そうだとすると、君の魔法が強化されて【誰かの記憶と入れ替わった】....とかは考えられないだろうか。」
ミリアは驚いて自分の手を見る。
「えぇ!?で、でもおじさんの指先、黒くなってないよ!?ほら!」
そういってミリアは私に指先を見せた。
確かに黒くなっていないが....。
「だがこの牢屋敷、【魔女】という言葉が全て【マゾ】に置き換わっているんだ。」
「マゾ化が進んでも指先が変化しない可能性も考えられる。」
「そ、そっか.....」
「それに君は、あの【先生】の事を覚えているか?」
「お、覚えているよ!絶対に忘れない!」
「それならこの線は薄いか.....。」
それからはミリアとあーでもない、こーでもないと話していた。
途中ミリアの魔法がどこまで使えるのか試した。
従来の人と人との入れ替わりは行うことができた。
本の内容全てを入れ替えるのは可能だが、一部分だけ切り取って入れ替えるのは不可能。
物と物の場所の入れ替えは不可能。ただし花瓶を入れ替えようとすると、花のみが入れ替わる。
「細かい入れ替わりはできなくて、内容物のある入れ替わりはできるのか......」
ますますミリアの魔法の謎が深まった。
ミリアの牢屋敷の記憶も尋ねたが、私と同じように1週目、2週目、3周目とその後の記憶を持つらしい。
私とミリアの過ごしてきた牢屋敷も同じことがわかった。
(この牢屋敷は一体どうなっているんだ....?)
ミリアの謎も、私の謎も、牢屋敷の謎も、深まっていくばかりだった。
────
朝の自由時間のあと。
私は監房でマゾ図鑑を見ていた。
少女たちの顔や囚人番号を確認したかったからだ。
(最初に見たときは規則しか見ていなかった....そこまで重要視していなかったからな)
スマホをスクロールさせ、変化がないことを確認する。
(....ん?)
スクロールさせる手を止めた。
画面に映っているのは氷上メルル.....そして。
(囚人番号.......【671番】................!?)
私は全体の囚人番号をもう一度確認する。
変化があったのはメルルのみだった。
(何故................!??)
「ヒロちゃん.....どうしたの?」
動揺しているのを察知したのかエマが私のスマホを覗き込もうとする。
「エマ、聞いてくれ。もしかしたらこの牢屋敷に【隠れた14人目の少女】がいるかもしれない。」
「えぇ!?なんで!?どこに!?」
「あまり騒ぐな.....あくまでただの可能性だ。」
(しかし可能性にしてはあまりにも【出来過ぎている】)
「これを見てくれ」
私はスマホをエマに向ける。
「沢渡ココ、囚人番号669番。本来なら次の氷上メルルは囚人番号670番になる所だが.....」
「あ、囚人番号が1つズレてるね。」
「そうだ。メルルの囚人番号は本来であれば【670番】....私がいた牢屋敷でもそうだった。」
「だがこの牢屋敷では......メルルの囚人番号が【671番】になっている。」
(ミリアの魔法に比べたら些細な違いだ。だが警戒しない理由もないだろう。)
「これは一体......どういうことなんだ?」
咄嗟に【隠れた14人目の少女】と言ってしまったが、その気配や足跡はまだ見つけられていない。
囚人番号670番は一体誰なのか。考えても解決しそうになかったので私はエマをどかした。
....エマが近すぎてマゾ化に飲まれそうだったという理由もある。
〜〜〜〜
<メルル視点>
「はぁ、はぁ、はぁ.....」
どうして.....どうしてなのでしょう........?
私はスマホを取り出してみなさんと連絡先を交換しようとしました。
しかし、どうしてなのでしょう....本能的に拒絶を示すような.......体の反応があったのです。
それに目の前のエマさんを汚したくて、穢したくて仕方なくなってしまいました。
(この症状は.....マゾ化の......?)
(でも........私にそういった禁忌はないはず.......)
なので私は急いで食堂から離れました。
連絡先はあとで交換すれば大丈夫でしょう。
(ここは.....医務室ですね)
私は【いつものように】医療機材の準備を始めました。
....そこに。
「やっほ♪やっぱりここにいたんだね、氷上メルル。」
銀髪のオッドアイの少女が現れました。
「ひゃ.......!?だ、誰でしょうか!??」
「私?私はね.......」
〜〜〜〜
<ヒロ視点>
監房のロックが開く音で私は目覚めた。
どうやらいつの間にか寝ていたようだ。
私はベッドから体を起こし、監房から出る。
────
「ヒロちゃん、遅い。」
「いやいや、ロックが開いてすぐに出たぞ.....」
「それでも、遅い。」
(遅かったのか......)
そして私たちは、ノアのお絵描きできる場所を探した。
────
医務室に行くとメルルとアンアンがいた。
「アンアンは相変わらず貧血か?」
相変わらず、という言葉に反応したのか、アンアンがすこしムスッとした顔をする。
『お前にわがはいの何がわかる』
「一度牢屋敷で過ごしているからな、よく貧血になることくらいわかる。」
『なら話しかけるな。わがはいの性格を知っているだろう。』
「知っているからこそ、心配して話しかけている。」
アンアンはさらにムスッとした。
そこへ。
「アンアンちゃん、大丈夫?」
『ノアもわがはいに構うな、話しかけるな。』
「ねえねえ、そのスケッチブックにお絵描きしたいな」
『これはわがはいのものだ。勝手なことは許さない』
「でもお絵描きしたら楽しいんだよ?」
『わがはいは楽しくない』
ノアがアンアンに絡んでいるのを横目に、私はメルルに話しかけた。
「メルル。」
「ふぇ!?ヒ、ヒロさん?何か用ですか!?」
「とても取り乱しているな.....何かあったのか?」
「い、いいえ!何もありません!!.....アンアンさんが、貧血で倒れたこと、以外、は......」
様子がおかしい.....すこし問い詰めているのもありかもしれない。
「そうか、なら【君の囚人番号が1つズレていること】について聞いたいんだが。」
「えっ!?そ、それは......」
「私にも、わからないです。」
メルルは真剣な目で、しかし涙が出そうになっている目で私を見る。おそらく本当のことを言っているだろう。
メルルが知らないとなると、誰が、何のためにこんな事をしているのか分からなくなってくる。
「あれ、あれれ?のあ、アンアンちゃんと遊ぼうとしたのに、勝手に体が.....なんで.......?」
ノアはアンアンから少しずつ離れていく。
『わがはいの魔法は軽度の【洗脳】。相手を納得させられたら命令を従わせることができるものだ。』
(アンアンの魔法も相違点はないみたいだ)
「なるほど〜、だからのあ、アンアンちゃんからはなれていってるんだね!」
「もっと遊びたかったけど今は無理みたい。のあは出ていかないといけないし、じゃあねえ〜」
私はメルルに別れを告げ、ノアを追いかける。
〜〜~~
<メルル視点>
少し時間が戻って。
「名前を言わないと思い出せないなんて薄情なひとだなぁ......」
「それに君だって、なんで生き残ってるの?やっぱり黒幕だったりする?」
「実は、私たちを苦しめる為にここに閉じ込めた!とか」
「.......当たり、です........」
「バレちゃいましたね.......バレちゃったなら仕方ありません.......あなたをここで.......」
「あー待って待って、私別にそういうのどうでもいいから」
どうでもいい、とはどういうことでしょうか?
「どうでもいいっていうか、私他の子たちと会わないようにしてるから。」
「私は他の子に会っても話さない、だから口封じの為に私を永遠に痛めつけない。これでいい?」
「そ、そんなの、おかしいです。あなたが話さないっていう根拠が......」
「ま、そうだよね......ちょっと話そうか。」
私たちは医務室のイスに座りました。
「私ね、妹がいるんだ。その妹がもうすっっっごく可愛くって可愛くって!」
「だからあの子がこの牢獄に閉じ込められるって聞いたとき、なんとかしなきゃって思ったの。」
「それで妹の変わりにここに入ったんだ.....【魔法】を使って。」
「あなたの魔法.....って。」
「........【変身】。」
人物解説:佐伯ミリア
ギャル風の装いをした少女。二階堂ヒロと同じく【別世界の牢屋敷の記憶】を持っている。
また魔法も【人物同士の入れ替わり】の他に【大まかな物の入れ替わり】もできるようだ。