「【変身】.....だから妹の姿になってここに来たんだ。」
「......そんな可愛い可愛い妹を置いて死んだり、情けない姿を見せるなんて、嫌なんだよね。」
それは、その子から出た本音。
メルルにも家族がいた.....そしてメルルはまだその家族に会えていない。
メルルのことをすごく、すごく愛していた。でも、その家族はメルルを置いて人間界へ潜んでしまった。メルルは認めたくないだろうが、それは【置いていかれた】ととらえることもできてしまう。
メルルはそう考えたのか。
「.......わかりました。私はあなたのことを痛めつけたりしません。」
「ただし、私が【黒幕】?ということを他の囚人達に言わないでください。」
「わかったよ、ありがとう。」
「じゃ、私は隠れてるから〜♪」
そういってその子は牢屋敷の外へ行ってしまいました。
...本当に良かったのでしょうか。
良いのですよ、メルル。
【大魔女様】が良いと言うなら。
〜〜〜〜
<ヒロ視点>
私たちは正面玄関を出て、とある場所を目指していた。
【水精の間】.....過去の私もそこへ向かったはずだ。
牢屋敷は高台になっており、ノアはその景色に感動しているようだ。
「たかーい!たくさんお絵描きできるね〜」
「.....そうだな。」
私はナノカが草むらから現れたことを確認し、ナノカが手を伸ばした事を見計らって回避した。
「くっ!」
ナノカは体勢を崩しその場に転がる。
「魔法がバレているのにその手が使えると思ったか?」
ナノカは悔しそうに起き上がり、片膝をつきながら話し出す。
「....もしかしたら、と思ってやってみたのだけど、やっぱり無理だったわ。」
「ワンチャンに賭けようとするんじゃない...ほら。」
私は手を伸ばした。
「二階堂ヒロ、何を......」
「私の記憶が見たいのだろう?というか、耳打ちの時に触れていなかったのか?」
「そこまで考えが回らなかったわ.....私もマゾ化が進んでいるようね。」
(正しくない感情をもつ......そういった感情のせいで冷静に考えることが難しくなったのか)
ナノカは立ち上がり私の手に触れる。
「なら視させてもらうわ......あなたの過去を.......」
その直後、ナノカは目を見開く。
「えっ.......なぜ!?」
「どうしたんだ。」
「あなたの過去が......【視えない】........!」
「こんな事、今までになかった.......!!!あなた、空っぽの人間なの!?」
「人に対して空っぽだなんて失礼だな。それに、一回触れただけじゃ視えなかったんだろう?私たちは会って間もない。」
(いや違う......これは明らかに視えないように細工がされている........)
ナノカはもう一度私に触れたが何も視えなかったようだ。腕にも足にも触れたが何も視えないようだ。
「ナノカ......もう私に触れるのはやめてくれないか......?.........くすぐったい。」
「....ごめんなさい、つい興奮してしまって。」
「君の幻視....それで牢屋敷の過去や黒幕について何か知れたか?」
「ええ、知れたわ....牢屋敷の過去はあなたの言う通り、【魔女】が暮らしていたそうよ。」
「魔女.......こうなるとマゾとは一体なんなのか分からなくなってくるな。」
「黒幕についてだけど......私のビジョンでは何も視れなかったわ。ごめんなさい。」
「少女の体を乗っ取ったおじさんのビジョンは視えなかったのか?」
「.....ええ、あなたの知る私はそう言っていたのかしら。」
(ナノカは疑り深い性格だが、私が他の牢屋敷を知っている以上信じざるを得ないということだろう)
「こんなおかしい牢屋敷......どうせ、みんな、なれはてになるもの.......」
ノアが私の服を引っ張る。
「ねえねえヒロちゃん。あそこに見える家、早くいきたいなぁ〜」
「そうだな...少し行ってみようか。」
ナノカは私に背を向け、ポツリと一言。
「お姉ちゃん、きっといるんでしょ?」
〜〜〜〜
私たちは目的のログハウスへとたどり着いた。
ログハウス風の建物が3棟並んでいる。
(【水精の間】......もう立ち寄りたくないと思っていたが、ここを探索しないと秘密を探れない)
エマのあの姿がフラッシュバックするからだ。
(ここでは死人は出ないんだ、落ち着け........)
「ヒロちゃん!中には行ってみようよ!」
「...そうだな、開いていれば見ておきたい。」
扉が開いたので、私たちは水精の間の中へと入っていった。
どうやら中には誰もいないようだった。
(そうか.....この世界は私が生き残った1周目の世界、ココもこの地下がどうなっているか知らないのか)
私は慣れた手つきで床の隙間を持ち上げ、隠し階段を出す。
ゴクチョーの置物で遊んでいたノアはそれを見て驚く。
「えっ?ヒロちゃん、なんでわかったの?」
「記憶通りだったからだ。行くぞ。」
私たちは隠し階段を降りていく。
────
階段を降りると中二階になっており、巨大なエレベーターホールへと繋がった。
「おお〜〜、でかーい!」
「ねね、ここでお絵描きしていい?」
「そうだな.....ここなら誰も来ることはないだろうし......」
「エレベーターに乗らないと約束してくれたら描いてもいいだろう。」
「ありがとうヒロちゃん、えへへ〜」
ノアが興味を示すようにエレベーターの方を見る。
「このエレベーターの先ってどうなっているのかな?」
「ああ、すごく寒い所だ。今は行かないほうがいいだろう....」
私たちはそう約束し、水精の間から離れた。
────
私たちは【まだ名前のつけられていない部屋】に立っていた。
やはりここには扉がなかった。
ノアはカラースプレーを使い、扉を描く。
扉が開き、中にはキャンバスや床に散らばったたくさんのスケッチ。
テーブルの上にはパレットや筆があり、所々に絵の具が散らばっていた、
ノアは嬉しそうに走り回った。
やがて他の少女たちが部屋の存在に気づいた後、
ノアはこの部屋の名前を決めた。
ノアのアトリエ......そう名付けられた。
────
図書室へ行ってみると読書スペースにエマ、ハンナ、シェリーがいた。
ノアは桜の木を見てお絵描きの構想を練り出したので私はエマたちに近寄る。
「何をしている。」
「出ましたわね、風紀委員......」
「いや風紀委員ではないが?」
「毎日私たちの部屋の見回りをしておいて風紀委員じゃなくて何だって言うのですの.....」
まあ、その通りだ。しかし死人が出ないとはいえ、私とミリア以外は【来たことのない場所】。
念には念を入れたほうが良いだろう。
「ああヒロさん!今日は私たち、図書室の本を色々調べてまわっているんです!」
「うん、何かこの牢屋敷のこと、もっとわかるんじゃないかと思って。」
「でも読めない本ばっかりで、困ったねって話してたところだよ。」
「法則さえ掴めば何となく解読できる気はするんですけどねぇ〜」
「そうか......」
私はそう言って本を手にとって読んでみる。
「おそらく【フィクスマージ語】だろう。」
「ええ!ヒロさん読めるんですか?」
「少しだけだが翻訳はできる。」
私は最後の裁判が終わってから、2週目で唯一翻訳を手伝っていないという理由でマーゴにこの言語の翻訳方法を教えてもらった。
日本語と英語が混ざっているという...法則さえ掴めればとても単純なものだ。
それにしても...
(魔女が全てマゾに置き換わっているのにここは変わっていないのか......)
「それなら、これを見てください!」
シェリーは机の上の分厚い本を指さした。
「この本は......魔女と魔法のことが書かれている.......」
「よくわかりましたね!そうなんですよ〜!」
私は開かれていたページを見る。
「絵の内容自体は私の知っている牢屋敷にあったものと同じだ。」
「これは【サバト】の絵だろう。13人の魔女と【儀礼剣】を掲げることで【大魔女】を召喚できる。」
「わたくし、魔女になりたくありませんわ......」
シェリーがぽんと手を打つ。
「お〜!つまり私たちもこれと同じことをすれば...!」
「あ、でもヒロさんが言うにはこれは【大魔女】を召喚する儀式ですよね?私たちは【大マゾ】の方じゃないと駄目かもしれません!」
「いや、そうとも限らないかもしれないぞ。」
私は本の右上の文章を指さす。
「私のいた牢屋敷にはこの部分に文字はなかった...ここを解読することでもしかしたら【大マゾ】に繋がる情報が手に入るかもな。」
「おお!ヒロさんやりますね〜!」
私はその本を回収して、
「この本を翻訳したいからしばらく私が持っていくぞ。」
「ヒロちゃん、解読ならみんなでやったほうが早く終わると思うよ!」
「いや、これは【私にしか】わからない。この牢屋敷の本と私の居た牢屋敷の本、もしかしたら内容が変わっているかもしれない。」
(私にしか......ではなく私とミリアにしか分からない、が正しいが)
私は本の貸出表にメモを取り、ノアの方へと歩いていく。
「ノア、木に色を塗るのは正しくない。図書室は静かにするべきだ。」
「えーダメかなー?絶対綺麗になるのに......」
「ほら行くぞノア、お絵描き場所はさっき見つけただろう?」
私は半ばノアを引きずるようにして図書室を後にした。
────
私は一度監房に戻り、儀式の本を置いた。
そしてノアと共に懲罰房へと来た。
私は覗き窓から中を覗いてみる。
すると......
(なんだ、この悪趣味な部屋は......!?)
部屋がピンク色に包まれており、ナイフ等の凶器はもちろんの事。
拷問するための道具が私のいた牢屋敷より多くなっていた。
ノアは私の隣に並んで中をのぞいた。
(拷問道具が増えているのはマゾだから...と納得するしかないようだ。ただ部屋がピンク色になっているのはなぜ......?)
「お〜、すっごいピンク色だね!」
「あれとあれとあれを積み重ねてオブジェにしたら楽しそう〜」
「...そうか?」
ノアが扉を開けようとするも、南京錠に鍵がかかっていて開かない。
「むー、中に入れないんだよ?ここじゃお絵描きできないね。」
「そのようだな...ちょっと待ってくれ、アリサはどこにいる?」
私たちはアリサを探して、一番奥の部屋で見つけた。
「アリサ、君は何をした?.......まさか、脱獄を図ったわけじゃないだろうな?」
「んだよてめぇら説教しにきたのか......見てんじゃねぇよ!早く消えろ!」
まだ拘束されていて話も通じなさそうだった。
「......何じっと見てんだよ」
「君の魔法を知りたい。言わないなら私から言う。」
「チッ......仕方ねぇ。」
「うちの魔法は【発火】......手から炎を放つことができる。」
アリサは指先にぽっと炎を点してみせた。
「わぁ〜、きれい!!」
「き、綺麗なもんかよ!」
「えーすっごくきれいだよ?アリサちゃんってすごいねぇ!」
「おめえ調子狂うな......」
「私たちはもう行く。」
「勝手にしろ....」
私たちは懲罰房を後にした。
────
監獄生活4週目、2日目
今日に至るまで、この監獄に囚われた少女たちの魔法の情報を得ることができた。
黒部ナノカが【幻視】
宝生マーゴが【モノマネ】
沢渡ココが【千里眼】
遠野ハンナが【浮遊】
橘シェリーが【怪力】
城ケ崎ノアが【液体操作】
氷上メルルが【治療】
夏目アンアンが【洗脳】
紫藤アリサが【発火】
佐伯ミリアが【入れ替わり】
レイアにチャットで連絡を送ったところ、やはり【視線誘導】の魔法を持っていたことがわかった。
エマはおそらく......【魔女殺し】
業務連絡として少女たちに全て共有した。もちろんエマの魔法は隠した。
彼女がショックを受けるところをもう見たくないからだ。それにエマの魔法を報告した所でエマに疑いがかかる可能性しか残されていない。
ミリアの魔法が人間以外にも使用できることが判明した。
しかしその理由は不明のままだ。
一体黒幕は......私とミリアをここにつれてきた者は何がしたいのだろうか。
やはり【大マゾ】の召喚なのだろうか?
─────