アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
カーフ・ブランディング(仔牛の焼印押し)。
コーナーポストなどの高所から跳躍し、相手の後頭部に片膝を押し当てたまま体重をかけてキャンバスへ顔面から叩きつける、テリー一族伝統の
“
『テリー・ザ・キッドの必殺技が炸裂~~っ! ハイグレ魔王、痛烈な一撃をもらってしまった――っ!』
キャンバスに激突したハイグレ魔王の体がピクンと大きく跳ね上がり、そのまま動かなくなった。
技を完璧に決めたキッドは素早く着地し、胸を張る。
その勇姿に、黒い球体状の檻の中にいた少年が目を輝かせた。
「すごいやキッド! これがテリーマンも使っていた必殺技、カーフ・ブランディング(仔牛の焼印押し)なんだね!」
「トオルもいい発音だったぜ! 次のテストは満点間違いなしだ!」
風間くんの歓声に、キッドは白い歯を見せて親指を立ててみせる。
最高の形で決まったフィニッシュ・ホールド。
キッドは勝利の余韻に浸りつつ、リングサイドでセコンドを務めていたはずの相棒へ声をかけた。
「バリアフリーマン! おまえも見てくれたか――」
だが、キッドの言葉は半ばで止まった。
視線を向けた先……リングの外にいたバリアフリーマンの姿に、キッドの表情筋が引きつる。
「ホエホエ……ここか? ここがええのんか?」
「ハ……ハイグレェ~ン」
なんとバリアフリーマンは、ハイレグレオタード姿の美女の胸をスケベ顔全開で揉みしだいていたのだ。
触られている大宮ギャルも、“戦慄のエロ核弾頭”の異名を取る男のあまりのテクニックにハイグレポーズを取る余裕すら失い、うっとりと声を漏らしている始末。
「テメー! このエロジジイ! 仲間が闘ってるときになにやってやがんだ――っ!」
あまりの破廉恥ぶりに、キッドはリング上から激しい怒号を飛ばす。
バリアフリーマンは美女の胸を揉み続けながら反応した。
「ヒョエエ~~ッ! 誤解じゃ、ワシはおぬしに声援を届けるためハイレグ美女たちをかきわけていただけで」
「どこを揉みわけてんだ~~っ!」
見苦しい言い訳を叩き潰すキッド。残念ながらバリアフリーマンがハイレグ美女軍団の波に追いやられ応援を妨害された瞬間は彼の視界には入っていなかった。
ふたりがコントのようなやり取りを繰り返していた、そのときである。
「勝った気になってんじゃないわよ」
低く、地の底から響くような不気味な声がリング上に落ちた。
『ハ……ハイレグ魔王、立ち上がった――っ! 額からは血を流していが、ダメージは軽微なようだ――っ』
ゆらりと立ち上がったハイグレ魔王。
額から一筋の血を流しているものの、その瞳には依然として冷酷な光が宿っている。
緊張で身を強張らせるキッド。
そして――魔王は血だらけの顔を無表情に硬直させると、氷のように冷たい声でつぶやいた。
「飽きた」
「は?」
あまりにも脈絡のない言葉に、キッドは思わず呆けた声を漏らす。
「飽きたって言ってんの。だいたい地球侵略に来たあたしが、どうしてプロレスごっこなんてやらなきゃなんないのよ。理不尽だわ~」
それまでのオカマ特有の威勢の良さはどこへやら、完全に真顔となったハイグレ魔王は、心底うんざりした様子で肩を竦めた。
「な……なに言っとるんじゃ、あやつは」
「わからんが……嫌な予感がする」
敵の急激な温度変化に、キッドとバリアフリーマンは背筋に冷たいものを感じる。
ハイグレ魔王はふたりの警戒を嘲笑うように、パチンと優雅に指を鳴らした。
「そっちの流儀に付き合ってあげるのはもうおしまい。ここからはあたしの流儀でやらせてもらうわ……パンスト団!」
合図と共に、リングを取り囲んでいたパンスト怪人たちが一斉に不気味な光線銃を構え、ロープ越しにキッドへと照準を合わせた。
「おまえ……まさか!」
「やっておしまい!」
残忍な笑みを浮かべるハイグレ魔王。
次の瞬間、無数の光線銃から放たれた怪光線が、キッドの身体をめがけて一斉に照射される。
身構えるキッドの視界を、突如として割り込んできた一人の老人の背中が遮った。
「ヌワァァ――ッ!」
「バ……バリアフリーマン!」
無数の光線がバリアフリーマンの身を包む。
そのしわくちゃの肉体が盾となってくれたおかげで、キッドへの被害はない。
が、しかし――かわりにバリアフリーマンが。
「ど、どうじゃ、キッドよ。ワシも一端の正義超人……ただのエロジジイでないと証明できたかのう?」
バリアフリーマンは先ほどまでのスケベ心を収め、温厚な好々爺のような笑みを見せる。
仲間の身を按じ、自らを盾とするその心は立派だ。
だがパンスト団の集中砲火を浴びるということは、つまり――
「バ……バカヤロー! オレを庇うだなんて……そのハイレグ光線銃を受けちまったら、大宮の人たちみたいにハイレグ姿になっちまうんだぞ――っ!?」
キッドの悲痛な叫びを、バリアフリーマンは晴れやかな声音で笑い飛ばしてみる。
「ホエホエ……な~に、オムツ姿のジジイがハイレグ姿になったところで恥ずかしさはそう変わらん。仲間の盾となって散れるなら本望」
一理ある。むしろ布面積的にはハイレグレオタード姿のほうがマシまである。
バリアフリーマンは己の最期を察し、キッドへ強い眼差しを向けた。
「どうか……風間トオルくんを助け出してやってくれ~~っ」
言い残した直後、バリアフリーマンの全身がピチピチのハイレグレオタード姿へと変貌する。
仲間のために自らを犠牲にせんとする正義超人魂は不可思議な力に塗りつぶされ、呪いの言霊を吐き始めた。
「ハ……ハイグレ! ハイグレ!」
ガニ股になり、股間のVラインをなぞり始めるバリアフリーマン。
『あ~~っとなんということだ――っ! 新世代超人軍の一角バリアフリーマンが、ハイグレ光線銃の餌食となりハイレグレオタード姿になってしまった――っ!』
実況の悲痛な叫びが響く中、狙いを外されたハイグレ魔王はイライラと爪を噛んだ。
「グヌ~~ッ、そこのヤンキーボーイを狙ったのに~~っ!」
「ハイグレ! ハイグレ!」
目の前でハイレグポーズを繰り返すバリアフリーマンに対し、ハイグレ魔王は容赦なく蹴りを放つ。
「ジャマ!」
バシィンッ!と蹴り飛ばされたバリアフリーマンは、そのままリング外の群衆へと転がり落ちていった。
「卑怯じゃねえか、ハイグレ魔王! 今はオレとおまえ、1対1のシングルマッチ中……それなのに手下に攻撃させるなんて!」
怒りに震えるキッドが叫ぶが、ハイグレ魔王は冷ややかに鼻で笑う。
「おだまり! そもそもあたしはハイグレ魔王! 悪行超人でもなければ超人レスラーでもない! 勝つために使える手段はなんだって使うのよ!」
ルールも正々堂々も知ったことではない。
ハイグレ魔王は己の欲望のままに、侵略者としての本性を全開にする。
「パンスト団! もう一度ハイグレ光線を浴びせておしまい!」
再度の号令。そして構えられる無数の銃口。
遮るもののないリング上で、キッドは歯を喰いしばる。
「クッ……」
今度こそここまでか――誰もがそう思った、そのときだった。
「そうはいくか――っ!」
広場の入口から力強い声が響き渡り、ひとつの影が走り込んでくる。
それは、アダムスキー型UFOを思わせる頭部をした超人の影だった。
「ジ・アダムス!」
春日部スタジアムにいたはずの新世代超人――ジ・アダムスである。
さらに、彼の背後から怒涛の勢いで突き進んでくる仲間たちがいた。
「キッドの窮地はオレたちが救う――っ!」
巨大な胸当てをした長髪の超人、頭にターバンを巻いた超人、ゴージャス衣装の超人――いずれもテリー・ザ・キッドが技を磨いた学び舎“ヘラクレス・ファクトリー”の同期だった超人たちだ。
「アポロンマン! サムゥ! ゴージャスマン!」
思わぬ救援を前に、キッドは喜色にとんだ声を上げる。
「あんたたちは……さっきの会場にいたザコ共!?」
一方のハイグレ魔王の声色は忌々しさ全開。
駆けつけた4人の超人は、キッドに銃口を向けていたパンスト団へ猛攻を叩き込み始めた。
「春日部と大宮の位置関係は目と鼻の先……」
「キッドたちの闘いの舞台が大宮とわかり、すぐに駆けつけたのさ――っ!」
パンスト怪人たちを次々と薙ぎ払いながら、サムゥとゴージャスマンが不敵に笑う。
「このパンスト団とかいう連中はオレたちに任せろ!」
「おまえはあくまでも正義超人として……超人レスラーとしてハイグレ魔王と決着をつけるんだ――っ!」
アポロンマンとジ・アダムスがリングサイドの警戒を買って出る。
試合の外から撃たれる心配はするな、オレたちに任せて安心して闘え――と。
「おまえたち……」
頼もしい仲間の援護に、キッドの胸に熱いものが込み上げる。
正真正銘の1対1となったリング上で、キッドは再びハイグレ魔王へと向き直った。
「キィ――ッ! 生意気なやつらね! いいわ! だったらあたしが直接叩き潰してあげる!」
策略を潰された支配者は理不尽に憤るのがお約束だ。
キッドはルール破りの悪の超人に対して怒りをあらわにする。
「堪忍袋の緒が切れたぜ、ハイグレ魔王……テメェだけは、このテリー・ザ・キッド様がぶっ飛ばしてやる!」
「やってみろや――っ!」
手下の援護を断たれたハイグレ魔王はヤケクソ気味に怒号を上げると、低空から猛然とキッドの腰元へ向けて突進した。
『ハイグレ魔王、正面から鋭いスピア――ッ!」
なりふり構わぬ体当たり。
だがプロレスの素人であるハイグレ魔王のタックルは、超人レスラーであるキッドの目には止まって見えた。
「タックルの基本がなってねぇ!」
キッドは踏み込みと同時に、右膝を相手の顔面軌道上へと鋭く跳ね上げる。
『テリー・ザ・キッド、これを膝で迎撃――っ!』
顔面直撃のニーパット。ハイグレ魔王の表情が激痛に歪む。
「ぐえ~~っ」
自身の加速が自身のダメージを倍加させる装置として使われた。
膝蹴りの痛みはもちろん精神的ショックも大きく、ハイグレ魔王の頭部が大きく跳ね上がる。
「効くだろう、オレの膝は! だが渾身の一撃はまだまだこんなもんじゃねえ~~っ!」
怯んだハイグレ魔王に対し、キッドは間髪入れずにコーナーのロープを蹴って上空へと跳躍。
体重を折りたたんだ両膝に集約させ、斜め上空から魔王の頭部へ向けて一気に降下した。
「テキサス・コンドル・キック――ッ!」
『キッドの膝蹴りがハイグレ魔王のこめかみを穿つ――っ!』
カーフ・ブランディング(仔牛の焼印押し)と同じく父・テリーマンから受け継ぎし必殺技だ。
アメリカはテキサス州に生息する荒鷲をモチーフにした一撃は、宇宙から来た魔王に大空の恐ろしさを伝える。
「あ……ああ……」
脳揺さぶる強烈な衝撃に、ハイグレ魔王の目が泳ぐ。
『ハイグレ魔王、たまらずダウーン!』
うつ伏せに崩れ落ちる魔王を見下ろし、キッドはすぐさま相手の両足を交差させて掴み上げた。
「まだだ! フィニッシュはテリー一族のトラディショナル・サブミッション!」
相手の両脚をガッチリとロックし、背後からステップオーバー。
腰を深く落とし、相手の背骨と下半身を極限まで絞り上げていく!
「テキサス・クローバー・ホールド――ッ!」