畜生道に堕ちたと思ったら五条悟の飼い猫になった件 作:鳳飛鳥
「っく!? あの一撃をモロに貰ったら私でもただじゃ済まないぞ!? コレの何処が一級だ! 特級でも恐らくはかなり上の方の呪力じゃないか!?」
焦りを滲ませた
実際、眼の前に居る元呪詛師の呪霊は、俺が先日祓った多摩ニュータウンの大狸呪霊よりも二周りは大きな呪力を持っている様に見える。
「……イケメン死すべし……イケメン? いや、あの前髪はイケて無い……モテる……のか?」
しかし夏油の特徴的な髪型を見た呪霊がそんな事を呟くと、呪力が明らかに目減りした。
人間が……いや、生物が産まれオスとメスに分かれて繁殖する様になって以来、モテナイ雄の悲哀と言うモノは常に付いて回った負の感情だろう、ソレが今の今まで呪霊にならなかったとは考え辛い。
恐らくは極めて普遍的な負の感情であるが故に二級や三級のモブ呪霊として出現し、祓われて来たのだと思う。
けれどもここに元非モテの痴漢呪詛師と言う核となる呪霊が産まれてしまった事で、その手の負の感情を日本、下手したら世界中から集め自分の
そして奴の殺人に対するモチベーションはその言葉の通り『モテる男を殺す』事だ。
夏油は確かに顔立ちは醤油顔ながら整っている方では有る……があの特徴的な髪型が女性受けするかと言われたら正直な所微妙だと思われる。
ソレを件の呪霊も見て思ったのか、モチベーションが下がって負の感情を集める力が堕ちたのだと思う。
「ちなみに……私は今まで彼女が居た事は無いし、童貞なのでモテるとは言い難いね」
その事に夏油も気がついたのか、少しだけ頬を赤らめながら自身の性事情を自白する。
丸でコンピューターゲームの
「モテる……モテナイ……童貞……ナカマ?」
仲間と言う言葉が出た瞬間、夏油の顔から表情が抜け落ち、呪霊操術で契約していると思しき四級呪霊『蝿頭』が数体出現し、痴漢呪詛師呪霊へと突撃する。
どう考えても特級相手に蝿頭では力不足だが、ただのカラスですら自殺の縛りを押し付ける事で特級の身体に穴を穿つ程の威力を持たせる事が出来るのだ、小なりとは言え呪力の塊である蝿頭が同じ事をすれば……
「ぐぁぁぁあああ!? ナカマ! ナカマ違う! 殺すコロス頃す!」
効果はご覧の通り、特級呪霊にも決して無視出来ないだけの威力を叩き出す事に成功していた。
この分だとそのまま手持ちの蝿頭が尽きるまでチクチク遠距離攻撃を続けるだけでも、呪霊操術で取り込めるまで弱らせる事は可能だと思ったのだが、流石にそうは問屋が卸さない。
奴は一歩も動く事無く頭の天辺から足元まで、丸で魔法かなにかの様に姿を消したのだ。
「っち! コレが認識阻害術式の効果か!? 想像していたよりも厄介ですね!」
言いながら常に不意打ちを警戒し、足を止める事無く地面を木の幹を枝を足場に飛び回る。
流石は首吊りの名所だけ有って、180cmオーバーの巨体が乗っても揺るがない枝が多いのは幸いだっただろう。
対して奴は不摂生を絵に書いた様な
前者が正解だと判断したのは、次の攻撃が行われたのが夏油が地面に着地した瞬間を狙ったモノで有り、その攻撃方法がダブルスレッジハンマーと言うプロレス技だったのを見た瞬間だった。
どうやら奴の認識阻害は大きな動きで切れてしまう程に繊細なモノの様で、端から見ていた俺には攻撃モーションに入った瞬間からバッチリ姿が認識出来ていた。
「にゃー!」
攻撃が来るぞ! と言う意味合いを込めて一声鳴くと、夏油はソレに気が付いたのか間一髪で奴の攻撃を回避する。
きっちり夏油が着地する瞬間に死角となる角度から攻撃をして来た辺り、知恵の回る呪霊に成っている様だ……まぁ元の人格がどれほど残っているのかは分かったモンじゃぁ無いが。
「ポチさん! 倒しきらない程度に攻撃をして貰って良いですか? 奴は完全に私を狙っている様なので!」
本当に知恵有る呪霊ならば、こうして目の前で作戦を口にする様な真似をすれば直ぐに対応されるだろうが……奴は周囲を見回してから
「騙されない、ダマされない、お前独りぼっち! お前頃すコロス殺す!」
と、俺の存在に気が付かずに再び術式で姿を消した。
……うん、どうやら呪術は人間の特権と言う認識は呪霊になっても変わらないらしい。
いや原作の特級呪霊組達のセリフから考えるに、呪霊として産まれた存在達も呪術は
だから猫の俺が呪術師である事に気が付かない、何なら猫がその場に居る事すら気が付いて居ないのではないだろうか?
呪霊が湧いた場所には普通の動物は近寄らない、呪力を感じ取っているのかは定かでは無いが、本能的に危険を察知しその場を離れるのだ。
故に猫が帳の中に居る時点で普通は疑わなければならない、冥冥一級術師の様な動物を操る術式だってあるのだから。
夏油の言葉をブラフだと嘲笑った呪霊が次に夏油へ攻撃を加えようと姿を表した瞬間、俺は『今生の間自分の反転で右前足を再生しない』縛りと『自傷』の縛りを込めた『ごぉぉっつい! 猫ロケットパンチ』を奴の顔面目掛けて撃ち込んでやる。
治さない縛りでは無く再生しない縛りなのは、治さないだと止血も出来ないので失血死で無駄に命のストックを消費する可能性があるからだ。
「あぃぇぇぇぇ!? ネコ!? ネコぉ? ナンデェェェ!?」
2重の縛りで強化したごっつい猫ロケットパンチは特級呪霊であろうとも、相応のダメージを奴に与える事に成功する。
「ポチさん! ソコまでで十分です! ほら、もう呪霊玉化が始まっている」
……アレ、相応どころじゃない? え? あの一発でもう死にかけ? 特級でも上澄みレベルの呪力有ったよね? 痛みで心が折れて殺意よりも殺さないでモードに入った……のか? うわぁ……流石は肝の小さな呪詛師が核になっただけ有るわ。
「コレは……良くて2級、下手すれば3級程度の呪力しか無いですね。恐らくは核となった呪詛師の呪力はその程度しか無かったんでしょう。ソコに非モテの負の感情とやらが作用して一時的に特級並の呪力を持っていた……と」
どうやら夏油は呪霊玉を見ればその等級を一目で理解出来る様である。
「……術式は非常に便利なので欲しいですが、痴漢を自分の中に飼うと思うと微妙な気分ですね。ああ、ポチさんコレならわざわざポチさんに反転を掛けて貰う必要はなさそうです。寧ろ前足を切ったままにさせてしまって申し訳ありません」
ソレは逆等級詐欺の所為であって夏油の所為では無いのだが、人間の言葉を話す事の出来ない俺では否定も肯定も難しい……なんとか意思を伝える事は出来ないか?
「ニャ……ウニャ……キニスンニャ」
おお! それっぽい言葉が出た! 猫の声帯でも人間の言葉っぽい発音が出来たぞ!?
コレはもしかしたら練習次第で会話が普通に出来る様になるかもしれない!
「ニャ……ニャ……ニャメンボニャカイニャニャイウエオ」
「ぉお! ポチさん、人の言葉を! 人の言葉が喋れてる! さっきのは気にするなと言ったんですよね!? うわぁ悟に自慢しないと! ポチさんの人間語を最初に聞いたのは私だって!」
驚きと喜びの混ざった笑顔でそういう夏油は、年相応の若者の
まぁその笑顔は変態呪霊を飲み込む時にまた虚無のソレに戻るのだが……こうして俺達は帳が消え周囲の呪霊が全滅したのを確認し、補助官が待つ駐車場への道を戻ろうとした所で夏油が俺を抱き上げる。
「その足じゃぁ歩き辛いでしょう、縛りは自分では治せないを基本にしてると悟に聞いてます。高専で硝子に治して貰うまでは私が運びますよ」
御主人が普段そうしている様に俺を頭の上へと乗せた夏油は、普段よりも少しだけ軽い足取りで駐車場を目指して歩き出したのだった。