畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
パソコンと光回線が使える様になった!
そう光回線である、ぶっちゃけ都内とはいえ糞山奥の糞森の中にある呪術高専ならADSLが精一杯だろうと思っていたのだが……流石は日本でも有数の金持ちである五条家の当主、回線敷設の費用も全部自弁して高専に光回線引いちゃったよ……。
しかもパソコンもこの時代で個人購入するには少々高スペック過ぎるくらいのお高いパーツをふんだんに使い、自作PCの趣味が有ると言う五条家の者が組んだ一級品だ。
回線工事の費用は御主人のポケットマネーからだが、パソコンの方は俺が熟した任務で得た報酬から支払われている。
まぁ呪術師は命懸けの仕事だし決して安い報酬で酷使されている所謂ブラック公務員と言う訳でも無いのだろう……案件に対して人員が不足しているが故に、兎に角クソ忙しいと言う点に目を瞑れば。
兎角、世界最大手の通販サイトでマウンティング用のぬいぐるみも買ったし、お陰様で俺のQOLは爆上がりである。
残念なのは未だこの時期には高スペックPCを用意しても、ソレを活かす様なゲームは日本語対応しているモノが殆ど無く、買うにしても個人輸入が必要だったりと面倒な事だろう。
……晩年愛用していた国内外のゲームのPC版をダウンロード販売するプラットフォームが日本でサービスインするのは何時だったかなぁ?
と、趣味の話は置いておいて、QOLを早急に改善してあげないとアカン奴が居る、御主人の相方と言うか相棒と言うか親友と言うか……原作ルートだと多数の無関係な人間を巻き込んだ壮大な自殺を行った上でメロンパン入れにされてしまう人……夏油傑だ。
原作の考察サイトや色々な二次創作で言われていたが、呪霊操術の為に呪霊玉を取り込む際の『吐瀉物を処理した雑巾を丸呑みしてる様な味』は、間違いなく彼に多大なストレスを与えており、ソレが闇落ちする原因の一つだったのだと俺も思う。
世界一飯が不味いと言われるエゲレス人だって、毎日食べる食事がそんな味なら間違いなくブチ切れる。
呪霊操術はソレを繰り返す事で手持ちの呪霊を増やし、数の暴力で圧倒する術式である。
更に言えば等級に関係無く術式を持つ呪霊を折伏すれば、そいつの術式を自分の呪力を使う事なく使える……と言う『なにそれチート?』と言いたくなる様な凶悪な術式だ。
だがその為にゲロを腐らせた様な呪霊玉を丸呑みしなければならないと言うのは、何とも強烈なデメリットである。
食事と言うのは生きる根幹で有り、人生に欠かす事の出来ない娯楽でもある……味覚障害等のトラブルを抱えて居なければ、食に拘りは無いと豪語する者とて進んで不味いと分かっているモノを口にする事は無いだろう。
不味いモノと言うのは基本的に身体に悪いモノで有り、ソレを分かっていて口にすると言うのは相当なストレスなのだ。
ソレを夏油傑と言う男は恐らく信念と義務感に矜持といったモノだけで繰り返して居るのだからメンタル病んで闇落ちするのも有る意味仕方が無い事と言えるのだと思う。
そんな訳で今日は俺に割り振られている任務は無い上に、彼には手駒になる呪霊を取り込む為だけの簡単なお仕事が有るので、補助官が運転する送迎の自動車に潜り込みます。
人間ならそう簡単に自動車に潜り込むなんて真似は出来やしないが、未だ成長途中の猫の身体ならば助手席の足元にでも入ってしまえば、居ると思って注意して見なければ運転席の補助官も、後部座席に居る彼にも気づかれないと言う寸法だ。
そして暫く隠れて十分に高専から離れた所で唐突に
「にゃー」
と鳴いてやれば、
「うわ!? うわぁぁ!? あぃぇぇぇぇ!? ネコ!? ネコぉ? ナンデェェェ!?」
……補助官の女性が盛大にハンドル操作を誤って事故りかけた。
「うわ!? ちょ! ポ、ポチさん? 流石にコレはイタズラが過ぎますよ!?」
ちょっと車で事故ったくらいじゃぁ死にゃしない筈の呪術師でも、自分が乗った車があわや事故となると流石に焦るのか、顔を引き攣らせた夏油が後部座席から身を乗り出して俺を見下ろしそう言った。
どうも彼は俺の享年が72歳だと聞いて『長幼の序を弁えるべき』と考えているらしく、何か用事が有れば猫である俺に対しても敬称を付けて呼ぶし敬語で話しかけてくる。
所詮今生──何度も死んでるが──の俺は猫でしか無く年長者ぶるつもりも敬意を払う必要も無い……と何度か言っているのだが、どうも彼には秩序や序列と言う物が大事だと言う信念が有るらしく、御主人に対する様に気安い態度はとってくれない。
「あ、ああ……なんだ五条一級術師の猫さんっすか、マジ勘弁して欲しいっす、変な所だけ飼い主に似ないで下さいよー」
暴れた車をなんとか事故らせずに路肩に止めた補助官は、恐怖に引き攣った顔のまま、なんとか安堵のため息と共にそんなセリフを口にする。
……この補助官とも何度か任務で一緒になった事が有るんだが、最初は普通の猫として撫でてくれたりもしたんだが、特級呪霊を祓ってからは敬語なんだよなー。
やっぱ呪術界に蔓延する『強い奴が偉い』と言う価値観は補助官にも根付いて居る様だ。
「ふぅ……ポチさんがわざわざ着いてくる程の任務じゃぁ無いですよ。それとも悟が遠方任務で居ないからと暇を潰しに来たんですか?」
ちゃんと目的は有っての行動だが、彼とは嘘を吐かないと言う縛りは結んでいないので、ここは一声鳴いて肯定しておく。
「まぁ先輩達の話ですと、2級や3級の任務だと聞かされて現場行ったら特級だった……みたいな等級詐欺は割とよく有るとは聞きますし、万が一の事が有ってもポチさんが居れば助かると言えば助かりますね。私自身は等級詐欺に当たった事は未だ無いですが」
「あーそーいや、確かに今年は等級詐欺の話は殆ど聞かないっすね、呪術師の方の殉職って殆どが等級詐欺の所為なんで、今年は例年に比べると殉職率がとんでもなく下がってるんっすよね。普通なら再起不可能な怪我も猫さんのお陰で復帰出来てるのも大きいっす」
等級詐欺案件は窓や補助官の事前調査が不足した結果……と言うのも多少は有るだろうが、原作での描写を見る限り上層部の手駒にならない術師を意図的に抹殺する為にわざとやっていた部分が割とあったのではないかと推測する。
ソコに俺と言う六道輪廻の体現者が現れた事で、総監部も簡単に『悪徳』にカウントされるであろう事が出来なくなったのではなかろうか?
更に補助官が口にした通り、腕やら足やらをヤられて呪術師としては死んだと言っても良い状態になる者も、俺の反転術式で回復する事が出来ている為に、心さえ折れて無ければ現場復帰が可能に成っているのも離職率の低下に繋がっているのだろう。
「呪霊の等級は既に登録されている物は兎も角、そうで無いならば被害の状況と窓が感じた呪力頼みですから、一当てしてみない事には本当の等級の判断が出来ないのは仕方が無いですよ」
呪霊の等級は原作でも通常攻撃が呪霊に有効と課程した場合、四級はバットで殴れば倒せる程度、三級は拳銃が欲しい所、二級になると散弾銃を持ってギリ、一級ともなると戦車でもヤバい、特級に至ってはクラスター弾の絨毯爆撃で倒せるかどうか、と書かれていた。
つまり呪霊の等級は昭和末期以前の機械計測では無く、観測員の体感から判断していた頃の地震の震度に近い物と言えよう。
原作を読む限り特に厄介なのは結界を張る類の呪霊だろう、外から見てその存在が感知出来ない為に、何らかの被害が出てからで無ければその存在に気づけず、被害が出てから緊急任務に成っても直接現場で相対して無いので等級が事前に分かりづらいのだ。
漫画では本の数ページしか登場していないがアニメで補完された情報だと、庵歌姫と冥冥が共同で任務に当たっていた『洋館の呪霊』は行方不明者が頻発する洋館の調査と言う様な任務だった筈である。
ソコに当時の等級は不明ながら後に準一級になる庵歌姫と、一級術師の冥冥が不覚を取る程の呪霊が居た訳だから、恐らく二人が派遣される前に何人かは四級や三級の呪術師が戻らぬ人と成っていたのだろう。
本当に某7つの玉を集める摩訶不思議大冒険漫画が、完全なバトル物に成った後に出てきた『戦闘力を計る道具』のような物で窓の者でも呪力を正確に測定出来る様にならなければ、意図的では無い等級詐欺は完全には無くならないのだと思う。
「っと、申し訳無いけれども、今から戻って猫さんを下ろしてって時間は無いんで、このまま任務先に同行して貰うっすよ。勝手に車に乗り込んでた自業自得って事で勘弁して欲しいっす」
呪術師の任務は呪霊だけを祓う未登録術師の捜索を例外とすれば、基本常に緊急事態である悠長に俺を高専に戻している時間など無いのは想定済みだ。
俺は補助官の言葉に一声鳴いて肯定の意を示すと、後部座席へと移り夏油の膝の上で丸くなるのだった。