オリジニウムをコラボ先にばら撒アークナイツ! 作:まっすァき
社長室に続く最後の曲がり角……その通路をゼプトスターが通過する瞬間に、乾いた銃声が一回鳴った。
頭に向けて放たれたその一撃は、確実に命を刈り取るものだ。
「ゼプトスター社長、あなたはやっぱり……人間じゃない」
後頭部に命中したはず、とジェーンは確信を持って自問自答した。確実に弾は頭を貫通したはずなのに、出血すらしていないからだ。
向こう側の景色がただ見えるだけで、目の前の存在にとってこれら負傷とすら数えられないような、軽微な損傷なのではないか、とさえ思えた。
「あー、あー、わあ、そうか……撃たれたのか」
「褒め言葉で人間じゃない、と言うのは不適切だね」
「でも、褒め言葉じゃないなら適切だ……実にね」
弾丸が貫通した状態でゆっくりと振り向き、平然とした様子でゼプトスターは話した。
「……はあ、君って何処かから派遣されたスパイだよね? うーん、やっぱり人事をやらかしちゃったかぁ」
人間であれば脳みそが入っているはずの頭。指一本分ほどの太さの空洞が開いたそこに、内側からは黒曜石のような輝きしか見受けられなかった。
「これは、だいぶ状況がクソだね!……いやあ一体どこで気が付いたんだい? 結構完璧に偽装したはずなんだけどなあ……! これ、気がついたのは君が初めてだ!」
「そうさ、私は人間じゃない……だけど、本当は知能機械人さ! 嘘じゃない!」
「だから血が出ないし。ほら、どこにでもいるようなボンプと同じさ。知能構造体で……ちょっと人間って名乗っただけでさ、私はキッチリ禁断の果実テストを通過し───」
その言葉を、ジェーンは否定で遮った。
「いや、あなたは知能機械でもない。もしも機械なら、頭にこそ膨大な部品があるはずだし、なにより、私は……あなたの正体を知っているわ」
「ずうっと監視していたけれど……あなたは数時間以上、時には一週間ほど社長室から出てこなかった。そして、人間じゃない決定的な証拠は沢山あったし、『どこかに隠し部屋がある』んじゃないか、と疑念を抱くのには充分な様子だったわ」
平静心を保ちつつ、ジェーンは喋った。
「社長室の手前、最後の曲がり角を移動する時は、監視カメラの死角から出てくる」
「カメラの映像に誤魔化しが入っている、なんて分解してデータを抜かなければ分からなかったかもね」
「修正してみると、歩いてきたハズの場所……少なくとも一直線で、カメラの死角なんて無いはずの長ーい廊下。ここに社長は居ないと分かったわ」
「いくら記録された映像を巻き戻しても、ね」
「このどこもかしこもガラス張りの本社を建てた会社は、プリースティス社の同族会社」
「つまりあなたなら……図面に載せない秘密の隠し部屋なんて、例えそこがどこであっても、いくらでも作れるはず」
「床の素材は曲がり角の床で、なぜか材質が違くなっていた。そう、そこを調べてみると案の定……地下へと続くハシゴがあったわ」
だんだんと、断面は再生していく。額を黒い結晶が塞いでいき、瞬く間に活性源石の凹凸は消滅した。
ジェーンにはどんな理屈かさえ理解できないが、一瞬にして人間の皮膚とそっくりの見た目へと変わる。
「いやあ、だから奇襲できたんだね。概要を話してくれてありがとう。なるほどね? そうして地下のアーツ研究施設に潜入して……私の正体を知った、ということかな?」
「ええ。概ねそんなところよ」
両者の間に緊張が走る。経験上、こういう場合には何が起きるか。ジェーンは完璧に予測を立てられる。
「なら……私が扱えるアーツについても知っているのかな?」
赤黒い閃光が、灯った。
ブォンと縦に振られた、レーザービームのような……ただし、文脈からしてアーツであろうモノ。
それが命中すればどうなるかは、背後で容易く融けながら切断された壁を想えば明らかだった。
(早い!)
オゾン臭がするほど高温で、なおかつ圧倒的に早かった。ジェーンが避けられたのも、積み上げた経験という名のカンによるものだった。
(今のが横薙ぎに払われていたら……)
「おお、さすがは鼠のシリオン。体を捻って避けてみせるとは。素早さは並桁外れた……いや、どこかの諜報機関で育てられたコトの賜物かな?」
「おっとおっと、そういえばコンプライアンスがあるのか。危ない危ない、シリオン差別なんてしたら大炎上しちゃうな」
「でもね、今のところ私が無駄話をしている理由は特にないんだけどさ」
「一人消せば露呈した情報も本当に隠蔽可能なのか? という問いを私の中に生まれさせたことは褒めてあげようじゃないか。本当に……実に素晴らしい手腕だった」
「君が撃った時にさ、気配もなかったし、まさかここで銃撃されるなんて思ってなかったからさ。裏切りかと思ったりしたんだけど……精神感応に反応しないし、これは誰かな? って焦ってさあ」
「君、どうせどっかのスパイだし偽名だよね。ネズミちゃん」
軽薄なふうに、話しかけるゼプトスター。今すぐ殺すのもまずいと考えたのだ。トークで情報を最大限に引き出す、あわよくば味方にしたいという判断があった。
(精神感応……?)
「実はさ、今のところ君に対して勧誘を行いたいなと思ったんだ」
「今のはちょっとしたテストさ。避けられなかったら、まあそれはその時だよね?」
「敵対関係を辞めないか?」
「雇用、あるいは契約という関係になるのはどうかな。ああ、もちろんプリースティス社で雇うことはできないんだけど……」
「研究所でさ、君を迎え入れるとかそういうことをしてもいいかなって前向きに私は思ってる。引き続き特務スタッフとして、アーツの研究に携わることも許していいかなっていう気持ちさえあるんだ」
常日頃、無意識に無数の嘘を重ねる天性の嘘つき。
そんなゼプトスターが自覚するほどに、これは真っ赤な嘘だ。
「もちろん。どこの組織からやってきたのか、スタッフとして働くなら───」
勧誘の言葉を吐くも、ジェーンは拒否してみせた。
「あいにく、私はオリパシーに罹患する条件を知っているし、それがどんなことを意味するのかさえ知っているわ」
「どうやって知ったのか、知的好奇心が湧いてくる? それとも、今ここで私をそのビームで消して、知らないままにする?」
速やかにジェーンは、トークの主導権を掌握した。『前情報』と同じように、ゼプトスターはとにかく多くの情報をポロポロと漏らす。
……つまり、揺すれば揺するほど、焦らせるほど知らない情報まで喋ってくれると判断したのだ。
「……もしかして、アーツや精神感応についても……相当なところまで知ってるのかな?」
(ここは、断言すべきか)
「黒いラベルの注射器を刺されると、アーツという力が使えるようになる。音動機も武器もなしで、雷を出せたり……炎を出したり操ったり」
「そして、あなたに関連する考察なんだけど……あなたには感情や記憶を読み取る力があり、思考を誘導する何らかの手法が条件付きで存在する。」
「オリパシーに罹患することで、そのアーツの対象となる。そしてあなたが精神感応と呼んでいる……実態としては、思考の誘導や記憶の読み取りなどに近いモノができるようになるし、逆接的に言えばオリパシーにならなければ対象ではない。 正解?」
(こいつ! 確実に二型機密事項を見ている!)
(ということは特務部隊の持つアーツユニットについても知っていると考えて良い。どうすべきだ? どうすべきだ?)
(殺したところで、どうせ協力者が内部にいる……捜査を開始しなければならないし、対処をしないと……ああああ!)