クワイ=ガンたちがタコダナである程度の生活環境を整えている頃のコルサントにて。
シディアスは、静かにデータパッドを読み終えた。
銀河の表と裏に通じる彼は、他の誰も把握していない今回の件の全貌を掴み、激しい頭痛と憎しみと怒りに襲われていた。
ツェルカ社系列企業による大規模奴隷化計画の失敗。
戦争時に不満層になりえた六百万人の解放。
共和国司法省特別捜査局とジェダイの強制共同捜査。
軍備の一部である輸送船とスターファイターの略取。
まだ表へ出るはずのなかった麾下の戦力の発覚。
証拠を持ち帰ったエージェントとメイス・ウィンドゥの接触。
駒であることすら自覚していない元老院議員たちの一斉摘発。それも、ジェダイと司法省を含めた各省庁の共同によるもの。(称賛せざるを得なかった!)
分離運動の一時的な沈静化。
自分は当然火の粉も被らず清廉潔白な政治家という評価が揺るがないように動いたが、どれ一つを取っても、看過できるものではなかった。
元老院議員を含めて失った物や人はガンレイと比べて替えが効く捨駒だから、痛いことは痛いが取り返しがつかない危険な事では無かった。そう、今回の件で危険なのは失った駒や戦力そのものではなかった。
この件を契機として、証拠を持ち帰ったエージェントとメイス・ウィンドゥの接触から始まった、メイス・ウィンドゥと数人のジェダイが実務者たちと始めた情報交換は──危険すぎる。
メイス・ウィンドゥは、清廉潔白かつ愛国心が強い実務者たち──こうなると分かっていたからメイス・ウィンドゥとだけは顔を合わせないようにしていたのに! ──と踏み込んだ情報交換さえ始めている。
ジェダイを追い落とす為の実務をやらせるべく厳選した、有能かつ愛国者であるが故に操りやすい実務者たち。
彼ら彼女らはメイス・ウィンドゥとの出会いにより、ジェダイに対する評価を一変させた。
彼らにシディアスが誘導して植え付けた認識の中にいるジェダイとは、メイス・ウィンドゥほどの愛国者ではなく、メイス・ウィンドゥほど規則の中で最良を尽くさんとする組織人でもなく、何よりもメイス・ウィンドゥのように『秘密武装組織、いや、謎の軍事組織が存在する現下の状況で共和国の法と治安を十全に護る能力はジェダイには無い』と率直に認め、その改善策を共に討論できる存在ではなかった。
当然、直ぐに意気投合し、彼らとジェダイの交流は急速に拡大している。具体的には各省庁の有能な実務者たちがジェダイと顔を合わせて会合するくらいに。
そして、次回からの会合ではジェダイと実務者双方を増やすと固く約束したほどに。
最早、彼らの頭の中にジェダイを追い落とすなどという考えは欠片もないだろう。ジェダイと協力して共和国を良くするとしか考えていない。
かといって、有能な実務者である彼らを消せば、ジェダイを始末する前に共和国の方が詰む。
それも含めて、シディアスは頭が痛かった。
昨日行われた第一回の会合で、メイス・ウィンドゥが踏み込みやがったから特に。
『ジェダイは平和の守護者であって、共和国の軍隊ではない。そして、現在の我々の人員では共和国全土の航路を守り、海賊を討ち、法を執行し、今回のような軍事組織に対処することは不可能である。だから、共和国自身が、自らの法と市民を守るための恒常的な戦力を持つべきではないか──少なくとも、その是非を検討する段階には来ている』
第一回の会合で、早くもそこまで踏み込みやがったのである。
──そして各省庁の実務者たちは、当然のように応えた。
秘密武装組織に対するジェダイとの共同調査。 司法警備隊の増強。 海賊被害の激しい航路への警備戦力の重点配備。 そして、将来的な共和国直属の恒常的な航路防衛戦力の必要性についての調査と検討。
これら、議長府の承認と既存の行政権限で直ちに着手可能なプランを、メイス・ウィンドゥと共に作り上げたのである。
「ジェダイは話せます! 議長!! 彼らも問題の当事者でした!!! ぜひこの計画にご承認を!!!」と、警備隊の増強やら軍事組織のジェダイとの共同調査やら議員に対する尋問へのジェダイの協力やら何やらのメイス・ウィンドゥのサイン付きプランを掲げながら、今朝、議長府で歓喜に叫んだ官僚を、フォース・ライトニングで焼かないのに多大な自制心を必要としたシディアスを誰が責められようか!!!
…………「素晴らしいプランだね。直ちに進めよう」とにこやかな笑顔で答え、自ら承認のサインまでしてやらねばならなかったのだから、なおさらである。
このままではまずい。
メイス・ウィンドゥは、既に共和国自身が恒常的な戦力を保有する必要性にまで言及した。 実務者たちも同意している。その前段階に自分はサインした!!
この交流が続けば、ジェダイへの依頼は形式上こそ議長府を経由するだろうが、実態としてはジェダイと実務者の間で事前に話のついたものになる。自分が情報を選別し、両者の認識を操作できる余地は急速に失われていく。いや、すでに無くなっている!!
そうなれば、秘密武装組織の背後関係を洗われ、やがて自分が育てつつある分離主義の芽にまで数年で辿り着くだろう。
いや、それ以前の問題だ。
まだ共和国軍を作ろうなどとは、メイス・ウィンドゥも実務者たちも考えてはいない。
今は司法警備隊の増強だの、航路防衛戦力だのと言っているだけだが、あの連中は考える能力がないのではない。まだ、その問いに辿り着いていないだけだ
だから、その議論を真面目に続ければ、最後には必ず一つの問いにぶつかる。
──では、その警備戦力だけで、共和国の知らぬところで軍隊を組織できる何者かに対抗できるのか?
答えは否だ。
共和国軍の創設論が始まるだろう。
共和国が正規の手続きによって軍備を整え、航路防衛戦力を拡充し、独自の指揮系統と兵站を築いてしまえば、来たる戦争に際して突如としてクローン軍を共和国へ与える意味が失われる。
出所も予算も不明な、数年前に亡きジェダイ・マスターが独断で発注したという軍隊。
平時から軍備について議論を重ねているメイス・ウィンドゥと共和国実務者たちが、そのようなものを何の疑問もなく共和国軍として受け入れるはずがない。
そしてクローン軍をジェダイの指揮下へ置けなければ──オーダー66は、その意味を失う。
「いや。それだけではない、な。それで終わるはずがない」
メイス・ウィンドゥは、かつてサイフォ=ディアスが共和国に軍備の必要性を訴えた際にも、元老院の承認なく進められる話ではないと反対したジェダイだ。つまり、軍備の必要性そのものではなく、正式な手続きを経ずに進めることに反対した男だ。
だからこそ、正式な制度を担う共和国官僚たちと共和国の防衛について本格的な検討を始めれば、必ず思い出す。
何故、サイフォ=ディアスはあれほどまでに軍備の必要性を訴えていたのか。
フォースを通じて、彼だけが何らかの兆候を感じ取っていたのではないか。
そう考えたメイス・ウィンドゥならば、亡き同胞が残した足跡を調べるだろう。
そして──カミーノへ辿り着く。
クローン軍の存在が露見する。
共和国のために亡きジェダイ・マスターが発注した、資金源も正式な発注権限も一切不明な怪しい軍隊に。
「…………いかんな、実にいかん」
存在そのものならば、まだ認めさせられる。サイフォ=ディアスは共和国に迫る危機を予見していた。共和国を守るために独断で軍を用意したのだ。彼の遺志を無駄にするわけにはいかないと誘導することは出来る。
だが、戦争は始まってもいない。ジオノーシスでジェダイが包囲されてもいない。今すぐ投入できる軍隊がなければ共和国が滅びるという切迫した状況でもない。そもそも分離主義は、未だ一つの巨大な勢力としてまとまってすらいない。
時間がある。危険極まりない時間があるのだ。有能な官僚たちと、追い詰められていないジェダイたちが、クローン軍を調べる時間がある。
契約を。資金を。発注経路を。遺伝子提供者を。訓練体系を。指揮系統を──そして、クローン兵たちの身体に何が施されているのかを。調べる時間がある。
「…………直ちにジェダイ抹殺プログラムを破棄せねばな」
クローン軍そのものは必要だ。 戦争は起こさなければならない。共和国を滅ぼし帝国へ変えるためには、戦争による大規模な破壊と、それに伴う共和国の権威失墜が必須だ。その戦力として、クローン軍は依然として有用だった。
だが、オーダー66はもう使えない。
ジェダイと共和国が何年もの時間をかけてクローン軍を調査することになるのなら、あの仕掛けを残しておくこと自体が危険だった。
自らジェダイを滅ぼすために仕込んだ刃を、ジェダイに見つけられる前に、自ら折らなければならない。
いや、それでは済まない。クローンに問題無しと分かれば有能な官僚やジェダイたちは、当然共和国軍の基礎としてクローン軍を使おうとするだろう。予算面でも、人道面でも、既に存在するクローン軍を共和国軍の基礎へ転用するのが最も合理的でクローンたちの居場所を作れるからだ。
──つまり、自らの刃であるクローン軍は、ジェダイたちの真の良き戦友となるのだ。
あまりの怒りにシディアスは全身で震えた。
そうなっても、シーヴ・パルパティーンには彼らを止める理由がない。
秘密裏に軍備を整えている正体不明の勢力が存在する。各省庁もジェダイも、その危険性を認めている。だから、共和国の法と市民を守るための戦力が必要である。
その状況で、清廉潔白な理性的政治家である共和国最高議長シーヴ・パルパティーンが、共和国の防衛力強化だけには反対する。
「そんな、馬鹿な真似が出来るはずはないわっ」
ダース・シディアスにとって不利益になる政策を、シーヴ・パルパティーンが支持しなければならなくなる。いや、もうなっている!
「なんということだ……」
シディアスが長い年月をかけて進めてきた計画は、単にジェダイを戦場で滅ぼすことではない。
ジェダイを共和国の行政実務へ深く組み込みながら、その実、政策決定からは遠ざける。
世間から孤立させ、人々にとって身近な守護者ではなく、元老院の意向に従って動く特権的な宗教組織へと変えていく。
そして来たる戦争では軍の指揮官として戦わせる。
血に塗れさせ、共和国の失政も戦争の犠牲もジェダイの責任であるかのように見せ、最後には腐敗した共和国そのものと一緒に信用を失わせる。
そして、その時、ただ一人、信望を集めたダース・シディアスが完璧かつ合法的に唯一無二の最高権力者である皇帝となるために。
「そう、私が、ジェダイを滅ぼした私が、民主主義の砦たる元老院で、民主主義の守護者たる元老院議員の手で、万雷の拍手を浴びながら帝位につく、そうでなければ復讐ではない」
共和国が崩壊するとき、ジェダイもまた人々から見放されていなければならない。
共和国を救おうとする者も、ジェダイを救おうとする者もいない。ジェダイは命も誇りも信頼も愛すらもすべて失って滅ぶ。
即ち、ジェダイの全てを凌辱する状況を作り上げる。それでこそ、初めて千年に及ぶシスの復讐は完成するのだ。
そのために、何十年もかけて盤面を整えてきた。
だというのに!!!
更なる怒りに襲われたが。
「共和国議長にシスがいるという最大の優位は、未だ揺らいでいない。 だから、致命傷ではない……危険止まりだ」
それだけ呟くと、シスの極致たるダース・シディアスの震えは止まった。
怒りは怒り。計画は計画だ。
オーダー66が使えなくなったのなら、別の方法でジェダイを滅ぼせばいい。クローン軍を共和国へ送り込む方法が変わるのなら、新たな共和国軍の制度そのものへ組み込めばいい。共和国とジェダイの距離が縮まるのなら、その関係さえ利用して両者を戦争へ引きずり込めばいい。
戦略の根幹は揺らいではいない。クローン軍の存在そのものも利用できる。共和国の危機を予見したジェダイ・マスターが、共和国を守るために遺した軍事力──そういう物語に仕立てれば、むしろ共和国軍創設論を後押しする材料になる。その上で、共和国軍を作るなら最高議長直属の統合指揮機構が必要だという流れにすれば、幾らでも自分が暗躍する余地はある。
「いや、その方向で動くべきだな。統合指揮機構のトップは最高議長が兼ねる形へ誘導する。戦争を起こし、非常時大権によって任期を延長しながら徐々に権限を強め、最後には政治と軍事、その双方をこの手で完全に握りしめる」
何十年もかけた計画の一部が崩れた。痛手ではある。だが、ダース・シディアスの手札は、オーダー66一枚ではない。既に新たな勝ち筋は見えている。
元老院を動かす術は未だ失われていない。共和国最高議長の座もシディアスのものだ。ドゥークーもいる。企業勢力もある。分離主義という炎も、これからいくらでも大きくできる。クローン軍そのものも失われたわけではない。そして何より、共和国の誰一人として、最高議長シーヴ・パルパティーンこそがダース・シディアスであるとは知らない。
盤面は崩れていない。
駒の配置を変えさせられただけだ。
だから、組み直せばいい。
だが、邪魔者がいる。自分に致命傷を与えかねない邪魔者が。
メイス・ウィンドゥではない。彼は危険止まりでしかない。共和国を心から愛し、その法と制度を守る男である以上、合法的に選ばれた最高議長を証拠もなく敵と見なすことはない。疑念を抱こうと、警戒しようと、共和国法の範囲内でシーヴ・パルパティーンが動く限り、その正統性を無視して反抗することは出来ない。
証拠を与えれば、あの男は恐ろしい。その上で、共和国を脅かす存在だと確信すれば、共和国最高議長だろうと誰であろうと容赦なく踏み込みライトセーバーを抜くだろう。だが逆に言えば、証拠さえ与えなければいい。
彼のように、何を守り、何を許さず、つまりは、その一線が何処にあるかが分かる者は誘導することも封じることもできる──他の者達と同じく。
あの緑の友のように。
フォースへの理解こそ誰より深いが、リビング・フォースの今この瞬間の導きへ身を委ね、そのまま行動へ移すことを忘れた嗤うべき友。慎重に考え、確かめ、ジェダイ全体への影響まで見定める愚かな緑の友──故に、その行動を読んで誘導出来るヨーダと同じく危険止まりでしかない。
問題なのは、行動を予測できない者だった。権力を欲するわけでも、評議会を変えようと企むわけでも、共和国政府を敵視しているわけでもない。
リビング・フォースの今この瞬間の導きに身を委ね、目の前の相手を助けるという、ただそれだけの理由で行動し、結果としてジェダイと共和国と民衆の関係そのものを変えてしまう男。
シディアスの邪魔者はその男一人だけだった。
「……クワイ=ガン・ジン」
シディアスは、ジェダイ・オーダーという象牙の塔の扉を開いた邪魔者の名を低く呟いた。
ただ一人、シディアスにとって、駒として動かせない邪魔者の名を。
シディアスしかまだ認識していないだろうが、この銀河の行く末を決める盤面の中で、クワイ=ガンだけが、シディアスを除く唯一のプレイヤーだった。
メイス・ウィンドゥと実務者たちを巡り合わせたことも含め、あの男がいるだけで計画の歯車が狂い始めている。
共和国政府が腐敗しているならば、政府そのものを敵視するのではなく、その中に残る良識ある者たちと手を組む。
ジェダイが民衆から遠ざかっているならば、自ら人々の中へ入り、奴隷を救い、弱者を守る。
評議会が硬直しているならば反旗を翻すのではなく、結果を突きつけ、彼ら自身に考えさせる。
あの男は計算していないだろう。いや、リビング・フォースの導きに身を委ねているだけだ──かつてのジェダイたちのように。
勝ったジェダイが傲慢により忘れ、敗れたシスたちが屈辱により覚えている、千年前のジェダイたちのように。
だからこそ効果がある。打算のない行動だからこそ、人々の純粋な共感を呼ぶのだ。
そして、それを見た人々はジェダイを何と呼ぶ?
官僚ではない。
共和国の犬でもない。
守護者。
英雄。
そう呼ぶだろう。あの連中を。
いや──違う。
そのような者たちを、人々は再びこう呼ぶようになるのだ。
──ジェダイ、と。
千年前、シスを滅亡の瀬戸際まで追い込んだ時と同じように。
シスの極致たる彼にすら──いや、彼だからこそ──抑えきれない怒りと憎しみと恐れに震える指が、深く肘掛けへと食い込んだ。
次回少し遅れます