アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
『なんということだ~~っ。アクション仮面vsケビンマスクの試合が衝撃的結末を迎えたのも束の間、大魔王サタンが突如呼び出した正体不明の超人たちにより、観客の子供たちが連れ攫われてしまった~~っ』
静まり返った春日部スタジアムに、実況アナウンサーの悲鳴にも似たダミ声が虚しく響き渡る。
空を覆っていた暗雲が晴れても、人々の心に射し込む光はどこにもなかった。
『春日部スタジアム内の宙に漂う5つのワープホール……アクション仮面たちはこの向こう側で
上空で黒い渦を巻く、気味の悪い5つの穴。
観客席からは、愛する我が子を奪われた母親たちがリングのそばまで押し寄せる。
彼女たちは新世代超人――この場に残ったヒーローに向け、痛切な叫びを訴えた。
「お願い! うちのひまわりを助けて!」
「うちのトオルちゃんも!」
「マサオも!」
「ネネも!」
野原みさえをはじめとした母親たちが、涙を浮かべながら超人たちへ必死に頭を下げる。
我が子の命が懸かっているのだ。親として気が動転するのも無理はない。
「人質を取られた状態でのアンフェアな挑戦……それも相手はただの悪行超人ではなく、あくまでも正義を自称するアクション仮面。そして彼にゆかりがある謎のパラレルワールド超人とは。おそらくこれまでにない困難な闘いが待ち受けていることでしょう」
錯乱する母親たちの声を背に受けながら、アレキサンドリア・ミートは眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせて現状を整理した。
相手は正義のシンボルでありながらサタンの魔力で暴走したヒーローと、異次元の悪の頭目たち。
一筋縄でいく相手ではない。
ミートはリングの周囲に集まった超人たちへ向き直ると、深く息を吸い込んで声を張り上げた。
「今回のミッションは志願制とします! 誰か、我こそはという超人はいますか!?」
今回ばかりは及び腰になってもしょうがない――そう考えていたミートだったが、幸いにも手はすぐに挙がった。
「子供たちを救う役目……それはオレたちの仕事だ――っ!」
額に“K”の文字を刻む、ノースリーブの服にサスペンダーをつけた金髪の超人――テリー・ザ・キッド。
頭に雄々しき2本の角を生やした、トムソンガゼルの化身がごとき超人――ガゼルマン。
両腕を包帯でコーティングし、全身には毛皮のようなスーツを纏った超人――セイウチン。
自転車競技用のものに似たヘルメットを被り、どこか軍隊然とした緑の服を着込む超人――ジェイド。
ドミノマスクを額につけ、赤い燕のような尾を振りかざしながら歩く超人――スカーフェイス。
いずれも新世代超人上位の強豪たち。
いきなり5人もの精鋭が名乗りを上げ、ミートは喜色をあらわにする。
「キッド! ガゼルマン! セイウチン! ジェイド! スカー! ヘラクレス・ファクトリー卒業生のみんな!」
彼らの共通点は、正義超人養成大学校“ヘラクレス・ファクトリー”に在籍し、無事卒業したという点。
栄えある第一期生の称号を持つテリー・ザ・キッド、そして第二期生のジェイドは自信たっぷりに言う。
「あのつらく厳しい特訓の日々は今日という日のため!」
「ジェロニモ先生に暴力を振るった生意気な後輩に灸を据える意味でも、教え子のオレたちが奮起しなければな!」
相手が暴走した正義だろうと異世界の住人だろうと臆す理由なし。
あの過酷な学び舎で汗と血を流し合った仲間たちの目には、すでに迷いの色はなかった。
「キッド……ジェイド……それにⅡ世……っ。一期生も二期生も、ヘラクレス・ファクトリーの教えは立派に受け継がれているんですね」
たくましく成長した若い超人たちの姿に、ミートは感動のあまり目頭を熱くさせる。
しかし――隣で「ん?」と訝しむ超人がひとり。
キッドとジェイドのついでのように名を呼ばれた“Ⅱ世”、まったく参戦表明などしていなかったキン肉万太郎である。
「あのー、ミートくん? キン肉万太郎くんことキン肉マンⅡ世は一言も行くだなんて言ってないよ?」
万太郎は青ざめた表情を浮かべ、つんつんと従者の頭を小突いた。
ミートはそんな主人の顔をチラ見したが、ぷいっと顔を背けて話を次に進める。
「ではキッド、ガゼルマン、セイウチン、ジェイド、スカーフェイス、Ⅱ世の6名までは確定として」
「ず、ズコ~~ッ!?」
臆病者の意向などまるで耳に入っていないかのように淡々と数を数えるミートに、万太郎は盛大にずっこけた。
「他には……」
ミートが周囲を見渡し、すぐだった。
「わたしたちも行きましょう!」
新たに3名、ミートのもとに歩み出た超人たちが出てきたのである。
「チェック・メイト! イリューヒン! バリアフリーマン!」
右肩に“
全身に飛行機の特徴を宿したロボ超人――イリューヒン。
オムツパンツ一枚の腰が曲がったおじいちゃん――バリアフリーマン。
彼ら3人もまた、先の6名に勝るとも劣らない実力者たちである。
「わたしたちはヘラクレス・ファクトリー卒ではありませんが、正義超人のひとりとしてアクション仮面の暴挙を見過ごせはしません」
「それに、サタンが呼び寄せたあの4人……正義などとはかけ離れた悪のオーラを感じてならなかった」
「一癖も二癖もある連中なのは確か。悪行経験者のワシらの手も必要じゃろうて」
悪魔超人、残虐超人、猥褻超人――3人共、それぞれ最初は正義と異なる立場にいた者たちだ。
だが今では正義を志す立派な同士。
かつての敵がこれほどに頼れる味方となった事実に、ミートは涙腺が緩くなる。
その一方で、万太郎は信じられないといった形相で喚く。
「正気かおまえら~~っ? 今度の相手は悪の組織の首領とか魔王とかキングとか、ラスボスっぽいやつらばかりなんだぞ~~っ!? アクション仮面にしたって、ケビンを一発でKO寸前までもっていったカビキラー光線とかいうインチキビームを使うっていうのに!」
「カピラリア七光線だよアニキ」
恐怖で顔を歪ませながら叫ぶ万太郎に、セイウチンがすかさず冷静なツッコミを入れる。
そんな押し問答が繰り広げられているところへ、突如としてけたたましいサイレンの音と怒号が割り込んできた。
「救急です! 道を開けてくださーい!」
白い服を着た救急隊員たちが、2台の担架を押し抱えるようにしてリング脇の通路を駆け抜けていく。
そこに乗せられていた人物の姿を見て、万太郎の顔色がガラリと変わった。
「ケビン! ジェロニモ先生!」
担架の上に載せられ、酸素マスクをつけられたケビンマスク。
そして同じく担架上で痛々しい姿をさらすジェロニモの姿があった。
ケビンは薄っすらと目を開けると、弱々しく、だが力強い眼光で万太郎を見つめた。
「面目ねえ、万太郎……まさかアクションビームをくらうとは思わず、油断しちまった」
「まったくだよ。らしくないぜチャンピオン」
万太郎は軽口で返そうとしたが、その声は微かに震えていた。
あのケビンマスクが、たった一撃でここまでダメージを負うなんて――と。
「アクションビームは厄介だが……やはり新人超人レスラー。随所に甘いところがあるのまた確か。おまえなら勝てるはずだぜ」
「ケビン……」
かつて超人オリンピック・ザ・レザレクションで優勝の座を争い、“
彼に続くように、隣の担架からかすれた声が上がった。
「万太郎……キン肉マンの倅……」
血を吐きながらも、ジェロニモは必死に万太郎の腕をつかもうと手を伸ばす。
その目には、悲痛なまでの切哀が宿っていた。
「アクション仮面は昔のオラと同じなんだ……人間から超人になったことであふれる超人パワーを持て余し、子供に暴力を振るってしまったあの頃と……」
かつて人間でありながら超人への憧れを捨てきれず、スーパーマンロードの試練を経て超人へと生まれ変わったジェロニモ。
しかし、その有り余るパワーと制御できぬ感情ゆえに、過去に幼い子供へ危害を加えかけてしまったトラウマ――ジェロニモは、暴走するアクション仮面の姿に昔の自分を重ね合わせていたのだった。
「ジェロニモ先生……」
ヘラクレス・ファクトリーに在籍していた頃はよく竹刀で叩かれていたっけ、と万太郎はジェロニモの姿を見て昔を懐かしむ。
あれだけ厳しい先生だった彼が、今は弱々しさを隠そうともせず元教え子に懇願してくるのだ。
「あいつは強すぎるパワーを身につけ、自分の正義を見失っている。原因はやはり、サタンのもたらしたジェネラル・ストーンだろう。どうか……バカ弟子の目を覚ましてやってくれ」
自分の不甲斐なさを恥じつつも、愛弟子であり、過ちを犯してしまった後輩超人の未来を案じる教官の、血の滲むような訴え。
その重みと温かさが、万太郎の胸にストレートに突き刺さった。
万太郎の瞳から、それまでの逃避や恐怖の色が完全に消え去る。
キン肉族の王子としての血が、正義超人の誇りが、その全身で激しく燃え上がった。
握り締めた拳にギュッと力を込め、万太郎はジェロニモの目をまっすぐ見つめ返す。
「必ず」