アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
「タァ――ッ!」
若々しい掛け声が空に響き渡る。
時空の歪みを突き抜け、猛然と飛び出したのはテリー・ザ・キッドとバリアフリーマンのふたり。
宙で鮮やかに着地を決めたキッドは、すぐさまファイティングポーズをとって周囲を警戒する。
だが、その眼前に広がっていたのは――見覚えのある近代的なビルの街並みだった。
「こ……ここは大宮ステーション!」
目の前で燦然と輝くのは、“大宮駅”――そして“OMIYA STATION”の看板だ。
すなわち、現在地は埼玉県大宮市。
「か、春日部と同じ埼玉県じゃねえか!」
キッドはぐるりと駅の周辺を見渡す。
日本に暮らしていれば馴染み深い駅舎、立ち並ぶ商業施設、広大なロータリー。
ここ大宮駅は春日部駅から東武野田線で22分の距離……わざわざワープするほどの距離でもない。
「ワープホールとかいうからもっと遠くに飛ばされるのかと思ったが、サタンはこの埼玉県でいったいなにをしでかすつもりなんだ?」
異次元の魔界や未知の惑星に飛ばされることも覚悟していたキッドは、拍子抜けすると同時にさらなる疑問を募らせる。
しかも、異変は場所だけではなかった。
「それに……駅前のわりには人がいねぇな。大宮は埼玉の中でも栄えている街と聞くが……」
本来ならば平日・休日を問わず多くの買い物客や通勤客で行き交うはずの大宮駅前。
それが今は静まり返り、不気味なほど閑散としていた。
その異様な静寂を破ったのは、隣に立つバリアフリーマンの素頓狂な悲鳴だった。
「あ、ああ~~っ。見てみぃキッド。ハイレグレオタードのおなごが集団で出迎えとる~~っ」
「はあ? なに言ってんだバリア」
呆れ顔でバリアフリーマンの指差す方向へ視線を向けたキッドだったが――次の瞬間、その口は開きっぱなしになった。
「あ……あ、あああああ~~~~っ!?」
顔面を冷や汗まみれにしながら、「アンビリーバボー!」と叫ぶ。
キッドやバリアフリーマンが目にしたもの、それは――
「ハイグレ! ハイグレ!」
どこからともなくワラワラと姿を現した、眩しいばかりのハイレグレオタードを身にまとった女性たち。
彼女たちは必死な形相で「ハイグレ! ハイグレ!」という奇妙な掛け声とともに、自身の股間・足の付け根をV字型になぞる妖しい仕草を繰り返している。ビートたけしも真っ青の完璧なフォームだった。
「街中のレディたちがハイレグレオタード姿で刺激的なポーズを……大宮ってのはこんなにもアバンギャルドな街だったのか~~っ!?」
あまりのショッキングな光景に、アメリカはテキサス出身のキッドも文化の違い(?)を受け入れようと大汗をかく。
埼玉県大宮市……恐るべし!
「キ……キッド! あれを見ろ」
狼狽するキッドに追い打ちをかけるように、バリアフリーマンが新たに発見したものを指差す。
キッドが反射的に視線を移動させた、そこには――
「ハイグレ! ハイグレ!」
と連呼するおっさんがいた。
「ゲェ――ッ! レディだけでなく、おっさんたちまでハイレグレオタードに――っ!?」
なんと、どこかのサラリーマンらしき中年男性や頭の寂しいおじさんたちまでもが、ピチピチのハイレグレオタード一丁になり、同じように「ハイグレ!」と股をなぞっていたのだ。
「ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレ! ハイグレ!」
「ハイグレ! ハイグレ!」
老若男女問わず、ハイレグ姿で股間をアピールする狂気の集団。
キッドとバリアフリーマンは背筋に冷たいものが走るのを禁じえない。
「こ、この異様な光景……さすがに大宮のトレンドとは思えねえ」
「う、うむ。おそらくは敵の仕業じゃろうて」
ゴクリと生唾を呑み込むふたり。
すると、ハイレグ姿の人々が一斉に動きを変えた。
「ハ……ハイレグレオタードの大宮住民たちが道を作るように整列を!?」
両脇にズラリと並んだハイレグ集団は、まるでふたりを奥へと誘うかのように綺麗に道を開けてみせた。
「う~む、罠の香りむんむんじゃが」
「逃げるわけにはいかないだろう」
腹を括った二人は、ハイレグ集団の作る不気味な花道を通って大宮の街を進む。
慎重に警戒しながら歩くこと3分。
やがて辿り着いたのは、巨大な高層ビル群の足元であった。
「ここは……大宮ソニックシティ!」
目の前にそびえ立つ複合施設を見上げ、キッドが声を張り上げる。
大宮ソニックシティ。
それは、埼玉県大宮市を語る上で外せないシンボル的存在である。
「駅から徒歩3分、埼玉県が誇る大型コンベンション施設……31階建てのビルに4階建てのホール、13階建てのホテルの3つの建物から成る……」
「オールシーズン様々なイベントが催されている会場ではあるが……まさか今日はハイレグレオタードのファッションショーかぁ~~っ」
「んなわけねえだろ」
緊張感の欠けたバリアフリーマンに鋭いツッコミを入れつつ、キッドはキッと前を睨みつけた。
謎のハイレグレオタード集団、彼ら彼女らが作った道の先に、この建物がそびえているのだ。
敵がキッドたちをこの場所にいざなったであろうことを明白。心して一歩を踏み出さなければならない。
「行こう!」
罠の気配をさらに濃厚にさせながらも、キッドとバリアフリーマンのふたりに撤退の選択肢はない。
先導するように立つハイレグレオタードの道しるべを頼りに、建物の間を通り抜ける。
「この先は……イベント広場か」
どうやら敵は施設の中ではなく、屋外広場へと案内したいようだ。
コンサートやアニメイベント、ヒーローショーなどに使われる開けた空間に躍り出るふたり。
だがそこでふたりを待ち受けていたのは、ハイレグ集団を上回る異様な集団だった。
「あ、あれは……」
――頭にベージュ色のパンティストッキングをスッポリと被り、顔を歪ませた怪しい一群である。
「ハ、ハイレグレオタードの大宮住民の次は……」
「頭にパンストを被った変態たちじゃ~~っ!」
キッドとバリアフリーマンの甲高い声が広場に響く。
大宮はいったいどうなってしまったんだ!?
混乱を超えて目眩すらしてきた、そのときである。
パンスト怪人たちの人波が割り開け、その奥から存在感のある人物がヌッと姿を現した。
「いらっしゃい、ボーヤたち」
笑顔の刻まれた不気味な仮面をつけ、黒いマントを纏ったモヒカンヘアーの怪人。
その姿は、数分前に春日部スタジアムで目にしたとおりである。
「おまえは……ハイグレ魔王!」
キッドの叫びに、怪人は仮面の奥でニヤリと口元を歪めるような気配を見せる。
「覚えていてくれて光栄だわ。そういうあなたたちは
ハイグレ魔王はマント姿を揺らしながら、ねっとりとした視線をふたりへ注いだ。
「ウフ」
舐め回すようにふたりを品定めし、肩を竦め溜息をつく。
「まだ女も知らなそうなヤンキーボーイに、ボケて介護施設から抜け出してきたようなおじいちゃん……アクション仮面と違ってヒーローっぽくないわねぇ」
「なんじゃと~~っ!」
あからさまな挑発に、バリアフリーマンが拳を握りしめて青筋を立てる。
だがキッドは彼を制し、冷静にハイグレ魔王を睨み据えた。
「大宮の人々をあんな破廉恥な姿に変えたのはおまえか?」
ハイグレ魔王からの返答はない。
「ウフフフ……」
代わりに怪しい笑い声を発し、気取った所作でパチンッ!と指を鳴らした。
ハイグレ魔王の周囲にいたパンスト怪人たちが動きを見せる。
「助けて~!」
パンスト怪人たちに両腕を抱えられ、悲鳴を上げながら引きずり出されてきたのは、ビジネススーツを着込んだ厚化粧の人物。
助けを求めるその様子からして、おそらくは大宮にいた一般人だろう。
しかし気になるのは、その性別だ。
「なんじゃ――っ!? あの厚化粧の女性……んん? 女性か――っ!?」
「よく見ろバリア! あれはどう見たって女装した男性だろう!」
「失礼ね! れっきとした女性よ!」
テリー・ザ・キッドとバリアフリーマンの失礼極まりない発言に、拘束された厚化粧の女性がキーキーと金切り声を上げる。
ハイグレ魔王は言う。
「この女は、ここ大宮で捕らえた訪問販売員……通称“地獄のセールスレディ”
「な、なにを……」
不吉な予兆を感じ取ったキッドを嘲笑うかのように、ハイグレ魔王が顎で合図を出す。
傍らにいたパンスト怪人のひとりが光線銃のようなものを構え、警告もなく売間久里代へそれを向けた。
キッドが声を上げる間もなく、光線は放たれる。
「キャ――ッ!」
眩い光が売間久里代を包み込む。
次の瞬間、地獄のセールスレディの象徴であったスーツは跡形もなく消え去り――
「ハイグレ! ハイグレ!」
なんと……売間久里代もまた、ハイレグレオタード姿となって足の付け根を擦り始めていたのだ!
他の大宮住民と同じように「ハイグレ! ハイグレ!」と叫びながら!
「あ、厚化粧のおねーちゃんが光線銃をくらい……」
「一瞬にしてハイレグレオタード姿に!?」
現代科学を超越した謎の技術に、バリアフリーマンもキッドも卒倒しそうになる。
なにかに変身したりする特殊能力を持った悪行超人は数多くいるが……相手をハイレグレオタードに変えてしまう超人など見たことがない!
パンスト団のボスであるらしいハイグレ魔王はオホホホと笑う。
「お察しのとおり、この街の人間たちは我々が“変身”させてあげたわ。このパンスト団が持つハイグレ光線銃でね。すでにこの街はあたしの支配下……次はこの大宮ソニックシティとかいう建物をあたし好みの城に変えてやろうとしてたところ」
そびえ立つ136.85メートルのビルを見上げながら、ハイグレ魔王はその肩書きに相応しい支配宣言を行う。
正義超人として聞き捨てならない発言だ。
バリアフリーマンとキッドは人がハイレグレオタード姿に変わる動揺を振り払い、一歩前に踏み込む。
「支配じゃと!?」
「なんだそりゃ!? それでオレたち新世代超人に代わる真・正義超人を名乗るってのか!?」
ハイグレ魔王はアクション仮面の味方として召喚された。
現代の新世代超人を悪行・正義超人と断じ、真・正義超人として粛清を行うと――そのアクション仮面の意志に同調した人物が、こんな悪意しか感じられない真似をするなどバカバカしいにもほどがある。
憤るふたりだったが、
「名乗らないわよ?」
ハイグレ魔王はふたりの怒りを袖にするように、キョトンとした様子で返した。
「真・正義だのなんだの言ってるのはアクション仮面だけ。そもそもあたしは超人とかいう変なもんじゃなく、地球を侵略に来た宇宙人……あんたたちのごたごたに巻き込まれるなんてまっぴらごめんよ」
言われてみれば、たしかに……キッドたち正義超人の敵といえば悪行超人だが、ハイグレ魔王は別世界からやってきた身。超人とは限らない。
地球侵略だの宇宙人だのというワードは気にかかったが、アクション仮面の正義に協力するつもりがないというなら話は変わってくる。
「ならワシらが争う必要はないんじゃ……」
サタンに無理やり連れてこられたことには同情するが、ここは穏便にお帰り願いたい。
バリアフリーマンはそんな意思を乗せた眼差しを向けるが、ハイグレ魔王はケタケタと笑った。
「あらや~だ。だけどせっかく招待されたんですもの。期待に応えなきゃ女が廃る……ここは呼ばれた趣旨どおり、アクション仮面に味方をしてあなたたちを倒させてもらうわ」
アクション仮面の正義など知ったことではない、だが暴れろと言われたのであれば暴れてやる――と。
傍迷惑なスタンスを示すハイグレ魔王。
しかしバリアフリーマンの関心は別のところにあった。
「女……?」
先ほどハイグレ魔王が口にした言葉――女が廃る。
もしやこの者、性別は女性なのか?
だとすれば、若い女に目がない“戦慄のエロ核弾頭”バリアフリーマンが黙っていない。
「ま、そのついでにこの世界を征服させてもらうけど、文句ないわよね?」
挑発的に敵意を飛ばしてくるハイグレ魔王だったが、バリアフリーマンの脳内は今ピンク一色でそれどころではない。
「聞いたかキッド。あやつ、女みたいだぞ。あのマントの下はひょっとしたらナイスバディかもしれん」
「わかったから少し黙っててくれ」
バリアフリーマンの不純な発言を一蹴し、キッドは改めてファイティングポーズをとる。
「おまえの正体がなんなのかはこの際どうでもいい。事実として大宮の人々が破廉恥な目にあっている……その元凶であるおまえを見過ごすことはできん。悪行超人と同じように対処させてもらう」
ハイレグであろうとパンストであろうと、あくまでもシリアスに向き合うテリー・ザ・キッド。
新世代超人を代表する若者の気に当てられ、バリアフリーマンも助平心を抑えて正義超人として向き直った。
「そうじゃ~~っ! それにおぬしはサタンが攫った子供のひとりを連れておるはず! その子はどこへやった――っ!?」
ふたりからの敵愾心を心地よさそうに受け取り、ハイグレ魔王は体を傾け背後を示す。
「この子のことかしら?」
パンスト団の人垣が割れ、奥から出てきたのは――浮遊する、黒く半透明な球体。
その内部には、おぼっちゃまふうの身なりをした少年が閉じ込められていた。
「たすけて~っ! ニュージェネレーショーン!」
ミッションの要である救出対象を前に、キッドとバリアフリーマンが息を呑む。
「あれは……攫われた5人の子供のひとり!」
「風間トオルくんか~~っ」
球体を割ろうと必死に外殻を叩く風間トオルくんの姿を確認し、ふたりは緊張感を強めた。
ハイグレ魔王は風間くんが閉じ込められた球体を軽く手で遊ばせながら言う。
「この子の命が惜しかったら……なんて卑怯なことは言わないわ。ここは正々堂々、あなたたちの流儀で勝負しようじゃない」
「オレたちの……」
「流儀じゃと!?」
不敵に笑うハイグレ魔王が手を打つと、パンスト怪人たちが一斉に左右へ捌けていく。
広場の中央、ハイレグ姿の大宮住民やパンスト団の群衆に囲まれたその場所に鎮座していたのは――
「あ、あああ~~~~っ!?」
四方をロープで囲まれた、まごうことなき“超人レスリング”の特設リングであった。