入学してから1週間が経過した。今日までに色々なことがあった。部活動の説明会や水泳の授業があったりした。
それに授業態度にも変化があったりする。遅刻と授業中の私語が増えた。先生はそれを把握しているはずなのにスルーしている、風に見せかけているんだ。見逃すはずがない。気付いているのは龍園君と椎名さんだけだろう。
そんな日々が過ぎていく。今日もいつも通り帰ろうとした時、ふと思い出した。1週間以上が経過している。そろそろ龍園君が動き出すんじゃないか。
その直感は的中する。
「お前ら、少し待て」
龍園君の声が教壇から聞こえた。全員を見渡した後、龍園君は不敵な笑みを浮かべながら宣言する。
「今日から俺がこのクラスの王になる」
殆どのクラスメイトが龍園君を睨み付けた。
自己紹介でも言っていたけど、本当にCクラスの王になるつもりなんだ。
「異論があるなら聞いてやるよ」
「王だと? ふざけんな! 俺は誰の下に就く気ははねえ!」
異論を唱えたのは石崎大地君。それに続くかのように複数の不良達が龍園君の下に就く気はないと言ってきた。それを聞いてもなお、龍園君は笑みを浮かべている。最初から想定していたんだ。
「なら、お得意の暴力でやってみるか。それで俺が王であることを証明してやる」
「やってやるよ!」
「だがここでやるつもりはねえ。舞台ならある、残った奴はやろうぜ」
龍園君はそう言うと一度だけ力強く足を床へ下ろした。
「俺が王であることを認める奴はそのまま帰っても構わねえ。だが明日から俺が王であることを忘れるな」
龍園君が王になるかはまだ誰にも分からない。しかし暴力を振るわれたくないクラスメイト達、特に女子達は青髪が特徴的な伊吹澪さんと椎名ちゃんを除いて教室を後にした。俺は、残るつもりだ。
「藤丸さん、残るつもりですか?」
椎名ちゃんが俺の席までやってきた。心配そうに俺のことを見つめている。
「うん。ちゃんと見たいんだ、龍園君のやり方。でも椎名ちゃんまで残る必要は無いよ。なにされるか分からないし」
「……私は龍園君が王になることに抵抗はありません。ですが、藤丸さんに何かあったら……」
「大丈夫だよ、椎名ちゃん。なんとかなる気がするし、龍園君も不用意に傷付けることはしないんじゃないかな」
「藤丸さん。……私、寮で待ってます。怪我の心配もありますので、色々と買ってきますね」
「ありがとう」
椎名ちゃんは教室を後にした。残ったのは石崎大地君含める不良達と伊吹さん。体格の良い山田アルベルト君。そして俺だった。残った俺達を龍園君は見渡す。
「それじゃあ行こうぜ。特別棟に案内してやるよ」
みんなで特別棟までやってきた。龍園君は早速行動に移す。
「ここには監視カメラがねえ。だから思う存分暴れることが出来るぜ?」
龍園君は前に出る。伊吹さんと山田君を除いた石崎君達は今にも飛び掛かりそうな雰囲気があった。
「さあ、やろうぜ。掛かって来いよ!」
龍園君の発言で喧嘩は始まった。
最初に飛び出してきたのは石崎君だった。石崎君は拳を握り締めて龍園君に殴り掛かる。だが龍園君はそれを避けてカウンターする。石崎君の腹を殴った。
俺は初めてフィクションじゃない現実の喧嘩、誰かが殴られるのを目にした。
「っ」
拳を握り締める。
龍園君と石崎君は殴り合う。龍園君の方が拳を当てる回数が多く、石崎君は拳を避け切れなかった。だけど——。
「おらぁ!」
石崎君の拳が龍園君の顔に当たった。石崎君は口角を上げる。それでも龍園君は笑みを浮かべた。まるで石崎君の攻撃に喜んでいるみたいだった。そして石崎君の顔を殴った。
石崎君は倒れる。意識こそあったけど立ち上がることはなかった。
「次は誰がやる? 来いよ」
次は石崎君が率いていた不良達が複数人で龍園君と喧嘩した。俺は倒れている石崎が喧嘩に巻き込まれないか心配だった。
「Are you worried about him?」
声が聞こえた。その方向を向けば山田君が俺を見ている。確かに心配だったから俺はYesと答えた。すると山田君は喧嘩している龍園君達とよそに、石崎君をここまで引っ張って来てくれた。
「Is this okay?」
山田君に俺は『ありがとう』と英語で返した。不意に視線を感じると倒れている石崎君が俺を見ていた。
「……なんで、俺をここまで引っ張ったんだ?」
「心配だったから、かな」
「……そうか。俺、龍園さんに付いて行くっす。龍園さんが見ている未来を、見たいんだ」
石崎君は龍園君に魅せられていた。完全に舎弟である。
石崎君と話し終わると龍園君と不良達と喧嘩は終わっていた。龍園君の表情は不満足らしいと表れていた。
「骨のねえ奴らだ。残ったのはお前らだけだぜ」
「私がやる」
伊吹さんが名乗りを上げた。俺はちょっとだけ龍園君と伊吹さんに提案する。
「ここだと倒れているクラスメイト巻き込むからさ、少し奥に進まない?」
「そうね。アンタもそれで良いでしょ」
「良いぜ」
俺達は特別棟を少し進んだ。
今度は伊吹さんが戦うことになった。伊吹さんの構えは素人じゃないことは見れば分かった。龍園君は口角を上げる。
龍園君と伊吹さんの戦いが始まった。お互いに拳や蹴りを出し合う。俺は伊吹さんが圧倒するんじゃないかと思っていた。だけど龍園君は巧みに躱したり、攻撃を最小限に抑えている。
お互い一歩も引いていない。しかし龍園君の粘り強さは異常だった。それを見誤った伊吹さんは徐々に押されていく。攻撃が当たる回数も増えて、息が上がっていた。
結果、伊吹さんは龍園君の拳が顔に当たって倒れた。最後まで立っていたのは龍園君だった。
「……」
「ククク。お前はよくやった。だが勝つのは俺だ」
「わ、たしは……!」
「あっ?」
伊吹さんは立ち上がった。足はふらつくし、戦える状態じゃない。それでも龍園君を睨み付けていた。龍園君が笑みを浮かべる。拳を握り締めていた。
もう一発殴るつもりだ。俺は即座に駆け出した。もう、抑えきれなかった。
俺は龍園君と伊吹さんの間に割って入った。
「どういうつもりだぁ、藤丸?」
「もう良いでしょ! 龍園君も伊吹さんもこれ以上傷付く理由は無い!」
「邪魔すんなよ。お前、伊吹の意思を捻じ曲げていること——」
「分かってるよ!」
伊吹さんはきっと俺が止めることなんて望んでない。でも俺だって我慢の限界だった。龍園君も、石崎君達も、伊吹さんも十分傷付いた。だから俺は止めることにした。
「これは私のエゴだよ。見ていることしか出来なかった私が、もう止めたいって思っただけ」
「……ククク。分かってんのか? お前自身が傷付く可能性があるんだぜ」
「そうかもしれないけど、こうやって言葉で話すしか方法を知らないから」
「……そうかよ。つくづく気に入らねえ奴だ」
龍園君は矛を収めてくれた。俺は振り返って伊吹さんを見る。伊吹さんは立っているのがやっとの状態であった。
「伊吹さん、ごめんね。でもさっきの言葉に嘘は無いから」
「……変な奴。私は座らせてもらうから。……それで山田とはどう決着つけるつもりよ」
伊吹さんは座りながら龍園君に問い掛ける。今の状況で龍園君が山田君と戦えば山田君が勝つだろう。しかし龍園君は笑いながら挑みに行きそうだったので俺が止める。
「龍園君。今の状態で勝てると思ってるの」
「確かに負けるな。だが明日は、手段を選ばなかったら。俺はどんな手段を使ってもこいつを屈服させる」
「……そんな必要ないと思うけどな。言ったよね、龍園君も傷付く必要は無いって」
「だったらどうするんだ? お前がこいつを屈服させるのか?」
「違うよ。私は山田君を信頼させる。まぁ見てなさいって」
俺は山田君と向き合う。改めて見ると本当に体格が良くて大きい体をしていた。俺は英語で山田君と会話する。
『山田君、私と友達になろう』
「friend?」
『うん。私は山田君を信頼してるから。もし龍園君が君を傷付けようとするなら止める』
「Why go that far?」
『だって山田君優しいし争いごと苦手でしょう? 私は龍園君と山田君が傷付いて欲しくないだけ』
「You are kind」
山田君は多分友達になることに抵抗は無い。後はそうだなぁ……役割を与えてみるか。
『ありがとう。それで山田君にもう一つお願いがある』
「what」
『龍園君のボディーガードになって欲しい。友達とボディーガード、引き受けてくれないかな』
「……OK」
『ありがとう』
よし、これで龍園君と山田君が戦う必要は無い。もしもの時は山田君からこちらに連絡があるはずだ。
「ククク、話はどうなったんだ」
「山田君とは友達になったのと、龍園君のボディーガードになってもらったよ。龍園君と山田君の信頼はこれからだけどね。何か文句はある?」
「……1つだけ言いたいことがある」
龍園君は周りを見る。周りには負傷した石崎達と伊吹、山田君と俺がいる。
「俺に付いて来い。必ずお前達に認められる王になる。それだけは忘れんな」
こういうところでは龍園君はカリスマがあると感じさせられる。
俺達は特別棟を後にして寮へと帰るのだった。
寮に戻ると椎名ちゃんがいて袋の中には応急手当で使える物があった。椎名ちゃん含めた俺達は龍園君の部屋に移動。
俺が率先して傷付いた者達の手当てを行った。不良達は傷の手当てが終わると、龍園君から先に帰っても良いと言われて帰った。
残ったのは俺含めて椎名ちゃんと伊吹さん、龍園君と石崎君と山田君だった。
「はい、これでおしまい」
龍園君の処置が終わった。
「それで私達を残して、何かあるの?」
伊吹さんが口を開く。龍園君は口角を上げながら答えた。
「いや、お前達には聞いて貰うだけだ。……俺は明日、クラスと坂上に学校の秘密を打ち明けるつもりだ」
秘密……ってことは初日に分かったことを言うつもりなんだ。俺と椎名ちゃん以外思い浮かばない様子であった。
「この学校の秘密ってどういうことっすか?」
「それについては明日、藤丸に言わせるつもりだ」
「……えっ、私!?」
龍園君からの指名で驚きを隠せなかった。
「本当は俺から言うつもりだったが……気が変わった。俺はクラスメイト共を留まらせるだけにする。それで、やるか? 藤丸」
「うん、分かったよ。龍園君」
「即答かよ……。話したいことはこれで終わりだが、藤丸は残れ」
「ちょっと、藤丸に何かしようってわけじゃないわよね」
伊吹さんが警戒している。椎名ちゃんもどこか心配そうに見つめていた。
「別に何かしようってわけじゃねえ。ただ話したいだけだ」
「嘘じゃないと思う。だから大丈夫だよ」
「……分かった」
椎名ちゃん達は龍園君の部屋を出る。俺と龍園君の2人きりになった。部屋が広くなった気がした。
「お前、俺が王になることに異論はねえのかよ」
「異論は無いよ。ただ期待以上の不安があるだけ。でもそれって普通だと思うから気にしなくても良いよ」
「普通か。俺から言えば、お前は普通じゃねえ」
龍園君は俺を見つめる。
「今日の喧嘩だって見たくなかったはずだ。それをわざわざ見に来て、伊吹を庇って、山田を懐柔した」
「懐柔って言わないで。山田君が私を信頼してくれたの」
「俺から言わせれば違いはねえ。……どうして見に来たんだよ」
「龍園君のこと、ちゃんと見ていたかったから。そして逃げたくなかった」
龍園君は王になるためなら、自分と相手を傷付けることを厭わない。それは見なければ分からなかったことだ。だから見ることしか出来なかったけど、来てよかった。
「そうかよ。……お前は本当に人を信頼しているのか?」
「してるよ」
「……はぁ。今日でお前がお人好しのバカであることが分かった」
「バカって言うな」
「事実だろ」
俺は頬を膨らませる。龍園君は反応しないで話を続けやがった。
「俺はお前をこき使ってやるよ、藤丸。精々ボロ雑巾みたいに頑張りやがれ」
「素直に頑張ってって言ってよ」
「絶対言わねえ。お前命令に背きそうだしよ」
「それは分からないけど。駄目なことは駄目って言うからね、龍園君」
「もしも裏切ったら屈服させてやる」
女子に向かって屈服って怖いな。だけど龍園君ならやりかねない。そうだ……俺も1つだけ言おう。
「龍園君」
「なんだよ」
「龍園君が全力で王になることは分かった。だから私も、全力で龍園君を支えるよ!」
「ふん、そうでなくちゃ困るな。その言葉、ぜってえ忘れるなよ」
これで俺と龍園君の会話は終わった。俺も龍園君の部屋を後にしようと扉を開けた時、通路に椎名ちゃん達がまだ残ってた。
「おい、なんで残ってやがる」
「信用されてないね」
「チッ」
こらこら舌打ちしないの。
俺は椎名ちゃん達と一緒に龍園君の部屋を後にするのだった。
・よう実の二次創作で一番好きなクラスがCクラスです。
・アンケート実施します。期限は次の話までです。
一人称に関するアンケート。地の文も私にした方が良いですか?
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