アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
さいたまスーパーアリーナの外で繰り広げられたドタバタ劇を終え、テリー・ザ・キッド、バリアフリーマン、そして風間くんと野原しんのすけの一行は、建物内のメインアリーナへと足を踏み入れた。
「さあ~~っ、やってきたぜSSA!」
威勢よく先頭に立ったキッドだったが、目の前に広がる光景をひと目見るなり足を止めた。
「ゲェ――ッ! こいつらは――っ!」
そこに集結していたのは、一言では到底言い表せない“異形の大群”。
全身を漆黒のタイツに包み顔面に大きく“B”の刻印を刻んだ戦闘員、頭にベージュ色のパンティストッキングを被った怪人、テナガザル、遊園地のマスコットをやっていそうなファンシーなキグルミ――総勢400人(匹)(体)を超える怪しげなギャラリーたちが、まるで古代中国の兵馬俑のように直立不動で整列していた。
テリー・ザ・キッド、バリアフリーマン、そして風間くんの3人は特にパンストを被った怪人に注目する。
「こやつらは大宮ソニックシティにもいた、パンスト団ではないか~~っ」
ぞぞぞ~っと顔を青くするバリアフリーマンの傍らで、ひとり彼らと別行動を取っていたしんのすけが呑気に訊く。
「お知り合い?」
彼の友達である風間くんが、ごくりと息を呑みながら答える。
「あいつらはハイグレ魔王の手下のパンスト団といって、その手に持っているハイグレ光線銃で撃たれると男の人も女の人もみんなハイレグレオタード姿になってしまうんだ……」
おおよそ正気とは思いがたいこと言う友達に、しんのすけは若干引いた。
「風間くんにそんなシュミが……」
「僕の趣味じゃない!」
とんでもない誤解を大声で正す風間くん。
警戒を続けていたバリアフリーマンが言う。
「じゃ、じゃがこいつら光線銃を持っとらんし、ワシらに敵意はなさそうじゃぞ」
「本当だ。ブラックメケメケ団や他の連中と並んでただのギャラリーって感じだな」
少なくともいきなり光線銃で撃たれハイレグ姿にされる心配はなさそうだ。
大宮のような悪夢は二度と繰り返されてはいけない。
しんのすけを除く3人は思いを同じくし、パンスト団を刺激しないよう慎重に花道を進み出す。
「とにかくリングのほうへ行こう」
目的地はアリーナ中央にある特設リング。
キッドを先頭にした一団は警戒の上リングまでたどり着く。
そこには、思いがけない人物が腕を組んで待ち受けていた。
「ヨオ、久しぶりだな」
不意に声をかけられ、テリー・ザ・キッドの表情が強張る。
「おまえは……ボーン・コールド!」
リングサイドにいた人物、それはキッドにとって因縁の相手だった。
頭にターバンを巻き、左目に眼帯をつけ、恐竜の指や骨のような意匠を纏う超人――否、“悪行”超人。
ボーン・コールドがそこにいた。
「ノーリスペクト三人衆のひとりにして、ヘラクレス・ファクトリーの同胞ジャイロを惨殺した超人専門のヒットマン! キン肉星の刑務所にいるはずのおまえがなぜこんなところに――っ!?」
テリー・ザ・キッドは即座にファイティングポーズを取る。
聞いていた話では、ここさいたまスーパーアリーナではキン肉万太郎とミートがアクション仮面と闘っていたはず。新手の悪行超人がいるなど聞いていない。
もしやボーン・コールドはキン肉星のプリズンから脱獄し、アクション仮面の背後にいる大魔王サタンと悪行超人同士手を組んだのでは――!?
一触即発の空気が流れる中、しかしボーンの奥から弱々しい声が上がった。
「ま……待ってキッド」
「ミート!?」
そこにいたのは、先ほどまでの激闘によって全身ボロボロに傷つき、野原みさえに介抱されているミートくんの姿だった。さらに、傍らにはしんのすけの父親である野原ひろしの姿もある。
ボーン・コールドのみならず、なぜ野原一家までここに!? そしてミートはなぜ止める!?
「ボーンはボクを猛烈に敵視するアクション仮面から救ってくれたんだ。少なくとも、今は敵じゃない」
「ボーンがミートを救った……!?」
ミートにとって、ボーン・コールドは実の父親・ミンチの仇であるはず。
その彼が仇敵を恩人と庇う姿に、キッドは戸惑いを隠せないでいた。
「そういうことだ。お仲間の仇が討てなくて残念だったなぁ」
不敵な笑みを浮かべるボーン・コールド。その様子からして、かつてのチェック・メイトやスカーフェイスのように正義超人に鞍替えしたとは思いがたい。
とはいえミートが嘘をつく理由もないはず。キッドはぐっと拳を握り締めながらも、警戒を解いた。
緊張感を破るように、ボーン・コールドはしんのすけに声をかける。
「ところでボーヤ。おつかいがちいとばかし遅かったな。万太郎はもう手遅れかもしれねえぜ……」
「お?」
「見てみろ」
ボーン・コールドが顎でしゃくった方向へ、しんのすけ、そしてキッドが同時に視線を向ける。
「あ……あああ~~っ!?」
思わず叫んでしまったのはキッドだ。
そこに広がっていたのは……ある意味では絶望的な光景だった。
戦場であるはずのリング。その真横に場違いなホワイトボードがドンと置かれ、いつものスーツを黒く染めたアクション仮面がサインペンを教鞭のように振るっている。
そしてその真ん前で、どこからか持ってきた机につき熱心に話を聞いている若者こそ――ほかならぬキン肉マンⅡ世、キン肉万太郎その人であった。
「で、あるからして……現代の正義超人の闘い方は悪辣、残虐、教育に悪いと三拍子揃った醜悪なものなのだ」
「う~ん、たしかに内蔵とか骨とかよく飛び出しちゃうしな~~っ」
「そう。たとえるなら少年漫画と青年漫画……『週刊少年ジャンプ』と『週刊プレイボーイ』くらいの違いが、旧正義超人と現正義超人にはあるのだ」
「ははあ~~っ。子供も見るゴールデンタイムのテレビアニメと夜のプロレスごっこが許される『漫画アクション』の違いみたいなものか」
「そのとおり。そして私が目指す真・正義超人は、旧正義超人の良いところを踏襲しつつ、コンプライアンスにも配慮したクリーンなファイトを信条とする。さあ、君もアクション仮面と一緒に真・正義超人を名乗ろう!」
「うおおお~~っ! なんだか興味が湧いてきた~~っ!」
アクション仮面が万太郎相手に真・正義超人のなんたるかを講義している……!
しかも万太郎はノリノリでそれを聞いている……まるで悪徳セミナーに引っかかった若者のように!
キッドはたまらず怒鳴り声を上げた。
「コラ――ッ! 万太郎! なに敵に言いくるめられようとしてやがる!」
「あ、キッド」
キッドの怒声にも動じず、万太郎はのほほんと振り返った。
「いや~、でもアクション仮面の講義って説得力があってさ。ボクら21世紀超人の闘い方って子供の教育に悪いなと」
万太郎の言葉に、隣で聞いていたバリアフリーマンが複雑そうに頭を掻いた。
「たしかに屁をかますのは優しいもんで、時には大便や小便が飛び交い、場合によっては痔まで利用するからのう」
「だいたい万太郎とバリアフリーマンじゃねえか」
「痔だって父ちゃん」
「なんで俺に話を振る」
子供への教育の悪さに関しては思うところがあるバリアフリーマン、同じ
いや、痔のことは一旦忘れよう。
ひろしは頭を振ってから言う。
「し、しかしあれだけやる気になっていた万太郎くんがたかが講義のひとつで考えを変えるだなんて……さすがに演技じゃないか?」
「そ、そうよねぇ。敵を騙すにはまず味方から、なんて言葉もあるくらいだし」
万太郎の性格をまだよく知らない野原夫妻は、疑わしげにそう考えた。
だが、彼の従者であるミートくんの意見は違う。
「いえ、Ⅱ世は昔から純粋なところがあるので……ああやって理路整然と説き伏せられると、ころっと騙されてしまうんですよ」
「ミートくんも苦労しているのね……」
本気のため息をつくミートくんに、手のかかる子を持つ主婦みさえは同情する。
万太郎に手を焼かされているのはなにもミートくんだけではない。友人であるキッドも同じだ。
思い出すのは“
当時の苦労を思い出し、キッドが唸る。
「くそ~~っ、あの脳みそスポンジ野郎め。そういうことなら……ヘイ! しんのすけ!」
「ほ~い」
キッドはしんのすけ頭の高さまでしゃがみ、ひそひそと耳打ちする。
「お~。そちもワルよのう」
「ODAIKAN様ほどじゃございやせん」
「アメリカ超人がなに言ってるのさ」
しんのすけとキッドの時代劇的なやり取りを見て呆れる風間くん。
はたしてキッドはなにを囁いたのか、しんのすけを肩車し立ち上がった。
「よし、いくぜ!」
キッドの肩に乗りながら、しんのすけは右腕をぐるぐると回す。
「うおお~~っ! スケスケおパンツローリングサンダー!」
謎のかけ声と共に手に持っていた“ソレ”を投げ放つ。
しんのすけが投げ放ったものは放物線を描いて万太郎のもとへ。
「あで――っ!?」
見事万太郎の後頭部に命中し、キッドはこっそりガッツポーズを作った。
万太郎は一瞬我に返り、頭にぶつかったソレを手に取る。
「こ、これはしんのすけくんに頼んでいた……!」
そうだ。自分がアクション仮面の抗議を聞いていたのはあくまでも時間稼ぎのため。
アクション仮面との試合を成立させるためのキーアイテム――その調達をしんのすけに頼んだのだった。
「見ろ! アクション仮面!」
「なんだ?」
万太郎は手の中のそれをホワイトボードの前に立つアクション仮面に見せつける。
それはありふれた飲料缶――だが。
「なっ……そ、それは!?」
アクション仮面が驚き目を見開く。
万太郎が翳す飲料缶のラベルには、なんとアクション仮面の絵がプリントされていたのだ。
そしてさらに、商品名であろう文字列は日本語ではなく――ハングル文字。
「昔、韓国でのみ限定発売された……アクションビール!」
そう――テレビ番組“アクション仮面”はお隣の国でも大人気。ゆえに、こういったレア商品が開発されることもままある。
テリー・ザ・キッドは商品を購入したバリアフリーマンに言う。
「表の店ってクラフトビールの店じゃなかったか?」
「あっちのほうが絵的にわかりやすいと思ってのう」
クラフトビールであろうとアクションビールであろうと問題はない。
重要なのは、そしてアクション仮面にとって見過ごせないのは、それが“酒”であるという点。
「ま……まさか……やめろ万太郎くん! それがなにを意味するのか、わかっているのか~~っ!?」
このあとの万太郎の行動を予測し、アクション仮面は顔を青くする。
「へっへっへ……アクション仮面。君はボクとは闘えないって言ったよね」
万太郎は口角を歪め、缶のプルタブをプシュッと開けた。
「だけどボクがこんな悪いことをするやつだとしたらどうかな――っ!?」
そのまま天高く缶を持ち上げ、一気に逆さにしたのである。
当然、中の液体は滝のように外に流れ――万太郎があ~んと開けた大口の中に収まっていく。
口から喉へ、喉から胃へ。体内へと消えていく麦酒。
その行為を、人は“飲酒”という。
「あ……あああ――っ!?」
未来ある若者が……未成年飲酒を!
衝撃的かつ絶望的な光景に、アクション仮面は愕然とした表情を浮かべるのだった。