「評議会には、ヴァレックを重要参考人として保護した。彼の供述から元老院議員複数名への贈賄及び犯罪組織との繋がりが判明した。共和国エージェントが物証を確保したため、早急に元老院議員の身柄確保を要請する──そこまでですね。かなり省略しましたが」
「十分だろう」
「十分ではありません。何時も以上に(強調)省略しすぎています」
「だが必要な情報は入っている」
「必要最低限しか入っていないと言っているんです」
「同じことだ」
「違います」
『僕はマスターの言ってることの方が正しいと思います! そっちの方が面倒な事になりません!』
「アナキン。今は黙っていなさい」
『はい、オビ=ワン』
素直に引き下がる今まで師と兄弟子の会話から学んでいた弟弟子に、オビ=ワンは小さく息を吐いた。
「……分かりました。私が文章を整えます」
「助かる」
「ただし、虚偽は書きません」
「当然だ」
「聞かれていないことを書かないだけです」
「ああ」
『それなら嘘ではありませんね。流石はオビ=ワン! こういう風にやるんだって勉強になります』
「………………アナキン」
『はい、オビ=ワン』
「今のは、あまり積極的に覚えなくていい」
『でも、オビ=ワンがそうするなら、必要なことなんですよね?』
「…………」
弟弟子を溺愛している自覚のあるオビ=ワンは、尊敬一色の眼差しを向けてくるアナキンに、何も言い返せなかった。
『マスターもオビ=ワンも、困っている人を助けるために必要なことをしているんでしょう?』
「……そうだが」
『なら、僕も覚えます』
「……覚えなくていい」
『…………はい!』
もう覚えましたというアナキンの返事だけは、とても素直だった。頭痛を堪えながら、オビ=ワンは報告書の作成画面を開く。
元老院議員との不正な関係を自白したヴァレック現地法人CEOを重要参考人として確保。
共和国エージェントが、複数の元老院議員による不正を裏付ける証拠を確保しコルサントに届ける。
証拠及び重要参考人の安全確保を最優先と判断し、現在地を秘匿したまま一時的に退避する。
情報漏洩を避けるため、本件に関する詳細は通信では報告しない。
併せて、関係する元老院議員への早急な捜査及び身柄確保を要請する。
そこまで入力して、オビ=ワンは手を止めた。
解放された六百万人については──書かない。
十八隻の大型輸送船についても──書かない。
四十八機のスターファイターについても──書かない。少なくとも、今は。
彼らを安全な場所へ移し、食料と住居を確保し、十八隻の輸送船を使って運輸事業を立ち上げ、アウター・リムで実際に荷を運び、自力で生活できるだけの収入と実績を作るまでは。
そこまで出来た時に、改めて詳細を報告する。
その時には、この十八隻はただの出所不明な証拠品ではない。六百万人を養い、アウター・リムの物流を支える生活基盤になっている。
──実にクワイ=ガン・ジンらしい考え方だった。
制度に認めてもらってから人を救うのではない。
まず人を救い、現実を成立させ、その現実を制度が認められる形へ持っていくクワイ=ガンらしい手腕と考えであり、だからこそ評議会とは何かと衝突し、評議員にならなかった──あるいは、なれなかったのだ。
「………………………………」
その手伝いをしている自分も大概だった。
自分たちを追撃してきた秘密武装組織についても、この報告書には書かないが、こちらは意味が違う。
共和国エージェントたちが、議員不正の物と一緒に確保した証拠と調査記録を持ち、司法省の信頼できる人物とメイス・ウィンドゥ本人へ直接届ける手筈になっているから、これは間違いなく届いて評議会の知るところになる。
先の元老院議員不正に関する連絡を聞けば、メイス・ウィンドゥならばどんな事をしてもエージェントたちと合流してくれる確信があるからだ。
『マスター・ウィンドゥなら安心ですね。セラとも気が合うでしょうし』
同じく確信したアナキンの声に、セラとは軽く挨拶しただけのオビ=ワンが眉を上げる。
「そうなのか?」
『はい、セラはマスター・ウィンドゥと一緒で共和国を愛していて、その為に法と市民を護ろうとする人ですから。だから、マスター・ウィンドゥと一緒で共和国の人たちが危ないって分かったら、今回のように絶対に放っておきません。元老院議員が共和国を裏切ってるって知ったら、僕たちより怒ってました。マスター・ウィンドゥもそうなるでしょうし』
「それについては同感だ。なら、間違いなく気が合うな」
『ええ、間違いなく』
四年前は厳格なジェダイとだけ見なしていたメイス・ウィンドゥに対する評価を、アナキンは此処四年間で一変させていた。
クワイ=ガンと一緒に任務をこなす中でとてもとても叱られながら成果を認められ、その度に任務報告でクワイ=ガンとメイス・ウィンドゥが交わす討論を聞いてきたことで、その厳しさの根底にあるものをよぉぉぉく理解したからだ。ついでに、よく任務を共にしたオビ=ワンも。
メイス・ウィンドゥは厳格だった。規則にも、ジェダイにも、そして何より自分自身にも。だが同時に、共和国を誰よりも心から愛する男だった。
クワイ=ガンとは規則において、何度も意見を違えた。だが、何故そこまで厳しく規則を求めるのかといえば、それが法であり、共和国と、そこで暮らす人々を護るためだからだ。
アナキンは、その愛するものの為に動く在り方に共感さえ抱いている。
共和国の法を食い物にする元老院議員と、共和国の把握していない軍事力を蓄えている者たちがいる。そんな事実と証拠を彼の目の前へ持っていけば、後は心配する必要などない。必要なことは全てしてくれるだろう。
コルサントでやるべき事をしてくれるという点で、メイス・ウィンドゥほど信頼できるジェダイもそうはいなかった。
共和国という愛する存在を護るためならば、メイス・ウィンドゥは躊躇わずにするべきことをする。 アナキンもオビ=ワンも、そのことについて疑ってさえいなかった。
もっとも、メイス・ウィンドゥのもとへ届くのは、元老院議員の不正と秘密武装組織についての情報だけである。六百万人と十八隻の輸送船、四十八機のスターファイターについては、セラたちにも共和国側への報告には含めないよう頼み、了承を得ていた。現地治安機関だけでなく元老院内部からの情報漏洩まで疑われている以上、彼らの安全が確保されるまで所在と規模を知る者は少ない方がいい。実際にその情報漏洩に苦しめられてきたセラたちにも、異論はなかった。
そうして元老院議員の不正を示す証拠がメイス・ウィンドゥの手に渡った後、彼がどう動くのか。それを考えたオビ=ワンが、ふと思いついたように口を開いた。
「…………元老院議員を逮捕するかもな」
『それは、流石にしないと思いますよ。相手は、元老院議員ですよ……任意同行の事情聴取か、身柄確保という名のオフィスにジェダイ滞在が限界じゃないでしょうか』
「はは、そうだな。分かっている。ジョークだよジョーク」
『ですよね』
それはそれとして「流石に星系や大企業の代表たる元老院議員相手だから、いきなり逮捕はしないよね」という弟子たちの常識的かつメイス・ウィンドゥの硬骨を甘くみた考えを、メイス・ウィンドゥを良く知るクワイ=ガンは嗜めた。
「いや、するだろう。彼なら。司法省から正式に身柄確保を依頼されれば、元老院議員だろうと躊躇なく踏み込む。そして、セラと彼女が信頼する上司が依頼しないはずはない。七人もの元老院議員が一挙に逮捕か、いや、七人で済まないだろうな──政界が荒れるな。分離だの何だの議論が吹き飛ぶかもしれん」
その発言に、「敬愛するマスターの言う事とはいえ、相手は元老院議員ですよ。しかも七人もの元老院議員」と疑いの目で見るアナキンとオビ=ワン。半月後、彼等はホロネットのニュースにマスターの慧眼とメイス・ウィンドゥの硬骨っぷりに驚愕する事になる。
──もっとも、そのクワイ=ガンですら一つだけ読み違えていた。
メイス・ウィンドゥが動くことについてではない。 それは正しく読んでいた。
具体的には、メイス・ウィンドゥはセラたちと会い、情報と身柄確保の依頼を受け取り、心の黒手帳を埋め尽くしながら読み終えるや否や、コルサントに居たジェダイを呼び出し司法省職員と共に元老院議員のオフィスへ逮捕(※身柄確保ではなく)のために向かった。
相手が超大物である現職の元老院議員、それも七人ともなれば「評議会の正式決定を待った方が」「せめて議長府へ一報を」と尻込みする弟子にして評議員のデパを含めたジェダイたち(※ちなみに、オビ=ワンやアナキンがその場にいても同じように尻込みしました)を、メイス・ウィンドゥは「司法省から正式な身柄確保の要請が出ている。共和国法に基づく犯罪捜査だ」と一蹴し、自ら先頭に立って踏み込んだ。
同行した司法省側も最初こそ「身柄確保をお願いしたのですが」と若干面食らっていたものの、逮捕できるだけの証拠も法的根拠も揃っている以上、止める理由はない。それどころか、普段から政治的配慮だの議員特権だので散々苦労させられる相手へ、ジェダイ評議会の重鎮が自ら先頭に立って踏み込んでくれると分かるや、ノリノリで同行しながら、速やかに依頼書の『身柄確保』を『逮捕』に書き換えていた。
そして、「越権行為だ!」とか「私は元老院議員だぞ!」とか「オンデロンは黙っていないぞ! このように共和国が我々の自治を踏みにじるなら、オンデロンは分離する! オンデロンが分離したら貴様はどう責任を取るつもりだ! (※なおオンデロン政府は『我が星系の代表たる元老院議員が重大な犯罪行為に関与していたことについて深く謝罪する。オンデロン政府は共和国司法当局の捜査に全面的に協力し、再発防止に努める』との声明を出し、分離しませんでした)」とか何とか叫ぶ元老院議員を逮捕して豚箱に叩き込んだ。
かくて、現職元老院議員七人が巨大企業との不正取引への関与により、一斉に逮捕された一件は当然ながら共和国中を駆け巡った。しかも、豚箱で尋問を進めれば、贈収賄、違法献金、犯罪組織との取引、捜査妨害その他諸々が出るわ出るわ。果ては他の元老院議員の関与まで芋蔓式に発覚し、そのたびにジェダイと司法省が踏み込み、また逮捕して豚箱へ叩き込む。そしてまた発覚する。そんな有様で、政界は荒れに荒れた。
大物政治家であろうと容赦なく摘発し続ける司法省とジェダイの行動は市民から喝采を浴び、最高議長パルパティーンもまた「共和国において、その地位を理由に法の裁きを免れる者があってはならない」と迅速な捜査を公に称賛し、荒れる政界にメスを入れると約束し声望を高めた。
そして「共和国の統治が良くなるのなら、わざわざ分離する必要もないのではないか」という声が広がり、分離議論は一時的に下火になった。
此処までは、クワイ=ガンが読んでいた通りであった。そう、此処までは。
違うのはそれからである。
共和国を心から愛し、その法と市民を護るためならば自らの責任で、元老院議員による復讐すら覚悟して動くことを躊躇わない司法省を含む各省庁の実務者たちと出会った結果、同じく共和国を心から愛するメイス・ウィンドゥのハートが鷲掴みにされるとは、流石のクワイ=ガンにも予想できなかったのである。
そして彼らが意気投合した結果、単に七人の元老院議員を逮捕するだけでは終わらず、評議会の正式な決定を待つことさえなく、共和国実務者とジェダイの間に直接の情報交換と協力関係を作り始めることになるなど想像だにしていなかった。
──そんな未来がコルサントで待っていることなど、今の三人が知る由もない。
自分たちの報告と、次会った時に「ジェダイを誤解してたわ!『議員、貴方を逮捕する。』には震えた」と歓声を上げるセラたち共和国実務者とメイス・ウィンドゥとの出会いが、共和国政界と共和国システムそのものに激震を走らせるとも知らずに、クワイ=ガンたち(主にオビ=ワン)はせっせと報告書を仕上げていく。
秘密武装組織については、書かない。ただ、この通信に載せないだけで、別の手段で知らせる。
その一方、六百万人と船団については、まず安全と生活基盤を確立する。その後で初めて詳細を報告するから書かない。
そんな報告書を。
この場に居る「フォースの導きに従って人助け優先」な三人は気にもしていないが──この報告書の作り方はジェダイにおいてもサボタージュとか公私混同とか独断専行とか越権行為と呼ばれる代物である………………後にトップのヨーダが「危ういことが多いが、やむを得なかった」にしただけで。
「……………………………………」
書き上げたオビ=ワンは、あまりにも省略しすぎた内容に溜息を付いた──つまり溜息一つで済ましやがった。
『オビ=ワン? どうして送らないんですか? 完璧じゃないですか』
「何でもない」
アナキンの疑問一杯の声に、もう一度溜息をつくオビ=ワンには、後になって評議会から省略しすぎだと怒られる未来がありありと見えていた。
だが同時に、ナブーで何が起きたのかを知る自分には、これ以外の選択肢も思いつかなかった。
嘘は一つも書いていない。
重要参考人を確保したのは本当。
不正の証拠もあるのは本当。
本人の安全確保のため退避しているのは本当。
早急に元老院議員を押さえてほしいのも本当。
──どれも事実だった。
ただし、その重要参考人と共に六百万人の解放奴隷が移動していることも。
十八隻の大型輸送船を率いていることも。
四十八機のスターファイターが護衛についていることも。
共和国の把握していない武装組織から攻撃を受けていることも──この一件だけは別経路でメイス・ウィンドゥへ届くが、この報告書から知ることはできないのだ。
「送信しますよ、マスター」
「ああ」
報告書が暗号化され、ジェダイ評議会へ送信されるのを、自殺志願書を見るような目で見送ったオビ=ワンは一つだけ確信していた。
六百万人を安全な場所へ移し、運輸事業の目処を立てる。秘密武装組織については共和国と評議会に調査を任せる。
そこまで終わればコルサントへ戻り、今回の一件を洗い浚い報告する。
きっと、その報告こそが今回最大の厄介事になる、と。
──この時のオビ=ワンは、本気でそう思っていた。
まさかこの後、何か月にも渡ってコルサントへ帰ることすら出来なくなり、その間に報告しなければならない案件が雪崩のように増え続けることになるなど、流石の彼にも予想できなかったのである。
もっとも、その報告について悩む前に、まずは五体満足でコルサントへ帰る努力をしなければならなかった。 そのため、オビ=ワンは早々に未来の報告について考えることをやめた。
ここに至って、クワイ=ガンたちは当初考えていた計画を修正せざるを得なくなったからである。
脱出した直後までは、十八隻の大型輸送船を元手に、六百万人の生活を支えるための運輸事業を立ち上げればいいと考えていた。
船がある。操船できる者がいる。整備のできる者もいる。スターファイターもある。
荷を運び、仕事を請け負い、少しずつ生活を立て直していけばいい。
少なくとも、自分たちで食べていくための足場にはなる。
だが、それは彼らを追う者がいない事、少なくとも四十八機のスターファイターで対処できる程度の相手である事が前提だった。
実際には違った。
共和国すら存在を把握していない秘密武装組織──ツェルカ社のさらに上層、あるいはそこに繋がる何者かが動かしていると思われる戦力──が、彼らを追撃してきた。
しかも、その命令系統はヴァレックすら知らない場所から伸びている。
つまり、逃げ切っただけでは終わらない可能性が高い。いや、複数の星系を支配するツェルカ社の規模から言って確実にそうなる。
仕事を得ても、船を持っていても、それを力ずくで奪おうとする者が軍事力を差し向けてくるのであれば、生活基盤を整えるだけでは彼らの自由を守れない。
六百万人を生活させられる十八隻の大型輸送船は巨大であり、だからこそ守らなければならない標的としても巨大すぎた。
四十八機のスターファイターは決して少ない戦力ではない。海賊や小規模な武装勢力を退けるには十分だろう。だが、共和国にすら存在を隠し通していた組織が、どれほどの戦力を保有しているのかは誰にも分からない。
今回は巡洋艦10隻とスターファイター百二十機だった。だが、次に現れるのが五十機なのか。百機なのかそれ以上なのか。あるいは戦艦まで連れてくるのか。
分からない以上、四十八機もあれば十分だと楽観することはできなかった。何よりも今回逃げられたのはジェダイの力によるものであり、彼らが自分たちだけを守る為には何時までも居られないのだと人々は理解していた。
自由になっただけでは足りない。食べていけるだけでも足りない。その自由を守れるだけの力も必要だった。
十八隻の輸送船に乗る六百万人もの人々は、食べていくための仕事と命を守る為に、正体不明の武装勢力から護れるだけの力を欲していた。
後の世に、分離主義勢力との戦いはこの日から始まっていたと言わしめた一日。
その日がそういう意味を持っていることを、この時点で知っていたのは、銀河でただ二人。
本来ならばまだ表へ出るはずのなかった麾下の戦力を──「逃げ出した奴隷など、手元にある戦力を差し向ければ容易に始末できる」と──勝手に動かした者たちへ激怒し、既に裏でその身柄を確保していたダース・シディアスとダース・ティラナスだけだった。