アクションバース “キン肉マンⅡ世VSアクション仮面” 作:速筆魔王LX
アクション仮面はわなわなと拳を震わせる。
「は……
目の前で期待していた若者が未成年飲酒を行う。
アクション仮面としてはまさに「う…うらぎられた!!」といった心境だ。
「それなのに、そんなに堂々と酒を煽るなど……正義にあるまじき蛮行だ!」
怒りのままにリングへ飛び上がるアクション仮面。
そのままビシッ!と万太郎を指差した。
「万太郎くん……いや! キン肉万太郎! 貴様に正義を名乗る資格はない! ミートよりも先に、このアクション仮面が粛清してやる――っ!」
名指しされ、振り返る万太郎。
その顔は真っ赤に染まっていた。
「ああ~~っ?」
チンピラのような眼光を放ち、酒臭い息を吐く。
「うるせー! 変なマスクしやがって! このオレ様にケンカ売るってのか!?」
「へ、変なマスクだと!?」
マスク超人の命であるマスクをディスるとは……自身もマスク超人のくせに!
アクション仮面は無意識に歯ぎしりしてしまうほどの怒りを覚えた。
豹変した万太郎を遠目に見ながら、テリー・ザ・キッドとミートは視線を交わす。
「ミート……これは」
「ええ。あのときと同じです」
「なんじゃ? どのときじゃ?」
ふたりに比べて万太郎との付き合いが浅いバリアフリーマンは知らない、“あのとき”のエピソード。
キッドは語る。
「ヘラクレス・ファクトリー一期生二期生入れ替え戦でスカーフェイスと闘ったときのことだ。万太郎は前日に酒を飲み、酔っぱらったまま試合に臨んだ。酒の力でビビり癖が消え、強気になった万太郎はスカーに対しても一気呵成に攻めていったんだが……」
キッドの言葉にミートが続く。
「今回は弱気を吹き飛ばすのが目的ではなく、未成年飲酒という悪行を働くことでアクション仮面に己を敵視させることが狙いでしょう。上手く勝負の舞台には引っ張り出せたけど……本気で酔っぱらっちゃってるのが心配だ……」
悪を許さぬアクション仮面のこと。相手が法律を破る悪童とわかればさすがに敵意を持つだろう。
問題はやはり、万太郎の酔い具合である。
「おらー! ようやくその気になったってんならやってやろうじゃねえか!」
酒気を帯びた顔は赤く、態度もいつもとは違う。
しかし足取りはしっかりしているようで、軽やかな跳躍でアクション仮面のいるリングに飛び移った
『普段の万太郎とは思えぬ勇ましい言葉遣いで今、リングイーン!』
リングに上がった万太郎は、空になったアクションビールの缶をあさっての方向に投げ捨てた。
未成年飲酒に加え、ポイ捨てまで……!
「もはや許してはおけん! レフェリー! 早くゴングを鳴らしてくれ!」
アクション仮面は春日部スタジアムと中継が繋がっているカメラに向かって言う。
宇宙超人委員会がジャッジマンとして座る本部席では、しかし最高責任者のジャクリーン・イケメン兄妹がNintendo Switchを手に目を離しているところだった。
「あら、いつの間に」
「ジャクちゃんボンビーつけるのやめて~~っ」
休憩は終わり。ジャクリーンは一兆円稼いだプレイ記録をスリープモードにし、木槌を手に取った。
「レディ~~ッ、ゴ~~ッ!」
それをゴングに叩きつけ、カァ~~~~ンと音を鳴らす。
『さあ~~っ! しばらく中断しておりましたが、いよいよキン肉万太郎vsアクション仮面の一戦がスタートです! 宿命のライバル・ケビンマスクをあと一歩まで追い詰めたアクション仮面に対し、キン肉マンⅡ世ははたしてどう立ち向かうのか~~っ!?』
ゴングが鳴ったと同時に、まず万太郎が吠えた。
「ウオオオ――ッ!」
『あ~~っと万太郎、いきなりジャングルの王者がごとき豪快なドラミングを見せる――っ』
固く握った拳で己の胸板をドコドコドコとリズムよく叩く。
動物モノのアニメなどで見たことがある仕草に、幼稚園児の風間くんとしんのすけがワッと沸く。
「ドラミング! ゴリラがよくやるやつだ!」
「おお~! まるで怒ったときのみさえみたい!」
げ ん
こ つ
「誰がゴリラみたいじゃ」
しんのすけが頭にたんこぶを作り、死体のように転がった。
アクション仮面が幼児たちに呼びかける。
「違うぞ、よいこのみんな! ゴリラのドラミングは本来手をグーではなくパーで叩くもの! その目的も多くはコミュニケーションであり、怒ったときにするものではない!」
大人とは子供に正しい知識を与えるのが役目。たとえそれが試合中であろうとも、間違いは正さなければならない。
「へ~。そうなんだ~」
「母ちゃんは怒ってたしグーだったゾ」
感心する風間くんとたんこぶを擦るしんのすけ。
アクション仮面は子供たちの素直な反応に満足し、万太郎に向き直る。
「子供たちに間違った知識を植えつけるとは、やはりキン肉万太郎は悪行・正義超人……」
しかし、しんのすけや風間くんに声をかけた一瞬の隙――そこに万太郎の足が飛んでくる。
「オリャ――ッ!」
「ガッ!?」
『あ――っと万太郎、アクション仮面が後ろを向いていたところにフライング・ニールキックをぶちかます!』
振り返ったところにキックの直撃をくらってしまい、アクション仮面は背中から倒れた。
『アクション仮面、いきなりダウンを奪われてしまった――っ』
先制は万太郎。しかもそれは、正義超人にあるまじき不意打ち紛いの一撃だった。
アクション仮面が衝撃に身を縛られているその隙に、万太郎は仰向け状態の対戦相手を転がす。
うつ伏せにしてから仕掛ける技は――インディアン・デスロック。
『万太郎はその隙にアクション仮面の足をロック……続けて首も捕らえていく――っ!』
背中合わせとなったところで両手をアクション仮面の首にかけ、そのまま引っ張り上げる形で強制的に立たせる。
首と脚を同時に極め、さらに体が弓なりになったことで背骨へもダメージが浸透するこの技は――
「見さらせ! これがマンタロー一番搾りじゃ~~っ!」
『こ、これはスタンディング状態で仕掛ける鎌固めだ――っ!』
相手の首と背骨、両脚の大腿骨を同時に破壊する拷問技。
万太郎の技レパートリーの中でも格別に強烈なサブミッションを、まさか酔っ払った状態で仕掛けるとは!
『アクション仮面の体が弓なりに~~っ! 飲酒パワーでまさかの早期決着か~~っ!?』
苦しそうに顔を歪めるアクション仮面。
だが超人レスラーとしてのデビューを決めて以降、彼はこういった関節技への対策も身に染み込ませてきた。
「グゥ~~ッ、ナメるな!」
アクション仮面は自身の首にかかる万太郎の手を掴み、持ち前のパワーで強引にそれを振りほどく。
「酔っぱらいの関節技など、私には効かん!」
『万太郎のクラッチを振りほどき、アクション仮面が反撃に移る――っ』
万太郎の体勢が崩れたところへ、アクション仮面が拳を振りかざす。
相手はやはり酔っ払い。常の試合に比べ腰が引けている。平衡感覚が狂っている証拠だ。
「ほうら背後ががら空きだ!」
必殺アクションパンチで脊髄を破壊してやる!
そう意気込み腕を引くアクション仮面だったが、
「へ、へ、屁が出る」
後ろを向く万太郎はさらに腰を引いた――というよりも、ケツを突き出した。
いつも愛用しているロング丈のレスリングパンツ、それを下にずらし、アクション仮面に生尻を見せたのだ。
声もなく仰天するアクション仮面の顔面に――ブフォォンッ!
「ウボォッ!?」
爆音と共に飛び出した“屁”が、アクション仮面の鼻を襲った。
「クサ~~ッ!?」
この世の終わりのような悪臭……は、鼻が曲がる!
『あ――っとアクション仮面、今日一番の苦痛の表情!』
これではアクションパンチどころではない。握っていた拳は鼻を摘むために使われた。
ヨロヨロとよろめくアクション仮面に、万太郎が丸出しにした尻をぺしんぺしんと叩いて挑発する。
「あびゃびゃ~~っ! どうだ! 前日に食べたニンニク増しカルビ丼バズーカの威力は!」
まさしく酔っ払いのような高笑いをして嘲る万太郎。とても超人レスリングの試合中とは思えない振る舞いだ。
「グオオ……!」
アクション仮面は立っていることすら困難になり、鼻を指で摘んだままキャンバスの上をゴロゴロと転げ回った。
キン肉万太郎の試合にそれほど馴染みがない風間くん、しんのすけ、ひろし、みさえは皆一様に冷ややかな目で見ていた。
「しんのすけみたいなやつだな」
「オラあそこまでひどくないゾ」
「こりゃたしかに教育に悪い」
「しんちゃんはあんな大人になっちゃダメよ」
「すいません、ウチのⅡ世が」
春日部の人々に頭を下げるミートくんの表情は、心底恥ずかしそうだった。
その横で、ボーン・コールドが口に煙草を咥えながら言う。
「戦法はお下劣だが、これは大チャンスだぜ」
オナラだろうとなんだろうとアクション仮面が隙を晒しているのは事実。
酔っている万太郎にもそれはわかっているのか、アクション仮面を無理やり起き上がらせる。
『万太郎、呼吸もままならない様子のアクション仮面に組みつく――っ! なにをするつもりだ――っ!?』
万太郎はヨダレを垂らした酔っぱらいの形相で、アクション仮面の手首を取った。
左手で右手首を掴み、右腕で右足を取り、右脚で右肩を挟み、左脚一本で立つ。
「くらえ~~っ。キン肉族秘伝中の秘伝」
仕掛けるのは、まるでパズルのような立ち関節。
アクション仮面は極限まで両脚を開いた形で真横に固められ、一瞬で身動きが取れなくなる。
はたして自分はいまどんな体勢になっているのか、それすらわからないような複雑なホールド。
キン肉族局中秘伝とも呼称されるそのサブミッションの名は――
「キン肉スペシャル――ッ!」